シモキティウスとクボティトはホテル内部へと突入する。
ホテルのロビーにはノボォーの親衛隊たちが待ち構えていた。
その男たちは二人が突入すると同時にこちらに向けて発砲する。
シモキティウスは涙でかすんだ視界に映るおぼろげな敵の姿を瞬間的に把握し、敵の位置をおおまかに覚えつつ、身をひねり物陰に飛び込む。
シモキティウスはすでに冷静さを取り戻していた。
散っていったみんなのために、ここで終わりにする。
涙は止まらなかったが、心はすでに力強い決意を抱いている。
今日、ここで平和を取り戻し、ニコニカとホモを救うのだ。
ノボォーを、殺す。
ロビーにいる敵は五人だった。
シモキティウスは彼らを分析し、おかしいことに気が付いた。
彼らはこちらに向けて撃ってきているが、どうも連携が取れていない。
銃を装填するタイミングを仲間と連携して隙の無い弾幕をつくるのが制圧射撃の基本だが、それが全くできていない。
更にこちらに向かって距離を詰めようともしてこない。
要するに各々が好き勝手に乱射しているだけのように見えた。
まるで素人だ。
こちらを誘っているのかと警戒しつつ弾幕がやんだわずかな瞬間にシモキティウスは相手に狙いをつけて射撃する。
相手は簡単に倒れた。
それを見た敵の一人が小さく悲鳴を上げる。
やはり奴らは戦いに慣れていない、とシモキティウスは直感する。
クボティトもそれには感づいていたようで、どういうことなの...(レ)と困惑する。
ならば、とシモキティウスはクボティトに合図する。
閃光と音で相手を気絶させるグレネード――フラッシュバンを使うのだ。
クボティトは頷いて目と耳をふさいで口を開けて伏せる。
シモキティウスは腰につけていたフラッシュバンを取り出しピンを抜き、相手に投げた。
耳と目を思い切りふさぎ口を開ける。
次の瞬間、激しい爆発音。
音がやんで部屋が静かになると同時に、二人は素早く振り返り敵が気絶したかどうかを確かめる。
銃を構え物陰に身を隠しながら敵のもとへ近寄ってゆく。
反撃なし。
敵たちは完全に気絶し、倒れていた。
そして、驚いたことに敵は全員十代の若者だった。
クボティトも「ウッソだろお前」と驚愕している。
シモキティウスは無線でジューン・ペイに、なぜ未成年がいるのかと聞いた。
答えはすぐに帰ってきた。
どうやらこいつらは"ホ・モグァキ"と呼ばれる暴走族のような悪者集団であり、ノボォーが雇い入れたのだという。
ホ・モグァキはホモをただのおもちゃとしか見なさない悪質な集団で、そこがノボォーと利害が一致したのだろうということだった。
そういえばイカセ隊はどうしたのだ、やつらはなぜ出てこないとシモキティウスが聞くと、イカセ隊はあくまでウンェイの直属だ、本人が死んだ今誰も使うことはできない、とのことだった。
それで雇ったのがあのチンピラか、奴らも末だなとシモキティウスは思った。
その時ホテルの館内放送が急に流れ出す。
「はーほんまつっかえ!」
ノボォーの声だった。
どいつもこいつも使えない連中だ、と怒りをあらわにした語気で言う。
「文系ってすぐ感情論にするんだよねえ」などとうんぬんかんぬん言っている。
なにを言いたいのかさっぱりわからなかったが、とりあえずイラついているのだけは理解できた。
館内放送でノボォーがギャンギャンわめくのを聞き流しながら、二人は階段を上がってゆく。
ジューンから、やつは最上階のバーにいるとの情報。
二人は素人同然の敵を苦も無く倒しつつ駆け上がる。
どうせこの町はもうすぐ吹き飛ぶのだ!という叫ぶ声が館内放送から聞こえた時、二人はバーの入り口にたどり着いていた。
ノボォーはこの中にいる。
二人は警戒しつつ中へと突入する。
バーというよりはレストランホールのような広い空間。
テーブル席がゆとりを大きくもたせた間隔で並べられ、ところどころに太い柱。
高い天井からはシャンデリアが吊り下げられ、壁はなく全面ガラス張りだった。
外にはニコニカの摩天楼を見下ろすように夜景が一面に広がっている。
ホールの真ん中にはこのホテルの地上階まで続く巨大な吹き抜け。
その高級そうな空間の、吹き抜けの柵のてノボォーがトレンチコートをまとって一人で立っている。
その横に、核爆弾と思しき物体が置かれていた。
よく来たじゃないか、愚か者ども。
そういってノボォーは笑う。
これで終わりだノボォー、降伏しろ、とクボティト。
だがノボォーは笑いながら開き直ったように、降伏する?馬鹿なことを、これからだというのに、と楽しそうに言う。
強がるな、とシモキティウスが銃の狙いを定めながら言うと、ノボォーは、いいや事実を述べているだけさ、と自信にあふれるようにトレンチコートを脱いだ。
脱いだ瞬間、ノボォーはダルダルの太った上半身を見せる。
だが、その弱そうな体とは裏腹に、その背中から太く力強い四本の機械で出来た触手が伸ばされる。
これは特注のパワードスーツさ、と自慢するように、そして楽しそうにノボォーは言う。
そして、ノボォーの顔から笑みがスッと消え、怒りを込めた表情に変わる。
奴は怒りをこめた口調で唸る。
このニコニカを吹き飛ばしてそれで終わりにするつもりだったが...気が変わったよ。
お前たちをここで始末して、それからこの町を灰にしてやる!
ノボォーは軍人ではない。
特別運動をして鍛えていたわけでもない。
それは奴のたるんだ体を見れば明白だった。
だからノボォー自身の動きは鈍いものだった。
だが、体の取り付けられた機械の触手はそうではなかった。
鋭く、そして恐ろしいほどに力強い。
さらに悪いことに、この触手は見た目以上のリーチがあった。
だから際限なく鋭い攻撃が飛んでくる中で二人はまともに照準を合わせることができない。
狙いさえつけられればノボォーは簡単に倒せるだろうが、その狙いをつけられそうもない。
銃を奴に向けることさえ厳しいのだ。
ラッキーヒットを狙うしかない。
シモキティウスは歯を食いしばりながら身をよじって回避しつつ、必死に腕を伸ばし銃を奴に向けて発砲する。
だがそれは見当違いの方向を撃ち、ノボォーには到底届かない。
遠くの窓のガラスが割れる。
その時クボティトも攻撃をやっとの思いで回避しつつ銃を撃つ。
だがやはり無理な姿勢から放たれた銃弾は奴を捉えられない。
クボティトは舌打ちをして、撃ち切った弾倉を変えるために柱の陰に隠れるが、その柱も触手の一撃で破壊される。
クボティトは歯を食いしばって崩れる柱の破片から逃れる。
ノボォーは笑う。
それが精いっぱいか。やはりホモは弱いな。
黙れ!とクボティト。
なぜホモをこうまでして叩く、なぜニコニカを吹き飛ばそうとする!とクボティトが叫ぶ。
するとノボォーは怒りを爆発させる。
お前たちのせいだろうが!
お前たちホモが俺のニコニカを汚くした!
お前たちホモがいなければこんな変なホモ文化が根付くことはなかった!
お前たちがいたから今じゃホ・モグァキなんてくだらねえ連中までいる始末だ...!
あまつさえやつらは俺のことを無能などと言いやがる!
だから...吹き飛ばしてやるのさ!
その言葉にシモキティウスは怒りを覚えた。
なぜならそういったホモ文化を醸成しているのはホモ自身ではなく、ホモを笑う者どもによるものだからだ。
シモキティウスたちはいわば被害者の立場にいるのだ。
それなのにこの男は自分たちホモの責任だなどと考えているのだ。
そのためにこの状況まで自分たちが追いやられてきたのかと考えると、怒りを抑えられない。
それは俺たちのせいじゃない!とシモキティウスは怒鳴る。
だったらなんだっていうんだとノボォー。
ホモを面白おかしく笑っている連中がニコニカを乱しているだけだ、俺たちホモは関係ない!と叫ぶ。
だがノボォーは収まらない。
お前たちが現れなければそいつらもホモ文化などというものを作ることはなかった!お前たちがこの根本だ!
詭弁を...!とシモキティウスは怒りをにじませてつぶやく。
シモキティウスの怒りは恐怖を超越させた。
刺し違えてやる。
シモキティウスは両足を肩幅に開き力をこめる。
とたんに触手が動きを止めたシモキティウスに襲い掛かる。
シモキティウスは爆発的な集中力で最小限の動きで回避しようとするが、読み切れずに左肩と右足を触手がかすめるようにえぐる。
だが、その痛みをアドレナリンで押さえつけたシモキティウスは意に介することなく狙いを定め、撃つ。
その銃弾は、ノボォーのパワードスーツ、その制御装置を打ち抜いた―――。