バカとラヴと召喚獣   作:はち8

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書き終わり、みてみたら、一万字を超えていた。
長いことと思いますが、飽きずにおつきあいください。


第四話 「佐藤は、もう今までの佐藤じゃなくなる!!」

"E"クラス戦が始まった。

 

直後、誰よりも速く廊下を駆け出した行ったのは、"F"クラス先陣にして精鋭部隊。

 

"F"クラスの本陣と"E"クラスの教室は、一本の廊下で繋がっている。そして、"F"クラスの前には西階段、"E"クラスの前には中央階段がある。我らが本陣の空き教室と敵本陣の間には、使われていない無人の教室が3つ。

 

先陣の仕事は、できるだけ"E"クラスに近い場所を位置取り・敵の先陣と接触・戦闘・戦場の掌握・時間稼ぎだ。これだけのことを格上の相手に行うのだ、こちらとしてはそれ相応の戦力は必須。

なので"F"クラス精鋭の部隊を組んだ。メンバーは、

 

笠川(かさがわ)音羽(おとは)   学年総合ランキング第6位 "特異生(とくいせい)"

山田(やまだ)拓斗(たくと)   学年総合ランキング第212位 "ロリコンの王"

 

この2人。

2人いるが、実質戦闘を行うのは音羽のみ。もう1人の"ロリコンの王"は伝令役だ。

となると、たった1人であれだけの仕事をできるのか? などと思うかもしれないが、心配はいらない。

彼女は昨日、午前中1人で補給試験を受け学年6位になった女だ。最強である。

 

僕なんかを追っかけて"F"クラスに来なければ、"A"クラスに入れた女だ。

……ったく、さっさと僕のことを好きなのだと認めれば、あの暴力もなくなるだろうに…。まァ、無理か。あいつは鈍感だから、自分の気持ちなんか気づかないだろうよ。

 

 

時刻は、10:05。

 

戦争がはじまり、最後の止め(しゅんかん)に向け、皆動き出したばかり…。

大将――樹咲(きさ)ちゃんは、まだ動かない。

僕もまだ、教室にいる。

 

 

 

――――――

 

 

 

「試験召喚獣――――」

 

 

私は、試合開始のゴングのように高らかに叫んだ。

 

 

「――――試獣召喚(サモン)!!」

 

 

足元に現れた幾何学(きかがく)模様の魔法陣(まほうじん)から出てきたのは、甲冑に身を包み、腰に刀を引っさげた80センチほどの私――笠川音羽。

召喚獣の上に、点数が表示される。

 

 

『Fクラス  笠川音羽 

 化学    322点 』

 

 

表示された点数を見て、目の前の男子生徒がつぶやいた。

 

 

「…ランク、……《教授》かよ…」

 

 

ランク、それは昨日文月学園の先輩たちに教わったものだった。

 

人は自らの生活の中心や、興味を持つ物の変化や違いに目ざとく、その小さな違いでも全く違う名をつけることがある。

例えば、牛肉が大好きなイギリスの人はその部位ごとに違う名をつけた。サーロイン、ロース、ヒレなど。

例えば、日本に生息する"出世魚"と呼ばれる魚。これも魚が主食だった日本人が、成長過程を細かく分けて名前を付けていった。

 

これと同じように、この学園で生活する上で私たちの中心にあるのは、試験の点数。

 

「文月学園で生活していたら、点数に敏感になっちまってな。自然とこの呼び名になってたよ」

 

雄二先輩はそう言っていた。けど、私は何か違和感を感じた。それが何なのかはよくわからなかったけど…。

そして、先輩たちは点数を8つに区分し、ランクをつけた。

 

点数      ランク

0~50      《F》

50~100    《猫》

100~150  《ノーマル》

150~200   《天才》

200~300   《専門》

300~400   《教授》

400~500   《異端》

500~      《王》

 

以上が、点数の範囲とその名称。《F》というのは"F"クラス並みという意味で《猫》というのは猫並みの知能というのが由来らしい。

そして、今このフィールドは張って下さってるのは私たちが連れてきた化学の先生・川崎(かわさき)(とおる)先生。で、私は化学はランク《教授》、その科目のほとんどに精通したレベル。

正直"E"クラスなら楽勝♪

 

目の前には"E"クラスが6人。多分、様子見で出てきた人たちだと思う。

"E"クラスは情報の収集・操作が得意なものが多いと、愛が言ってた。ならば、"F"クラスのことは隅の隅まで調べ上げてると思う。構成メンバー・その素性・成績・得意科目など。

そして私のこともバレてるんだろうなァ。学年6位だってこと。

だからこそ樹咲ちゃんは、私を先陣にしたんだと思う。

 

 

「"E"クラス、加藤(かとう)(のぞむ)が相手をします。――試獣召喚(サモン)!!」

 

 

決定打として使うのではなく、先陣として――。

 

加藤と名乗った男子生徒が、周りの生徒に指示を出す。

 

 

「おれだけじゃ無理だ。みんなで囲んで攻撃するぞ!!」

『おう!!』

「"E"クラス新井(あらい)、行きます!!――」

「同じく、元町(もとまち)も!!――」

佐藤(さとう)も――」

多田(ただ)も――」

「同じく、久我(くが)が相手します――」

『『――――試獣召喚(サモン)!!』』

 

 

出てきた召喚獣は皆、全身をチェーンメイルで覆い右手に、長い棒の先に小さな斧を取り付けた――ハルバードを持ち、左手に少し大きな盾を持った12世紀後半に流行ったノルマン騎士スタイル。胸の中央に"E"の刺繍をしている。

そして、点数は―――。

 

 

『Eクラス  加藤希  &  Eクラス  新井(さとし)

 化学    55点  &   61点       』

『Eクラス  元町公秀(きみひで)  &  Eクラス  佐藤智也(ともや)

 化学     49点  &   68点          』

『Eクラス  多田穂乃香(ほのか)  &  Eクラス  久我結衣(ゆい)

 化学      81点  &   52点        』

 

 

ランク《猫》が5人に《F》が1人。

そして、即座に私を取り囲む。結構統率が取れている、だが脅威になるほどでもない。

 

 

「攻めろ!!」

 

 

声の大きい男子生徒――確か加藤だっけ? が、指示を出す。その号令とともに、動き回る召喚獣たち。位置取り・接触からの戦闘、えーと次は何だっけ?

 

「音羽さんはまず、相手を圧倒的な力でねじ伏せて下さい。そうして、敵の戦意を削ぎます。そうすれば敵は必ず――」

 

樹咲ちゃんの言っていたことを思い出す。

そうだった。思い出した。

樹咲ちゃんはさすがだなァ。あんな作戦私じゃ思いつかないよ。

そんでもって、可愛いなァ。小っちゃいんだよねェ、私より全然小さくて、マスコットみたくて可愛いなァ。

と、樹咲ちゃんのことを考え幸せな気分になっていると、

 

 

「何ボーっとしてやがる。ランク《教授》だからって調子乗りやがって、ぶち殺してやる!!」

 

 

"E"クラスの生徒が、いきなりキレた。意味もなく、いきなりだ。確かに、樹咲ちゃんのことを考えて、少しボーっとしていた。でも、そこまでキレることかな?

現に、他の"E"クラス生徒も怪訝そうな顔をしている。

 

 

「行くぞ!!」

『お、おう…!』

 

 

召喚獣が動き出した。

私の前と後ろの召喚獣が同時に攻撃してくる。私は、後ろの攻撃を無視して目の前の召喚獣を横薙ぎする。

 

 

『Fクラス  笠川音羽  VS  Eクラス  佐藤智也&元町公秀

 化学    301点  VS    0点   &   49点 』

 

 

その結果が、点数に反映された。

佐藤君は点数が0になったため、戦死。戦死したものは、

 

 

「戦死者は補習ゥゥゥ――――――――――――――――――――!!!」

 

 

補習室に連行され、一日中勉強づけにされる。

 

 

「た、助けっ……、誰か、助けて……」

『さ、佐藤……!』

「お、っうぎゃァァ―――――――――――………………………!!」

 

 

凄い。

補習室…行きたくない。

そして、先ほどから突き刺すような視線が…。

 

 

「お前のせいで、お前のせいでェェエエ!!」

「佐藤は、もう今までの佐藤じゃなくなる!!」

「…どうしてくれんだァァ!! てめぇ!!」

 

 

性格が変わるほど勉強させられるの!?

 

 

「せめて、お前も補習室に送ってやる!」

 

 

一斉に突っ込んでくる。

私は刀を水平に構え、回転切りを繰り出した。

その攻撃で、さらに3人戦死した。

 

さて、そろそろかな?

 

 

「くそ! くそ!! 頭が良いからってェ!! その眼だよ、その眼! 見下したような、バカにしたような眼をしやがって!!」

 

 

叫びだしたのは、先ほどブチ切れした――新井だっけ? 男子生徒だった。

 

 

「ははは、ハハハハハ。おい、多田!! あの2人と、数学教師をを呼べ!」

 

 

いきなり笑いだし、残った女子生徒に命令する。女子生徒はうなずき、教室へ走って行った。

新井はこちらに向き直り、バカみたいな笑顔を浮かべる。

 

 

「ははははは、ハハハハハハハハ。もう、ここまでだ。お前がいくら頭良かろうが、そんなの意味はない。こっちにはな、数学の天才が2人もいんだよ!! ハハハハッハハハッハッハハハハアッハハハ。バーカ。バーカ、バーカ。はははっはっはっははははははははははは」

 

 

作戦通りだ。

 

「――――敵は必ず、増援を呼びます。そうしたら、私に報告してください」

 

何もかも、順調。私は後ろにいる山田君を呼ぶ。

 

 

「ロリコン君」

「おう、っておれはロリコンじゃない。ただ、幼女を愛しているだけだ!!」

 

 

それが、ロリコンじゃん。

だが、声には出さない。今は、時間との勝負だから。

 

 

「作戦通り、事は進んだわ。報告に行ってちょうだい」

「了解した」

 

 

ロリコンは、そう言って教室に戻る。

さて、私は後始末しますか。

 

 

「新井君だっけ? ごめーんね」

 

 

私は、刀を抜き、新井君の首を飛ばした。

 

 

 

――――――

 

 

 

「そうか」

 

 

ここは、"F"クラス本陣。

伝令役として先陣に組んだロリコンが、報告に戻ってきた。

 

 

「大将。次の指示を」

「はい、わかりました。それじゃ、隔離部隊に連絡をお願いします、準備をして、と。キツツキ部隊も、準備を。音羽ちゃんは、その場で待機。敵が来ても、動かず迎撃して下さい」

「よし、伝令役、行け」

『了解』

 

 

基本的に"F"クラスは支給品の類がない。

なので、トランシーバーなどは、持っていない。連絡手段は言伝(ことづて)に限られる。

戦争は、どれだけリアルタイムの情報を手に入れられるかが、鍵となる。だからこそ、まず始めに"E"クラスを狙った。"E"クラスなら、トランシーバーを自作できると聞いたから。

今回の戦争には、間に合わなかったようだが。

 

 

「さてと、僕もそろそろ動くかな」

 

 

愛は、立ち上がりながら言った。

 

 

 

――――――

 

 

 

(あね)さん、伝令です」

「なに?」

「準備をしろ、と」

「よし、来たか! 皆、準備して!」

『おーッス!!』

 

 

場所は、"E"クラス前の中央階段。

広松(ひろまつ)夜海(よみ)率いる、《キツツキ部隊》。

人数は、6人。

 

 

「姉さん、出てきました」

「よし」

 

 

"E"クラスの教室から出てきたのは、メガネをかけたいかにも秀才のような男子生徒が2人と、多くの"E"クラス生徒。

おそらく、あのメガネ2人が樹咲の言っていた《数学の天才》だろうと、あたりをつける。

その2人は、音羽の方を見て話し始めた。

 

 

「兄貴ィ、あそこに立ってんのが、例の女か?」

「そうだろうなァ。弟よ、"特異生"がなんぼのもんじゃ、ってのを見せてやろうぜ」

「いいねェ。やったろ……ん?」

 

 

キツツキ部隊の1人が、階段の陰から、顔を出す。

もちろん、わざとだ。キツツキ部隊に出された指令は、敵主力の《数学の天才》の1人をある地点まで、ひきつけることだ。

 

 

「あ、あに…………」

「ん? どうした?」

 

 

べろべろベーに続き、お尻ぺんぺん。

精一杯、挑発する。

 

 

「いや、先に行ってくれ。すぐにおれも行く」

「え? おい! ちぃ、ま、お前が来るころには終わってるけどな」

 

 

弟の方が、走って階段を駆け上がる。

 

 

「てめぇ、おれを怒らせて、無事で済むと思うなよォ!!」

「ぎょえぇぇえええええええ!! 姉さん、来ました!!」

「おう、皆! 作戦開始だ!!」

 

 

キツツキ部隊始動。

一斉に駆け出す。階段を上り、3階へ。3階からさらに、西階段の方へ。

 

 

「てめぇら、逃げんじゃねぇよ!!」

修斗(しゅうと)、待て!!」

 

 

弟は修斗というらしい。その修斗は、怒りの形相で追いかけてくる。まるで、鬼だ。

その後ろからは、さらに、"E"クラスの生徒が追いかけてくる。

 

 

「順調順調、もう少しだよ皆」

『おっしゃァァ!!』

 

 

指定地点まで、あと少し。

さらに走る。走る、走る。

 

 

「よし!! やれ、皆!!」

『了解!』

「来たか、オレの出番じゃァ!!」

 

 

3階の空いている教室から、机のバリケードを展開する。先にある程度組み立てていたのを、《観察処分者》である城東田(じょうとうだ)が、召喚獣で運び出す。

 

 

「なっ…!」

「くそっ、動かねぇぞ!」

「調子に乗りやがって!!」

 

 

敵の前と後ろを確実に封じる。そうして、逃げ場所を1か所に限定させるのだ。

 

 

「おい、見ろよ!! へへ……。窓が開いてやがる。しかも、ロープがかかってるよ。間抜けな奴らめ」

 

 

そうやって、敵を誘導する。

 

 

「こっから、逃げ出せるじゃねぇか。修斗、行こうぜ。俺らを舐めきったことを後悔させてやろう」

「…あ、ああ」

 

 

修斗の返事は歯切れが悪い。

彼はこう考えているのだ。――出来過ぎてないか? と。

一本道である廊下の前後をふさがれて、絶体絶命かと思いきや、あつらえたような逃げ道の登場。

これは、罠か? 罠でなくとも、降りるのは危険だ。

修斗は、それを仲間に伝えようとした。

だが、

 

 

「おーい、先に降りるからなー」

「んなっ、バカ……!」

 

 

仲間たちは、先に降りて行った。

そして、

 

 

『ぎゃ、ああああああァァ――――……!!』

 

 

修斗の読みは、当たっていた。

下で待ち受けているのは、"F"クラスの生徒20人。修斗はもう詰んでいた。下に降りたら、必ず戦死する。さすがの修斗でも、数学以外は、ランク《猫》へ行くかどうか。

修斗は、自嘲するように言う。

 

 

「へへ、なめきってた"F"クラスにここまでしてやられるとはな。…だが、甘いんじゃないか?」

 

 

そう。修斗とその兄――楽斗(がくと)は、《数学の天才》。いくら20人いようと、"F"クラスでは修斗ひとりの数学には敵わない。

 

 

「お前らのちんけな罠にかかってやるよ!!」

 

 

修とはそう叫びながら下に降りる。ロープをつたってなので、非常に格好が悪いが…。

 

 

「ひゃひゃひゃ、鴨がネギしょってやってきたぜ!!」

「おい、それちがくね?」

 

 

"F"クラス男子の言葉。残念なことに言葉の誤用をしたため格好がつかない。

 

 

「ははは、ったくよぉ。お前らはほんとにバカだ、バカだからこそ俺の数学を人数でどうにかできると勘違いをする」

「確かに、あんたの数学じゃ俺らはかなわねぇよ。でも、数学以外なら、どうにかなる(・・・・・・ ・・・・・・)

「あん? どういう意味だ・・・・・・」

 

 

個性派ぞろいの"F"クラスのいいまとめ役、広山明良(ひろやまあきよし)。略してヒロアキ。

その彼の言葉に、修斗は目を細めた。

 

 

「なんだ、まだ気付かないのか? ここに数学教師はいない(・・・・・・・・・・・)

「・・・・・・・・・・・・ッ!? 嘘言ってんじゃねぇよ!! 数学教師は確かに呼び出したはずだ!!」

 

 

修斗は取り乱し、大声を張り上げる。

だが、ヒロアキはそんなのどこ浮く風で説明を続ける。

 

 

「あんたらが呼び出した数学教師は、俺ら"F"クラスが隔離させてもらった」

「……っな」

 

 

修斗は、絶望の表情を顔に浮かべる。

ヒロアキならびに"F"クラス男子は、それを見てうれしそうに笑う。

 

 

「ひゃひゃひゃ、それじゃ"E"クラス《数学の天才》櫻井(さくらい)修斗様、補習室へご案内しまーす」

『――――試獣召喚(サモン)!!』

 

 

敵主力1名、戦死。

 

 

 

――――――

 

 

 

「なんで、数学教師が来ない!!」

「わ、わかりません。確かに呼び出したんですが……」

 

 

もうひとりの《数学の天才》櫻井楽斗は、いらだっていた。理由は、自分の得意科目の教師が来ないから。

 

 

「あらら、数学の先生こないの? 何でだろうね?」

「……、てめぇ、何しやがった」

「私は、何もしていないわよ。それで……《数学の天才》は化学は得意なのかしらね?――――試獣召喚(サモン)!!」

「くっそ、ぅううう、試獣召喚(サモン)!!」

 

 

それぞれの召喚獣が出てきて、点数が表示される。

 

 

『Fクラス  笠川音羽  VS  Eクラス  櫻井楽斗

 化学    301点  VS   53点      』

 

 

楽斗の召喚獣は、15世紀ごろに主流となった、全身甲冑(フルプレートアーマー)。音羽は、その召喚獣を見て言う。

 

 

「どうやら、《数学の天才》様は化学は得意じゃ無いようで」

「バカにしてんじゃねぇよ!! ぶっ殺す。お前ら、召喚しろ!!」

 

 

楽斗は、後ろに控えていた他の"E"クラス生徒にも、召喚させる。

音羽はそれに、心の中で舌打ちした。音羽は、楽斗を挑発し頭に血を上らせることで、一対一に持ち込もうとした。だが、それは失敗してしまった。

 

 

「お前は、生きては帰さねぇ!! "F"クラスという立場を忘れ、俺をバカにしたことを後悔させてやる!!」

『―――試獣召喚(サモン)!!』

「行くぞォ!!」

 

 

楽斗を含め、約20人。

全員が、ランク《猫》程度とはいえ、正直ぎりぎりのところ。ランク《F》なら、なんとかなったが……。

だが、心配はいらない。

 

 

「あんたも、私が"特異生"だってこと忘れているでしょ」

 

 

楽斗は、今思い出したとでも言うように、大きく目を見開いた。

 

"特異生"、超優遇制度の召喚獣性能向上のうちの1つ。"超感覚連結"

 

 

「――"Hyperlink(ハイパーリンク)"」

 

 

音羽の言葉をシステムが読み取り、突然音羽の視線が低くなる。地面が、近い。

この、"超感覚連結"は《観察処分者》を凌ぐ一体感が得られる。

自分の思った通りに、召喚獣が動いてくれるということ。それは、まるで自分が動いているような、そんな感覚になる。

――――そう、まるで召喚獣に自分が乗り移ったかのような感覚。

それは、間違いではない。現に視線は、召喚獣になっているし。右手を動かそうとすると、召喚獣の右手が動く。

でも、召喚獣の食らった攻撃には、痛みがない。物は掴めない。

ただ、感覚が繋がっただけ。

 

 

「さぁ、行きますか」

 

 

一番先頭の、楽斗の横薙ぎ攻撃を屈んで避け、続く召喚獣2人を斜め振り下ろし攻撃で戦死させる。

あと、18人。

 

 

「囲め!!」

 

 

楽斗が、声を荒げる。

全員で囲んだ後、前後左右の召喚獣が、突撃してきた。私は、右側の召喚獣に寄り、反応する前に刀を突き刺す。今度は、前方の敵。手に持っている剣を振り下ろしてきたので刀を使って、その攻撃を後方に逸らす。その際、後ろから攻撃してきた召喚獣にぶつけて、動きが止まったところを2人一緒に串刺しにする。最後は、左側。剣の先を私に向け、突撃してきた。私はそれを刀で右にずらし、刀を振りおろし相手を真っ二つにする。

あと、14人。

 

 

「何やってやがる!! さっさとぶち殺せよ!!」

 

 

楽斗は、苛立ちを仲間にぶつけている。

だが、音羽にとって重要なのはそんなことではない。重要なのは、いかに早く戦いを終わらせられるか、だ。

この"超感覚連結"は、体力を非常に消耗するのだ。すでに、音羽は頭がくらくらしてきている。

 

 

「もういい。全員で突撃しろ!!」

 

 

楽斗のその号令に、全方向からの突撃がやってくる。

音羽は、神経を研ぎ澄ませる。そして、行動を簡略化させる。脳の疲労を軽減させるためだ。

ただ、避けて・斬る。その繰り返し。

 

 

「なんで当てられない!!」

 

 

楽斗は、さらに苛立つ。

だが、その余裕もあと少し。残った"E"クラス生徒は、あと7人。

避けて斬って、避けて斬る。

あと、5人。

避けて斬って、避けて斬る。

あと、3人。

避けて斬って、避けて斬る。

あと、1人。

 

音羽は動きを止め、切っ先を楽斗の召喚獣の首筋に、固定する。

 

 

「ひぃっ…!」

「ジ・エンドね」

 

 

刀を少し、前に押す。それだけで、楽斗は戦死した。

 

 

敵主力計2名、戦死。

 

 

 

――――――

 

 

 

「おう、お疲れ音羽」

「ああ、愛。確かに、体力はかなり使ったわ」

 

 

音羽は、中学の頃、陸上部で徹底的に鍛え上げたので、この程度で疲れたりはしない。

だが、普段以上の動きを体感し、それを目で見て避けたり、動いたりしていたので、目が疲れたのだ。

 

 

「愛がここにいるってことは、もう最後の段階?」

「ああ、樹咲ちゃんもいるぜ。皆にも集まってもらってる」

「それで、作戦は?」

「問題ない。これまでも、これからもな。まったく、樹咲ちゃんはすげぇよ」

「キツツキ部隊は、行けるの?」

「ああ。さっき確認した、一応閉められないように、固定もしといた」

「そう、じゃ、行きましょ」

 

 

会話はそこで終わり、"E"クラスの教室へ向かう。

最後の止め(しゅんかん)まで、あと少しだった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「くそっ、くそがっ!!」

 

 

"E"クラスの代表――小野(おの)定幸(さだゆき)は、教室でわめいていた。

 

 

「なんでだ、情報の収集は問題なかった。《数学の天才》2人を送れば、問題なく勝てるはずだったのに、なんで!!」

 

 

教室に残っているのは、小野を含めわずか8人。これで、"F"クラス全員を倒すのは、正直不可能だった。

皆が、絶望に打ちひしがれているところに、窓から人が入ってきた。

 

 

「な、なんだお前ら!?」

「ど~も~」

「こんにちは~、"F"クラスで~す」

「"F"クラスだと!? 窓からなんて、バカかお前ら!!」

 

 

"F"クラス、キツツキ部隊が"E"クラスに侵入した。

キツツキ部隊は、先の作戦から、運動神経がよく足が速い者たちで編成されていた。そのため、上の窓から下の窓に飛び移るなど、造作もない。

 

 

「そんじゃ、皆。作戦通りいくよ」

『おっす! 姉さん!!――――試獣召喚(サモン)!!』

「――――試獣召喚(サモン)!!」

 

 

キツツキ部隊全員が、召喚する。

小野は、それを見てひどく取り乱しながら、周りの者に命令する。

 

 

「お、お前ら! 俺を守れ、速くしろ!!」

『――――さ、試獣召喚(サモン)!!』

 

 

戦闘が始まる中、小野は急いで教室から逃げ出した。負けたくなかったから、"F"クラスに倒されるなど、これ以上ない屈辱だから。

だが――――

 

 

「おお~、出てきた出てきた。教室に立て籠もられたら、どうしようと思ってたんだよね」

 

 

――――小野には逃げる場所など、無かった。

教室をでた小野を待っていたのは、"F"クラスの残る全戦力。右も左も、"F"クラスの生徒でふさがれたこの状況。待っているのは、死のみ。

 

 

「…………そ、んな…」

「おうおう、絶望したような顔しやがって。だが、そんな君にチャンスをやろう」

「……チャン、ス?」

 

 

まるで、希望があるかのような言葉に、小野の顔はいくらか晴れる。

 

 

「ああ、そうだ。具体的には、この戦争を和平で終結させてやるってことだ」

「な、んだと……?」

 

 

愛が言ったのは、この、あと一歩で決着がつくこの状況に、手を出さず、引き分けでいいということ。

 

 

「もちろん、何か条件があるんだろ?」

「ああ、当然な」

「その条件はなんだ?」

「それは、私たちの下についてもらいます」

 

 

会話に入ってきたのは、"F"クラス代表の樹咲ちゃん。代表が自ら出てくることで、この会話の重要度を引き上げる。良く考えさせるということだ。

愛のような軽いものと話して、その場のノリで返事はさせないということ。ただ、愛がはじめ話していたのに、意味がないわけではない。愛のフリーダムさで、相手の警戒を解く。心を開かせることで、信用させやすくする。など、無意味に愛が話していたわけではない。

ま、ここら辺の業はあまり効果は顕著に現れず、本当に機能しているか分からないが。

 

 

「それは、つまり…」

「はい。今後起こる戦争に、私たちの家来として協力してもらいます」

「だが、それはルール違反だろうが!!」

先公(せんこう)が恐くて、学校に来れるかってんだ!!」

 

 

叫んだのは、城東田。ここで、見た目ヤンキーの城東田が叫ぶのも、台本どおり。

 

 

「ば、バカだろ………」

「今さら、何言ってんだ? 僕らは"F"クラス、バカの集まりだよ」

 

 

 

 

 

その後、"F"クラスと"E"クラスによる、和平交渉が行われた。

 

 

 

――――――

 

 

 

後日談。

 

 

ダダダダダダダダダダダダッ!! バンッ!!

 

 

「お前らァ!! FFF団に入らねぇか!?」

「んなっ、てめぇ…!!」

「"F"クラスの大浪愛が、"E"クラスに何の用だ?」

 

 

"E"クラスに入り、すぐ反応を見せたのは数学兄弟、修斗と楽斗。

その2人の言葉に、愛は首を振る。

 

 

「違うよ。僕は今、FFF団の団長としてここに来ている」

「ああ? その、FFF団ってのは、なんなんだ?」

 

 

~かくかくしかじか~

 

 

『…………ごくっ……』

 

 

"E"クラス、男子全員がつばを飲み込んだ。そして、息を荒くしている。

 

 

「さぁ、お前ら、無限に広がる女子へのルートを、手に入れたくないか!!?」

『……手に、手に入れたい!!』

「なら、僕は今からお前らの団長だァ―――!!」

『イエスっ、団長!!』

 

 

FFF団、勢力拡大中。

 

 

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