文章力が乏しく申し訳ありません。次回にカッコの横に喋っている人物の名前を出すか検討中です……
キャベツの収穫が終わり、すっかり真っ暗になった夜のアクセルの街、街にある魔道具店のウィズ魔道具店の前を歩き回っている一人の不審者……じゃなく男性がいた。
彼の名はシラヌイ ハヤト、この店の住み込み従業員であり、只今ここの女店主と絶賛喧嘩中である。キャベツを三玉抱えて、苦い顔しながら店の前をいったり来たりする、その様は立派な不審者だ。
「う~む、ウィズにどの様な顔をすればいいんだ……」
キャベツの収穫の後、帰りづらい彼は、ギルドで遅くまで他の冒険者達と宴会をしていたが、時間は虚しくも過ぎていき、ギルドも閉館の時間になって冒険者は帰り今に至る。
「………しかし、いつまでもこんな所でうろうろしててもなぁ……彼女は許してくれるだろうか……」
ハヤトは鍵を開けて店の入り口のドアノブに手をかけ、静かに店の中へ入る。
もうこの時間なので、もちろん店は閉店の時間帯である。店内は暗く、静かだ。
「彼女は寝てしまったかな……」
ウィズと顔をあわせるするのが嫌なので、足音をたてずにカウンター裏にある階段をのぼりリビングへ向かう。
(お願いだ……出来ることなら彼女と顔をあわせたくない………寝ていてくれよ…)
ウィズとの気まずい空気を感じたくないが為に、今の彼は謝らなければならないという現実から逃げている。
謝りさえすれば解決するものを、ハヤトはそれを分かっていながら、それを避けていた。
リビングのドアを音をたてない様にゆっくりと開けると………驚いたからなのだろうか、目を見開きながら固まっているウィズが目の前にいた。
ハヤトとウィズは目が合い、二人の時間が少しばかり止まっていた。
しばらく時間が経ち、最初に口を開いたのはハヤト。
「あ……あの…た、ただいま」
気まずそうな苦笑いで言うと。
「ハ…ヤトさん……」
同じく固まっていたウィズが徐々に表情が緩くなり、涙目になりながらハヤトに抱き付く。
「お帰りなさいっ……」
ウィズが抱き付いてきた衝撃で抱えていたキャベツを落としてしまうが、今のハヤトはそれ所ではない。
ウィズに抱き付かれているという状態で、頭が真っ白である。
しばらくして、ある程度落ち着いたのか、ハヤトはウィズの頭を撫でながら。
「今朝はすまなかった……私は君と過ごして長いのに、何も打ち明けず心を開こうとしなかった…そのお陰で君をとても不安にさせてしまっただろう。全ての非は私にある、本当にすまなかった……」
「何言ってるんですか……あんな乱暴に攻め立てた私が悪いんです」
ウィズはハヤトの胸に埋めていた顔をあげる。
彼女の目が少し赤くなっている、泣いていた証拠だ。
これを見てハヤトは、自身を憎む。自分が変に意地をはったせいで、大切な人に涙を流させた。何て愚かで阿呆な事をしたのか自分はと。
「……ウィズ…」
ハヤトはウィズの目尻に溜まった涙を指で拭う。
「だけど……今回の件のお陰でというのも変ですが、その……ハヤトさんが私の事をどう思っているか聞くことができましたしね」
「ん?(……私が何か言ったか?)」
ハヤトは今朝自分が言った事を脳内で高速再生して思い出していた。
『人は誰でも他人には語れぬ事があるのだよ!例えそれが「大切な最愛の人」であろうとね‼』
自分の心当たりある言葉に、恥ずかしさのあまり少し顔が赤くなるハヤト。
しかしここまで知られてしまっては後はない。
「ああ……そうだ。朝言った通り、君は私にとって大切で最愛の人だ。まだ私に至らぬ所があると思う、君に不満にさせる時も多々あるかもしれない………そんな男である私で良ければ、ウィズ……貴女とのお付き合いを許し願いたい………」
「でも……私はリッチーで…寿命もないですよ?」
「構わない、いつしか私も寿命を克服してみせる」
「努力してますけど、お店の売上だって……赤字をいっぱい出しちゃいますよ?」
「そんな事、今に始まった事ではないだろう。私が貴女を支える」
「こんな……こんな私でも…いつまでも一緒にいてくれますか?」
「無論だ。貴女を絶対に手離しはしない」
「でしたら私からも言わせて下さい。ハヤトさん、貴方とお付き合いをさせてもらって……いいですか?」
「まったく、私からプロポーズしたつもりなんだけどな………逆にウィズからも言われるとはね」
ハヤトはウィズを抱き締めながら。
「言っただろう、私からも言っているんだ………断る訳ないだろう」
「ハヤトさん………」
第三者からすると、顔を覆いたくなるくらい恥ずかしい二人。
床にほったらかしになっている三玉のキャベツ、内心『おい、俺ら忘れんな』とハヤトに訴えかけているのは言うまでもない。
そして次の日
交際するというステージに踏み込んだハヤトとウィズだが、だからと言って普段の生活のリズムが変わるといったらそうでもない。
正直、交際する前も二人で生活を共にし、よく外出(デート?)したりしているので、特に何も変わらない。
昨夜もプロポーズを成功させた後は夕飯を食べて、いつも通り各自自室で就寝して夜を終えた。
唯一変わったといったら、ウィズがハヤトにスキンシップをするようになった所だろうか。
例えば朝起きた時。
「おはようウィズ」
「おはようございます」
「お……ウ、ウィズ?」
「うぅ……迷惑だったでしょうか?」
「いやそんな事はないよ。ちょっとビックリしただけだ(むしろ私は嬉しいの一言だよ)」
ハヤトに恥ずかしそうな顔をしながらも抱き付いてきたり。
食料の買い出しの時。
「ハヤトさん」
「もしよかったら……その」
ウィズが手をモジモジさせながら、ハヤトの手をチラチラ見ている。
もう見るからに手を繋ぎたいサインである。
ハヤトはそれを察してウィズの手を繋ぐ。
「………ほらウィズ、行くよ」
「あ、はい!」
と手を繋ぎたがったりなど、恐らく溜めていた何かが溢れてしまった的なやつだろう。
どちらにせよハヤトも喜んで応じているので、結果はウィンウィンだ。
そして買い出しも済ませて、魔道具店を開店させるが………
お客が来たと思いきや、商品を買わずにウィズの顔を見るなり満足して帰る男性冒険者や同じくハヤト目当てで来店する女性冒険者が来るだけで(この時のウィズから
感じる視線に、冷や汗を流すハヤト)、商品が全く売れない。
「………おやつ食べますか?」
「………うん、食べよう」
その後全く人が入らなくなり、カウンターで立ち尽くしている二人は、暇なのでおやつを食べる為リビングへと足を運ぶ。
「今日はパーティーの方々と会わないんですか?」
「ああ、店の勤めもあるからね。今日は冒険者稼業はお休みだ。そういえば今夜、行くのかい?」
「はい、行きますよ」
ハヤトはショートケーキの苺にケーキにのっているクリームをつけてから苺を口に運ぶ。
「モムモム……ならば、いつも通り私も一応護衛として付き添うかな。もっとも、ウィズには護衛など必要ないだろうけどね」
「いつもいつもすみません。私の勝手でやっている事なのに……」
「気にすることはない。私はウィズのその行いを良い行いで素晴らしいと思う、しかも勝手に付き添っているのは私の方だしね」
ウィズは、定期的に街から外れた丘にある共同墓地で、ロクな葬式もされず、天に還る事なく彷徨っている魂達を、天へ還している。
本人曰く『アンデッドの王なので』とのこと。
ただ困った事にせっかく魂を天に還しても、形を保ってる死体などはウィズの魔力に反応して、アンデッドとして湧いてしまう。
なので、天に還す→湧く→天に還す→湧く→天に還す→湧く、というループ作業の様な流れになっているのだ。
まぁ、やらないよりはマシだとは思うが……
その日の夜
ウィズは共同墓地で魂を天に還す魔方陣を展開し、ハヤトはそれを見守っている。
ハヤトの主な役割は作業中のウィズの護衛、魔方陣の光やウィズの魔力に反応して来たモンスターなどを始末するのが仕事だ。
始末といってもアンデッド系のモンスターはウィズの魔方陣で天に還ってしまうし、生きて意志を持っているモンスターはハヤトの気当たりで逃げて行くので、そんな大掛かりな事でもない。
「何か異常がないか墓地の見回りをしてくるよ」
「わかりました。どうか、お気をつけて」
「念の為だが、ここ周辺に私の気当たりを残しておく」
ハヤトは地面に手をあてる。
手をあてると同時に彼の身体中から赤いオーラの様な波が溢れる様に湧き始め、そのオーラが地面を伝ってウィズと魔方陣を飲み込む様に拡がる。
『拳神皇魔帝(けんじんこうまてい)の加護』
「ハァッ!」
ハヤトの掛け声に反応するかの如く、地に拡がったハヤトのオーラが空へ上がってドーム状になり、やがて何もなかったかの様に消えていった。
「これで近付ける者はいないだろう……いるとすれば、魂や意志のないアンデッド……意志があったとしても、かなり危機察知能力や知性にかける大馬鹿者だろうね。では、行ってくるよ」
「はい、よろしくお願いします」
手を降って見送るウィズに応えて、ハヤトも手を振りながら見回りへ向かった。
あらかた見回りは終わり、これといった異常はなく、行き場に迷っている魂を誘導したりだけだった。
とりあえずウィズの元へ戻ろうとしたその時。
「うおおおおおおっ⁉」
誰かの叫び声が墓地に響く。
「誰か私の気当たりの領域に入ったな?(しかし今の声……聞いたことがある気が…)」
声がした方へ軽く駆け足で向かうハヤト。
「カズマ!しっかりして下さい!カズマ⁉聞こえてますか⁉」
「………」
「おい、カズマ‼早く起きろ!アクアが行ってしまったぞ!」
声の主の元へたどり着いたが、そこにはハヤトの予想通り見覚えのある人物達がいた。
それは、恐らく気当たりに当てられ気絶したと思われるカズマと、倒れたカズマを必死に揺さぶって起こすめぐみん、それを心配そうにするダクネスだった。
「こんな所で何をしているんだ三人共」
「あ、ハヤト⁉あなたこそ何故?ってそんな事より、カズマが!カズマがいきなり意識を失って倒れてしまって、アクアは墓の奥へ行ってしまって!」
「わかった、とりあえず落ち着くんだめぐみん。深呼吸して落ち着こう、カズマは私が何とかする。二人とも、そこより先は行くんじゃないぞ。君達(ダクネスは大丈夫だと思うが)もカズマと同じ目にあってしまう」
ハヤトは寝ているのカズマ上半身を起こし。
「こういう場合だね、中途半端に揺すったりしてもダメだ。こうやって起こすのが一番だ」
ゴツンッ
「いっっっったぁぁぁぁぁっ!」
ハヤトが施した処置、それは拳骨……しかもスナップをきかせたヤツである。
痛みの余りカズマは起きる所か、転げ回っている。
「さて、お次は気当たりの解除だね」
ハヤトが透明な領域の壁に触れると、透明になっていたドーム状の気当たりの領域が半透明になって現れ、やがてゆっくりと消えていった。
「さぁ、これで大丈夫だ」
「いたたた、あれ?ハヤト何でこんな所に?」
「カズマ!そんな事よりアクアが!」
「あ、そうだ!急がねえと!」
「ん、アクアはどうしたんだ?」
「ああ、ハヤトが発動させた魔方陣?に、カズマは倒れてしまったが、アクアは特に何もなかったかの様に墓場の中央へ行ってしまったが……」
「アクアが………マズい‼」
「お、おいハヤト⁉」
顔が青ざめたハヤトは即座にウィズの元へ駆け抜ける。
彼は忘れていた、アクアはアークプリーストの以前に女神だ。一目でウィズをアンデッドの王であるリッチーだと見抜く。
彼女は腐っても女神だ。その様な存在を躊躇せず、むしろ自ら進んで浄化しようとするだろう。
つまり、アクアによってウィズは浄化されて消えてしまう。
「ウィズ‼無事か⁉」
ハヤトが駆け付けると思った通り、アクアが浄化魔方『ターンアンデッド』を発動させて魂の他にウィズまでも浄化されそうになっていた。
ウィズの足元が半透明になり消えかかっている。
「きゃー!か、体が消えるっ⁉止めて止めて、私の体が無くなっちゃう‼成仏しちゃうっ!」
「あはははははは、愚かなるリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデッドよ!さあ、私の力で欠片も残さず消滅するがいいわっ!」
「スウゥゥゥゥゥゥッ!」
ハヤトは思い切り息を吸い上げ。
「「やめんかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼‼‼‼」」
アクアに対して怒鳴り付ける。
その声はとてつもなく大きく、軽く地面が揺れ、その場にいたアクアとウィズは耳を押さえてしゃがみ込んでいた。
そのお陰でアクアの集中力が切れたのか、ターンアンデッドの魔方陣が消える。
「うぅ……は、ハヤトさん?」
「あああああ!うるっさいわねっ!………ってハヤト?」
「何だ⁉今の爆音は?」
「これは………どいう事ですか?」
カズマ達も遅れてハヤトの元へ到着し、ハヤトはアクア達の元へ歩み寄る。
「ハヤト、こいつに近付いちゃ駄目よ!そいつはリッチー、アンデッドの王なの!」
「………」
「ハヤト?」
ピシッピシッピシッピシッピシッ
「え………ハヤトさん?何をしたのかしら?動けないんですけどっ⁉」
ハヤトはアクアの身体の数ヵ所を指で突くと、アクアは仁王立ちになったまま動けなくなってしまった。
その後ハヤトは膝を突き、へたり込んでるウィズの手を優しく握る。
「すまないウィズ………私が気を抜いていたばかりに、護衛失格だ」
「大丈夫ですよ、ハヤトさん………その…ありがとうございます」
「少し待っててくれ。ハァァァ………」
ハヤトの手から今度は緑色のオーラが出て、ハヤトの手から握られてるウィズへ伝わり、消えかけていた足元が元に戻る。
「これで大丈夫だろう………立てるかい?」
「はい、大丈夫です……」
ハヤトにフォローされながら立ち上がるウィズ、恥ずかしいのだろうか、彼女の顔が少し赤い。
「ハヤトさん?動けない上に、今度は……く、クスぐったくなってきたんですけど⁉ぷ……ふふ、ぷ、あああああはははははははははっ‼」
動けないアクアは涙やヨダレを撒き散らしながら笑っているが、体がピクリとも動いていない為、その光景は少しばかり不気味だ。
「ハヤト、この駄女神に何をしたんだ?」
「ひーーひひひっ!だ、駄女神じゃなあああぁぁぁぁはっはっはははは‼」
「彼女が私の大切な人を傷付けてくれたんでね。少し御灸をすえてあげただけだ」
笑いながらも体が動かないアクアを見て、カズマとめぐみんはひいているが、ダクネスはというと。
「な、なんという拷問じみたお仕置き」
とか言いながら頬を赤く染めて、羨ましそうに見ていた。
「アクア、私は謝れとは言わない。ただ、謝った方が君の身のためだよ」
「誰がこのリッチーのせいであいやあああ!いーははははっ!」
「ならば永久にそこで笑っていたまえ、帰ろうかウィズ」
「え、あの方は……ハヤトさんの知り合いなのでは……?」
ウィズはハヤトとアクアの顔を交互に見ながら、戸惑った様子だ。
「わかりましたわかりました!私が悪かったです‼ごめんなさぁぁぁぁぁぁいっ!」
「最初から素直に謝ればいいものを……」
ピシッピシッピシッピシッピシッピシッ
溜め息混じりにハヤトは、またアクアの身体の数ヵ所を突く。
するとアクアの症状は解除され、笑い疲れたアクアはぐったりと倒れ込む。
「ひー、ひー、た……助かった」
カズマがアクアに駆け寄り。
「いい薬になったな」
どことなくスッキリした笑顔でアクアに語りかけていた。
「はぁ……はぁ、は、ハヤト、あんたそこのリッチーが大切な人だとか言ってたわね⁉どういう訳か教えて欲しいのだけれど」
流石女神といった所か、まだウィズに対して攻撃的な目を向けるアクア。
ウィズはハヤトの背中に隠れ、怯えてる様な困ってる様な顔をしてアクアを見ている。
「私からもお願いします。何故ハヤトがリッチーと行動を?」
「話せそうなら聞かせてくれないかハヤト」
めぐみんとダクネスも不安な表情でハヤトを見つめている。
それもそうだろう、ハヤトはアクセルの街どころか、ここを取り仕切る国であるベルゼルグ王国では、成功以外の結果は出さない冒険者として有名人である。
そんな彼がアンデッドの王、リッチーと行動を共にしているのだ、皆が驚くのも無理はない。
「ハァ……まあ、君達にはいずれ話そうと思っていたんだがね、まさかそれが今日だなんて……皆、紹介しよう。彼女はリッチーのウィズ、私の命の恩人であり、私が働いている魔道具店の店主であり、えー……その…私の………ゴニョゴニョ」
「すまない、最後のところがよく聞こえなかった、もう一度言ってもらえないか?」
めぐみんとダクネスは最後の部分が聞き取れなかった様だが。
「ハヤト!お前、その人が彼女って本当なのか⁉あの美人な人が彼女なの⁉」
「うお⁉カズマ落ち着くんだ!」
カズマはしっかりと聞こえた様で、ハヤトの胸元を掴み揺らしている。
ハヤトが言ったのは『私の恋人』である、その言葉にカズマの何かに火がついた様だ。
「ま、まさかハヤトが………」
めぐみんは信じられないとばかりに呆然としている。
「ハヤトと………リッチーが恋仲?……え、私の聞き間違いかしら?」
「いや、間違ってないよ………言っておくがアクア、彼女はただ墓場の成仏されていない彷徨っている魂を天に還していただけで」
「そんな事、このリッチーにターンアンデッドをかけようとした時に聞いたわよ!こういう事はアークプリーストであるこの私の役目よ!リッチーなんてお呼びじゃないわ。さぁ、あんたの後ろでこそこそしてるリッチーを差し出しなさい、今度こそ浄化してあげるわ!」
「少し落ち着けよ」
ゴスッ
カズマが興奮してるアクアの頭に、短剣の柄の部分で軽く叩く。
「ッ⁉い、痛、痛いじゃないの!あんた何してくれてんのよいきなり!」
「あー、大丈夫か?えっと、ウィズだったか?」
「は、はい、だ、だ、大丈夫です」
「ちょっとカズマ!こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、あなたまでアンデッドが移るわよ!ちょっとそいつに、ターンアンデッドをかけさせなさい!」
「腐った……みかん?」
ウィズに詰め寄ろうとするアクアだが、カズマに襟首掴まれて止められる。アクアは浄化に夢中のあまり気付いてないだろうが、ハヤトの顔に静かな殺意がやどっている。
ウィズがハヤトの後ろから出て来て、アクアに警戒しながら口を開く。
「そ、その………私は見ての通りのリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂達の話が聞けるんです。この共同墓地の魂の多くはお金が無いためロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデッドの王な私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」
ウィズの言葉に頷いていたカズマだが。
「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが………アクアじゃないが、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」
「そ、その………」
アークプリーストのアクアを見ながら何か言いにくそうにしているウィズ。ハヤトはそれを察して彼女の代わりに訳を話す。
「やってもらいたい気持ちは山々なんだが……この街のプリーストは金銭を貰わなければ何もしない、実に冷たい人達でねぇ。だから彼女が代わりに彼らを導いているんだ」
その場にいる全員の無言の視線がアクアに集まる中、アクア本人はばつが悪そうにそっと目を逸らす。
「それならしょうがない。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」
ハヤトとウィズは目を会わせ、ウィズが困った表情を浮かべ。
「あ……そうでしたか……。その、呼び起こしている訳をじゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。………その私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由も無くなるんですが………えっと、どうしましょうか?」
「よしアクア、お前毎日が暇で仕方ないだろ?ウィズの代わりに浄化へ行くんだ」
「暇って何よ!失礼ね、私は女神なのよ?毎日が忙しくてたまらないわ。まあでも、迷える魂を導いてあげるのは本来私の役目だし、リッチーに導かれちゃあ可哀想だしね。私が引き受けるわよ!」
一言二言余計だが、流石腐っても女神と言った所か、アクアは墓場の浄化を引き受ける。
「という訳だ。これで大丈夫だろハヤト、ウィズ」
「申し訳ないなカズマ、後アクアも」
「ありがとうございます」
「よし、これで一件落着だな。となるとやることもないし帰るか」
「え……一件落着って……」
話が上手く収まったかと思いきや、まだめぐみんとダクネスは納得しきっていない様だ。
「私も冒険者の端くれだ。モンスターを見逃そうと言われ、はいわかりましたと納得する訳には……」
「もういいだろ?ウィズはリッチーだが、ハヤトが信頼してるパートナーなんだぞ?悪いこともしてないじゃないか」
「確かにハヤトが選んだ方ならば……」
めぐみんはハヤトを信頼しているからなのか、今のカズマの説得に理解を示し始めている。
「しかし今日はやってないにしても、今までも悪さをしていないという証拠が………」
「お前まだそんな事………」
カズマが溜め息混じりに言っている時だった。
「ああ、ハヤトさん!」
「ハヤト、あんた……」
「ハヤト………」
「確かに彼女が、今まで悪事を働いていないという確実な証拠はない。そんな私が今できるのはこれくらいだ。信じて欲しい。ウィズは今まで悪さをした事はない、人を襲うなどもっての他。自分より他人を思いやる優しい女性だ」
ハヤトがやっているのは土下座。
両膝を地面につき、権力者に媚びへつらうかの様に背中を丸め、頭を……顔を地面の土に擦り付けているのだ。
「ハヤトさん、顔を上げてください!」
「ちょっとハヤトやめなさいよ。あなたの言っている事はわかったから、土下座なんてみっともないからやめなさいったら!」
「わ、わかりましたから!お願いです、顔を上げてくださいハヤト!あなたのその様な姿、私は見たくありません‼」
ウィズ、アクア、めぐみんが土下座しているハヤトを起こそうとしているが、ハヤトはビクともしない。
「おいダクネス……お前、ハヤトがあそこまでやってるのに、まだ納得できないのか?あいつがあそこまでやるって事はさ……」
「わ、わかっている!」
ダクネスはハヤトへ駆け寄り、彼の肩に手を置く。
「ハヤト………わかった。あなたがそこまでするということに、私は納得するに値する『証拠』を見た。だからどうか顔を上げてくれ」
静かに顔を上げながらハヤトはニヤリと笑い。
「納得してくれたかね」
それに対してダクネスはやれやれと言った笑顔で。
「私がそう答えると見越して(土下座を)やったな。まあ、どっちにしろハヤトがそこまでして守ろうとする人だ。私はハヤトを信じよう」
「これで今度こそ一件落着だな」
墓場からの帰り道
カズマサイド
「浄化を引き受けたのはいいけど、よく考えたら私の睡眠時間減るって事じゃない」
「今さら気付いたのか……」
カズマはウィズに渡された一枚の紙切れを眺めながら呟く。
「しかし、リッチーが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってんだ……ハヤトがその従業員だってのと彼氏だってのも驚いた」
カズマが持っている紙はウィズの住んでいる住所が書かれた紙だ。
お礼という訳ではないが、ウィズがカズマにリッチーのスキルを教えるという事で彼女の名刺を受け取っていた。
「でも、穏便に済んでよかったです。いくらアクアがいると言っても、相手はリッチー。もし戦闘になってたら私やカズマは間違いなく死んでいましたよ」
何気なく言うめぐみんにカズマはぎょっとする。
「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてヤバかった?」
「ヤバいなんてものじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター。むしろ、なぜあんな大物にアクアのターンアンデッドが効いたのかが不思議でならないです」
それに続く様にダクネスが。
「それに加えハヤトもいるとなると、最早リッチー以前の問題だろう」
カズマが冷や汗を流しながら、めぐみん達に聞く。
「ち、因みにハヤトと戦闘になってたら……?」
「まあハヤトの事ですから、殺しはしなかったでしょう……私達がリッチーと出会った記憶を消されるくらいでしょうか。以前、私がちょっとした失敗で他の冒険者に怒られている所をハヤトに助けられた事がありまして。ハヤトは指で冒険者の頭を突くと、その冒険者のまる1日の記憶が無くなったんです……恐らく今回も危うい状況になってたら、私達は例の冒険者と同じ目に会っていたと思われます」
最後にめぐみんはボソッと。
「ハヤトに殺意があったら今頃私達は肉塊になり、雑草の糧となっていたでしょうね」
それを聞き逃さなかったカズマは軽く失禁しそうになる。
しかしカズマは思った、自身はハヤトという存在をよく知らない。
強いというのはわかる、だが彼の穏やかな性格を前に彼の『脅威』は鳴りを潜めている。
それにどの様なスキルを使い、どの様な立ち回りが得意なのかもわからない。
そんな事を思い知らされたカズマは、改めてハヤトを理解しようと決心するのであった。
ハヤトサイド
ハヤトとウィズはお互いの手を繋ぎながら歩いていた。
「ウィズ……さっきは申し訳なかった、あの青髪も悪い人ではないんだよ。ただ、よく周りが見えなく事が多くてだね」
「ふふふ、別に気にしてないですよ。それにハヤトさんが入ったパーティーの方々ですよ?悪い人はいない事くらいわかってます」
「……ありがとう」
笑顔で返してきてくれるウィズに、ハヤトは感謝した。
そんなハヤトに一つだけ気になる事がある……それはアクアに、何故彼の気当たりが効かなかったのかだ。
気当たりが効かないのは、意思のない低級のアンデッドモンスター、捨て身の覚悟を持つ者、それか危機判断力が乏しい程に知力が欠けている者のどれかだ。
もしかしてアクアは相当なおバk……いや、それ以上は言うまい。
「さて、早く帰って休もうか」
「あ、ハヤトさん⁉」
ハヤトは恥ずかしがるウィズを気にせず、彼女を抱き抱え走って帰って行った。
次回はオリジナルエピソード
魔王軍幹部候補がアクセルの街に?
ハヤトの戦闘回です