帝国戦の翌日、俺達はサッカー部の部室に集まってミーティングをしていた。
「帝国戦で、俺達の問題点は分かった。それで……」
円堂がノートを机の上に置いて言う。
だがそこに松野が、
「問題点もなにも、まず体力無さすぎ。結局あの帝国戦だって最後まで立ててたの神向と円堂だけじゃん」
誰も反論することの出来ない事を言ってきた。
その言葉を受けて皆は肩を落としていた。
「あっ、ゴメン。今のへこんだ?」
それを見た松野はさすがに悪く思ったのか松野は言うが……いまいち分かってないんじゃないのか?
「円堂。話を続けてくれ」
「まあ…体力作りは当然なんだけど。こんなフォーメーションを考えてみたんだ。じいちゃんのノートを参考にしたんだけどさ」
円堂がホワイトボードに描き出したフォーメーションはFWのワントップ型。
「ええー…。僕FWじゃないの?」
そのフォーメーションに目金が不満を漏らす。
「というか、何でお前は当たり前のようにサッカー部にいるんだよ。この前だって逃げたくせに」
俺が言うと目金は何も言い返せなくなった。
「……戦略的撤退と言ってほしいね。神向くん」
かと思ったが目金は眼鏡をくいっと直して言うが、他のメンバーは苦笑している。
「キャプテン。神向先輩。こないだの、豪炎寺さんは来てくれないんですか?」
宍戸の言葉にいち早く染岡が反応したのを、俺は見逃さなかった。
「そうだよね。実際昨日の帝国戦だって、取れたのは豪炎寺くんと神向くんの2点だけだったんだから」
「今の俺達じゃ、あんな風にはなれないっス」
……皆豪炎寺に憧れてる、というよりはすがっている感じだな。
確かにあのファイアトルネードは凄かった。
実際に目にしてみなきゃ分からないこともあるが、まさに俺はあの技を見くびっていたのかもしれない。
それほどまでにファイアトルネードを初めて見たときの衝撃は凄まじいものだった。
「でも、神向先輩も水くさいですよ! あんなに凄いシュートを持ってたなんて!」
少林が俺に笑って言ってくる。
その後、あまりにもその状況をよく思わなかったのか染岡が豪炎寺のサッカーは邪道、自分が本当のサッカーを見せてやる! とキレだした。
まあ、この部活で一番最初にFWで入ってきたんだ、それが皆豪炎寺、豪炎寺って囃し立てたら、よくなんか思わないよな。
「お待たせ。お客さんが来てるわよ…。って、何かあったの?」
「ちょっと、染岡が力説してな」
「……けっ」
露骨に舌打ちするな、お前は。
しょうがないだろ、俺だってシュート撃ちたくて練習してたらドリブル技よりも先にシュート技が出来ちゃったんだから。
「それで秋。お客さんって?」
円堂が木野に聞く。
「ど、どうぞ…」
木野に連れられて部室に入ってきたのは、雷門夏未であった。
そして彼女は部室に入るなり一言。
「臭いわ」
罵倒してきた。
運動部の部室なんだからその辺は大目に見てくれよ。
「こんな奴。何で連れてきたんだよ!」
「話があるって言うから…」
木野は苦笑いしながら染岡に言う。
染岡も引き下がるように他へ目をやる。
「それで、理事長代理さん。話って何だよ?」
「あら、随分なご挨拶ね。神向大司くん」
夏未は俺にそれだけ言って円堂に向く。
「帝国との一戦で、なんとか廃部は逃れたようね」
「おう! これからガンガン試合してくぜ!」
円堂の言葉に夏未は笑う。
そして次に彼女は俺達に、
「次の対戦校を決めてあげたわ」
そう言った。
「次の試合…!」
次の試合の対戦相手は、尾刈斗中学。
この試合に勝てなかったら俺達サッカー部は即座に廃部、だが反対に勝てたら俺達は
「よーし! 次の尾刈斗中との試合も勝って、FFに出場するぞー!」
《おー!》
円堂も皆も尾刈斗戦に向けて気合いが入っている。
「何、神向の必殺シュートがあれば余裕だろ」
「そうだよね……。何せ神向くんはあの帝国から1点取ったんだから……」
半田と影野が尾刈斗戦は余裕だと語るが、悪いな。
事はそう上手く運ばないらしい。
「悪いな皆。今回の尾刈斗戦、俺は出られない」
その瞬間、サッカー部全体が凍った。
そして次に、
《えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!》
今度はサッカー部全体が震えた。
お前らは部室を壊す気か?
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それから数日した頃。
「怪我って、どうして言ってくれなかったんだよ。神向」
「お前らに余計な心配をかけたくなかったんだけど…。言うタイミングが遅れただけになっちまったな」
俺と円堂は帰り道の途中話し合っていた。
俺が試合に出られないとカミングアウトした後、他の奴らは不安を顔に浮かべていた。
一方染岡は俄然やる気になっていたが、ラフプレーばかりが目立ち、練習になっていなかったがな。
「それじゃ、俺は病院に行く。もしかしたら良くなってるかもしれないからな」
「俺も行っていいか? お前をそんなにさせちゃったのは、俺の実力不足なところもあるし…」
「……ああ、別に構わないぜ。染岡もお前みたいに、自分の弱さに気づいて、他の奴らを信頼してくれると助かるんだけどな」
そこで俺達はある人物を発見した。
「あれは…豪炎寺?」
そう、その人物とは豪炎寺である。
妹さんのお見舞いで病院に向かう途中なんだったな。
俺と円堂は病院に向かうついでに、豪炎寺を尾行することにしたのだった。
いやー、こういうバレるかバレないかの行動ってワクワクするな!
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稲妻病院に着いた俺は円堂と分かれて検査を受けていた。
「大分よくなってはいるが、それでもまだしばらく過度な運動は避けなさい」
「分かりました。……あの、もう少ししたら練習試合があるんですけど、それは」
「ドクターストップ。……その練習試合には出場しないように」
「……はい」
分かっちゃいたけど、やっぱ淡い期待だよな。
あの帝国との一戦からまだ足に違和感が残ってるし、きっとサッカー部の奴らだって俺の動きに少なからずその違和感を感じてるはずだ。
……染岡だけは、まだ焦って気づいてなさそうだけど。
「ありがとうございました」
俺は診察室を後にし、円堂を探した。
まあ、間違いなくあの場所にいるはずだ。
そう思った俺はその場所……豪炎寺の妹さんがいる部屋へと足を運んだ。
そして俺の予想は大当たり。
そこには円堂と豪炎寺が顔を見合わせて立っていた。
「神向、お前までどうして」
「俺は今日は検査さ。帝国戦で怪我しちまったからな。お前までってことは、円堂がここにいる理由は聞いたのか?」
「ああ…。ちょうどいい。二人とも、入ってくれ」
豪炎寺に言われるまま、俺と円堂はその病室に入る。
当たり前だがそこには豪炎寺夕香ちゃん……豪炎寺の妹さんが眠っていた。
「夕香っていうんだ…、もうずっと眠り続けてる。話すよ全部。そうしなきゃお前ら、帰らないんだろ?」
豪炎寺の目は帝国戦の時のあの熱意に満ちた顔とは全く違って悲しそうだ。
円堂も円堂で眠っている夕香ちゃんから目を離さない、いや、衝撃で目を離せていなかった。
「夕香は、去年のFF決勝の日からずっとこうなんだ」
「去年のFF決勝って…」
「帝国と木戸川清修との試合だな」
豪炎寺は黙って頷く。
そこから再び話を続けてくれた。
夕香ちゃんは豪炎寺が決勝を戦う姿を楽しみにしていたこと、その途中で事故に遭ってしまったこと、そして豪炎寺がその知らせを聞き、試合を捨ててまで夕香ちゃんの元へ向かったことを。
「悪い豪炎寺。ツラい話をさせちまったな」
「俺も、そうとは知らずに何度もしつこく誘って、ゴメンな」
夕香ちゃんにどんなことがあったのか、知ってはいたがこうして実際に聞くとキツい。
そう思って俺はもう何も言えなくなった。
そしてそれは円堂も同じだった。
「いや、いいんだ。夕香が目覚めるまでサッカーはしないと誓ったんだが、どうしてだろうな。神向の言葉を聞いて、円堂のあの姿を見ていたら、自分でも分からないうちに体が動いていた」
「……豪炎寺。この事は誰にも言わないよ。俺達三人の秘密だ」
「ああ、絶対にな。それじゃあな豪炎寺。行くぞ円堂」
俺と円堂はそのまま病室を後にしようとすると、
「サッカー部。あれからどうなった?」
「ああ。次の対戦校が決まった。お前のシュートがきっかけで、皆練習頑張ってるよ。ありがとな」
「豪炎寺。お前があの時、ユニフォームを受け取ってくれたときは、すげえ嬉しかった。夕香ちゃん、良くなるといいな」
俺達は本当に病室を後にした。
だがその後、俺と円堂が言葉を交わすことは無かった。
次回、染岡覚醒!