「確かに我が星導館学園は、その学生に自由な決闘を認めていますが……残念ながらこの度の決闘は無効とさせていただきます」
そう言いながらギャラリーの中から姿を現したのは、先程俺が連絡を取った人物。目もくらむような金髪を風になびかせる、一人の少女だった。
といか生徒会長だった。何やってんだ、特待転入生への連絡はどうした。
「ふふふ、何故…私が此処に?という顔をされていますね?」
「…そりゃな。例の件はどうした?」
「あら、まだお気づきになりませんか?特待転入生の資料を差し上げたではありませんか」
いや貰ったけど…ん?
「……あ、コイツか」
「ええ、そうですよ。天霧綾斗…この度、私が星導館学園の特待転入生として招き入れた、超ウルトラスーパールーキーです」
「お前小町と由比ヶ浜に似てきたな」
「……そ、そうですかね」
うん。まぁ少し前までよく一緒に話してたしな。
さて、と。それよりも、いきなり話に割り込まれたお姫様がご立腹の様子だ。
「……クローディア、一体なんの権利があって邪魔をする?」
「それはもちろん星導館学園生徒会長としての権利ですよ、ユリス」
そう言って、生徒会長はその制服に飾られた校章──星導館学園特有の『赤蓮』に手をかざし、
「赤蓮の総代たる権限をもって、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトと天霧綾斗の決闘を破棄します」
と、二人の決闘を破棄した。うんまぁ、もうあのままいけばお姫様負けてた労使いいんじゃないかな。この時期に負けるとか最悪だし。
そして今度は、生徒会長が転入生の男に何やら話し掛けている。俺はというと、未だに尻餅を付いたまま胸を隠して赤面するお姫様の元に近寄る。
居た堪れないね。
「…ほれ」
「…あ、ありがとうございます」
一応手を貸して、立たせた。ものっすごい形相で天霧とやらを睨んでいるが、どう考えても地雷なので無視する。それより、別件だ。
「おい、あの矢は確実にお前に向けられていたぞ。心当たりは?」
「…先輩も分かっているでしょう?」
「まぁ、な。この時期に、そしてここ最近頻発している事件と照らし合わせるとおのずと答えは見えてくるってもんだ」
「でしょうね…」
今年に行われる
なんて考えていると、スカートに着いた草などを払い落としたお姫様がツカツカと二人に歩み寄り、言い争いを始めた。変わんねぇなぁ、アイツも。
「せんぱーいっ!」
「ヒッキー!」
「比企谷君!」
ん?
「…えぇ、なんでお前らがここにいんの…」
いやマジで。まだホームルーム前とはいえ、いつもならもう教室にいるだろ。
「あら、何かしらその言い草は」
「そうですよ!私達、ちゃんと今の戦闘の記録をとったり、あの矢を放った人を追いかけたりしてたんですぅ!」
「ま、まぁ人に紛れていなくなっちゃったんだけどね…ごめんね、ヒッキー」
「……いや、深追いはしなくて正解だ。襲撃者の規模が分からんからな」
「…一本の矢しかないから、一人とは限らない、と?」
「ああ」
これでも、生徒としてはかなり情報を得られる立場である俺ですら、犯人の全容は掴めていない。というか、掴めないんだ。
襲撃時間も場所もバラバラ、有力生徒なんて絞りきれず、そのプライベートを侵す訳にもいかず。
つまり俺達生徒で自主的に行動せねばならんのだが、それが困難なのだ。
「…そう、分かったわ。とりあえず、あの矢に気付いたのはごく少数だと思うから、今回の騒ぎはこれ以上大きくならないと思うわよ」
「そうか、ならいい」
他学園の情報局には、この事件の事は知られているだろうが、生徒にまで浸透してくると問答無用で星猟警備隊が出張ってくる可能性がある。警備隊長が超おっかないから、好きじゃないんだよね…
「…八幡先輩」
と、そこへ話し終えたのか、言い争っていた三人が俺達の元へ来た。俺以外の全員が、俺を挟んで会釈するという、奇妙な光景を見る。
「どうしたお姫様」
「そ、その呼び方はやめてください!ユリス、でいいと何度も…!」
「はいはい、リースフェルト。んで、なんか用か?」
「……ま、まぁいいです。それはそうと、危ない所を助けて頂きありがとうございました」
「んにゃ、気にすんな。俺がしなくてもその転入生君がなんとかしてたっぽいしな」
「…」
あ、ヤベ地雷踏んだ。めっちゃ転入生君睨まれてら。すまん。
「あ、あはは……天霧綾斗、です。よろしくお願いします」
「ん」
「…ん、って。アナタね……はぁ、雪ノ下雪乃です。この男の同級生で、高等部二年よ」
「あたしは由比ヶ浜結衣!同じく二年!」
「私は一色いろはですー、高等部一年!」
「あ、この先輩は比企谷八幡さん、高等部二年ですよ」
何で勝手に俺の事紹介しちゃってんのかねぇ生徒会長さ…
「先輩?」
「エンフィールド」
「はい、なんでしょう」
「…すまん」
「ふふっ、何を謝っているのか分かりませんね?」
こっわ!何あの笑顔、黒通り越して真っ黒、漆黒だよ!足竦んだわ!
「…す、凄い…前回の
「あはは…私は本選一回戦で先輩に負けましたけどね」
「あたし二回戦敗退…」
「……私も二回戦敗退よ」
「い、いや凄いじゃないですか!前回なんて、余りテレビを見ない俺でも知ってるくらい激戦だったし!」
まぁな。俺や歌姫、アスタリスク最強と謳われた魔女、そしてコイツらが戦ったしな。史上最高峰とか言われてたっけ。
「…これが、『
「…いつ聞いても、こっぱずかしいもんだな、二つ名ってのは」
「おまえ、さっきまで序列やらを知らなかったのに八幡先輩は知っているのだな」
「あれだけ連日ニュースで流れて、新聞で魔で情報が来てたのに知らない方が逆に凄いよ」
「であれば、これからは情報収集に勤しむといい。女子寮の位置や序列、そしてアスタリスクの情報を、な」
あ、そう言えばコイツら痴話喧嘩だと思ってたけどどうも違うっぽいよな。って事は天霧がリースフェルトの部屋に侵入したのか?
「…何やらあらぬ誤解を受けている気がするよ…」
「ふんっ!ちゃんと弁明はしておくことだな。クローディアと先輩は事情を知っているだろうから、今のままではおまえはただの変態だ。……いや事情を知っても変態だと思うかもしれんな」
「是非とも弁明に命を費やすとするよ!」
「ふん」
やるなー天霧。俺も何度か女子寮に入ってコイツらとお茶したけど、流石に転入初日とかは無理だわ。度胸あるわ。
「…それで、どうするんだエンフィールド。このままじゃリースフェルトは狙われ続けるぞ」
「ええ、それで護衛の話もしたのですが…」
「私より弱い護衛などいらん!」
「…の、一点張りでして」
この頑固娘め…
「つか、もうお前が星武祭を無理に目指す必要はないんじゃないか?あの件は、全て滞りなく警備隊長と事は済ませてある。焦らずとも…」
「そ、それでは先輩に私の成長を見て貰えないではないですか!あれから、ずっと鍛錬を欠かさず鍛えてきたのですよ!?」
「小手調べしてて背後の矢に気付かず、しかも不意を突かれて押し倒されてちゃ話にならん」
「はうぅ…!」
あ、言いすぎたかね…何やら女性陣の目が痛いし、天霧にも少し睨まれているような…
「んんっ!…まぁアレだ、能力そのものの力は向上している。後は状況処理と近接戦だな」
「…!は、はい!」
「という訳で今日からみっちり雪ノ下達に扱いてもらえ」
「あら、ちょうど申し出ようとしていた所よ」
「…うえぇ!!?」
「不服かしら」
「ア、イエ!キョウシュクデス!」
リースフェルトが壊れた機械人形みたいになった…そういえば、数か月前までは俺たち全員でリースフェルトに地獄の特訓を、マジで死ぬ手前までやらせてたっけ…
「だ、大丈夫ですかね。トラウマになってません?」
と、一色が耳打ちをしてくる。が、当事者である俺や由比ヶ浜には何も言えないのであった。
☆
あれから天霧とエンフィールドは生徒会長室へ、一色と壊れたリースフェルトは教室へ、雪ノ下と由比ヶ浜も教室へ向かった。
俺はというと、リースフェルトの部屋の復元に向かっていた。
「…今日の放課後、俺も混ざろっかな…」
あんにゃろ、派手に壊しやがって…
「奇跡の光」
さて、復元というか修復も済んだし、転入生の案内もパァだ。となると、今日の予定を前倒ししてもいいかもしれん。
元々荷物を持って出ていない事から皆は察していただろうが、今日俺は授業を受けるつもりはない。というか、受けない。生徒会長直々のお達しがあるからな。
商業エリアの方に出てきた俺は、その中でも花壇が映える、そんなカフェに訪れていた。
「…こんにちは、比企谷さん」
「おう、ランドルーフェン。待ったか?」
「いえ、私も今来た所です」
「そうか」
お達し。それは、俺が王竜星武祭で優勝した際に願ったオーフェリア・ランドルーフェンの自由の件について関係する。
まぁ色々あって、俺達は王竜星武祭に出場した。当初はまぁ今の実力でも試そう矢って感じだったんだが、そんな時、中等部からの仲だったエンフィールドから、幼馴染の様子がおかしい、と訊いた。
丁度その日だ。今なお中等部でその手腕を振るう、元星導館序列一位、王竜星武祭覇者である平塚先生と共にリースフェルトが奉仕部の戸を叩いたのは。
『私を鍛えてくれ。どんなに辛いモノでもいいから、死んでもいいから鍛えてくれ』と、死んだ目で、泣き腫らしたような顔で言い放った。当時は事情が聞けなかった為、断ろうとしたのだが、平塚先生がどうしても、というのと…彼女自身、当時は教室の端のカス程度だった俺ではなく、序列入りしていた雪ノ下に土下座して教えを乞うたのだ。
雪ノ下は非常に稀有な才能の持ち主だ。多分、今現在魔女でありながら純星煌式武装を使用するのは彼女だけだろう。そんな彼女の評判を聞き、鍛えてくれ、と地面に額を打ち付け、涙を流しながら言ったのだった。
ただならぬ事情を感じた俺達はやむなく依頼を受け、その日から特訓は始まる。
『この程度で星辰力切れかしら、まだまだ地力がないのね』
『なんのっ!』
『じゃあ今から100回あたしに触れられたら終わりね!』
『ぜえっ、ぜぇっ、ぜっ…』
『あー、これ、スポドリだ。休息も鍛錬の内、だと思うぞ?』
『……』
生きてたのが不思議なくらいボッコボコにした。まぁこれだと二人が悪に見えるが、これはほんと当初の話だ。この後は、逆に俺が悪となって二人で天使役をしてもらってた。
『変わり映えはしても届いてねぇぞ』
『もう終わりか』
『立てよ』
『泣く位ならやめるか?』
毎日毎日、リースフェルトは泣いていた。それでも毎日放課後にボロボロの姿で俺達の目の前に現れ、血を吐きながら鍛錬を続けるアイツを見て、流石に事情を聴いた。
んでまぁ、また泣かれたがランドルーフェンの事を訊いたんだ。元々、特に願いを決めていたなかった俺達はその願いを叶えてあげたい、とまぁ偽善的な行動に移るわけだ。
だがアイツの思いは本物だった。だからこそ、危険な賭けではあったが全員で出場を決めたのだ。何やら事情を察した一色まで参戦するとは思わなかったが。
私の事情だから、なんて言い出したリースフェルトはもれなく女子人に懐柔され、胸の内を曝け出した次の日にはなんともまぁ可愛らしい後輩が出来上がったものだ。
ま、そんな後輩の為には頑張らねば、と思ったので星武祭頑張って優勝したんだけど。
正直、これは誰にも言ってないんだが、王竜星武祭よりもその後の方が大変だった。なんでそんな願いにしたのか、というのは今や紆余曲折を経て『俺がランドルーフェンに惚れた』で落ち着いているらしいが、その噂の他にもレヴォルフやアルルカンとの黒さ、
この件に関しては黒幕が複数人はいるとみられ、その一角である
更にレヴォルフ黒学院生徒会長、
まぁこれはどうでもいい。結果からして言えば、ランドルーフェンを縛っていた権利問題やらは全て解決し、一人間、一生徒、そして一少女として、今は普通の生活を送っている。
「どうだ、体調は」
長ったらしい回想もここまで、今は彼女との会話に勤しむ。無論、会話は得意ではない二人なので不愛想な言葉のぶつけ合いのようになってしまうのだが。
「…問題ありません。比企谷さんの能力のお陰で、今は自分の能力も制御できていますし、当初の倦怠感や疲労感はもう感じられません」
俺の能力は、二つ名にあるようにまさに八百万程の数があるのでは、といわれる程に万能だ。まぁ、そうだと思う。
ランドルーフェンは、非星脈世代から星脈世代へと作り変えられた体の持ち主だ。そんな彼女は、自身の能力である瘴気やらを扱いきれず、常に周囲に影響を与えてしまっていたようだ。
好きな花も、もう何年も愛でていないと聞いた時にはもう行動に移っていた。膨大な星辰力を使ったので、彼女も俺も三日は熱を出して寝込むという事があったのだが、結果として、彼女は自身の能力の制御に成功していた。
『調律』。その能力により、彼女の身体はまさしく人生の全盛期といえるであろう肉体へと作り変えられた。『黄金律』、と言われている。
その能力で彼女に行ったのは、溢れ出る星辰力が瘴気となり、周囲に影響を及ぼすことを防ぐこと。
具体的いえば、彼女の器を広げ、支配能力を高めたのだ。ぶっちゃけ超強化しちゃったわけだが、彼女を救うためには必要であったし、エンフィールドも生徒会長としては望ましくないと言ったが、一個人としては、と認めていた。あんな立場なのによく許してくれたもんだ、統合企業財体はうるせぇけどな。
「なら、いい」
心の底からそう思う。例え星導館の上の大人どもの命令には、多少ではあるが従わねばならなくなった状況ではあるが。
「…」
少なくとも、それに勝るような彼女の笑顔と、涙。そして後輩の感謝の言葉が貰えたのだ、十分お釣りは頂いている。
☆
「え?星導館に特待転入生…ですか?」
「ああ、ソイツが朝っぱらからユリスとやらかしてな」
「……何かご迷惑を?」
「お前が気にするほどじゃあない。ただ、今日の放課後はボロボロになってもらうがな」
「……それは…」
と、苦笑して見せるランドルーフェン。決勝戦で見たあの諦めと哀しみの混じった、暗い顔はもう見えない。
「ま、多少の手加減はしてやるが。でもまぁ、アイツ今度の鳳凰星武祭でるらしいしな」
「…初耳、です」
「マジか。なら内緒にしてたのかもな」
「…あの子は、パートナーを組めるでしょうか」
難しい質問だな。確かに、その心配はもっともなのだが。
ぶっちゃけ同学年同クラスで仲のいい一色と組めば優勝は無理かもしれんが、それでも狙えるだろう。なんせ俺以外はみんな序列二十位以内だし。…俺?序列入りしなくても特別扱いなんで大丈夫です。
しかし、うーむ…一色の戦い方は、あの普段の様子からは窺えないほどに凶暴だ。純星煌式武装の特徴とマッチしてるし、その戦い方を変えられんだろう。下手したらリースフェルトを巻き込むまである。
流石に、薦めは出来んな。
「奴の理想は、奴自身が後衛になり大火力や多彩な能力で支援出来るような、前衛近接が出来るヤツが望ましいんだろうな。でもそんな奴は大概序列入りしてて、しかも知らない奴ばっか…あっ」
ああそうだ、そういえば、その特待転入生が良さげじゃないか。何やらエンフィールドの私情込みで入ってきたらしいが、能力は優秀、といえるだろう。
「まぁ面白そうな奴はいる。が、やはり確証をもって、となるとなにも言えんなぁ」
「そう、ですか…比企谷さんは、鳳凰星武祭に興味は?」
「ないな。一人で戦う方が気楽でいいし、王竜星武祭に絞ってる」
「……なら、今度こそリベンジです」
「はっ…いいね、それは望むところだ」
なんて、カフェにいる人達から見たらどう考えても穏やかではない会話もしつつ、昼飯もそのカフェで取り、俺はその場を後にした。彼女はまだ、花を見ていたいとの事。
なお、放課後にリースフェルトをシバいて部屋に戻りニュースを見ると、俺とランドルーフェンが再戦の誓いを立てていたなどという記事が出回っていた。
雪ノ下達が呆れていたのはこれのせいか……
八幡の能力は多彩です。万能に近いですね。
雪ノ下達にの能力は追々です。
奉仕部の出来事は中等部にあった事だと思ってください。