帝国学園にて─────。
帝国学園の中を一人、鬼道有人はある場所に向けて歩いていた。
そして彼の頭の中にはある男の言葉が蘇っている。
【優れた司令塔というもの、試合の前に勝っている!】
【敗北は醜いぞ。勝つことにこそ意味がある!】
その男の名前は……
帝国学園サッカー部の監督である。
(俺はあの人の考え方に惹かれた。あの人に付いていけば、サッカーを極められると思った。だが、今はその総帥が信じられない)
鬼道が影山のいる部屋の前に立つと、その扉は一人でに開き、その先では長身の男が座っていた。
その男こそが、影山零治だ。
「何の用だ? 鬼道」
影山が鬼道に聞く。
「俺は円堂や神向……雷門と正々堂々戦いたいのです! 何も仕組んでいませんよね?」
鬼道は自身の胸の内を伝え、反対に影山に聞いた。
「……今まで通り、私に従っていればいい」
だが影山は表情を何一つ変えずに鬼道に言った。
それを聞いた鬼道は、
「……っ! ……失礼します」
何も言い返さずに部屋を去ろうとする鬼道。
「天に唾しても己にかかるだけだ」
そんな鬼道に影山は言う。
自分に歯向かってもお前が損をするだけだと───。
しかし今度の鬼道は影山の方を向くことも無く、その場をただただ無言で去った。
そんな彼を見た影山は、
「ここまでだな。必要とするのは、逆らわぬ忠実な僕」
そう言っていた。
そして、その場を去った鬼道は……。
【勝つことにこそ意味がある!】
まだ影山のその声に惑わされていた。
おそらく、その声だけだったなら鬼道も惑わせらなかったのだろう……だが今の彼の頭には影山の他にも二人の少年の顔が思い浮かんでいた。
【敗北を何だと思うか……。俺は、負けることは可能性だと思う。今負けるってことは、この先勝てるってことだと思うんだよ。自分を負かした相手からは、学ぶことがたくさんあるからさ】
【いいこと言うな神向! そうだよ鬼道! 俺達だってお前達帝国学園との練習試合があったから、ここまで来れたんだぜ】
そんな二人の言葉を思い出した鬼道は笑っていた。
きっとあの二人との出会いがあったから、鬼道は影山の考え方に疑問を持ったのだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「気を付けろ! バスに細工してきたような奴等だ! 落とし穴があるかもしれない! 壁が迫ってくるかもしれない!」
今日は帝国学園とのFF地区予選決勝の日。
そして俺達は今、その帝国学園に来ていた。
んで、来て早々響監督が言うと、宍戸、栗松、少林、壁山の1年生組が辺りを調べ始める。
……当たり前だけど、何もない。
むしろこんなところに何かあったら帝国の生徒も危ないじゃないか。
「まったく……監督が生徒をからかうなんて」
「まあまあ、これも監督なりに緊張を
夏未と木野の話が聞こえてくる。
そしてその横では音無からいつもの元気が感じられなかった。
まあ、その原因は分かっているんだがな。
「音無。帝国に来るバスの中からずっと元気が無いが、どうかしたのか?」
「え!? い、いえ、何でもないです! 私は、いつも元気一杯ですよ!」
音無は俺に笑って言うが、空元気もいいところだ。
……彼女がこんなことになっている原因は間違いなく鬼道とのことだろうな。
鬼道の名前を出したところで、俺はあることを思い出した。
……それは、俺達が新しい監督を探している中でも練習していた時のことだ。
あの日、俺達は橋から俺達の練習を見つめる鬼道を見つけ、俺と円堂が声をかけた。
【……冬海のことを謝りたかった。それに、土門のことも】
【ああ。そんなことなら気にしてないぞ、俺も円堂も。な?】
【おう! それに、冬海先生のことはお前からの指示じゃなくて、影山が命令したことなんだろ? だったらお前が謝ることないじゃないか】
申し訳なく言う鬼道に俺達はそう言った。
そしてその時は円堂が続けた。
【土門さあ。あいつ、サッカー上手いよな】
その時、鬼道は土門を見ると俺達に言った。
【羨ましいよ。お前達が】
【……何かあったのか鬼道?】
【いや。ただ自分達の力で勝ち進んでいるお前達が羨ましくなったのさ。帝国が頂点に立ち続けていたのは影山……総帥の策略があったからだ。俺達の力じゃない】
【そんなことないよ】
円堂は鬼道に言ったことを否定した。
【俺は勝ち続けるために人一倍努力をしてきたつもりだ。だが、俺のしてきたことは、偽物の勝利だった!】
【円堂も言ったろ。んなわけねえんだよ!】
【お前らに何が分かる!】
【【分かるよ!】】
鬼道がそう言った時に、俺と円堂の言葉がハモったことは覚えている。きっとあの時は、思うことが一緒だったんだろうな。
だって、あの鬼道が面食らったようにしてたんだからな。
【俺、お前のシュートいっぱい食らってきたんだから。帝国の強さは、俺の体が知ってるぜ!】
【鬼道。俺は今まで戦ってきた相手の中で、帝国以上にチームワークの整ったところを知らない。それは、お前達が互いに積み上げて信頼や実力があるからだろ】
俺達がそう言った時、鬼道は嬉しそうなようで、寂しそうだった。
それを見たとき、俺はこう言った。
【うん。やっぱりこんなときこそサッカーだよな! 鬼道、お前も今日は一緒に練習しようぜ】
【……俺は敵だぞ?】
【それいいな! 俺は今度こそ、鬼道の全力のシュート取ってみたいと思ってたんだ!】
【……ふっ。そんなことより、お前達は決勝に出られるのか?】
鬼道にそう言われた時、俺は響さんが監督をしてくれると分かっていたが、円堂はどうにかするさとだけ言っていたっけ。
そしてその日、結局鬼道と練習をすることは出来なかった。
けどその代わり、
【なあ、円堂、神向。お前らは、敗北を何だと思う?】
鬼道からそう聞かれた。
そうか、これだ。これを聞いた時の鬼道の顔……ゴーグルの上からで目こそ分からなかったが、その鬼道の顔が今の音無とそっくりだったんだ。
……けど、あの時俺は、何て答えたんだっけ?
……だーっくそ! いつか一緒に練習しようぜって約束したのは覚えてんのに、どうしてこんなことは覚えてないんだ俺は!
「神向先輩? どうかしたんですか?」
「……ん? ああ、ちょっと前に鬼道が練習を見に来たことを思い出した」
……その時、音無の体が僅かだが震えた。
いかんいかん、大事な仲間の気持ちを動揺させるなんて、円堂に叱られちまうぜ。
「さあ、皆。控え室に行こうぜ。……もういつまで罠探しなんてしてんだよ」
俺はその話の話題を変えた。
そして、俺達が控え室にたどり着いたとき、俺達の控え室から鬼道が出てきた。
「鬼道?」
「お兄ちゃん…」
「無事に着いたようだな」
「おお、おかげさ…」
「んだと? まるで何かあってほしいみたいな言い方じゃねえか。しかも俺達の控え室から出てきやがって、また何かしたんじゃねえだろうな?」
俺が鬼道に言おうとしたら染岡に横入りされてしまった。……やれやれ、俺も少しは皮肉めいて言おうとしてたけどさ…、そんな喧嘩腰で行くなよ。
「安心しろ。何もない」
「待て。中で何やってたのか白状しろ!」
「染岡止めろ。鬼道はそんな奴じゃない」
鬼道が何をしていたのか聞こうとする染岡を俺は止めた。
そして鬼道は、
「勝手に入ってすまなかった」
そう言って廊下を進んでいった。
「鬼道! 試合、楽しみにしてるからな!」
円堂はそこでも笑って鬼道に言っていた。
その後、鬼道が出てきたことによる疑心から皆は控え室を調べていたが、結局何も出てこなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「楽しみだな。帝国学園との試合」
「ああ。鬼道達は絶対にあの頃よりも強くなっている。もしかしたら、お前のゴッドハンドでも止められないかもしれないな」
「絶対に止めてみせる! 俺を信じろ!」
俺と円堂はトイレの中で話し合っていた。
そのまま俺達はトイレから出ると、廊下の先に鬼道を発見した。
「鬼道…」
「あいつ、試合前なのに何してるんだ?」
おそらく、影山の仕掛けた罠を探してるんだろうな。
そんな俺の考えを円堂が知るはずもないので、俺達はそのまま鬼道の後を付けていった。そして、鬼道さらに廊下の曲がり角を曲がった所で俺達はその男と遭遇した。
「君達は、雷門中サッカー部キャプテン円堂守くん。それに、同じ雷門中サッカー部副キャプテンの神向大使くんだね」
その、長身にグラサンをかけた男は……影山は俺達に言う。
「はい」
「そうですけど何か?」
「私は、帝国学園サッカー部監督。影山零治。君達に少し話があってね。鬼道のことで」
「え? 鬼道?」
影山の口から鬼道の名前が出たことに円堂は驚いた。
「君達のサッカー部のマネージャー、音無春奈と鬼道が実の兄妹だと言うことを知っているかね?」
「え!? 音無と鬼道が!?」
「嘘じゃないんですか? 現に二人は名字が違うじゃないですか」
影山が話をし出した所で俺が横やりを入れる。
もちろん、鬼道と音無が実の兄妹だということは分かっている。
「本当だとも、神向大使くん。二人は幼い頃に両親を事故で亡くし、施設で育てられた。そして鬼道が6歳、音無春奈が5歳の時に別々の家に引き取られた。だから二人は名字が一緒ではないのだ」
「そうだったんですか。でもどうして今、俺達にそんな話をしたんですか?」
「どうやら雷門の副キャプテンは随分と慎重なようだ。だが心配しなくてもいい。君達は鬼道と親しいようなのでね、鬼道のことを知ってもらいたかったのだよ」
嘘つけ、俺達を動揺させようって魂胆だろうが。
まったく、こいつだって本当はサッカー大好きなくせに、どうしてそこまで嫌いだって言い張るんだよ。
「では、話を続けよう。鬼道は音無春奈と暮らすために養父とある条件を交わした。それは、中学3年間サッカーの全国大会で優勝し続けると。鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることが出来ないのだ。地区大会レベルで負けたとなれば、鬼道自身、家から追い出されるかもな。では、試合を楽しみにしているよ。だがこれだけは忘れないでくれたまえ、雷門が勝てば鬼道達兄妹は破滅する」
影山はそう言い残してその場を去って行った。
【雷門が勝てば、鬼道達兄妹は破滅する】
くっそ…、分かってたのに動揺してやがる俺の頭は…。
だが、それでも俺の答えは最初から決まってる。
「円堂、神向。今のは影山だな? 奴と何を話していた?」
俺はふと円堂を見ると、円堂は言いづらそうにしている。
「何も話していません。ただ、試合を楽しみにしていると言われただけです」
俺は響監督にそう言って誤魔化した。
そしてその後、突然グラウンド場にボルトが落ちてきたことにより、俺は辺りを見張っていた刑事さんにそれを鬼瓦さんに渡してほしいと頼み、試合に望んだ。
「円堂、さっき鬼道から何か言われてたよな?」
「……皆、頼みがあるんだ」
円堂が言うと、俺達は彼に目を向ける。
そして円堂から告げられたのは、
「試合が始まっても、絶対に動かないでくれ」
これから試合に望むとは思えない提案だった。
まあ、知ってたんだけどね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雷門、帝国の両陣営がポジションに就いた所で試合開始のホイッスルが鳴った。
「さあー雷門と帝国学園。FF本大会への出場をかけた世紀の一戦が、今、スタートです!」
角馬が実況を始めるが、その実況の直後、グラウンドに鉄骨が降り注いだ。
「あーっと! どういうことだ!? 突如雷門中側の天井から鉄骨が降り注いだ! 大事故発生だーーーーーっ!!!!!」
その状況を見ていた雷門ベンチの人々だけでなく、帝国学園のメンバーまでもが顔を青くする。
「……まさか、ここまでやるとは」
響がそう呟く。
彼には分かっていたのだ。この事態は偶然起こった事故ではなく、影山零治という男が用意したものだということを。
「ひどい。グラウンドに鉄骨が突き刺さって。これでは雷門イレブンも…」
角馬が震える声で実況する。
そして、鉄骨が降り注いだことによって発生した砂ぼこりが晴れた時、そこには雷門イレブンがいた。
……そしてその姿は、誰一人怪我さえしていない。
「鬼道が試合が始まっても動くなって言ってたのは、こういうことだったのか」
「……やれやれ。借りが一つ出来ちまったかな」
その様子を見て、神向と円堂は呟いた。
その後、鬼道、寺門、源田、神向、円堂、そして響が影山の元を訪れ、神向が事前に鬼瓦刑事に提出していたボルトが原因で影山零治は逮捕された。
つまり、誰にも邪魔されず、堂々雷門と帝国の本大会出場をかけた試合が今度こそ始まるのだ。
飛び飛びで書いても5000字を越えるって……やっぱり雷門と帝国の試合はどうしてもこんなになりますよね。