第14話
シモキティウスたちはウンェイの遺体と共に緊縛の館へと戻った。
遺体は仮設の霊安室に眠らせ、彼らはとにかくまずはと言いながら食事をとっていた。
食堂のテーブルにシモキティウス、クボティトとカッツが座ってそれぞれ好きな料理を食べている。
ジューン・ペイは分析作業をしていた。
壁に据え付けられたテレビが下北沢の核爆発をずっと報道している。
《———下北沢市での核爆発による被害の詳細は現在までの所、明らかにされておりません》
アナウンサーの喋りと共に、あの街で起こった爆発の映像が繰り返し流される。
《政府発表では死傷者の数は推定で十万人以上に達するものと見られ、現在既に警察と消防、軍による救助活動が開始されておりますが、爆発から時間が経っておらず、残留放射線の影響が消えるまでの間は、本格的な活動はできないとのことです》
クボティトが気が滅入ると言って消そうとしたが、アナウンサーの言葉がクボティトの動きを止めた。
《なお、政府当局は今回の事件をテログループによる犯行との見方を発表しており、すでに実行犯を特定しているとのことです。犯行を行ったとみられる容疑者は、シモキティウス、ヒラーノ、クボティト、カッツ・ラギレン——————》
なんだと、とカッツ。
テレビに我々の顔写真が並べて映される。
《このうちすでにヒラーノは逮捕し処刑しておりますが、残りのメンバーに関しては現在追跡中とのことです》
俺たちのせいにしたっていうのか、ふざけるな、とカッツが声を荒げた。
しかし、ヒラーノを逮捕というのはどういうことだ、とクボティト。
その時ジューンが入ってきて、ヒラーノを乗せた無人機を奴らがのっとって遺体を回収したのさ、と答える。
彼は手にいくつか資料を持っていた。
その一つを見せる。
ヒラーノを乗せて飛んでいた無人機の飛行記録だった。
ここを見ろと言ってジューンが指さしたところは、その最後の記録だった。
二コニカに着陸したことを示している。
最初からアレにヒラーノの遺体が乗っているのを知ってたかどうかはわからないが、とにかくそれを利用して、俺たちに罪をなすりつけて、自分たちのポイントを稼ぐのが奴らの目論見だろうな、とジューン。
そして、ジューンは見ろよと言ってテレビを指さす。
そこにはノボォーが映っていた。
たるんだ輪郭にたらこ唇、情けないたれ目と眉毛。
無能の雰囲気を凝縮したようなその容姿は間違いなくノボォー・カワカミその人だった。
ヒラーノの逮捕と処刑はノボォーの陣頭指揮のたまものだとテレビが喧伝する。
よく言うぜとカッツ。
ノボォーは自らの功績をでっちあげることで市民の支持を得、議長の座に返り咲こうとしているらしかった。
奴にとってヒラーノの遺体を手に入れたことは渡りに船だろう。
だがそれだけではなかった。
更にそこからの展開に全員驚かされた。
なんとウンェイが出てきたのだ。
なぜ奴がいるんだ、とシモキティウスが言うと、アレは影武者だ、回収した遺体は歯形やDNA検査で間違いなくウンェイその人と確認できてる、とジューンが答える。
本当に奴はウンェイすら利用したんだなと、ウンェイ自身が語ったノボォーのなりふり構わぬ行動を、こうしてテレビを通してではあるものの見せつけられたシモキティウスは、それを現実のこととして実感させられたような気分だった。
影武者なら、完全にノボォーの言いなりだろう。
奴は自分にとって有利な条件を全てそろえたわけだ。
さらに追い打ちをかけるようにテレビはこう言う。
《政府は先ほどの会見で、私利私欲のためにこのような事件さえ引き起こすことも厭わないホモたちを、決して許してはならない。彼らを根絶やしにするために、善良な市民の皆様にもより一層の協力をお願いしたい————》
カッツは拳を握りしめ、言いたい放題言いやがってとこぼし、部屋を出て行った。
とにかくこれで世論は完全に自分たちの敵に回っただろう。
早急に行動に移る必要がある。
そう思いジューンを見ると、何もお互い言わなかったが、その意図は彼に伝わっていたようで、彼は軽くうなずいて部屋を出て行った。
クボティトもそれをわかったようで、腹ごしらえしなきゃ(使命感)と言いながらまたテーブルについてガツガツと食べていた。
皆に何も言わなくても気持ちが伝わっていることに気づいたシモキティウスは、なんとも言えない頼もしさや安心感を少し感じていた。
状況としてはまるで思わしくないが、この仲間がいるということが、彼にほんのわずかな希望を持たせた。
シモキティウスはテーブルに座りなおし、クボティトと競うように食事を再開する。
19時間後、彼らは作戦室に集まった。
シモキティウスがバンと机を両手で叩いて言う。
ノボォーを襲撃する。もうなりふり構っていられない。
他のメンバーは驚かなかった。
その言葉を待っていたと言うように、深くうなずく。
シモキティウスも頷き返す。
二コニカの街に直接乗り込む。これまで以上に危険が伴う。失敗すれば全員死ぬ。それでもいいな?
そう聞くと、皆口々に、やるさ、と一言。
シモキティウスは、わかったと言って作戦説明を始めた。
二コニカはこの国の首都であり多数の交通機関が整備されていた。
それには地下鉄も含まれる。
地下鉄は整備計画によって網の目のように二コニカの街を走っているが、中には作られたまま使用されていない路線と駅があった。
その一つがノボォーがいると推測される二コニカ評議会の入っている建物の近くにあるのだ。
つまり、地下鉄を伝っていくというのがおおまかなところだった。
更に今回新しい装備が追加された。
ジューンが、これだと言って雨合羽のような服を机の上に置く。
クボティトに着てみろと促す。
一体なんだという感じでクボティトは来てみたが、特に変わったところはなかった。
そこの胸元のボタンを押してみろ、と言い、クボティトはそれを探る。
たしかに小さいボタンがあったのが見えた。
クボティトがそれを押すと、なんとクボティトの体が消えた。
皆が驚き、ジューンが、光学迷彩コートだ、と説明した。
クボティトがさらにフードをかぶり、うずくまるようにすると、彼の姿は全く見えなくなった。
これはすごいとカッツが感心する。
一応動かない時は完ぺきに姿を消せるが、すばやく動くときはこのコートの効果は完全ではなくなって周囲から浮いてしまうから気を付けろとジューンが付け加える。
しかし、暗い地下鉄の路線にこれを着て行動すれば完璧だな、とシモキティウス。
作戦は決まった。
決行日はウンェイの言った5月14日。
その日必ずノボォーは姿を現す。
全ての決着をつけるために。
シモキティウスは、他に質問は、と言う。
皆無言のまま、シモキティウスを見て頷く。
これがおそらく最後だ。
皆の命を自分に預けてくれ、とシモキティウス。
クボティトが頷いて、じゃあ参るか、と言った。
あっいっすよ(快諾)とカッツ。
これこそ食通だな!とジューン。
シモキティウスは意味不明なジューンの言葉は無視して、みんな、ありがとうと答え解散した。
シモキティウスは屋上へと出る。
そのヘリポートの真ん中に座った。
眩しい青空を眺めながら、そういえばここでゆっくりしたことはなかったな、などと思う。
この事件の元凶まで、あと一歩のところに来た。
ヤ・ジュー、ミュラー、キムル、ヒラーノ、たくさんの仲間たち。
上からしっかり見ていてくれ。
必ず仇を取る。
シモキティウスは拳を掲げる。