「ふざけるな!アインツベルンは祖国を捨てるというのか!?」
「ですから先ほどから申し上げているとおり、ただの留学で御座います」
ドイツの中心、政治の最重要機関である国立会議場の一番特上の部屋では大荒れな会議が行われていた。
楕円形の片方にスーツを着たドイツ政府の重役十数人、もう片方にはドイツが誇る魔法師の一族の現アインツベルン家当主の白銀の幼女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとその後ろに控える二人の従者。
その片割れであるこれまた美しい銀の長髪を持った従者とハゲ散らかった頭部に無駄に高価そうなスーツを着込んだ中年と言い合いをしていた。
「であれば、当初の計画通りミュンヘン魔法工学大学付属高校へ行くことで事足りるではないか!?あなたは自分がどれほどの人物であるか知っているのですか、なぜわざわざ危険を冒してまで日本へ行こうとするのだ!?」
ミュンヘン魔法工学大学付属高校?そんなもの初耳だったのだが。チラリとセラの方を見やる。
すると私の言わんとすることが伝わったのか、セラが耳打ちをしてくる。
「申し訳ございません、一応形式だけでもいいので入って欲しいと日本の土下座というのまでされてしまい。形だけならと判断してしまいました」
あ、そう。べつにそんな特別に怒ってるわけでもないのでいいのだが。
それにしても面倒なことになった。もっとぱっぱと話が決まって今日の夜には日本に飛べるかと思っていたんだけれど。窓から覗く景気はオレンジ色と紫色が混じったようなものになってしまっていた。
ぶっちゃけた話、もうすでに日本の第一高校には出願している。入試まであと一ヶ月といったところだけれど、問題ない。日本の高校入試の過去問を見てみたが大したことなかった。余裕で受かることができる自信がある。
ここでガツンといって諦めてもらいたいところだ。
「なぜあなた方は私の行動に否定的なのかしら?」
「さっきも述べた通りです。わざわざ日本に行かなくても……」
ほかの重役たちもうんうんと頷いている。
「日本とドイツとの関係は悪いものではなかったはずよ。現に、フォルク・ワーゲン社と日本の研究機関で技術提携が行われているじゃない。それに日本は世界でも有数の魔法技術先進国。あなた方が危惧するようなことはないのではなくって?」
「それは……そう、ですが」
なんだ、案外簡単そうじゃないか。まぁ、そんなにいうのなら納得するような理由でも作ろうかしら。
「日本には、アインツベルンと同じく物体解析を研究しているエミヤ魔法工学研究所というのがあるのはご存知かしら?」
「ええ」
「そこの見学も兼ねてアインツベルン家として滞在することはできないかしら?エミヤ魔法工学研究所だけではなく、他にも色々。それこそ技術を祖国に持って帰ることで納得していただけないかしら?アインツベルンのものとして、もっと見聞を広げたいの」
「…………しかし、飛行機に乗っている間に狙われたりしたらーーー」
もうそろそろ面倒臭くなってきた。
「貴方達、まさかアインツベルンの長たる私がその程度で死ぬとでも思っているのかしら?だとしたら、そんなこともわからないような者達が主導する国になんている必要がないわ。それこそ日本やUNSAに移った方が余程いいわ。もう一度だけ聞くわ。日本に渡ってもいいかしら?」
自分でもびっくりするほど怖い声が出た。正面を見れば顔色を青く染める様を見て少しわらえてくる。
沈黙は肯定
となればこれ以上ここに用はない。
そもそも、私がドイツにいるのは魔法工学へと手の出しやすさが世界で一番だからだ。別に、魔法技術先進国ならどこでもいいという感じはある。ただ、なんとなくドイツでなくてはいけないような感じがするのだ。
立ち上がると懐からメモリーカードを取り出す。あらかじめ反重力の魔法をかけてメモリーカードを対面に投げる。綺麗な放物線を描いて机に落ちることなく役人の目の前に留まった。
「許可をくれたお礼よ。先の新作デバイスの情報を入れておいたわ。生かすも殺すも貴方達次第ってことで。ああ、安心して。日本に渡っても研究データは定期的に送信するわ。それについては構わないけど、データ毎の報酬金はいつもの口座によろしくね。それじゃあね」
そういって両開きの大きなドアをセラと
「荷物はこの程度でよろしいでしょうか?」
セラが荷造りの終わったキャリーバックを開いてみせる。私服に普段着、紫色の美しいドレス、下着に歯磨きなどその他日用品まで。まるで旅行に行くかのような荷物の量だ。
「大丈夫じゃないかしら。もし足りなければあっちで揃えればいいし」
「イリヤ、CADは、これでいい?」
そういって今度はリズが灰色のアタッシュケースを開いて私にみせる。
中には機械と一目でわかるものから、ただの貴金属のようなものまで様々だった。特化型CAD用の照準補助システムを増設した汎用型CAD『ナインライブズ』、刻印魔法が施された水銀『
「あと、もしものためっていうのと、研究の続きってことでバーサーカーも持って行くわ。日本の拠点にバーサーカーが入るくらいの工房はあるでしょ?」
「うん、ある」
「よかった。じゃあ、運搬と隠蔽は任せるわ」
「わかった」
こんなものか。とりあえずバーサーカーを持ってけるのはありがたかった。すでに運用可能にはなっているがまだまだ足りない。参考にしているギリシャ神話の英霊。彼の成した十二の偉業をモチーフにしたシステムがまだなのだ。
日本はドイツに劣らず魔法工学も進んでいる。エミヤ魔法工学研究所に始まり遠坂重工、一部のものしか知らない柳洞寺の魔法師など。そこのあたりの話を聞ければさらに躍進するかもしれない。
そうだ、城の警備をゴーレムにもさせるんだった。
ゴーレムを起動させるために私は、城の地下へと足を運んだ。
セラは諸々の準備があるといって別れた。今はリズを連れて地下の格納庫へと向かっていた。
松明が点々と置かれた階段を下り切るとそこは暗闇だった。あかりもなければ地下ということもあり、窓もなかった。ふう、と一息つくと
「起動」
パチンと指を鳴らす。
すると、おくから点々と光が灯っていった。よく見ればそれは各ゴーレムの瞳だった。岩を無理やりくっつけたようなものから、すらっとした細いもの、さらには二メートルはあるかという巨人のようなものまで。
タブレット式のCADでゴーレム達を稼働させた魔法式を展開する。そこに指示のための命令系統の式を加える。そうすると、それぞれが意思を持ったかのように動き始めた。それを確認すると、CADをリズに手渡す。
「これでよし、あとは行くだけね」
「お待たせしました」
ちょうどセラの方も準備が終わったようだ。
「玄関に車をつけておきました。あとは出立するのみです」
「そう」
「じゃあ、行きましょうか!!」
そう言って、アインツベルン御一行様は自家用車で自前の空港に向かうのだった。
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つぎ、一ヶ月飛ばして入学式!