鬼道と話をした次の日。
「全国大会2回戦の相手は、千羽山中だ!」
「千羽山中は山々に囲まれ、自然の中で鍛えた選手達だと言われています」
音無がそう言うと壁山と少林が何か考えているが……きっとのほほんとしたこと考えてんだろうな。
「それに、全国大会まで一度たりとも失点を許していません」
「全国大会まで、一度もか…」
「そんなにすごい相手なの?」
「はい。確かに攻め方には多少難点がありますが、彼らはその鉄壁のディフェンスでここまで勝ち進んでいるんです」
俺と木野が言うと音無がそう伝える。
「よーし。じゃあ俺達がするべきことはそのディフェンスを破ることだな!」
……はあ。
俺は円堂の言ったことに思わず頭を押さえ、そして円堂に言った。
「それが出来たら誰も苦労しねえだろうが…。大体、崩せないから鉄壁なんだぞ?」
俺が言うと豪炎寺が横で笑っていた。
うん、大抵の人は豪炎寺の反応であってると思う。
「……鉄壁って、鉄の壁だろ?」
「まあ、意味はそうだな」
円堂に聞かれて豪炎寺が答える。
まさか……
「だったら、こっちはダイヤモンドの攻めをすればいいんだ!」
ですよねー。
うん、さすがは大介さんのノートを解読できる円堂だ。無茶苦茶なこと言っちゃってるよ。
「何でやんすか? そのダイヤモンドの攻めって」
「ああ。鉄壁のディフェンスが崩れるまで攻める! これがダイヤモンドの攻めだ! そうと決まれば、特訓だーー!!!」
…………頭が痛い。
だけど円堂の言うことがちょっと理解できちゃった自分がいるよ。これ嬉しいけど、喜んじゃいけないやつだ。
そしてその後、俺達は練習を始めた。
だが、その練習で俺達はあることに気づいた。
それは、お互いの息がまったく合っていないんだ。
豪炎寺と染岡は何度やってもドラゴントルネードを失敗するし、風丸と宍戸、土門と栗松はパス練をしているが、どちらも共にパスが通っていない。
「皆気持ちが弛んでいるんじゃないのかしら? ……これはイナビカリ修練場で特訓をする必要がありそうね」
「いや、夏未。今は逆に修練場を使うのは止めた方が良さそうだ」
「え?」
「神向も気づいたか」
響監督が俺に聞いてくる。
俺は監督に黙って頷いた。そして、夏未、木野、音無は俺達の会話が分かっていないような顔をしていた。
「神向くん。どういうことなの?」
夏未が三人を代表して俺に聞く。
「つまりだな。イナビカリ修練場は確かに俺達全員の身体能力を格段に引き上げてくれた。だけど、そのせいで個人個人の能力差に開きが出ちまったんだよ。そんな状態じゃあいつもの調子でパスとか出してたら無理に決まってるわな」
実際俺もそうだ。
さっきまで俺もパスをしていたが、全然上手くいかなかった。
……今のチームに必要なのは、やっぱり優れた司令塔だよな。
「そんな、それじゃあ皆バラバラで練習してるようなものじゃない」
「能力の向上が裏目に出てしまうなんて」
「これから千羽山中と戦わなければならないのに」
「そうだな。だけど、こればっかりは俺も教えようがねえよ。なにせ、俺だって皆がどれだけ力をつけてるのか把握できねんだから」
「……とにかく、神向はいつものように練習に戻れ。そしてお前らはいつも通りに振る舞うんだ、いいな」
「了解」
「「「はい…」」」
マネージャーの三人は少し不安そうだった。
そして俺も練習に戻る。
「神向。何かあったのか?」
「いんや。何でもねえよ。それよりも円堂、今度は俺のシュートを止めてみろ!」
「おう! 望むところだ!」
円堂がゴール前にどっしりと構える。
……帝国やイナズマイレブンOB、そして戦国伊賀島戦でさらにキーパーとしての迫力が増しやがったな。
「行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
俺が蹴り出したボールはすさまじい風をまとって円堂の待つゴールに向かう。
……俺ってこんなにキック力あったっけ?
そこで俺は再びイナビカリ修練場での特訓が力をぐんとUPさせていることを実感した。
「だぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
だが、円堂も負けじと俺のシュートをぶん殴る。
しかもそれは1発だけじゃない、何回も何回もボールの勢いが収まるまで円堂は何度もパンチングをした末にボールを俺に打ち返した。
「すごいじゃないか円堂! 今の技!」
「ああ! 自分でも分からないけど、何だかできる気がしたんだ!」
そんな話を俺と円堂がしている途中でメガネが割り込んできた。
「あれは爆裂パンチと名付けてはどうでしょう?」
「爆裂パンチか……いいなそれ!」
……あ。そういえば帝国戦で使ってなかったな、爆裂パンチ。試合に夢中しすぎて全然気づかなかったぜ。
そしてその後、一旦休憩を挟み、俺達はまた練習に戻った。そしてその最中、土門から興味深い話を聞いた。
それはもちろん、トライペガサスのことだ。
土門がアメリカで一之瀬ともう一人の友達と一緒に完成させた技。それならば千羽山の必殺技も破れるんじゃないかという話だ。
「で、ちなみにどんな技なんだ?」
「いいかまず三人がこうだな……」
そこから土門によるトライペガサス説明会が始まる。
しかし、その途中で豪炎寺は何かに気づいたようだった。……ああそうか。そういえば来てるんだったな。あいつ。
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時刻は雷門中サッカー部が練習していた時間から経ち、空は夕焼けに染まっていた。
そして、河川敷の近くにある土手に二つの影があった。
「聞いたよ。世宇子中のこと、残念だったね」
その影の内1つは音無春奈の物だった。
そしてもう1つは、
「残念? ……残念なんてものじゃないさ…。俺の前で、皆があんな姿に…!」
彼女の兄、鬼道有人のものであった。
彼の言葉には怒りが籠っていた。自分のチームメイトを病院送りにした世宇子への、そして、それをただ見ていることしか出来なかった自分への怒りが。
そしてそんな彼の元に炎を纏ったサッカーボールが飛んでき、鬼道はそれを瞬時に蹴り返した。
「こんなボールを蹴ることが出来るやつ!」
鬼道が蹴り返したボールは、鉄橋に当たって上に弾かれ、その場で待ち構えていたある人の手に収まった。
そこには豪炎寺修也の姿があった。
「豪炎寺か!」
豪炎寺は何も言わずに鬼道達兄妹の元へ歩み寄る。
そんな豪炎寺に音無は言った。
「豪炎寺先輩! お兄ちゃんは別にスパイをしていたわけじゃないんです。本当です!」
「お兄ちゃん……か」
兄である鬼道を守る音無の言葉を聞いた豪炎寺の脳裏には、今もなお病室で眠ったままになっている妹の夕香の姿が過った。
「来いよ鬼道」
「ああ」
鬼道は階段を下っていく豪炎寺の後に続いていく。
その最中、彼は音無の肩を優しくポンと叩いた。
……まるで、自分を庇ってくれたことに礼を言うように。
そして、そこから先は音無には踏み込めない領域。
鬼道と豪炎寺によるサッカーボールの撃ち合いが始まった。
「鬼道! そんなに悔しいか!?」
「悔しいさ! 世宇子中を俺は倒したい!」
「だったらやれよ!」
「無理だ! ……帝国学園はFFから敗退した…」
「自分から負けを認めるのか! 鬼道!」
その撃ち合いの果てに豪炎寺はボールを上に跳ね上げ、ファイアトルネードを放った。だがそのボールは鬼道の真横を通り、彼の後ろにあった土手に小さなクレーターを作ってボールは破裂した。
その後彼らの元に……
「お! やってるなぁ、二人とも!」
能天気な声が聞こえてくる。
豪炎寺も鬼道もその声の主をよく知っている。
神向大使だ。
そして神向もまた階段を下りながら二人に近づいていった。
「1つだけ方法があるぞ鬼道。お前は円堂や神向を正面からしか見たことが無かったろ。……円堂に背中を、神向に隣を預けてみる気はないか?」
「!」
豪炎寺からのまさかの提案に鬼道は驚く。
「ん? 何の話だ?」
神向は鬼道の横から顔を現した。
そして鬼道は彼の顔を見て、
「負けることは可能性……か。そうだったな」
そう言った。
「え? 何だって?」
「別に何でもないさ。あの日、お前から教えられた敗北の意味を知った。それじゃあな」
そうして鬼道はその場を去ろうとするが、
「待てよ鬼道!」
今度は神向が彼を止めた。
「また今度、必ず一緒に練習するって約束しただろ? だから今しようぜ! な!」
神向は持ってきたサッカーボールを鬼道に向ける。
それを見ていた豪炎寺も鬼道も、そして遠くからその様子を眺めているだけだった音無も笑っていたのだった。
そして神向は、
(そうだ! あの日俺は鬼道に、負けることは可能性だって言ったんだった!)
帝国戦前に思い出せなかったことを思い出していた。
次の1話で千羽山を終わらせたいと考えてますが……長くなりそうなんだよなぁ…