「第一号でーす」
「了解です、あとはお任せください」
早速問題児の一人目を連れてきた風紀委員から生徒を受け取り、手首に自前のCADであるアイリスを使って拘束する。背面で手を拘束され、椅子に座らされた当人は反省しているようで、がっくりとうなだれていた。
「では、自分は又出てきますので」
「はい、頑張ってくださいね」
すると風紀委員の男子生徒は顔をわずかに赤く染めると、失礼しますと言って部屋を出ていった。
照れてるのだろうか。
そうして風紀委員から生徒会本部と部活連の事情聴取の部屋を行ったり来たりすること数時間。
突如端末から通知音が響く。
落ち着いてきたのか連行されてくる生徒が減っており、すこし疲れもありぼんやりとしていたので余計びっくりしてしまった。幸いなことに、部屋に私以外の人はいなかったため、恥をさらさずに済んだ。よかった。
こほん、と一息ついて自身の精神をリセットして落ち着かせる。
通知を告げた携帯端末を手に出し、その通知が達也からの電話であることを確認すると、通話を開始する。
「もしもし、どうかした?」
『ああ、イリヤか。今闘技場で剣道部と剣術部間でのトラブルが発生した。負傷者も出たから担架を出すように手配してくれ。俺一人でも制圧は可能だが、そのあとのことを考えるとイリヤに来てもらった方が都合がいいかと思ってな。もちろん、手荒なことは風紀委員の管轄だからな、無理にとは言わないが……』
最初は理解した。ただ、後半は何となくひっかかった。達也本人としても気づかいのつもりで言ったのだろうか、私はそれが見くびられているように感じてしまった。
行くしかない。
一瞬の間ののちに私は達也にはっきりと言い放つ。
「問題ないわ。私はアインツベルンよ。一分半でつくわ」
『フッ、それは心強い。では俺は止めに入るからな、その後のことは頼んだぞ』
「ええ、任せて頂戴」
通信を切る。
部屋の扉わきに設置してある連絡用の電子掲示板に『引き渡し担当生徒、問題対応のため外出中。急用の方は以下のアドレスに連絡を入れてください。』本文後に自分のプライベートの端末ではなく、学校から借りた端末のコードを転送して記載しておく。
丁度定期連絡に来ていた部活連の生徒に闘技場でトラブル発生の旨と、怪我人がいでたため担架を持って来てほしいと伝える。
部活連の生徒が走り出したのを確認すると、扉を内側からロックし、窓を開ける。
扉からわずかに身を乗り出して闘技場の位置情報を把握する。
闘技場は木や建物の阻まれることのない場所にあった。
「あそこね……よし」
調整体の完成形とも言われている私は、別に
風紀委員の部屋に整理しておいてあったこのCADは、知る人ぞ知るエキスパート仕様のハイスペックな逸品だ。一時期、ドイツの一般的な市場でも、公にできない裏市場でも需要が高まり結構な値段で取引されていた。
バッテリーの持ちが悪いので長期間の使用には向かないが、その点に目を瞑れば設定の自由度はトップレベルだし、旧式と言われているけど使う人によれば最近のものより数倍使いやすいものだ。
短く、呼吸を挟む。
扉から離れて助走できる距離を取り、窓めがけて全力で走り抜ける。その過程で自身に加速の魔法、そして空気に対して追い風を生じさせ、窓べりを蹴っ飛ばす。
宙に舞い、一直線に闘技場を目指した。
闘技場二階の窓から中がうかがえる距離まで近づいた。予想どおり、達也の無双が繰り広げられていた。
窓が開いているのを確認。
入口に降り立って闘技場に入ろうかと思っていたのだが……ちょうどいい、派手に入場してやろうじゃないか。そんなことを考えながらもどんどん闘技場に近づいていく。
加速系魔法を呼び出して加速度ベクトルを操作して窓から侵入する。その刹那、一瞬だが達也と目が合った。このわずかな時間で私のやろうとしていることを理解したのか、苦笑いを浮かべると、安全マージンを取りつつ闘技場の中央から離れていった。
やりたいことを理解してくれるというのはとてもいいことだ。やるなら徹底的にが私のルール。
二階フロアの手すりを初歩的な振動系魔法を用いてなるべく大きな音で響くように蹴ってフロアへと降り立つ。
「誰だお前!?」
「生徒会本部役員様、よ!!」
瞬時にあたりを見渡して状況を把握。敵勢力、人数、主なレベルを確認。懐からアイリスを取り出す。使いたい魔法、金属の性質操作の魔法を原子レベルの大きさで刻んだ刻印にサイオンを流し込み起動する。
周りを魅了するかのように舞う。
私を敵だと判断した袴姿が木刀を振り下ろそうと身構える。振り下ろされたそれをアイリスの部分硬化で弾き飛ばすと、流れるような動きで男子生徒の足を払う。顔から地面に落ちた生徒の腕と足をアイリスで拘束し、その部分を切り離す。
後ろから接近の気配。
振り払われた木刀をマトリックスの要領で躱す。バク転で距離を取り、その足で手に持った木刀を蹴り飛ばす。襲ってきた男子生徒その2の腕にアイリスを巻き付け、加速魔法で自身のベクトルを操作し、巻き込むようにして前へと飛び込む。構えていたわけでもない当人はそのまま引っ張られてしりもちをつく。その間にその1と同じように腕と足を拘束して放る。
瞬く間に二人も無力化されてしまった様を見せつけられて怖気づいてしまった男子生徒その3は、私と目があったとたん覚悟を決めたような表情に切り替わり、雄叫びをあげながら私に襲いかかる。単調な動きゆえに簡単に見切ることができた。体を傾けるように右に避けつつ、左足だけをその場に残して突っ込んでくるその3の足を掬う。片腕だけにアイリスを巻きつけ、拘束しやすいようにうつ伏せで倒れるようにその腕を引く。すでに巻きつけていたアイリスを操作して、拘束する。
ふと達也の方を見る。あちらもあちらで鎮圧したらしい。剣術部の男子生徒は地面に転がされ、剣道部の生徒は同じように地面に転がされているものと、戦意を喪失して項垂れるものとの二パターンに分かれていた。
そろそろこちらもおしまいにしよう。
最後に残っていた男子生徒その4は一般的な木刀よりも小さいものと、小ぶりな小刀での二刀流らしく、隙なく構えるその姿からは、重ねて訓練を続けて磨かれた技術がうかがえた。
先制とばかりにアイリスを放つ。魔法を使わない剣道に対して、魔法を併用する剣術。私の前に立つ剣術部の生徒は素早い動きで手首に装着されたCADを操作して、収束系と思われる魔法で風をまとった刀で以てしてアイリスを吹き飛ばした。先ほどまでの相手と同等のレベルかと思っていた私は少し驚いた。突っ込もうかと思っていたが少し作戦を変更しよう。アイリスで牽制して男子生徒その4から距離を取る。
そして私は、日本に来て初めて使うことになる魔法を呼び出す。アイリスを手元に集め、一つの彫刻のように美しい鳥を形作る。その鳥はまるで意思を持っているかのように羽ばたき始め男子生徒その4に向かって飛び出した。
「なんだこいつ!?」
自らの周りを旋回しちょっかいをかけてくる銀の鳥を二本の木刀で攻撃するが、あまり効果がないのを見るとまた魔法を纏った刀で以てして沈められてしまった。
しかしこれでいい。あれはあくまでも時間稼ぎ。アイリスを基にして作り出すものは、時間をどれくらいかけられるか、その中身の密度がどれくらいかによって耐久値が変わる。私が作りたかったのは
「言い訳は
そう言い放ったのと同時に風紀委員と部活連の応援が担架を持って現れた。こういう決め台詞を一度でもいいから言ってみたかったのだ。
あたりを軽く見渡す。先ほどまでパニックになっていた生徒に対しての事情聴取を行う風紀委員などの間に達也とエリカを見つけた。
達也は予想していたのだろうか、やはりなと言わんばかりの表情で頬をかき、エリカは面白いおもちゃを見つけたような表情を浮かべていた。
確かに目立ちたかったというのもあるがやりすぎだったかもしれない。
これは後で面倒なことになりそうだ……
久々の投稿にもかかわらずランキング入り。皆さま本当にありがとうございます。
ひさびさに本格的な戦闘?描写をやりました。違和感等ありましたら是非コメント欄にてご意見ください。
コメント・評価、作品作成に対する燃料となっています。
皆さん、是非コメント・評価をしていただけたらなと思います。
これからも本作品をよろしくお願いします。