ガチホモ英雄シモキティウス   作:mur-ju

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第7話

シモキティウスとカッツ・ラギレンはポイントデルタへと向かった。

ビルの間を縫うようにしてブースターパックを吹かし、道行く人の頭上を駆けて行く。

激しかった雨は、小降りになっていた。

雲がちぎれ、日差しがその切れ間から差し込み始めている。

時刻は16時30分。

すでに日は傾き、雨に濡れた町は夕焼けのオレンジの光を反射し、懐かしさを匂わせる美しさでシモキティウスを魅了した。

平和な景色を穏やかに眺めていたあの頃へ戻りたい。

ノスタルジックな街の風景は時に残酷なものだった。

今のシモキティウスには思い出したくないことまで思い起こさせた。

安寧だったあの日からずいぶん遠くへ来たものだ、ホモの弾圧が始まったあの日から。

あの日バーで飲んで、迫真空手の三人が撃たれて、逃げのびて———。

シモキティウスはほろりと涙を流す。

後ろに続いていたカッツはそれに気づいた。

夕日がシモキティウスから後ろへと飛んで行く涙をきらめかせている。

カッツは声をかけようとし、しかし少し考え、口をつぐむ。

ヒラーノが言っていた。

彼は少し前までは普通の青年だったのだ。

ここまで無理をたくさん重ねてきたはずだ。

この自分のために、とカッツは不甲斐なさに歯ぎしりをした。

こんな若者まで戦わせてしまった。

先ほどの戦いも。

情けない。

そう思えばこそシモキティウスにかける言葉などない。

もっと、強くならなければならない。

二人は何も語らぬまま、合流地点へと向かった。

 

 

ポイントデルタ。

そこはニコファレの町の郊外にある運動場だった。

周辺の人家はまばらで、そこもほとんど人が使うこともなく寂れた雰囲気に包まれていた。

シモキティウスが到着すると野球少年が数人遊んでいた。

よく見るとなんとその中にクボティトが混じっている。

シモキティウスが「なにやってんだあいつ...」と呟いて近づくと、クボティトがこちらに気づいた。

「あらシモキティウスさんいらっしゃい!」

とクボティトが言い、無事でよかったとハグをしてきた。

先に到着して待っている間、こどもたちと一緒に遊んでいたとのことだった。

あのさぁ...こっちの事情も考えてよ、という感じでシモキティウスがこれまでの経緯を話した。

イカセ隊を倒した事をきいたクボティトはたいそう驚いた。

本当なのか?とカッツに聞く。

「ホントだよ。おじさんはひでと違って嘘つかねえからな」

とカッツが答えると、クボティトはウルトラマン!と意味は分からないがとりあえず賞賛してくれていると理解できる言葉をかけてくれた。

しかしヒラーノの姿が見当たらない。

それを聞くと、一足先に戻ってヘリに乗って戻ってくる手筈とのことだった。

しかし、とシモキティウスは思う。

来るときの輸送機はジューンが遠隔操縦していた。

ヘリはだめなのか?

そういうとクボティトは、これから夜間飛行になる、ナイトビジョンでの遠隔操縦は困難だし、ヒラーノに任せるのが確実だ、と言った。

シモキティウスはなるほどと頷く。

ヘリはあと10分で来るとのことだった。

ここでしばらく待つ。

クボティトが家に帰ってゆく子供たちに手を振るのを横目にみながら腰をおろした。

今日は疲れた。

帰ったらゆっくりと休もう。

 

その時だった。

グラウンドの隅にある小屋の裏から、小屋を飛び越えるようにして何か飛び出したのが見えた。

ゆうに10m近い高さまで飛び上がったそれは、シモキティウスたちの前にドスンという音を立てて着地する。

片膝を立てて、片手の握りこぶしで地面をつく。

スーパーヒーロー着地だ。

だが、それはヒーローではなかった。

ひで、だった。

ひではにやついた顔とともにゆっくりと立ち上がる。

カッツが怒鳴る。

「ふざけんじゃねえよオォイ!誰が追っかけてきていいっつった!」

ひではしかし全く動じず、逃げられないにょ~とムカつく声で言う。

そしてその後ろから、またしてもあの音楽が聞こえた。

ワルキューレの騎行。

それと共にイカセ隊が二人現れる。

ひではイカセ隊を制す。

ぼく一人で充分だ、と言った。

おじさんが「おじさんのこと本気で怒らせちゃったねえ!」と言って竹刀を構えた。

その構えは、素人目だったが、先ほどとは違うとシモキティウスは感じた。

卍解~!とクボティトが言う。

卍解。

噂には聞いていた。

カッツの奥義。

自らの精神を極限にまで昂らせることで初めて発動する究極の虐待の技だ。

ひでは顔をゆがませ、それだ、と言った。

その技がかわいいぼくを虐待したんだ!

ひではカッツに鋭く突進した。

しかしカッツはすばやく身を翻し、足をかけてひでを転ばせた。

ひではヨツンヴァインになる。

カッツは間を置かず「クチクチ、口開けろ口」といってひでの口に竹刀を突っ込む。

しかしシモキティウスからは竹刀に口をつっこむ様子が見えなかったため、何やってるかよくわからなかった。

そしてカッツは素早くひでの背中を竹刀で連打する。

タンタンタタタンタン!という軽快な音とともに、カッツは「どうでちゅか~」と挑発した。

痛いんだよお!とひでは叫んでカッツを殴る。

しかしカッツはその拳が届く前に素早く飛び退り、さらに踏み込んで竹刀を叩きこむ。

卍解した竹刀の渾身の一撃は超耐久のひでの装甲をも貫いてダメージを与えた。

ひではもだえ、倒れこそしなかったが、苦痛に身をよじらせた。

その動作はまるで深々と一礼しているようだった。

ひでは「あああああああもうやだあああああ!!!」と叫ぶ。

カッツは「痛いのはわかってんだよオラァ!!YO!!!」と怒号をあげた。

ひではしかし、ただ虐待されただけのあの頃とは違った。

奴はゆっくりと立ち上がる。

カッツは構え直す。

だが、ひではカッツに攻撃はしなかった。

唐突にクボティトを狙ったのだ。

油断していたクボティトはかわすことができなかった。

持っていた銃を盾にして咄嗟に防御したものの、強烈なパンチに数m飛ばされる。

地面に打ち付けられたクボティトは、その衝撃で呼吸困難に陥った。

銃はぐちゃぐちゃだ。

次はこっちを狙ってくる、と咄嗟に思ったシモキティウスは防御の体勢を取ったが、ひでは視界から消えていた。

どこへ行った?

その時すぐ後ろでドスンという音がした。

シモキティウスは直感した。

奴はジャンプして背後へ回り込んだのだ!

しまった、と思う間もなく、ひではシモキティウスの首に腕を回し、締め上げるようにしながらシモキティウスを抱え上げた。

苦しさに悶えシモキティウスは暴れたが、ひでの超耐久ボディが生み出すパワーにはかなわなかった。

カッツは、てめぇ!と叫んだ。

ひでは、ホラ打ってこい打ってこいと挑発した。

打ってくればこいつに卍解竹刀が当たるにょ~と笑う。

シモキティウスはこの卑怯クソホモめと歯ぎしりをする。

カッツは動けなかった。

打ち込んだらシモキティウスまでやってしまう。

飛び道具でケリをつけてもいいが、クボティトの銃は壊された。

どうすればいい。

シモキティウスは首を絞めつけられる。

こいつは死んじゃうにょ~とひでは笑った。

だが、クボティトが叫んだ。

シモキティウス!目をつむれ!

シモキティウスは一瞬驚いてクボティトを見た後、ギュッと目をつむった。

直後に、目をつむっていても目の前が一瞬明るくなったのを感じた。

それは眩しささえ感じた。

そして、首を絞めていたひでの腕が解かれたのを感じる。

シモキティウスは地面に手をついて四つん這いの姿勢で咳き込んだ。

何が起こったのかはシモキティウスには察しがついた。

目をつむれとクボティトが言って、一瞬彼を見たとき、手にデバイスを持っていた。

それを確かめるようにクボティトを見ると、彼は確かにそれを構えていた。

アレだ。

カッツを助けるために下水道に入るときに使った、レーザーブリーチャーだ。

ひでの目に向かって、最大出力で照射したのだ。

ひでは「痛い痛い痛いやだぁぁぁあああぁぁあああ」と叫びながら目を両手で押さえてのたうち回っている。

どれだけ体が超耐久であっても、目や網膜、視神経は鍛えられない。

一瞬で失明しただろう。

そして、ひでは翻って、走り出した。

あらぬ方向へと脱兎のごとく駆けながら、イカセ隊どこだ!と叫んでいる。

イカセ隊の二人はひでを保護するようにして、撤退して行った。

 

 

シモキティウスとカッツはクボティトに礼を言った。

あんなことを思いつくとは脱帽したよ、と言うと、クボティトはよしてくれと言った。

それは謙遜ではない口調だった。

彼は少し落ち込んでいるようにも見える。

しばし沈黙した後、レーザーで失明させるなんて人道的ではない、とクボティトは俯いてぽつりと言う。

あの場合は仕方なかった、とカッツは言うが、クボティトの気分は晴れないようだった。

その時、シモキティウスが少し離れたところにメモ帳のようなものが落ちているのを見つけた。

なんだろうと近づいて、それを拾い、読む。

その内容にシモキティウスは目を見開いて驚いた。

これは—————。

シモキティウスは二人に振り返って、おい、これを見てくれ、と言ったが、それはヘリのローターのバタバタバタバタという音と砂煙にかき消された。

ヒラーノが来たのだ。

着陸したヘリにクボティトとカッツが乗り込み、シモキティウスを手で招く。

シモキティウスはメモを握りながら、ヘリへと歩き出した。

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