ガチホモ英雄シモキティウス   作:mur-ju

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第10話

立教大学の屋上でシモキティウスたちは独特なバイザーを装着したひでと相対していた。

三人は銃をひでに向け撃とうとした。

しかし、撃つ直前にシモキティウスは見た。

赤色に発光するバイザーの光が尾を引いたのを。

発射された弾丸はひでに当たることはなく、攻撃を被ったのはこちらだった。

ドンッという音と共に、ヒラーノが後ろへと吹っ飛んだのを、シモキティウスは見た。

そして、ヒラーノがいたところに、ひでが正拳突きのポーズで残身していた。

ひでは一瞬にしてヒラーノまで距離を詰め、一撃を放ったのだ。

弾丸さえ避けるほどの速さで。

この前とは、まるでちがう。

ひでのたった一撃によって、これまで味わったことのないほどの驚愕と恐れをシモキティウスとクボティトは味わった。

こいつは本当にひでなのか。

人間ではなくなったのか。

ヒラーノは後ろへ吹っ飛ばされた。

助けに行くべきだが、体がすくんでいる。

情けないことだが、動けば殺されるような感覚さえ沸き起こった。

シモキティウスは思わず口が半開きになってしまう。

どう?速いでしょ、とひで。

お前たちが失明させてくれたおかげで、ぼくはバイザーを神経接続して、脳内物質のコントロールによって反応速度と運動速度を数倍に強化されたんだにょ、お前たちには感謝しているにょ、とひでが皮肉を言いながら顔をゆがませるように笑った。

その表情は笑っているようにも見えるし、怒っているようにも、泣いているようにも見えた。

この間とは違う雰囲気があるのをシモキティウスは感じ取った。

どこか、悲しい気持ちを含むような。

ぼくは身も心もささげたんだ!もうぼくはぼくじゃない!とひでは叫び、怒りを込めてドンと床を踏む。

その音でシモキティウスは我を取り戻す。

そして、クボティトに、ブースターパックを使え、と叫んで自身もブースターのスイッチを入れる。

生身では戦いにならないのは明白だった。

高速機動戦に頭を切り替え、二人はひでを攪乱するように動き、隙を伺いはじめる。

 

この時、二人はヒラーノのことを介抱しに行く余裕はなかった。

ヒラーノは立ち上がれない様子だったが、手足を動かして呻いていたし、すぐにケリを付ければなんとかなるだろうという算段のもとに動いていた。

なんとしてもすぐにコイツ———ひでを倒さねばならない。

そればかりを考えていた。

 

シモキティウスはとにかく奴を誘い、隙を作るべきだと判断した。

一発を撃つ。

躱される。

右にブースターで飛びながら撃つ。

それも躱される。

その直後、ひでの背後に回り込んでいたクボティトが撃つ。

それもひでは一瞬でクボティトに振り返り、弾丸を見切り躱した。

シモキティウスに背後を向けた形になった。

ならば、と今度は当たりをつけず、なおかつクボティトに当てないように、辺り一面に弾丸をばらまくようにして撃つ。

ひではこちらに振り返り、その弾丸全てを見切って避けた。

こいつは尋常ではない、とシモキティウスは緊張する。

だが、とふと気づく。

ひではあれほどの速度なのにさっきから仕掛けてこない。

なぜだ。

シモキティウスたちはブースターで目まぐるしく動き回っているとはいえ、今のひでならやろうと思えば間合いを詰めて打撃を見舞うこともできるはずだ。

なぜ攻撃してこない。

その答えはひでが自ら語り始めた。

お前たちは、道連れにするんだにょ。

お前たちは、ぼくといっしょに死ぬんだにょ。

お前たちは、あれがINM爆弾だと思っているんだろ?

シモキティウスはどういうことだと言ったが、ひではニヤリとするだけだった。

あれはINM爆弾ではない?

だったらなんなんだ!とクボティトが言う。

ひでもそれにはにやついたまま答えなかった。

そのままひでは仕掛けもせず、答えもしなかった。

しびれを切らしたのかクボティトがひでと戦うのをやめ、爆弾へと向かった。

だが、ひではそれを見逃さなかった。

クボティトに一気に距離を詰める。

しかし、クボティトが動いた時にシモキティウスはそれを予期していた。

シモキティウスはひでに照準を合わせ、撃つ。

ひではそれを見切り、最小の動きで回避する。

その回避の動きが打撃の動作に影響してしまったのか、クボティトに致命傷を与えることはできなかった。

それでもクボティトを悶えさせるには十分だった。

クボティトは倒れこむ。

シモキティウスがクボティトを援護しようとする前に、ひでがクボティトの首を掴んで羽交い絞めにした。

ひでは笑う。

ぼくを失明させたのは、お前だったね?

楽に死ねると思わないほうがいいにょ。

シモキティウスは銃を構えたまま、しかし撃てない。

撃てばクボティトに当たる。

ひでは羽交い絞めにしたクボティトを常にこちらに向けている。

回り込めない。

お前はそこでこいつが死ぬ様を見ていればいいにょ~とひで。

シモキティウスは打開策を思いつけないまま、空しく動き続ける。

どうすればいい。

どうすればいい!

その時だった。

バシィン!という音。

クボティトを締め付けていた腕が緩み、クボティトは地面に倒れこみ、咳をする。

ひでがヨツンヴァインに倒れる。

そしてその後ろには、竹刀を構えたカッツがいた。

すぐ上にヘリがいた。

アレに乗って駆け付けてきたのか。

カッツがひでに言った。

お前をそんなんにしちまったのは、俺だ。

俺が始末をつけてやる。

カッツは竹刀を構え、卍解した。

それはシモキティウスのような道を極めていない者から見ても空間がゆがむようなオーラを感じ取れるほどに強力な力を感じさせた。

ひでが立ち上がって言った。

おじさん、もう、やめちくりとは言わないにょ。

そして、ひではカッツに突進した。

シモキティウスから見て、残像を残して消えるほどの速度だったが、それはカッツからすればあくびが出るものだった。

カッツは見切る。

そして、決着は一瞬だった。

研ぎ澄まされた達人の戦いは、バトル漫画のような攻防を繰り広げることなく一撃で勝敗を決めるという。

それをシモキティウスは目の当たりにした。

何をしたのかさえわからないほどに素早い。

シモキティウスにはカッツが立ったまま何もしなかったようにさえ見えた。

ひでは、激しく血を噴き出した。

数歩よろよろと歩き、バタリと倒れこむ。

なんという強さだ。

シモキティウスが驚いて呆然としていると、カッツがINM爆弾は解除したのか?と言った。

ハッとして、まだだ、と言うと、カッツがボールのようなものを爆弾に向かって投げた。

電磁波で局所的に電子機器を狂わせるEMPボムだった。

カッツが、これで大丈夫だ、と言ったが、次の瞬間叫んだ。

ヒラーノが倒れたままだ。

シモキティウスと、カッツ、そして回復したクボティトの三人が、ヒラーノの所へと駆け寄る。

ヒラーノは呼吸も絶え絶えになっていた。

ヒラーノ、と言って体をさすったが、反応はほとんどない。

肋骨が折れて肺に突き刺さっているようだった。

まずいことは明白だった。

シモキティウスは血の気が引くのを感じた。

ヒラーノが、死んでしまう。

自分の所為なのか。

シモキティウスはすぐに介抱をしなかった判断に悔い、しかしどうしようもないやり場のない気持ちに翻弄されるがままだった。

すぐにヘリに運ぶぞと言ってとクボティトは言い、シモキティウスと共にヒラーノに肩を貸し、歩き出す。

その時、ひでがとぎれとぎれの弱り切った声で言った。

INM爆弾なんて悪い冗談さ。

どうせみんな死ぬんだ。

あの方が———。

そこまで言って、ひでは息絶えた。

カッツが爆弾を回収しながら、ひでの傍らに立ち、こう言った。

ひで。

すまなかった。

カッツはひでの亡骸に竹刀をそっと添える。

 

 

ひでを倒し爆弾を回収した四人はすぐさまヘリに乗った。

緊縛の館へと帰還の途に着いたが、しかしヒラーノの容体は思わしくなかった。

ヒラーノ!と声をかけるが、帰ってくる声はか細い。

ヘリの中には手術道具はない。

緊縛の館に帰ってからでは間に合わないだろう。

近くの病院に願おうものなら即座にイカセ隊がやってくる。

最早、どうしようもなかった。

死にゆくヒラーノを見ているしかなかった。

ヒラーノが小さく言った。

シモキティウス、あとを、頼みます。

そして、ヒラーノはゆっくりと目を閉じていった。

シモキティウスとクボティトは静かに泣き、カッツは俯いた。

ヒラーノはもう戦えない。

爆弾起爆阻止成功に払った重い代償を受け止められないまま、彼らを乗せたヘリは緊縛の館へと帰っていった。

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