シモキティウスとヒラーノ、クボティトは車に乗り立教大学に向けて幹線道路を走っていた。
運転はクボティト。
助手席にヒラーノ。
そしてシモキティウスが後部座席に座っていた。
時刻は午前10時。
ヒラーノが口を開く。
INM爆弾を使うとは、ウンェイはやりすぎだ。
あれだけやってまだやり足りないのは信じられない、しかも立教大学を狙うなんてと彼は言った。
立教大学は外資が運営する大学だった。
さらに大学には自治権が与えられている。
つまり、立教大学の敷地内は治外法権と言っても過言ではなかった。
そこを攻撃するということはすなわち国際問題にさえ発展する恐れがあるのだ。
シモキティウスが今度は口を開く。
たしかにやりすぎだ。
そうまでしてホモを絶滅させたいのか。
そもそもなぜそうまでしてウンェイはホモを突然絶滅させようとしたのか、その動機はなんなのか、と。
そういえば考えていなかった、何がきっかけだったのか、とクボティトが言った。
シモキティウスが、何かそれに関して情報はないんですかと聞くと、二人とも、考え込んんだまま、何も言わなかった。
どうやら誰もこの一連の出来事の発端はなんだったのか知らないらしい。
しかし、深い理由もなく完全な思い付きでこんなことを始めるはずはない。
ウンェイはそもそも暴君として名を轟かせるような人物ではなかった。
むしろ慈悲深いことで有名だったし、だからこそ二コニカの町は多様な人々が自由を謳歌することを許されていたのだ。
考えれば考えるほどわからなかった。
シモキティウスが難しい顔をしていると、クボティトが、今のまま戦い続ければいずれ奴に会う、その時に聞けばいい、と軽い口調で言う。
腑に落ちないところもあったが、考えても仕方のないことだ。
それもそうだなと答え、シモキティウスはそのことについて考えるのを今はやめることにした。
一方そのころ、カッツ・ラギレンは緊縛の館にて修行を続けていた。
緊縛の館にはサッカーコート二つ分ほどの巨大な運動場があった。
そこはシモキティウスも訓練を受けたところで、模擬戦闘訓練もできるほどの広さと設備が整っている。
今カッツはそこで、竹刀を構えた訓練ロボットと相対していた。
カッツは所詮ロボットが相手と、たかをくくっていたが、その実これがよくできたもので、達人レベルの強さで相手をしてくる恐ろしいものだった。
これでこそ修行だとカッツは鋭い表情になる。
だがその頬には驚きや焦りを現すかのような汗がつたっていた。
こいつは強い、だからこそ落ち着け。
相手の動きを見極めろ。
手の動き、足の動き。
そう自身に言い聞かせる。
互いに剣を構え直す。
いくぞッ!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
むっ、さすがは達人レベルだ。
イカセ隊やひでとは、剣速も重さも比べ物にならない。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
カッツが跳び退って間合いを取った。
カッツの剣筋は鋭かったが、このロボットはそれを全て見切って受けた。
やはり、キンキンキンキンなどというレベルの低いことをやっていては敵うはずもない。
カッツは腹をくくる。
自らの限界を超えた力を使わなければならない。
ここでカッツはハッとした。
そうだ、修行とは本来そういうものではないか。
もうダメだと自分で感じる場所の、さらに一歩先。
そこに到達できてこそ、自分の殻を破り成長できるのだ。
長い間"虐待おじさん"の名誉に甘え、初心を忘れていたことにカッツは気づいた。
やってくれるじゃないか、このロボットは。
カッツはニヤリと笑う。
なら俺もやってやろうじゃないか。
竹刀を握りなおし、カッツは卍解する。
覚悟完了。
卍解のその先、見せてやる————。
正午。
立教大学へと到着していたシモキティウスたちは探知機を作動させ待機していた。
クボティトの提案で昼食をとることになり、彼らは学食にいた。
学食といってもよくあるフードコート形式のようなものではなく、値段は学生向けで比較的安めなものの、格式高い内装が施されており、なんとウェイターさえ配置されている。
三人はマフィローという青年にテーブルに案内され黄色い色のウェルカムドリンクを出され、前菜にデジタルスティックという名前のベジタブルスティックを出された。
それを食べながら彼らはそれぞれメニューを見ていたが、どれも名前がおかしく皆"クソ"という文字が入っていた。
シモキティウスはミートクソーススパゲティ、あとの二人はクソハンバーグを注文した。
どんな料理なんだろうと内心ドキドキしていたが、出てきた料理は普通のスパゲティとハンバーグだった。
ただ、味は今まで食べたことのないほど極上だった。
ヒラーノとクボティトも美味い美味いと顔をほころばせて食べている。
言うなればクソ美味いと言うべきだろうか。
そうか、だからクソが名前に入っているのか、などとくだらないことをつい思ってしまう。
シモキティウスは完食した後、ウェイターのマフィローに、これはどうみても普通のスパゲティとハンバーグだが、どうしてこんなに美味いのか、なにか隠し味があるのか、と聞いた。
するとマフィローはありがとうございますと頭を下げ微笑んだまま、隠し味に関しては口をつぐんだ。
シモキティウスは少し訝しんでマフィローを見ると、彼は微笑んでいるものの目が笑っていないことに気づいた。
その表情はなんとも微妙なもので、すこし焦っているような感じさえする。
聞かないでくれと言いたいような—————そこまで考えて、ハッとし、自身が完食した皿と、まだ食べている二人を見て血の気が引いていくのを感じ取った。
だがシモキティウスは大人だった。
まだ目の前で二人が食べているのだ。
知らぬが仏ということもあるし、自分の考えすぎということもある。
企業秘密だから言えないのだ、シモキティウスはそう思いこみ黙ることにした。
その時、探知機が鳴った。
ピーピーピーという音。
ヒラーノが釣りはいらないと言ってテーブルに紙幣を置く。
そして三人はそれと同時に駆けだした。
場所はどこだ、とクボティト。
ヒラーノが探知機を見て、屋上だと答える。
屋上だって?とシモキティウス。
INM爆弾の加害半径は実はそこまで広くない。
最も条件の良い場所でも半径100mに届くかどうかというレベルだった。
この講義棟の高さがちょうど100mを超えるくらいなのだ。
効果的に使用するには真ん中の階で起爆させるのがセオリーだと彼らは予想していた。
どういうことなのかとクボティトが言ったが、ヒラーノはわからないと答える。
わからないことだらけだが、今はとにかく屋上に行けばいいんだな、とシモキティウスが言う。
ヒラーノとクボティトが頷く。
彼らは講義棟を上へ上へと駆け上がっていった。
屋上への扉。
ヒラーノがそれを蹴り破る。
それを見たシモキティウスは、まるでカッツを救出に来た時みたいだなと思う。
外に出る。
広い広い屋上の真ん中に、ポツンと物体が置かれている。
INM爆弾。
だが、それだけではなかった。
その後ろ、一人の男が背中を向けて立っている。
三人はその男に銃を構える。
ヒラーノが、動くな、と言った。
男が言った。
やはり、来たか。
そして、こちらに振り返る。
男は独特なバイザーを身に着けていた。
顔は見えない。
だが、彼らはすぐにこれが誰かを知ることになった。
お前がこれを運んだんだな、とヒラーノ。
すると男はこう答えた。
そうだにょ、ぼくが運んだんだにょ。
男はそう言い終えるとにやにやと笑う。
シモキティウスは驚いた。
語尾に"にょ"をつけるこの喋り方、まさか。
男がにやにや笑いのまま、言った。
この屋上、なんだかあの時と似ているね。
忘れたとは言わさないにょ。
シモキティウスは確信した。
そうだ、こいつは、ひでだ!
変わり果てたひでが、怒るように言う。
そうさ、ぼくはひで、超耐久のひで。
今度こそ、殺してやる——————。