全身銀色のメタリックな彼は三人にためらうことなく襲い掛かった。
最初に攻撃されたのはシモキティウスだった。
すんでのところで回避するが、その瞬間にメタリックな彼の顔を間近で見た。
目の周りはバイザーに覆われて見えないが、鼻の特徴だけはしっかりと見えた。
鼻のイボ。
間違いない。
見覚えがある。
これは、ヤ・ジュ―だ!
素早く間合いを取る。
カッツが格闘攻撃を仕掛けた。
シモキティウスはカッツにやめろ!と叫んだ。
カッツが一瞬ためらう。
それが彼に隙を作ってしまった。
メタリックの鋭いキックがカッツの腹部をとらえる。
カッツは吹き飛ばされ、植え込みに落っこちる。
植物がクッションになったおかげでかろうじて致命傷は免れたが、コンクリートであればその限りでなかったろう。
なにをするんだシモキティウス!とクボティト。
シモキティウスはカッツのもとに素早く駆け付けかばいながら、すまないと詫びた。
クボティトがメタリックを牽制しつつ二人のそばに駆け寄る。
「おいにゃんにゃんにゃん!」とクボティトが言う。
シモキティウスは、しかしそれにかまわず叫ぶ。
あれは、改造されたヤ・ジューだ!
なんだってと言ってクボティトは驚き、メタリックを見る。
クボティトもその顔に見覚えがあった。
鼻のイボ。
そしてその時、「アーイキソイキソ」とメタリックが言った。
その声がクボティトにも聞き覚えのある声であり、それで彼はシモキティウスの言うことが事実であることを知った。
ヤ・ジュー、なぜ!とクボティトが叫ぶが、メタリックは一切反応せず仁王立ちする。
辺りはすっかり日が暮れてニコニカの町は夜の顔を見せている。
街灯や立ち並ぶ建物の照明にシモキティウスたちのいるベストホテルの正面ロータリーは明るく照らし出され、メタリック―――いや、ヤ・ジューはその銀色のボディを輝かせて立つ。
その姿はまるでただ立っているようにも見えるが、その実、隙が無い。
それもまたそこにいる男が彼である証明であった。
迫真から手を極めた男。
シモキティウスはその受け入れがたい事実と共に自身のうねるような気持ちを抑えきれない。
鼓動が高まり、汗が噴き出すのを感じる。
カッツが片膝に手をつきながら起き上がり、言う。
ヤ・ジュー?お前たちの知り合いか。
クボティトが銃を構えヤ・ジューに狙いをつけながら答える。
ええ、シモキティウスさんのお友達―――だったというべきかしらね。
カッツはそれで一度に理解したようで、渋い顔でなんてこったとつぶやいた。
その時、ベストホテルの正面玄関が開き、男が一人悠然とした歩き方で表へと出てくる。
ここがお前たちの最後、そしてニコニカの最後だ、とその男がいった。
たらこ唇、情けない一重たれ目と眉毛、たるんだ頬、まさしくいじめられっこのような顔つき―――ノボォーだった。
そいつは俺が改造したんだ。面白いだろう?とノボォーは挑発するように言った。
敵の前に余裕の表情で姿を現す。
それも一人で。
なめられたものだ、という悔しさとヤ・ジューを改造された怒りが爆発し、シモキティウスはノボォーに銃口を向ける。
だがその怒りの半分をクボティトが晴らしてくれた。
クボティトはある高名なアニメ作家の言葉を引用して反撃する。
「あのー...うーんとね...毎朝会う障碍者の方がいるんだけども、ハイタッチするだけでも大変なんです。その彼のことを思い出してね。僕はこれを面白いと思って見ることできないですよ。これを作った人たちは痛みとかそういうものについて何も考えないでやっているでしょう。極めて不愉快ですよね。そんなに気持ち悪いものをやりたいなら勝手にやってればいいだけで、僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません」
ノボォ―の顔が歪む。
クボティトはダメ押しの一言を放った。
「極めて何か生命に対する侮辱を感じます」
ノボォーは今にも泣きそうな顔になってうつむいて黙る。
依然として油断のできない状況だがシモキティウスは内心笑った。
クボティトの言った言葉は以前とあるアニメ作家がノボォーに対して説教として言ったものであり、その様子がインターネットで拡散されて大きな反響を呼んだという経緯のあるものだった。
敵の親玉がこんなにメンタルがクソ雑魚ナメクジなことがシモキティウスに笑いを誘うのだった。
更にノボォーは情けなく「これってあくまで実験なので...」と小さい声で言う。
その言葉はまさにあの動画でノボォー自身が言ったセリフだった。
全く同じ言葉を今繰り返しているのを見たシモキティウスはいよいよ草を抑えきれない。
シモキティウスは笑い出すと同時に、改造された旧友が微動だにせず突っ立っていることと、敵の親玉が泣きそうになっているこの状況を思い出し、ナンヤコレイッタイ...と冷静に困惑した。
ノボォーは涙声になりながら、ええいうるさいと叫んで、ホテルの中へと入っていく。
この町は俺を不愉快にさせる!みんな吹き飛ばしてやる!などとノボォーはわめく。
そのまえにお前たちは死ぬ!やれ、サイクロプス!とノボォーが叫んだところで玄関のドアが閉まった。
ヤ・ジューの顔のバイザーがポポポポという音と共に光る。
来るぞ!と三人は身構える。
どこからともなくイカセ隊と同じように音楽が流れ始める。
それはイカセ隊のワルキューレの騎行とは違う音楽だった。
メタリックな彼によく似合う電子的な曲。
sand stormだ。
同時にヤ・ジューは突進する―――。