ギルドから帰ったハヤトは魔道具店に戻り、ウィズと共に夕飯を食べていた。
「ハヤトさん、何から何までありがとうございます。これで当分安定した生活ができます」
「いいんだよ。これから取り寄せる商品を、しっかり見定めてくれればね……」
「うぅ……努力します」
シュンとした顔で、スープの具の肉をスプーンで軽く突っつくウィズ。
「コホン………暗い顔しながら肉を突っついてるウィズに朗報だよ」
「朗報……ですか?」
「ああ、今まで殆どソロでクエストをこなしていた私だが、何と念願のパーティーに入ることが決まった」
「本当ですか⁉おめでとうございます!」
さっきの表情から一転して笑顔になるウィズ。
「少しばかり騒がしいメンバーだがね。何か不思議な物を感じさせるんだ」
「ハヤトさんがそんな事言うなんて、そのパーティーの方々にお会いしてみたいですね」
「ああ、今度ウィズにも紹介しようと思う。楽しみにしていてくれ」
「フフフ、そうと決まればお祝いしましょう!」
ウィズは食卓から席を立ち、自室へ入っていった。
しばらくすると自室からウィズが出てきたのだが、何かを抱えている様だ。
「この日が来ると思って、こっそり買っておいたんです」
ウィズが抱えて来た物、それは数本の高級な酒のボトルだった。
満面の笑顔なウィズを見て、ハヤトは目を逸らす。
「…………ボソボソ…」
「え?何か言いました?」
「い、いや…ありがとうってね……わざわざこんな物まで用意してくれて」
顔を赤らめたハヤト。
実は彼が言った一言は『君の笑顔だけで充分なお祝いだよ』という、恥ずかしいにも程がある言葉だった。
ハヤトはウィズに酒を注いでもらい、次にウィズはハヤトに酒を注いでもらう。
「では改めてまして、ハヤトさんおめでとうございます‼」
「ああ、乾杯」
「ハァ~、美味しいですねぇ~」
酒を一口飲み、笑顔でハヤトを見るウィズ。
元々ウィズは、あまり酒は飲まない生活を送っていたのだが、ハヤトと出会ってからは嗜む程度には飲むようになっていた。
「せっかくウィズが買ってくれたんだ。ゆっくり味わって飲まなければね」
「そんな事言わずに遠慮せず、いっぱい飲んで下さい」
「うむ……しかしねウィズ……君、飲むペースが少しばかり早い気が……」
「そうですか?ハヤトさんがパーティーに入ったのが嬉しくてお酒が進んじゃったかな、えへへへ」
明らかにいつもより早い、まるで水を飲むかの如く酒を飲んでいる。
「はぁ……二日酔いになってしまうから、セーブして飲むんだよ」
「はぁ~い」
言っている事と反対に飲むペースが早くなっているウィズを見てハヤトは溜息しか出なかった。
「ハァ………頼むから程々にしてくれ」
数十分後……
「えへへへ、すごぉ~い!ハヤトしゃんが3人に見える~」
(ちょっと待ってくれ………ウィズがこんな酔い方するの初めて目にしたんだが)
ハヤトの忠告も空しくウィズは完全にできあがってしまった。
しかも悪酔い状態……ハヤトもウィズがこんな酔い方をするのは初めて見ることで戸惑っているが、これはウィズがハヤトは心を許せる人間であるという現れでもあった。
「ハヤトさんがここに来て数年経ちますけどぉ、どうなんですぅ~?」
「……何がかな?」
「気になってる方とか」
「……へ?き、気になってる⁉」
「あと……しょの…お付き合いしている方……とか」
グラスの縁を指でなぞりながら、言いづらそうにしているウィズ。
「ウ、ウィズ……君は少し酔い過ぎてしまったみたいだね。今日のところは大人しく寝て……ウィズ?」
ウィズはハヤトの手を握り……
「ちゃんと答えて下さい‼」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ‼ちょ、待って!…ウィズ、いやウィズ様女神様リッチー様‼ドレインタッチはやめ!やめて下さい‼」
ウィズがハヤトに対して使っているスキルはドレインタッチというスキルであり、触れている相手の体力や魔力を吸い取る事や与える事ができるスキルなのだ。
「わ、わかったわかったわかった‼言います、言いますから‼白状しますから!」
「むぅ~、嘘ついたら酷いですからね………」
ドレインタッチを解除され、ぐったりとするハヤト。
彼はドレインタッチをやられる時の何かを吸われる感触が未だに慣れないのだ。
「ハァ……ハァ…ハァ、ま………先ずは、交際している女性がいるかいないかだが……」
「……ゴクリ」
「この答えは『いない』だよ」
「そ、そうですか!ふぅ~……」
ウィズはハヤトの答えを聞いて何故か安堵する。
「それで!好きな方は⁉」
「あ、ああ……想いを寄せている女性か……」
ハヤトは少し言いづらそうな顔をしており、中々答えようとしない。
「……吸っちゃいますよ?」
「わ、わかった…答えは……『いない』だ」
「いないんですか⁉」
嘘だ。
ハヤトは嘘をついている、ハヤトには想いを寄せている女性がいる。
その女性とは、今彼の目の前にいるウィズの事である。
数年前にこの世界に転生して、何をすればいいかわからず、困っていたハヤトに手を差し伸べてくれたのがウィズで、彼女のお陰で今の状態がある。
ウィズの優しさに惹かれて、ハヤトはウィズに想いを寄せているのだ。
しかしそこら辺の部分はヘタレなハヤトは、ウィズに告白できないでいた。
今、正に絶好のシチュエーションだったのにも勿体無い。
(せっかくのチャンスだったのに……私は本当に根性なしだ)
「という事は」
ウィズは席を立ち向かいから隣に移動して、ハヤトに寄り添い、ハヤトの腕を抱き締める。
「私にも……チャンスはあるんですね」
「え………え?……え?……うん?……え?」
ハヤトは今の状況の理解が追い付いていなかった。
自分が好意を寄せている人が自分の腕を抱き締めて、とんでもない事を言っている。
「……ちょっと落ち着こうかウィズ、いや私も落ち着かねばならないんだが…君は今、酒に酔った勢いで思いもしていない事を言っているだけだ…冷静になろう」
「ハヤトさんは……」
「……え?」
「ハヤトさんは私では……ダメですか?」
「う……」
酒に酔い若干赤くなった顔で上目遣いをしてくるウィズ、それプラス自身の大きな胸でハヤトの腕が挟まれてるときた。
彼女のお陰でハヤトの思考回路はショート寸前である。
「いや、そういう訳では……むしろ私は嬉しいというか、喜んでというか…」
「私は本気ですよ……」
彼女の『本気』という言葉でハヤトは冷静を取り戻す。
彼女の言葉のお陰で、自分の思いを伝える覚悟を得たのだ。
「……ウィズ…本当に私の様な男でも?」
「もちろんです…さっき言った通り『本気』ですよ?……ふざけてそんな事は言えません」
「そう言うのであれば、私も君の覚悟に応えなければね。ウィズ……私の様な男でも構わなければ………………」
「スゥ…スゥ…」
「寝てしまったのか……」
ウィズの告白に応えようとしたハヤトだが、酔いが回ったウィズは彼の腕に抱き付いたまま寝てしまっていた。
「ハァ………やれやれ、寝るときはちゃんと寝室で寝なきゃ駄目だろう」
ウィズを抱き抱え、彼女の寝室にあるベッドに寝かせて寝室を出るハヤト。
彼は今、複雑な心境……いや、後悔していた。
自身がもっと早く想いを伝えれば、彼女は聞いてくれたかもしれない。
その一方で、酒が入った状態で話す話題でもなかったし結果オーライという、半場逃げの言葉を自分に言い聞かせてる自分が腹立たしかった。
食卓の片付けを済ませて、ハヤトは自身の寝室のベッドに寝転がる。
「私の大馬鹿者め」
自身を一言罵倒して、彼は眠りにつき一日が終わった。
そして翌朝
「ふぁ~、あれ?私ベッドで寝てたっけ?」
目が覚めたウィズは、やはり昨晩の記憶がないようだ。
着替えを済まし、寝室から出るとハヤトが朝食の準備をしていた。
「ハヤトさん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「昨晩の記憶があまりなくて、その……ご迷惑お掛けしました」
「……謝る事はないよ。昨晩君は酔ってすぐに寝てしまったからね…特に何事もなかったから大丈夫だ。(そうか……やはり酒の勢いだったか…)」
(ハヤトさん、あんな事言ってくれてるけど……ハヤトさんと毎日過ごしてるんです、そんな誤魔化しはききませんよ。一体なにをしてしまったのかしら……今日こそちゃんと聞かないと)
「さぁ、朝食ができたよ」
一見いつも通りに振る舞っているハヤトだが、数年間毎日ハヤトと接しているウィズからしたら何かを隠しているのはバレていた。
二人は食卓の席に着き、朝食を食べる。
「………ハヤトさん」
「………何かな?」
「昨晩に何かあったんですよね?」
「………先程も言ったが、何もなかったよ」
「本当にですか?」
「ああ、本当だ」
「本当に本当ですか?」
ウィズはテーブルを乗り出しハヤトに顔を近付ける。
あまりの近さにハヤトは戸惑った。
「ちょ……ち、近いよウィズ」
「むぅ~、言っておきますけど、私に誤魔化しはききませんよ!」
(今回はやけに突っ掛かってくるな、普段だとこんな事はなかったんだがね……)
ウィズがここまでムキになるのには理由があった。
ハヤトはあまり自分の事を話そうとしない、これまでうまくスルーされていたが、今日ハヤトが隠し事をしているのを機に彼女の堪忍袋は限界に足していた。
今日は意地でもハヤトを正直にさせる。
「ハヤトさん!ご飯を食べた後、お話があります‼早く食べちゃって下さい‼」
「…え……は、はい」
気まずい空気の中で朝食を食べる二人。
朝食を食べ終えて、リビングにてハヤトはウィズの目の前で正座をしている。
「……私が何故こんなに怒っているか、わかっていますか?」
「………何で怒っているのでしょうかねぇ~」
気まずそうに目を逸らすハヤト。
「そうやって誤魔化さないで下さい‼ハヤトさんはいつも自分の都合の悪いことを話さずに、逃げてばかりじゃないですか!」
「む………ではウィズ、君に問うがね、君はこの私に対して一つも隠し事はしていないのかな?その言いぐさだと『私はあなたに対して隠し事は一切しておりません!』と言っている様な物だよ」
「そ、それは………」
「ほら、どうしたのかな?言ってみたまえよ。一言『『正直に!』』ね『私はあなたに隠し事はしていない』と!そこまで偉そうに言うんだ、君は私に正直なのだろう?」
「う………うぅ」
「言えないのかい?フフ、この様な事も言えずに私を問いただすなどと……片腹痛い。人は誰でも他人には語れぬ事があるのだよ!例えそれが大切な最愛の人であろうとね‼」
「………」
「……出掛けて来る…帰りは遅くなるから、店は任せたよ」
「………はい……」
「………」
リビングを出る際、ハヤトは今にも泣きそうな顔で俯くウィズを見て何かを言いかけようとするが、結局何の言葉も出せないままリビングを後にした。
ハヤトがリビングを出た後もずっと椅子に座り込み動かないウィズ。
「………嫌われちゃったかな……あんなに攻め立てるつもりなかったんだけどなぁ……」
ハヤトの事がもっと知りたい。
何故彼は教えてくれないのか、自分はもっと彼を理解して少しでも支えになってあげたい。
いつも店に赤字をだして迷惑をかけているばかりの自分だが、彼はそれを受け止めていつも助けてくれている。
そんな彼に惹かれて、気付くとウィズもハヤトに想いを寄せていたのだ。
逆にハヤトもウィズに想いを寄せていて、両想いなのだが……お互い、それにまだ気付いていない状態である。
一方ハヤトはというと
「……私は大馬鹿者であり、最低の屑だったみたいだな………ウィズにあの様な事を…一時の感情だったとはいえ、彼女を傷付けてしまった。あんな事になるのだったらちゃんと答えておけば………いやしかし答えたら答えたで悪い方へ進みそうだ……どうすればよかったんだ………」
ふらふらと歩きながら、今日の依頼主の元へ向かう途中である。
依頼主は街の一般人の男で、内容は息子に体術の稽古をして欲しいとの依頼だ。
「私はどの面さげてウィズの元へ帰ればいいんだ………」
それからハヤトは無事に依頼を終えたものの、朝の一軒の事で頭が一杯だったからか、全然集中できなかった様である。
依頼を終えた頃には午後になっており、ハヤトは遅めの昼食を食べる為にギルドへ向かった。
ハヤトがギルドに入るとめぐみんが酒場のテーブルに座っており、アクアは大勢の人に囲まれ宴会芸を披露している。
「やあ、めぐみん。カズマの姿が見当たらないが、どうしたんだい?」
「あ、ハヤト。カズマなら今、盗賊の冒険者の方にスキルを教えてもらっている所です」
「そうか、ならば昼食を食べる時間はありそうだな。あ、注文よろしいかな?私が昨日討伐したヤマタノオロチの肉があると思うのだが、それを使ったステーキ定食を一つ」
ハヤトは近くを通り掛かった店員に注文すると……
「あ、あの~…ハヤト?」
「どうしためぐみん?」
めぐみんが何か言い出しづらそうな顔でハヤトの袖をくいくい引っ張り
「生まれてこのかた私は、ヤマタノオロチの肉をまだ食べた事がなくてですね……」
「まぁ、食べた事のある人は少ないだろうねぇ」
「その、何と言いますか……私は今、成長期真っ只中でして…できればオロチのお肉を分けて頂けたらなぁ~と……」
「昼食は食べてないのかい?」
「その……食べたのですが…」
「わかったわかった、めぐみんも食べればいいだろう。すみません、やはり二つで」
めぐみんはその慎ましい体に見会わず、良くたべる。
前からめぐみんと付き合いのあるハヤトはそれを知っていた。
「流石ハヤト。あなたの寛大な心意気に感謝です」
「毎回君にご飯を奢るときに思うが、変におだてるのやめてくれ。むず痒いよ」
「あら、ハヤト来てたの?」
アクアがハヤトに気付き、人だかりを押し退けて彼の向かいの席に座る。
「ちょっと遅めの昼食にね……(ウィズと喧嘩して、帰るに帰れないとは口が裂けても言えない)」
今頃ウィズはどうしているだろうか、今にでも帰って謝りたいが、行動に移す勇気が出ない。
その悩みを紛らす為にハヤトは話題を出す。
「そういえばアクアはアークプリーストだったね。回復や支援魔法も使えるし、前衛での戦闘もこなせる万能職。『女神だった』君にはうってつけだね」
「だったって何よ!今も現役バリバリの女神様よ‼」
昨日カズマ達と話して、彼らの転生した経由など知った。
この世界に転生する特典として、チートな武器、防具、道具、能力等が与えられるのだが、カズマは転生する際に選んだのは目の前にいる女神アクアだったとの事だ。
「あなたの冒険者カードも見せなさいよ!昨日私も見せたんだから!」
「ああ、確かに私のは見せてなかったね。ほら」
ハヤトから冒険者カードを渡されたアクア、めぐみんも横からカードを覗きこむ。
「あなたバトルマスターなのね。成り手が少ないレア職じゃない」
「おぉ、知力、幸運値以外のステータスがずば抜けてますね」
元々身体能力が高いハヤトだが、これも自身が転生の特典で得た能力の『超人的身体能力』のお陰でもある。
「ご注文のオロチのステーキ定食お二つお待たせ致しました」
「どうも、もう一つは隣の子に」
「これがヤマタノオロチの肉、こんな早くにも食べることができるなんて!」
先程頼んだ定食が来て、ハヤトとめぐみんの前に並べらる。
その様子を見ていたアクアが面白くない様な顔をしてハヤトを見ていた。
「私にも何か貢ぎなさいよ。シュワシュワとか」
「……好きにすればいいだろう」
「すみません。シュワシュワ一つお願いします!」
(カズマが駄女神と呼ぶ訳が分かってきた気がする)
躊躇なくシュワシュワを即注文するアクアに呆れるハヤト。
「お、ハヤト。来てたのか?」
「やあ、カズマ。スキルを教えて貰ってたんだってね。何を教わったのか……って、クリスとダクネスじゃないか」
「昨日はご馳走になったなハヤト」
「うぅ……ハヤト久し振り……」
「ん?ハヤトと知り合いだったのか?」
どうやらスキルを取得した様で、戻ってきたカズマ達。
その連れもハヤトの知り合いだった。
一人は金髪ロングの美女で、クルセイダーのダクネス。
もう一人は頬に小さな刀傷がある銀髪美少女で、盗賊のクリス。
「ああ、盗賊からスキルを教わっていると聞いたが、まさかクリスだったなんてね。所でクリス、そんな泣きそうな顔して……一体どうしたんだい?」
「うむ、クリスは、カズマにぱんつを剥がれた上にあり金毟られて落ち込んでいるだけだ」
「おいあんた何口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違ってないけど、ほんと待て」
ハヤトはカズマの肩に手を置き、可哀想な人を見るような目で語りかける
「カズマ、この世界は私達が過ごしていた世界とは違う……しかし流石にやっていい事と悪い事があってだね……私も君と同じ男だ、欲求不満になるのもわからなくもない、だがね…女性の下着を剥ぐのは……」
「ちょ、違うんだって!ハヤト、これには山より高く海より深い訳があってだな⁉」
アクアとめぐみんはダクネスの言葉に軽くひいている。
そこでクリスは気を取り直した様で、落ち込んでいた顔を上げる。
「公の場でいきなりぱんつを脱がされたからって、いつまでもめそめそしててもしょうがないね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」
「おい、待てよ。なんかすでに、アクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるから本当に待って」
「このくらいの逆襲はさせてね?それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス!あ、ハヤトもたまにはクエスト付き合ってよ!じゃあ、いってみようかな!」
と言いながら、クリスは冒険仲間募集の掲示板に行ってしまった。
「えっと、ダクネスさんは行かないの?」
自然とカズマ達のテーブルに座ったままのダクネスにカズマは訪ねる。
「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、盗賊はダンジョン探索に必須な割に、地味だから成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要なら幾らでもある」
程無くして臨時のパーティーが見つかったのか、数名の冒険者達と連れ立ってギルドから出ていくクリス。
クリスは、出掛けにカズマ達に向かって手を降って出ていった。
「もうすぐ夕方なのに、クリス達はこれからダンジョンに向かうのか?」
「ダンジョン探索は、できる事なら朝一で突入するのが望ましいのです。なので……モグモグ…ああやって前の日にダンジョンに出発して、朝までダンジョン前でキャンプするのです。モグモグ……ダンジョン前には、そういった冒険者を相手にしている商売すら成り立っていますしね。モグモグ……それで?カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」
ステーキを食べながら喋るめぐみんにカズマは呆れながらも
「お前なぁ、物を食いながら喋るなよ……ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」
カズマが叫び、めぐみんに右手を突き出すと、その手にはしっかりと白い布が握られていた。
めぐみんは顔を真っ赤にしながら涙目でスカートの裾を下に下げモジモジしている。
「……何ですか?レベルが上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするのでぱんつ返して下さい……」
「あ、あれっ⁉お、おかしーな、こんなはずじゃ……ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」
カズマが握りしめていたのは……めぐみんのぱんつである。
慌ててめぐみんにぱんつを返し、いよいよカズマの見る周囲の女性達の視線が冷たい物になっていく中、突然バンとテーブルが叩かれた。
「やはり。やはり私の目に狂いはなかった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、何と言う鬼畜………っ!是非とも……!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」
「いらない」
「んんっ………⁉く……っ!」
カズマの即答に、ダクネスが頬を赤らめてブルッと身を震わせた。
「なあなあハヤト」
「モムモム……なんだい?」
「昨日ハヤトに話し掛ける前にパーティー参加希望で来たんだけど、ハヤトはあのダクネスってのと知り合いなんだろ?あれってダメなタイプか?OKなタイプか?俺は前者だと思うんだが」
「う~ん、扱い方次第ではないか?彼女の職業は前衛職だ。特に彼女の防御力には光るものがあるよ。しかし一つ、いや二つばかり欠点があってね………」
カズマとハヤトの会話を遮るように、アクアとめぐみんがダクネスに興味を持ったみたいであり。
「ねえカズマ、この人だれ?昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」
「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」
ダクネスを見ながら口々に言い始める。
「ああクソ!面倒臭い事になりそうだから、こいつらには会わせたくなかったのに!」
カズマはため息混じりに真剣な表情になり語り始める。
「………実はなダクネス。俺とアクアは、こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」
「ほう……魔王討伐を考えているのかね?」
「ああ、丁度いい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。俺とアクアは、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はその為に冒険者になったんだ。という訳で、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に逢わされる役どころだ」
「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に逢わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値はある!」
「えっ⁉………あれっ⁉」
「えっ?……なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」
予想外の言葉に思わず声が出たカズマだが、ダクネスを諦めめぐみんの方に向く。
「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩売ろうってんだよ、俺とアクアは。そんなパーティーに無理して残る必要は……」
途端にめぐみんが、ガタンと椅子を蹴り立ち上がった。
マントをバサッと翻しながら。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばして見せましょう!………ぶっちゃけ言うと、魔王よりも遥かに最強の称号を持つに相応しい方が身近にいますので」
わざとらしくハヤトをチラチラ見るめぐみん。
「あ~………私が強いだとか、そんなちゃちな事は置いといて。確かに魔王を倒すのは簡単ではないだろう………多分。まあ、パーティーのメンバーに過ぎない私が言うのもなんだが、どんな問題児パーティーでも頑張れば魔王討伐は可能だと私は思うよ」
「おいおいハヤトまでそんな事言うのか?」
………と、その時。
『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!』
街中に大音量のアナウンスが響く。
「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」
不安そうな顔をしているカズマとは対象に、ハヤトとダクネスとめぐみんは嬉しそうな表情だ。
「いや、恐らくこれは………」
「………ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」
「は?キャベツ?キャベツって、モンスターの名前か何かか?」
この世界の事をまだ詳しく知らないカズマは、呆然とした顔と感想を告げる。
めぐみんとダクネスが可哀想な人を見るような目でカズマを見つめる。
「カズマ……この世界のキャベツはだね……」
「あなたのいた世界のキャベツと違って……」
アクアと同じく転生者であるハヤトは事情を知らないカズマに何かを言おうと話し掛けようとするが、それを遮る様に、ギルドの職員が建物内にいる冒険者に向かって大声で説明を始めた。
「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もうすでに気付いている方もいるとは思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めて下さい!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!なお、人数が人数、額が額がなので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」
カズマが『お前は何を言っているんだ?』と言わんばかりの表情で固まる中、ギルドの外から歓声が起こる。
「実際見てみれば、早く物事を飲み込めるだろう。さぁ、行こうかカズマ」
「あ、ああ」
ステーキの最後の一切れを頬張り、ハヤトはカズマと共にギルドの外に出る。
外の人混みに交ざり様子を見るカズマ達の目に、街中を悠々と飛び回る緑色の物体の姿が飛び込む。
呆然としながら立ち尽くしているカズマに、隣にいたアクアが厳かに。
「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているわ。それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ」
「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」
そんな事を呟くカズマだが、その一方ハヤトはというと。
「ふふふ………一玉一万……ふふ……一万だ」
笑顔ではあるがどこか恐い顔で、やる気満々の様だ。
「キャベツ狩りだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あ、ちょっとハヤト⁉」
ハヤトには似合わぬかつ珍しく大声をあげながら、ハヤトは目にも止まらぬ速さで建物の壁を壁キックを使い、上空で飛び回ってるキャベツへ向かい、早くそして軽く指でキャベツを突き、動かなくなったキャベツをいつの間にか背負っていた籠に放り込んでいく。
「ふははははは‼そらそらそらぁ!早くしないと皆の分も私が採り尽くしてしまうぞ⁉」
地上に降りたハヤトは次に低空飛行しているキャベツを指で突き、動かなくなったキャベツを各所に設置しているキャベツ用の檻に放り込んでいく。
「みんなハヤトに採られちまうぞ!急げー!」
「「おおおおおおおお‼」」
他の冒険者達もハヤトに続いて、気勢を上げながら駆け抜けキャベツを捕まえていく。
「……本当に勘弁してくれ」
呆れ果てながらも、金になる故に渋々キャベツの収穫に参加するカズマなのであった。
次回
ハヤトはウィズと仲直りできるのか⁉
そして!
ウィズがカズマ一行と初対面です‼