バカとラヴと召喚獣   作:はち8

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初めまして、はち8です。
初めて投稿します。
楽しんで書いてます。それが伝わればな、と思っています。



第一問 「ししょ―――――――――――――――――――!!!!」

青い空。

あまりに青すぎて、雲が自ら逃げ出してんじゃないのか?

というぐらい青い空。

 

その下に、建設中の建物があった。

建設中といっても、もう95%近くはできているので、近いうちにこの(,)(,)は、元気な生徒を出し入れするだろうと思われる。

 

そんな学校(予定)を見上げる、特徴的な長い白髪のおばあさんがいた。

 

 

「ふむ。順調さね。あと、一か月といったところかねぇ」

 

 

そのおばあさんは、まだ建設中の学校(仮)を満足げに見ていた。

 

 

「さて、望月(もちづき)学園は、人が集まるかねぇ…」

 

 

 

――――――

 

 

 

《望月学園》

学園長である藤堂カヲルが経営していた、文月(ふみづき)学園が好評だったため、第二弾目として設立された。

第一弾目の文月学園同様、進学校である。

ただ、文月学園とは、少し違う点が多々ある。

クラスは、AからFまであり、入学試験として行う振り分け試験の出来によって、上からA・B・C…と分けられる。

この振り分け試験は、ただ頭の良い人と悪い人を分けるだけでなく、頭の良い人にはそれなりの待遇がある。

それは、クラスの設備が良いということ。

まず、教室の大きさが違う。

Aクラスの教室は通常サイズの約六倍。

Bクラスが三倍。

Cクラスが二倍で、Dクラスから通常サイズになる。

そして、Aクラスには、ノートパソコン、エアコン、冷蔵庫、などの他に、テレビやゲーム、本などの娯楽用品までもが、個人に一つずつ支給される。

さらに、一番目を引くのが、教室の前に設置されている黒板代わりのプラズマディスプレイ。

いったい何インチなんだ、という大きさ。

この最高級ホテル並みの待遇が、Fクラスに向かうにつれて、質が落ちていく。

しかも、Aクラスは特別なので格段に。

そして、Fクラス。

Fクラスはまず、教室がない。

基本的に青空の下での授業となる。

時には屋上、時にはグラウンド。

雨が降ったときのみ、教室の使用が可能となる。

 

こんなことでは、生徒からの暴動が起こるのでは?

と、思うかもしれないが、そんなことはない。

 

この学園で快適に暮らしたければ、頭を使え。

 

これが校訓。

実際にこれに(のっと)り、他の教室が羨ましければ、奪い取ればいい。

頭を使って。

それを可能にしたのが、《試験召喚システム》という、科学とオカルトと偶然によってできたものを使った、《試験召喚戦争》。

テストの点数によって、強さが変わる自分のアバターのような、試験召喚獣を用いて行うクラス間戦争。

その勝者が、上位の教室を奪える。

それが、望月学園と文月学園のみに発生する校則(ルール)

 

さらにこの学園には、全クラスを合わせた成績ランキングの上位6名にさらなる特別待遇を用意している。

まず、学校側の用意するリムジンでの送り迎えの選択が可能。

次に、どこのクラスであろうと、その個人はAクラス並みの設備。

最後に、召喚獣の性能上昇。

 

このようなこともってして、学園は生徒の向上心を上げようというのを狙っている。

 

 

 

そして、一か月後。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ついに、入学式か…」

 

 

入学式当日。

自宅で不安げ表情を浮かべる青年。

今回、望月学園にて高校生活を始める生徒の一人だ。

身長は170センチ。

中学の頃陸上をやっていたから、やや筋肉質。

髪は明るい茶色で、右っ側を赤いピン二つで止めている。

中1で5人、中2で13人、中3で8人。

何の数字か、わかるだろうか?

付き合った女の数だ。

本人はこう言っている。

 

「僕が周囲に"愛"を振りまいていたら、向こうから告白してきたんだ」

 

彼はふざけてなどいない。

ただ、女の子が好きなだけだ。

エロではなく、ラヴの方で女の子に興味があるだけだ。

 

青年は朝食を食べ終え、急いで支度をし、家を出た。

 

 

「母さん! 行ってきます!」

「いってらっしゃい。(ちか)、気を付けるのよ」

「へ-い!」

 

 

そう言って、望月学園一年生の青年は、大浪(おおなみ)という表札のかかった家を飛び出した。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ひゅー。でっけぇー!」

 

 

大浪愛は、望月学園の校門の前で大声を上げていた。

その大きさに圧倒されたからだろう。

うひゃーとか、ほきゃーなど言って、はしゃいでいたからか、

先生の一人に注意された。

 

 

「うるさいぞ!」

「うひゃっ!」

 

 

愛は、突然の大声に驚いて、変な声を上げてしまった。

声の方を向くと、そこにいたのは、浅黒い肌で筋骨隆々、いかにもスポーツマンという出で立ちをした男の先生だった。

その先生の後ろから、さらに声がする。

 

 

「はぁ、はぁ、…んくっ。は、速過ぎますよ、西村(にしむら)先生。とゆーか、いきなりなんですか? 『むっ。…バカの声がする』…なんて」

「おや、蛇虎(じゃこ)先生。すいませんね。ここで、叫びまくっている生徒がいましてね」

「何言ってるんですか。ここから、さっきまでいた職員室は500メートルはあるんですよ?」

 

 

蛇虎先生と呼ばれた、女性の先生の言葉を聞き、愛は心の中で驚愕の声を上げていた。

ご、500メートル?

そんな離れたところから僕の声を聞きつけたのか?

う、嘘つくな。

そんなことできるわけ……

 

 

「その程度の距離何ともありません」

 

 

何ともないらしい。

その時、蛇虎先生の目が愛の姿を捕えた。

と同時に、西村先生を褒め称える。

 

 

「え、ほんとにいたんですか!? 西村先生は、やっぱりすごいです!」

「いえいえ、ですからこの程度は何ともないですって」

 

 

西村先生は、若い女性に褒められて嬉しいようで、顔をほころばせる。

 

 

「何ともないだなんて、さすがです。やっぱり西村先生には、来てもらってよかったです。先生のおかげで、この学園の先生方も、召喚フィールドの扱い方や、システムのメンテナンスのやり方がよくわかったって、仰ってましたし、さすがは私の目標の先生です!」

 

 

蛇虎先生は目を輝かせてそう言った。

 

ふむ、美人だな。…いや、綺麗系じゃなく、可愛い系かな?

年齢的に守備範囲外だけど、手ぇ出しとくか。

 

 

「西村先生、蛇虎先生。先ほどは失礼しました。晴れての高校生活ということで、取り乱していたようです。次からは気をつけます」

「むぅ。今時珍しいぐらいに素直だな。……あいつらにも、これぐらいの聞き分けの良さがあればな」

「せ、先生…」

 

 

西村先生が最後の方に何かぼそぼそ行っているが、あまりよく聞こえなかった。

蛇虎先生の方は、何故か固まっていた。

あれかな? 新任の先生なのかな。

なら…。

 

 

「蛇虎先生」

「は、はい」

「……、」

「どうしました?」

「…実は、相談があるんです」

「相談ですか!? どんとこいです」

「ですが、あまり人には聞かれたくなくて、よろしければメールでの相談とかできますか?」

「め、メールですか…?」

「先生しか、先生にしか言えないんです!」

「…!? わかりました。生徒の頼みです、聞いてあげるのが先生ですよね」

 

 

ふふ、これだからババァは。

 

愛の守備範囲は、自分±5歳。

(まこと)の男を知らない、この時の愛は、まだまだ子供だった。

 

 

「じゃ、蛇虎先生。それは、先生の仕事では無いのですが……」

「西村先生! これは私一人でやらせてください。私も、西村先生みたくなりたいんです!」

「ありがとうございます。蛇虎先生に相談して良かったです。…では、また後でメールします」

 

 

メアド、一人目ゲットだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

二人の個性的な先生らと別れ、愛はドデカい校舎へと入る。

下駄箱のところで、一人の先生にあった。

 

 

「学園長の、藤堂カヲルだ。あんたの名前を言いな」

「大浪愛です」

 

 

その先生は、およそ教師とは思えない口ぶりをした、長い白髪のおばあさんだった。

 

顔も悪けりゃ、口も悪いのかよ。

 

 

「おい、あんた。今失礼なこと考えなかったか?」

「気のせいです、先生。それより、これがクラス発表の封筒ですか?」

「ああ、そうだよ。ったく、なんであたしがこんなガキどもの、あいてをせにゃならんのかねぇ?」

「それは、あれじゃないですか? 先生方が学園長をおもりを嫌がったんですよ」

「…なめたことを言うじゃないか。ジャリが」

「いえね。僕はババァが嫌いなんですよ。それでは、学園長。良い余生を」

 

 

「……ふん。こっちにも、面白そうなのがいるじゃないか」

 

 

なぜか学園長は、罵倒されまくっていたのに笑っていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「……う、嘘だろ」

 

 

愛を求め、愛のために生きる高校生、愛は、驚きのあまり身体を動かせずにいた。

なぜなら、

 

 

「可愛い娘、多過ぎー!!」

 

 

他の学校に行けば、マドンナ的存在になれるであろう女の子ばかりだったからだ。

そんなこの学校は、女の子大好きな愛にとっては、天国以外の何物でもない。

 

犬も歩けば棒に当たる。ならぬ、

愛も歩けば美女に当たる。である。

行くとこ行くとこに、美女または美少女がいた。

さっそく、愛は手当たり次第に、声をかけていた。

 

 

「か、可愛いね。君」

「え、?」

「今度僕とデートしようよ」

「そ、そんな…」

「紅茶好き? 今度お茶しない?」

「…は、はい」

「僕美味いケーキ屋知ってるんだけどさ、」

「そ、そうですか…」

「僕は君のために、全てを捧げるよ」

「…………、」

 

 

愛は、比較的イケメンの部類に入るので、声をかけて悪印象を受けるということはなかった、

なので、

 

 

「よっしゃぁー! 全員から、メアドゲットォー! 神様ぁー、僕はこの学園に美女が多すぎて、嬉しさのあまり、死にそ――ウゴェフッ!!」

 

 

は、腹に強烈な痛みがぁ……。

痛みのあまりに、うずくまっていると背中に声がかかった。

 

 

「あんた、また女子にちょっかいかけまくっているそうね」

 

 

顔を上げると、そこには知った人がいた。

忘れもしないあの顔。

 

 

「お、音羽(おとは)! なんで、ここに。というか、いきなりなん――ドゥェフッ!!」

「誰が顔を上げていいといった?」

 

 

訂正。

忘れたいんだけど、忘れられない。

奴の存在は、この身体に刻み込まれている。

 

 

「ずいぶんと声かけまくったみたいねぇ。まだ、入学式すら始まってないのに女子の間で有名になっていたわよ。あんた……」

 

 

言葉とともに、ゴスッゴスッといった、効果音がついている。

 

ああ。

僕の高校生活は、たった30分ほどで、終わりを告げるのか。

けど、可愛い娘に噂されて死ねるなら、それでもいいか……。

でも、最後に、これだけは言わせてくれ。

 

 

「グヘッ! ……あ、ありがとう…ガァッ! ……で、出会った女の子よ。そ、そして、ゴォアッ! ……すま、ない。ま、まだ見ぬ…ゲホァッ! ……お、女の子よ…」

 

 

命を懸けて出した言葉。

それは、愛が信念として持っている、全ての女の子に対する礼儀だった。

そしてもう愛は……限界だった。

そんな愛にも、悪魔は無慈悲だった。

 

 

「何やってんの愛! させないわよ!」

「ぼごぉっ! ……くそっ、この地獄のような時間をさっさと終わらせるには、気絶するしかないのに。それすらも許さないと――ぎゃふぁっ!」

 

 

女子高生くらい、力で勝てるだろ。だと?

その言葉は、この女子高生(?)が、どれほど強く、どれほど恐ろしいかを、知らないからこそ言えることだ。

そしてその事実を、キミらの生涯を持って幸せに思うことだ。

 

 

「ふぅ。まぁ、このくらいで許しますか」

「あ、あ、ああいたたたた。ったくよー、毎度のことながら乱暴すぎだろ」

「あ、あんたが、見境なく女子に声をかけるからよ」

「しょ、しょうがないだろ!! この学園には、美女が多すぎるんだよ!! いっやー、超嬉しい! 超嬉しー!!」

 

 

瞬間一気に、愛のテンションが上がった。

あまりの美女の多さに、興奮冷めやまぬ。というみたいだ。

 

 

(…………私にはなんで声かけないのよ)

「あん? なんか言っ――たべぐほぅっ!」

「な、なななんでもないわよ!!」

 

 

この時、愛の頭は『理不尽』という単語で埋め尽くされた。

 

 

「そ、それであんたはクラスどこ?」

「ああ、そういや忘れてたな。ええっと」

 

 

愛はポッケにしまった封筒を取出し、中身を取り出す。

 

中の紙には"F"と書かれていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

現在、愛は幼馴染の笠川(かさがわ)音羽を連れ、Fクラスに向かっている。

 

 

「なぁ、Fクラスってどこ?」

「さぁ?」

 

 

愛は中学時代、全てをその身に宿る"愛"に捧げたので、Fクラスも妥当なのだが。

音羽は違った。

音羽は、勉強は学校の先生にも、塾の先生にも、頑張ればAクラスも狙えると言われたほどだったし、部活動も陸上で、《全中(ぜんちゅう)》と呼ばれる、《全国中学校体育大会》にも、走り幅跳びで出場したことがあった。

そんな、完璧だと言ってもいいほどの少女だったのに、なぜかFクラス。

なぜか、F。

愛と同じF。

音羽の(ほげぇッ!)な愛と同じ、F。

やはり、これは愛のこと(ぐへぁっ!)なんじゃないの、音羽は。

(ぐはっ! ぐへっ! ごほぁっ!)なんて乙女だなぁ、音羽ったら。

ってちょっとぉ! なんでナレーターまで攻撃できんの?

あ、あ、あ、まってぇ。落ち着こ! 一旦落ち――づげぇっ!

 

 

 

”しばらくお待ちください”

 

 

 

音羽様は、ご自分の話題をされるのを、大変、嫌がってらっしゃるので、話題を逸らすことといたしますのを、大変お詫び申し上げます。

では、

 

 

不意に、校内放送がかかった。

 

 

「あ、あー。マイクテス、マイクテス(,,,,,)。これはマイクです(,,,,,)――ブフッ!! あはは、やば、超上手い。…………失礼。Fクラスの諸君、教室がどこにあるか分からず困っているようだが、それはもとからの仕様だ。Fクラスに教室は無い。なので、本来二年生がいるはずの三階西校舎側の空き教室を使ってくれ」

 

 

「教室がないってマジかよ……」

「おやじギャグとか、さむっ……」

「とりあえず、向かおうぜ」

「そうね」

 

 

二人はそろって歩き出した。

愛たちは東校舎側の二階にいたので、渡り廊下の階段を使った。

すると、三階に上がってすぐに、笑い声が聞こえた。

 

 

「あはははは、アキってば、ほんとにバカね」

「まったくだ。なんで三権分立が司法と立法と、……『漢方』なんだよ! ギャハハハハ!!」

「その前にまず、選択問題で『およそ③』と答えることが謎なんじゃが…」

秀吉(ひでよし)! そんな真剣に考えられると、恥ずかしいんだけど……」

「…………明久(あきひさ)とは一体…?」

「ムッツリーニまで!!?」

「み、皆さん、そんな本当にことを言ったら明久君が可愛そうですよ!」

姫路(ひめじ)さん…。それは僕がバカだということを、全面的に肯定しているよ…!」

「ふぇ? 当然じゃないですか」

「…………ッ!?」

「明久。ショックうけたような顔するなよ。お前がバカだということは、変えようもない事実なんだよ」

「うっ、うっ、皆なんか大っ嫌いだー!!」

 

 

すると、教室の扉が思い切り開かれ、中から涙を流した男子生徒が現れた。

男子の割には、かわいらしく整った顔で、女装とかさせたら化けそうだな。

と、愛は考える。

 

愛と音羽は、階段を上ってすぐのところで立ち尽くしていたので、出てきた男子生徒と鉢合わせになる。

男子生徒は顔を上げ、こちらを見る。

 

 

「ん? 君たちは誰?」

「ここの生徒に決まってんだろーが、明久」

「なんだ。皆も出てきたの?」

「さっき放送はいったでしょ? ウチらもその空き教室に行かなきゃいけないのよ」

 

 

ウチ、という一人称を使うポニーテールのスレンダーな女子生徒が現れた瞬間、愛は持ち前の運動能力を使い、一瞬でその女の子の前に移動する。

そして、彼女の前で跪き、手を取り言った。

 

 

「――美しい。あなたはとても美しい。細く華奢な身体、ぱっちりとした目、細く高い鼻。それら全てを僕は、愛する。いや、愛させてください」

「え、え?」

「I Love You. …チュッ」

 

 

そう言って、その細い手にキスをした。

女の子は、顔を真っ赤にする。

 

 

「ア、ア、アアアアキ。た、たたた助けてよ」

「ふうむ、ペチャパイが好きなのかな?」

 

 

その瞬間、世界が震えた。

 

 

「……覚悟は、できているんでしょうね?」

「へっ? い、いや、つ、つい本音がというか―――」

 

 

その瞬間、世界に亀裂が入った。

 

 

「ゲッ…。ち、違うんだ。僕は根が正直だかr―――」

 

 

その瞬間、世界が真っ二つに割れた。

 

 

ドゴッボキッ、という音をたてながら廊下を転がる『明久(あきひさ)』と呼ばれていた男子生徒。

 

 

「あ、明久君!」

 

 

動きを止めた明久に、走って駆け寄るもう一人の女子生徒。

そして、その道中、走っているために、大きく揺れるモノ。

そのあまりの大きさに、愛は動きを止めた。

 

 

「な、なんということだ。…神は、…神は僕に、今ここで窒息死しろというのか……?」

 

 

愛は強く悔しがった。

愛はあんなに大きなものが存在するとは知らなかった。

あんな、あんなに大きかったら、顔をうずめたら息ができないじゃないか。

僕は、深く堪能したいというのに……。

 

 

「だが、だが僕はそれでも行く!」

「…康太(こうた)。お前あいつと仲良くできそうだな」

「‥……… (コクッ)」

 

 

髪を逆立てている大柄の男子生徒が、おとなしそうで、ちょっと暗めの小柄な男子生徒にそう言った。

 

愛は、背中まで届く長い髪に、雪のように白い肌、そして、男子専用の核爆弾をその胸に宿す優しそうな女子生徒にむかって、走ろうとした。

しかし、それはかなわなかった。

 

 

「……愛? あなた、死にたいの」

 

 

愛は完全に油断していた。

鬼に背を向けるなど、自殺行為であった。

 

 

「謝りなさい」

「ひっ……」

「謝りなさい」

「あ、謝っても、いつも許してくれないじゃないか…」

「許すわ。だから、謝りなさい」

「ひぃっ……。ご、ごめん」

「ご・め・ん?」

「ひぃぃぃぃぃいいいい。すいませんすいませんすいませんすいません」

「歯、くいしばれ」

 

 

嘘つき。

 

 

 

――――――

 

 

 

「す、すいません。お見苦しいところを、あなた方みたいな見目麗しい女性に見られるなど、僕にとっては一生の恥でございます」

「ちーか!」

「わ、わあったよ。それで、さっき空き教室に行くとかなんとか言ってたけど、あんたらもFクラス?」

「うーん。Fクラスといっちゃ、Fクラスなんだけどね」

 

 

先ほど廊下を転がった、明久なる男子生徒は苦笑しながら言った。

 

 

「どういう意味だ?」

「それは、俺らが文月学園の2年Fクラスって意味だ」

「文月学園!?」

「2年生!?」

 

 

愛と音羽は、それぞれ違う意味で驚いた。

 

 

「あんたら、文月学園の生徒だったのか」

「コラ! 愛ダメだよ。先輩にタメ口聞いちゃ。すいません、先輩方。愛が失礼を」

「いや、別にかまわねぇ。知らなかったんだしな」

「それで、文月学園の2年生が、なぜ我が望月学園に?」

「僕らはこの学園の1年生に、《試験召喚システム》を教える先生として、この学園に一時的転入をしてきたんだ」

「『鉄人』っつー、人間みたいなゴリラと、ババァ長と一緒にな」

「坂本君。西村先生はゴリラじゃなくて人間ですよ……」

 

 

西村、鉄人、人間みたいなゴリラ。

 

…………………………………ピーン。

 

 

「先輩。その人なら会いましたよ」

「そうか。残念だったな」

 

 

『鉄人』かぁ。上手いな。座布団一枚。

 

 

「ババァ長もやめるのじゃ。一応学園長じゃぞ」

「ん?」

 

 

愛は、一人の奇妙な人物に視線を止める。

こ、こいつは………

いや、いや、落ち着け僕。

僕が長年磨き上げてきたセンサーが、こいつは男だと告げている。

だが、僕が長年磨き上げてきた眼は、この娘を可愛いと判断している。

だから落ち着け。

かわいい男など、いくらでもいたじゃないか。

なのに、なのに、なぜこんなにこの娘には、ドキドキしてしまう!?

 

 

「なんじゃ? どうしたのじゃ?」

 

 

ううううううううううううううぅぅぅ。

いきなり顔を近づけるなぁぁぁ。

反射的にとびづ去ってしまったではないか。

 

 

「…明久。お前あいつと仲良くできそうだな」

「うん。僕はあの気持ち、とてもわかるよ」

 

 

そうだ、名前だ。

名前を聞こう。男らしい名前をきけば、落ち着くはずだ。

 

 

「あ、あの、お名前教えていただけません?」

「ん? そうじゃな。自己紹介といこうか。わしの名は木下(きのした)秀吉(ひでよし)じゃ」

 

 

男らしー!!

思ってたよりもかなり、男らしー!!

(おとこ)だよ。

戦国武将来ちゃったよ。

これはもう、男だね。

 

 

「わかってると嬉しいんだが、わしは女じゃなく――」

「男ですよね? 木下先輩」

「お、お主……わかってくれたか!!」

 

 

くっそ。

好感度上げちまったよ。

無意識下では、木下先輩を女だと思ってんのか?

いや、意識下でも、木下先輩は女であってほしいと思ってる。

勿体ねぇよ――――――――――――!!!

 

 

「次はウチね。ウチは島田(しまだ)美波(みなみ)。帰国子女だから、国語は苦手です」

「へー、帰国子女。それって、あれですよね。恐ろしい気配が迫ってすさまじいって意味ですよね?」

「おい、馬鹿。それは鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)だ。なんで、こんな難しい言葉知ってて、帰国子女がわからねぇんだよ」

「へっ? あ、そうだったんだ。って、先輩僕はバカじゃないです。大浪愛って名前です」

「ちか、か。珍しい名前だな。俺は坂本(さかもと)雄二(ゆうじ)。このメンツの代表だな」

「次は私ですね。私は笠川音羽って言います。愛とは幼馴染です」

「不本意なが――がふぉっ!」

(な、なにぃ! この俺が、見えなかっただと!?)

 

 

雄二は、中学の頃やんちゃばかりしていて、それなりに有名な人物になったし、腕にも自信を持っていた。

だが、そんな雄二でも見切れないほどの速度で、ひじ打ちを受けたらどうなるだろうか?

 

 

「あ、あたっあたたたたたたたっ、あ、あ、あ、いいぃぃぃぃいいいいてえええぇぇぇえええええええ……」

 

 

こうなります。

廊下に寝転がり、のた打ち回っている。

 

 

「…………楽しそう」

「おい! あたた…。いくら先輩でもそれはゆるさねぇ! がっ…痛いぃ」

「…………冗談」

「そういう冗談はやめて下さい。命に係わります」

「…………ごめん」

「…先輩。どこかで会いましたか?」

「………… (フルフル)」

「そうですか、何故か懐かしい匂いがしたんです」

「…………おれもだ」

「名前を教えてください」

「…………土屋康太」

「巷じゃそいつは『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』なんて呼ばれている」

 

 

……ムッツリーニ。

何度も何度も、その言葉を反復する。

自分の身体に染み込ませるように。

そうか。

だからだ。

 

 

「先輩。いえ、師匠! 僕も、中学校では『顕示する愛病者(ラヴィージャス)』と呼ばれてました」

「…………おまえもか、弟子よ」

「…はい」

「…………おれに着いて来い (スッ)」

「はい! 師匠!」

 

 

ムッツリーニの出す右手に、愛も右手を出すことで答えた。

ここに、男たちの熱い師弟関係が生まれた。

 

 

「秀吉。世界って広いね」

「そうじゃな」

「俺もムッツリーニを理解できる奴がいるとは、思わなかったぜ……」

 

 

その時、明久たちの後ろから、おずおずといった感じで手が上がった。

 

 

「あ、あのー、私も自己紹介してもよろしいでしょうか?」

「ああ、姫路さんが残ってたね。いいよ、姫路さん」

「はい。私は姫路(ひめじ)瑞希(みずき)っていいます。よろしくお願いします!」

 

 

大声とともに規律正しく礼をした瑞希が、頭を上げたとき、神風が吹いた。

風は、瑞希のスカートを下から上へと捲り上げたのだ。

つまり、不意打ちだ。

開戦の合図をまたずに、後ろから撃ち殺したと言ってもいい。

だが、彼は笑っていた。

スキルMaxのHとEROを合成させたような、(まこと)の男である、

英雄(HERO)の彼は。

 

 

「………… (ブシャァァアアアっ!!)」

 

 

英雄の鼻から放たれた、その真っ赤な血は、綺麗な弧を描き、廊下に到達した。

 

 

「し、師匠!! くそっ、くそぅ!!」

「…………ほ、本望」

「ししょ―――――――――――――――――――――――!!!!」

 

 

ムッツリーニは、幸せそうな顔をしていた。

愛は、ムッツリーニをその場に寝かし、徐に立ち上がった。

そして言う。

 

 

「師匠の敵は僕が取る。うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぅぅ…………」

 

 

大声を上げて飛び出していったが、段々とその声が小さくなっていく。

しまいには立ち止まり、だらだらと流れ続ける鼻血を右手で必死に抑えていた。

そして、綺麗な左手を差出し、

 

 

「姫路先輩! 僕と付き合ってください!!」

「「「ええっっ!!?」」」

「す、すいません。無理です!」

「「「ええっっ!!?」」」

 

 

唐突なな告白にもかかわらず、即答して見せた瑞希。

まぁ、鼻から血ぃだらだら奴が告白してきたんだ、条件反射って奴だろう。

 

 

「おい、お主ら! そこらへんにしとくんじゃ。色々と収集がつかなくなって来とる」

「「「ウィース!」」」

「わしらは、一応先生としてこの学校に来とるんじゃ。そこんとこをもう一度頭に入れておくのじゃ」

「「「はーい!」」」

「ほら、一年のお主らも、空き教室の向かうんじゃろ? 行くぞ」

「わ、わかりました。木下先輩。師匠は僕が担いでいきます」

「ちょっと、一人で担げるの? 危ないわよ」

「でぇーじょうぶだって」

 

 

それが、僕らと師匠たちとの出会いだった。

 

 




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