第8話
ヘリは無事に飛び立った。
ヒラーノの要塞、緊縛の館へと向かっていた。
カッツは無事に救出し、イカセ隊の一人を倒し、ひでに深手を負わせた彼らは、戦勝の気分に浸るはずだった。
だがその気分は、シモキティウスの持ち帰ったメモによって沸き起こるのを阻まれることとなった。
みんな見てくれ。
そう言って、シモキティウスはヘリが飛び立つのもそこそこに、みんなにメモ帳を見せた。
なんだ、とカッツとクボティトがのぞき込む。
そこにはこう書かれていた。
INM BOMB DETONATE
RIKKYO University 0334 1919
SHIMOKITAZAWA 0364 0810
INM爆弾だと、と二人とも声を上げた。
それをインターカムで聞いていたヒラーノも、INM爆弾がどうしたんですか、と言った。
シモキティウスは、爆弾による攻撃計画です、と伝えた。
立教大学、3月34日19時19分。
そして下北沢、3月64日8時10分。
大変なことになるぞ、とカッツは頭をさする。
INM爆弾。
二コニカが最近開発したと言う新型爆弾だった。
正式名称は、Inversion to Nonke Mankind Bomb.
ノンケ人類へ逆転させる爆弾という意味だ。
その頭文字をとってINM爆弾。
つまり、その爆発に巻き込まれれば、ホモは強制的にノンケへと転向させられてしまう。
立教大学はホモのエリート学校、下北沢はホモのメッカと呼ばれる場所だった。
部活終わりのお盛ん(意味深)な時間と、通勤ラッシュの時間を狙えば、効果的にホモを潰せる。
その腹積もりであることは明白だった。
クボティトはなんて非道なことだと怒る。
ヒラーノはしかし冷静に、まずは帰りましょう、と言った。
日が落ち、東から夜の闇が触手を伸ばすように地面を覆っていく様を見ながら、ヘリは飛行した。
緊縛の館に戻った彼らはその日は食事をとってシャワーを浴び、眠りについた。
だがシモキティウスはなかなか寝付けなかった。
ウンェイはあれだけの虐殺をしておいてまだ満足していないのか。
一体奴はどれだけの人々を苦しめれば足りるのか。
そう思いつつ寝返りを打つ。
INM爆弾を使えば、大勢の人がホモでなくなってしまう。
INM爆弾。
最悪の手段に出てくれたものだ。
また寝返りを打つ。
そういえば、と ふと思う。
なぜ奴はホモを弾圧し始めたのか。
最も根本的な部分をシモキティウスは忘れていたことに気づく。
なぜ奴は急にこんなことを始めたのか。
なぜだ?
ウンェイがホモを特段嫌っていたという噂は聞いたことはなかった。
そのようなきっかけを生む事件や事故のニュースも聞いたことがない。
更に、今ホモの弾圧を始めてから、その理由がなんなのかという公式な発表さえ聞いたことがなかった。
なら、なぜ?
あれこれと想像をしたが、それがしっくりイメージとして結ばれることはなかった。
そうこうしているうちに、シモキティウスはいつのまにか眠っていた。
翌日目が覚めたシモキティウスは支度を済ませると部屋を出て作戦室へと向かった。
既に皆が集まっていた。
おはようと挨拶を交わしながら作戦卓につき、会議が始まる。
立教大学でのINM爆弾起爆阻止に関してだ。
まず情報担当のジューン・ペイが二コニカ政府の機密情報にアクセスして調査したところ、情報は事実であるとのこと。
さらに、INM爆弾はどこかに保管されているわけではなく、常に移動しておりそれを捕捉することは困難である。
よって、起爆直前に運び込むところを襲撃し、起爆を中止させる方法が最も確実であるということ。
それから、現時点までで計画に変更は確認されていないとのことだった。
シモキティウスがメモを拾って来たことでこちらが計画を掴んだと悟られている可能性を考えなくてはならないが、変更されていないうちは、相手に気づかれていない可能性の方が高い。
ジューンはそう言った。
しかしクボティトは慎重になるべきだと言う。
わざと気づかぬふりをしてこちらを誘い込もうとしている可能性もある、と彼は言った。
カッツは、確かにイカセ隊の一人を倒したうえに、ひでにダメージを与えたのだから、妙手を打ってくる事も警戒しなければならない、と言う。
だが、ヒラーノは、とにかくそれが罠であっても止めないわけにはいかない、と発言した。
それには皆頷いた。
今回も前回と同じ手で行く、と言いながらヒラーノがプランを説明した。
立教大学は二コニカの北西にあった。
広大な敷地面積を持ち、その広さは114514810平方メートルにも達する。
大学というよりは町そのものといったほうが近いものだった。
だがしかし、ホモが集まるのはその中央にある巨大な講義棟だけだ。
INM爆弾を仕掛けるなら、そこだろう。
だから、前回と同じ要領で、学生に扮装して潜入するというのが、ヒラーノの計画だった。
しかし問題があった。
講義棟と言っても、その建物は30階建て、各階のフロアの広さもショッピングモールほどはある。
この人数だけで探すには広すぎる。
シモキティウスがそういうと、ジューンが待ってましたと言わんばかりにデバイスを机の上に置いた。
INM爆弾用探知機だった。
INM爆弾の起爆装置は電子制御式だった。
この爆弾は危険性の高い爆弾であるがゆえ、万が一の誤作動を防ぐ安全目的で、それ専用の暗号化された信号電波でのみ制御装置が起動し、起爆するという仕組みになっている。
これはそれを逆手に取ったもので、爆弾をセットし起動させる時の電波を検知し、逆探知するパッシブ式探知機ということだった。
ジューンがINM爆弾のデータを盗み出して造った優れモノだ。
爆弾は設置してから運んだ人間が逃げるために、爆発するまである程度の時間は必ず用意するはずだ。
その時にこのデバイスを使用して爆弾の所まで移動、起爆を中止させる手筈だ。
クボティトが、起爆を中止させるにはどうすれば良い、と聞く。
ジューンが答える。
制御装置を撃って破壊すればいい。
この爆弾は人をノンケにする成分を爆発の過程で生成し、同時にその爆発によってまき散らす仕組みになっている。
つまり、爆発さえ起こさなければ問題ないということで、更にこの爆弾は制御装置から正しい電圧を加えられた時のみ爆発反応を起こすものだ。
だからもし爆弾自体を撃ってしまっても誘爆の危険はないとのことだった。
了解した、とシモキティウスは答える。
誰か他に何かあるか、とヒラーノが言った。
皆、全て了解という表情で小さくうなずく。
しかし、ここでカッツが言った。
俺は今回パスさせてくれ、と。
クボティトがどうしたのかと聞くと、カッツは修行がしたいと言った。
どういうことかとシモキティウスが言う。
カッツは決意を固めた表情で、俺はもっと強くなりたい、ひでをあんなにしたのは俺だ、俺が始末をつける。
そのためには俺はもっと強くならなければならない、とカッツは拳を固く握る。
ヒラーノが、わかりましたと言い、この作戦は我々三人で行きましょうと言いながら立ち上がる。
決行は34日。
すなわち5日後だ。
全員がテーブルから立ち上がる。
ヒラーノが、それぞれが今できる全力のことをやりましょう、と発破をかけた。
ホモのために、とクボティト。
そしてシモキティウスとカッツも、ホモのためにと言った。
ヒラーノが解散と言い、彼らは部屋から出て行く。
今できる全力のことを。
その言葉はシモキティウスを勇気づけていた。
もう後ろは振り向かない。
もう悲しみは繰り返させない。
必ず止めて見せる。