ガチホモ英雄シモキティウス   作:mur-ju

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第17話

ヤ・ジューの突進に狙われたのはカッツだった。

先ほどの一撃を受けたカッツは思うように体が動かないことを一瞬で感知し、竹刀で受け止めることを判断する。

重い攻撃にカッツの竹刀は悲鳴を上げるが、それをなんとか受け切った。

カッツは迫真空手の恐ろしさに気づく。

こんなにまでたった一撃にパワーを乗せられる敵はカッツにとって初めてだった。

前に戦ったひでもなかなかの強さだったが、今自分の目の前にいるこの男に比べればかすんでしまう、とカッツは脅威を感じる。

有効打を考えなければ冗談ではなくここで自分たちは全滅してしまう。

それはシモキティウスとクボティトも理解しているようだった。

しかしシモキティウスはヤ・ジューへの攻撃をためらっていた。

改造され敵に回ってしまったとはいえ、目の前にいるのは自分の旧友なのだ。

それもとても親密にしていた友の一人だ。

それに銃口を向けることはシモキティウスにとっては地獄の刑罰よりもつらいものだった。

頭で理解できていても、心はやめろと叫んでいる。

その矛盾が生む重たくまとわりつくような気持ちがシモキティウスの動きを鈍らせる。

どう動いていいかわからない。

シモキティウスは抜け殻のような動きで精いっぱいに牽制し、必死に攻撃をかわす。

その姿はもはや素人同然だった。

カッツはシモキティウスに叫ぶ。

「男なら、背負わにゃいかん時はどない辛くても背負わにゃいかんぞ!」

シモキティウスはしかしその覚悟がつかない。

「やはりヤバい...」

シモキティウスはそう呟いて焦燥する。

クボティトは彼はもうだめだと言ってカッツに合図を送る。

とにかくシモキティウスをかばって二人で相手をするという作戦だった。

しかしヤ・ジューはその隙を見逃さない。

「キャプチャ...戊辰戦争...」と言いながら、シモキティウスを執拗に狙い始めたのだ。

ヤ・ジューは冷酷なまでに理にかなった判断で追い詰めてゆく。

こいつは一番弱い。

そう感づかれてしまったのだ。

ひきつった表情でシモキティウスは自分の体を振り回すようにして逃げる。

クボティトとカッツがすぐさま援護に回るが、それも圧倒的な速度とパワーで躱され、弾かれ、ねじ伏せられてしまう。

今まで戦った誰よりも強い。

シモキティウスは死というものを強く予感した。

勝てない。

自分にヤ・ジューを撃つことはできない。

だからといって彼が攻撃をやめてくれるわけはない。

ここが、死に場所なのか。

そして、限界がやってくる。

ヤ・ジューの一撃がシモキティウスを捉えた。

それはシモキティウスの腹にまっすぐ打ち込まれ、シモキティウスは吹き飛ばされ、ベストホテルの噴水の中に

突っ込んだ。

その噴水は水深が浅く、膝下までしかなかったのは幸運だった。

もし深ければ溺死していただろう。

深刻な痛みにわずかの間だが立ち上がれなかったからだ。

悶え呼吸を荒げたのち、片手で腹を押さえてもう片方の手で何とか上体を起こす。

だがその苦しむ時間が大きな好きになってしまったことは言うまでもない。

気が付くと、目の前にヤ・ジューがいた。

すでに腕を振りかぶっていた。

殺される。

シモキティウスは瞬間的に理解した。

ここが死に場所だ。

迫真空手のみんな、そしてヒラーノ、今行く―――。

 

 

だが、死ぬのはシモキティウスではなかった。

彼は見た。

拳が振り下ろされる一瞬前、カッツが竹刀を構えて間に入った。

シモキティウスを守ろうと竹刀でガードしようとしたのだ。

だが、その拳は竹刀を叩き折り、そしてカッツの体を砕いた。

カッツは、立ったまま動かなくなった。

絶命したのだ。

仁王立ちのまま。

シモキティウスをかばって。

シモキティウスは、もはやなにがなんだかわからなかった。

いろいろなことが起こりすぎて、悔やむ気持ちも、恐ろしい気持ちもなかった。

呆気にとられたと言うべきか。

クボティトに、立て!と怒鳴られて立ち上がり、心がどこかへ飛んでいったような感覚と共に戦いを再開する。

自分の中にあるものは無だ。

頭で考えることも、目や耳から入ってくる情報も、シモキティウスには虚無だった。

どうせみんなこのまま死ぬんだという諦めに近い気持ちでシモキティウスは動き続ける。

そんなシモキティウスを見たクボティトは、彼の顔がもはや無表情になってしまっていることに危機感を感じていた。

心神を喪失していることは明白だった。

ヤ・ジューが敵になったショック、カッツが死んだショック。

シモキティウスには重すぎる。

だからといってここで自暴自棄になられたら、もう勝ち目はない。

どうすれば打開できるのか、そんなことがクボティトの頭の中をぐるぐるし始める。

二人は集中を欠き始めていた。

そしてそれは隙を生み、ヤ・ジューはそれを見逃さない。

一歩、また一歩と追い詰められてゆく。

もう、だめだ。

その時―――。

 

カッツの体から大音量の音楽が流れだした。

それはカッツのポケットに入っていた彼の携帯からだった。

なぜいきなりそんなことが起こったのかは誰にもわからなかったが、誤作動を起こしたのかもしれない。

Nu shoozのI can`t wait。

独特の出だしの音が、世界のトオノと呼ばれて親しまれている曲だった。

ヤ・ジューの動きが止まる。

そして首をゆっくりとカッツにむけて、頭を両手で抱えて呻きだす。

おお...トゥーノ...トゥーノ...。

トゥーノという名に、シモキティウスは聞き覚えがあった。

ヤ・ジューの恋人だ。

そしてこの曲に使われている音が、トゥーノの声にそっくりなのだった。

ヤ・ジューはそれを思い出したようだった。

トゥーノ!と叫び、地面にガクンと膝をつく。

そして、だらんと腕を垂らし、動かなくなった。

バイザーからは煙が出ている。

二人は恐る恐るヤ・ジューに近づく。

そして、ヤ・ジューは機能を停止していることを確認した。

ヤ・ジュー…とシモキティウスが呟くと、ヤ・ジューは口を動かさずに、しかしはっきりと言った。

シモキティウス、未来を頼む。

シモキティウスの心臓がドクンと鳴る。

ヤ・ジューは最後に一言だけ言った。

「お前のことが好きだったんだよ…」

それがシモキティウスだけに当てられたものではないことを、彼はわかっていた。

最後にすべてのホモたちに愛と敬意を表して言ったのだ。

そして、ヤ・ジューもまた旅立って逝った。

それまで動きを止めていたシモキティウスの感情は再び動き出し、今度は大波となって押し寄せた。

クボティトはそれをなだめつつ言う。

まだ、最後の仕事が残っている、と。

シモキティウスは頷き、溢れかえる涙を振りほどくようにベストホテルの入り口へと駆け出す。

クボティトがそれに続くようにして、二人は突入していった。

決着の瞬間が、すぐそこまで迫っていた。

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