第4話
高高度を飛ぶ飛行機の中にシモキティウスたち3人はいた。
小型輸送機という趣での飛行機で、格納庫があり20~30人ほどが入れる大きさだった。
壁に据えられた赤いランプのわずかな光が照らす薄暗い格納庫に今3人は立っている。
迷彩を着てボディアーマーを装着した完全装備の上に、更に背中にパラシュートパックを背負い、酸素マスク、ゴーグルを着用。
そしてアサルトライフルを装備していた。
まさに特殊部隊という格好だ。
ジューン・ペイが、降下地点まであと5分と告げた。
彼はここには乗っておらず、ヒラーノの緊縛の館から無線で情報伝達をする役目を担っていた。
この飛行機も彼が遠隔操作しているものだ。
3人はその合図とともにお互いの装備を確認しあう。
シモキティウスはクボティトの装備を確かめた。
彼のパラシュートパックを手で軽くゆさぶり、緩みや異常がないかを調べたあと、クボティトにサムズアップで合図。
その後クボティトがヒラーノに、ヒラーノがシモキティウスに。
そしてヒラーノが、作戦開始です、と言い、格納庫の壁にあるカーゴハッチの開閉ボタンを操作した。
ググググ...とハッチが開く。
外の眩しい光が格納庫内に差し込む。
青い空がどこまでも広がり、眼下には雲海が広がっていた。
天気予報ではニコファレの町は雨だった。
パラシュート降下で潜入するにはちょうどいい。
雲海が飛行機とパラシュートを地上にいる人々から隠してくれる。
気流の乱れと視界不良を除けば、絶好の機会だった。
降下30秒前、とジューン・ペイ。
いよいよだ。
しかしシモキティウスは緊張しなかった。
こんな仕事はルーティンワークだと言わんばかりの平静さで、まるでベテラン空挺兵のような落ち着きであった。
ヒラーノとクボティトの催眠による暗示のおかげだ。
ジューン・ペイがカウントを始める。
10、9、8...。
カッツ・ラギレン、今助けに行くぞ。
0、と言った瞬間、まずヒラーノが外に向かって駆け出した。
間をおいてクボティトが駆け出す。
そしてシモキティウス。
それは外に滑り出すような感覚だった。
束の間の浮遊感ののち、重力に引っ張られて落下する感覚にかわる。すぐさま両手両足を広げ、降下姿勢をとる。
全身に空気が押し付けられるようだ。
そのまま三人は雲海の中へと突っ込む。
予想どおり気流が乱れていて、なおかつ雲による視界不良だ。
通常ならパラシュート降下など危険な天候だが、彼らにとっては想定内だった。
訓練されたシモキティウスたちは巧みに姿勢を取ることでルートを外れない。
雲を抜けた。
地上が見える。
全身に雨粒を受けながらさらに降下する。
降下地点周辺は草原だ。
地上がもう目の前にくる。
ピーピーという音が鳴る。
開傘高度。
ピンを抜く。
パックからパラシュートが展開し、開傘。
減速。
着地だ。
シモキティウスは体をひねって転がすようにして着地した。
すぐ近くに二人も降下していた。
シモキティウスとクボティトは着地と同時に直ちにパラシュートをたたみ、近くの岩場へ隠した。
ヒラーノはそのままライフルを構え周辺警戒。
そして二人が済ませると交代。
三人が隠ぺいを完了させると一か所に固まって状況確認と今後の確認をした。
ヒラーノがマップを広げ現在地を指さす。
ニコファレの南東9キロ地点の草原だった。
暗雲が立ち込め、あたりは薄暗い。
ここから森や林などのルートを選んで徒歩で移動し、町の近くを流れる川まで行き、町の内部に続く下水を通って潜入するという手筈だ。
現在時刻は7時10分。
予定では今日の夕刻にはカッツを助け出して帰るはずだ。
ヒラーノはマップをしまい、静かに手で合図を出した。
彼らは動き出す。
三人はそれから一時間半ほどで目的の川にたどり着いた。
それほど大きい川ではなく、幅数メートルほどのもので、水深も1メートルほどもないものだった。
その川にポッカリと口を開け下水を流し込むパイプがあった。
目的の下水道だ。
彼らは辺りの気配に気を配りつつ川の中へと入り、水をかき分けるようにして歩みながら、下水の入り口へと向かっていった。
その下水の入り口には金網がしてあったが、クボティトが任せてと言って小さなガジェットを取り出した。
それを金網に向けてボタンを押すと、赤い円形の細いラインが金網の上に照らし出される。
クボティトは離れて、と言ってから3,2,1とカウントし、0と言った瞬間に再度ボタンを押した。
すると、ジュッ!という音と共に金網が赤いラインにそって焼き切れた。
シモキティウスが驚いて、それはなんだと聞くと、ジューン・ペイが作ったレーザーブリーチャーだとクボティトは言った。
しきりに感心するシモキティウスを見て、ジューンはなんでも作れるんだとクボティトは笑って言った。
ヒラーノはそれを微笑みながら見つつ、下水のパイプに一歩入りこみ、フラッシュライトで内部を照らして、手で合図する。
ヒラーノは低い声で言った。
「行きまっしょ...」
街への潜入が始まった。
下水の中は明かりはない。
それぞれのライフルに装備されたフラッシュライトが各々の足元を照らすだけだった。
それ以外は何も見えない。
そのうえ、当然といえば当然だが、生活排水が流れているのだ。
くさい(確信)。
一番クールで落ち着いたヒラーノも、この臭いには堪えかねている様子で、ジューン・ペイが好きそうな臭いだな、とこぼしていた。
シモキティウスは、彼はこんな臭いが好きなのかと聞いた。
クボティトが、彼はスカトロ専門なんだよねと答えた。
ご存じなかったですかとヒラーノ。
シモキティウスは驚いた。
どことなくうんこが好きそうだとは思ったが、本当にうんこ好きとは思わなかった。
そういうと、クボティトは笑った。
彼は糞で少年を調教するのが大好きなんだよ、とクボティト。
シモキティウスはゾッとした。
あまり関わらないでおこう。
さすがのシモキティウスでもスカトロは受け付けなかった。
そこまで堕ちたくねえ、と感じてしまうほどだった。
そんな様子のシモキティウスを見てヒラーノとクボティトはさらにクスクスと笑った。
三人は歩を進めた。
ヒラーノがマップを確認する。
カッツが囚われている収容所のすぐそこにあるマンホールを探しているのだ。
しばしの後ヒラーノは、もうすぐですと言い、ライフルを構えなおして前進した。
彼の後に二人が続く。
一歩また一歩と前進する。
そのころにはもう誰も喋らなかった。
先ほどまでの和やかな空気はもはやない。
いよいよだ。
ヒラーノが歩みを止め、ここだ、と言った。
彼のフラッシュライトが上へと伸びるはしごを照らし、ライトの光がそれを辿って上へと向いてゆく。
その先にはマンホールのふたがあった。
あの先が、カッツの収容所だ。
ついにここまで来た。
来てしまった。
シモキティウスが、あれですね、と言い、マンホールを見上げる。
ヒラーノが、行きましょう、と言ってはしごに手をかけ登り始めた。
登った先のマンホールの蓋を、ヒラーノはゆっくりと押し開いた。
わずかな隙間から外の様子をうかがう。
周囲には誰もいなかった。
蓋を外してまずヒラーノは外に出て、銃を構え辺りを警戒しつつ、下の二人に合図した。
まずクボティトが上がる。
最後にシモキティウス。
三人が上がり切ったところで蓋を戻して素早く物陰へと移動、再度マップを確認した。
現在地は収容所から600メートル。
誰もいない路地裏の広場のようなところだ。
周りは建物に囲まれ薄暗く、雨が降りしきっていた。
ヒラーノがマップの現在地と目的地を交互に指さし、ここからが大変だ、と言う。
クボティトとシモキティウスは、強いまなざしで頷いた。
ヒラーノはそれをみて、少し微笑んでこう言った。
「それでは、カッツが監禁されている部屋へ、参りましょう」
シモキティウスは銃を握りなおした。