この魔道具店の店員に祝福を!   作:銀太郎

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少し長くなりそうなので前・後編で分けます。


この幹部候補達に現実を!前編

駆け出し冒険者が集う街であるアクセルの街。

そこに四つの影が近付いて来ていた。

 

「本当にいるのか?あんな駆け出しの雑魚共が群がってる街に」

 

「魔王様が仰ったのだ。間違いはないだろう」

 

「近日中に幹部のベルディア様がアクセル付近を調査する為に、近くの廃城に滞在するとの事だ。拳神皇魔帝を始末すればベルディア様も調査がしやすいだろう……」

 

「幹部のご機嫌取りなんざどうでもいい事。拳神皇魔帝と死合いができる、これ以上に喜びを感じる事はないぞ」

 

「皆の者落ち着け……相手は過去単身で魔王城に乗り込み当時の幹部数名を屠り、あのハンス様とシルビア様にベルディア様を戦闘不能に追い込んだ化物。油断していると私達の首が飛ぶぞ。先程貴様が言った通り、ベルディア様はここいら周辺の調査をする予定だ。拳神皇魔帝がアクセルに在住してる事はベルディア様は知らん、幹部になるという事も大事だが、速やかに奴を討伐しベルディア様が安心して調査に赴ける様にする事が第一だ。わかったな?」

 

どうやらこの者達はアクセルの街にいる、拳神皇魔帝と呼ばれる冒険者を倒す事が目的の様だ。

それぞれ口にしている内容からするに、魔王軍の手先の様だが。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、アクセルの街にてハヤトは。

 

 

「これは本当に売れるんだろうね?」

 

売れそうな商品を見付けてきたというウィズが、大量の手のひらサイズの箱を店に持ってきていた。

余程自信があるのだろう、彼女は胸を張り少しばかしドヤ顔だ。

 

「はい!今度こそ売れますよ‼何とこれは体が鋼の様に硬くなり、物理的防御力を極限に上げるという凄い薬なんです!」

 

ウィズは大量にある箱の一つを手に取り、中身を見せる

中には小さな青い玉の形をした薬が一つ入っていた。

 

「それだけ聞けば良い響きだが……まさか体が硬くなり過ぎて、身動きがとれなくなるとかはないだろうね?」

 

「………」

 

ハヤトの問いに、目を逸らしながら手にしてる箱の蓋を開けたり閉めたりしているウィズ。

しばらくして、開き直ったかの様に笑顔でハヤトの手を握り。

 

「ハヤトさん……きっと売れますよ」

 

「笑顔で誤魔化さなくていいよ………図星なんだろ?」

 

「………はい」

 

魔道具店の女店主ウィズ、先日ハヤトがヤマタノオロチを討伐した報酬金で、本日欠陥商品を大量に買い込む。

 

「よし今すぐ返品してくるんだ」

 

「ええ⁉」

 

「ええ⁉……じゃない。まったくせっかくの報酬金を、値段に釣り合わない、よりによって欠陥商品を持ってくるなんて………それにあのお金は今月の家賃も入ってるんだ。支払日が間近に迫ってるというのに全額使ってくるんじゃない!早く返品してお金を返して貰うんだ!」

 

「う~、今回もダメだった~」

 

渋々とウィズは商品を返品する為に店を出ていく。

彼女の商品の見る目のなさは最早才能の域に達している。

 

「やれやれ、少し目を離すと毎回これだ………とりあえず家賃は何とかなりそうだな」

 

そう言ってハヤトも店を出て、店の看板を準備中に切り替えてギルドへ向かった。

今回ギルドへ行く目的はクエストをこなす為ではなく、カズマから聞きたい事があるとの事でギルドへ向かっている。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって冒険者ギルド

 

ハヤトがギルドに入ると、奥のテーブルにカズマ達の姿があった。

 

「おーい、ハヤト。こっちこっち」

 

カズマはハヤトの事に気付くと、手を降ってハヤトを呼ぶ。

 

「皆この前はすまなかったね」

 

「いやいやこの宴会芸の女神が馬鹿みたいに、いや実際馬鹿なんだが、突っ掛からなければ穏便にすんだんだ。なあ、アクア?」

 

「馬鹿とは聞き捨てならないわね。それに宴会芸の女神って何よ!私は水の女神よ!水の女神!わかってるのヒキニート⁉」

 

「とりあえずこのわめき散らしてる、宴会プリーストは放っといて。今日ハヤトを呼んだのは、俺達パーティーがハヤトの事を知りたいからだ」

 

隣から突っ掛かってくるアクアを突っぱねながら、カズマはハヤトに言った。

めぐみんとダクネスも意見は同じみたいだ。

 

「………確かにカズマとアクア、以前から付き合いのあるめぐみんとダクネスにも私の事はあまり話していなかったな」

 

店員に紅茶を注文した後、ハヤトは手を組んでカズマ達を見渡しながら言う。

 

「私が答えられる事であれば全て答えよう。さて、何が知りたいのかな?」

 

「先ず知りたいのは、ハヤトの職業だな」

 

意外にも普通な質問が来た、ハヤトの予想だとカズマの事だから録でもない事を聞いてくると思っていたが。

 

「めぐみんとダクネスとアクアは知っていると思うが、私の職業はバトルマスター。あらゆる武器を使用でき、素手での戦闘も可能な職業だよ。私としては素手での戦闘が好みでね、武器は滅多に使わない」

 

「成る程。次にハヤトはどんなスキルを使うんだ?」

 

これにめぐみんはかなりの期待を寄せているのだろうか、目をキラキラさせてハヤトを見ている。

 

「私のスキルは他に使い手はいない、独自のスキルでね。先ず、私が主に使用しているのが『点穴師』というスキル、確かカズマは漫画やアニメが好きだったね。早くいえば某世紀末漫画に出てくる拳法だと思ってくれればいい。私は生き物の血や気の流れを視ることができて、それを利用し自身の気(闘気)で相手の点穴(ツボ)を突き体内の気や血の流れを変えて、身体に影響を及ぼすスキルだ。相手をボンッとするのも可能だし、病気や怪我を治す為の治癒力を上げたり、一時的な身体能力の強化など色々な事に使える。そしてもう一つ私が使用してるスキルが」

 

そう言ってハヤトが右手を出すと。

彼の右手から赤く揺らめく炎の様な物が溢れるように出てきた。

 

「おお!ハヤトこれは何ですか?」

 

「魔法……か?私は見たことのない魔法だが…」

 

めぐみんとダクネスは興味深そうにハヤトの右手を見いる。(因みにアクアは飽きたのか、他の冒険者達に宴会芸を披露して楽しんでいる)

しかしカズマは既に理解していた様で。

 

「あれか、闘気って奴だろ?」

 

「流石カズマ、ご名答。そうこれは闘気、皆が言う魔力とは別の概念でね。闘気には『質』というのがあって、種類が多く存在する。この赤い闘気は『破壊』の性質を持っている。使用例として……例えば」

 

隣のテーブルで酒瓶を逆さにおでこに乗せてバランスを取っているアクア。

ハヤトはアクアのおでこに乗せている酒瓶に右手を向けると、闘気が酒瓶に向かって放たれ、闘気に直撃した瓶は割れて中に入っていた酒がアクアの顔に降りかかる。

 

「うわっぷ⁉お酒が鼻の中に入って痛い!」

 

「という感じで純粋な破壊ができる。そして次に『回復』の性質を持つ闘気」

 

すると今度はハヤトの右手の闘気が鮮やかな緑色に変わる。

 

「これは私の闘気を相手に生命力や魔力に変換して分け与える事が可能だ。今は使う必要はなさそうだからまた今度見せるよ。次は『氷結』の性質を持つ闘気」

 

次にハヤトの右手は蒼白い闘気に包まれ、そこに丁度店員が注文していた紅茶を持ってくる。

 

「ありがとう、うむ……では、この紅茶を使ってみようか」

 

ハヤトが紅茶に右手をかざすと。

 

「紅茶が凍っていきますよ。氷結魔法に似た効果だと思えばいいんですかね?」

 

「ああ、それがいいと思う。現に氷結魔法を見て編み出した闘気だからね」

 

氷結魔法はウィズが得意としてる魔法の一つである。

ハヤトはこれを見てこの闘気の性質を編み出したのだ。

 

「次が『滅殺』の性質を持つ闘気だ」

 

今度はハヤトの右手に金色に輝く闘気に包まれる。

 

「おお、何て輝かしい」

 

ダクネスがハヤトの右手に触ろうとした瞬間。

 

「「その手に触れるなダクネス‼」」

 

「ど、どうしたんだ二人共?」

 

ハヤトとカズマが同時にダクネスに警告する。

真剣な表情の二人に流石のダクネスも動揺しているが、二人がここまでになるのも無理はない。

安心した様に息を吐きながらハヤトは説明する。

 

「ダクネス、先程言ったがこれは『滅殺』の闘気。絶対的な熱をもってして、対象を滅ぼす。熱の加減は調整できるが、今の状態で触れたら……君の手が無くなっていた所だよ」

 

カズマも『滅殺』という言葉で気付いてダクネスを止めたのだ。

ハヤトは凍った紅茶に指を当てると。

 

「威力を弱めれば、氷を溶かして沸騰させるくらいに押さえられるが」

 

すると、凍っていた紅茶が一瞬で溶け沸騰し始める。

 

「本来はその名の通り『滅殺』を目的とする闘気だ」

 

ハヤトの右手の輝きが増し、紅茶の入ったティーカップを右手で触れるとカップが消滅していく、まるで最初からそれが存在しなかったかの様に。

やがてカップは紅茶ごとハヤトの闘気によって完全に消滅した。

 

「流石のダクネスもこれに当たると危ない……理解してくれたかな?」

 

「う、うむ……承知した」

 

とか言いつつ頬を赤く染めてハァハァと興奮してる様に見えるのだが。

 

「とまあ主に使用してる闘気はこれくらいだ。他にもいくつかあるが、またの機会という事でいいかな?」

 

ハヤトの問いに三人は無言で頷く。(アクアはまだ懲りずに隣で宴会を行っている)

 

「後は聞きたい事はあるかな?」

 

「あ、一つ聞きたい事があるんだが」

 

「………」

 

ハヤトは気付く、今のカズマの顔はとても悪い顔をしている。

絶対に録な質問をしてこない。

 

「恋人のいるハヤトさんに質問です。リア充野郎なハヤトさんは恋人であるウィズさんとどこまで進んでるんですか?Aですか?Bですか?Cですか?どうなんですか⁉」

 

この類いの話題になるとカズマは高確率で冷静さを失う。

 

「いや、カズマちょっと落ち着こう」

 

ハヤトの制止もきかず、胸ぐらを掴んで問いただしてくるカズマ。

めぐみんとダクネスに助けてくれと視線を送るも、二人共ジュースを飲んで視線を逸らし見て見ぬふりな状態だ。

二人もこの状態のカズマは相手にしたくないらしい、まあ誰しもそうだろうが………

 

「いいよなハヤトは!背も高くてルックスも良くて強いし、他の女性冒険者からもモテモテだしよ!おまけにあんな美人な恋人もいるなんて反則も良いとこだろ!」

 

「ちょ、カズマ⁉揺するのはやめっ!気持ち悪くなってきた」

 

嫉妬に燃えるカズマに揺すられて、ハヤトは吐き気を催し片手で口を押さえる。

 

 

「俺だって!俺だって春が欲しいんだよ!」

 

「うっぷ………本当に、ヤバイ……」

 

「そろそろハヤトがヤバそうなのでやめてあげて下さい!」

 

「と、とりあえず落ち着けカズマ!」

 

「ハァ、ハァ、何でこんなに荒れてんだ俺………」

 

ようやくカズマの暴走を止めに入っためぐみんとダクネス。

 

「大丈夫ですかハヤト?」

 

「た、助かった……」

 

何とか口からとんでもない物を吐かずに済んだハヤト。

彼が一安心した矢先にアナウンスが街中に響く。

 

 

『シラヌイ ハヤトさん!シラヌイ ハヤトさん!至急街の正門へ向かって下さい!指名討伐が入りました!繰り返します。シラヌイ ハヤトさん!シラヌイ ハヤトさん!至急街の正門へ向かって下さい!指名討伐が入りました!』

 

「何だ?また緊急クエストか何かか?」

 

「指名討伐?ハヤト、指名討伐とは一体なんですか?私も聞いたことがないんですが」

 

カズマとめぐみんは聞いたことのないアナウンスの内容に首を傾げ、めぐみんは名があがっていたハヤトに対してどういう意味かと問う。

 

「なになに?何かイベントやるの?」

 

アクアはというと、能天気なのか先程のアナウンスの内容が楽しい行事をやるのかと思っている様で、ウキウキしてる表情だ。

そんな女神を尻目にハヤトは溜息をつき、やれやれと言わんばかりに。

 

「今回はやけに期間が空いたからね。三人共知らないのも無理ないか」

 

「そうかカズマ達は知らなかったか。実はたまに魔王軍の魔物がハヤトを指名で戦いを挑んでくる時があるんだ」

 

唯一事情を知っているダクネスが三人に説明する。

 

「恐らくあちら(魔王軍)側にもハヤトの名は知れ渡っているという事なのだろうが、まあアクアが言った通り……一種のイベントと化しているのも事実だ」

 

苦笑いになりがら言うダクネス、それに続いて。

 

「おお!指定討伐だ!」

 

「よっしゃ!今回こそ当てるぞ!」

 

他の冒険者達が嬉々として、盛り上がっている。

内容からすると結構物騒な事だと思うのだが、冒険者達の反応を見てカズマとめぐみんは戸惑いを隠せない。(ご存知アクア様は事情を知らぬか知ってか、冒険者達と一緒に盛り上がっている)

 

「とりあえず門前に行こうか、カズマもめぐみんもいくらかお金を持って行った方がいいと思うよ」

 

「え?いや、これってどういうイベントなんだよ?」

 

「あ、待って下さいハヤト!」

 

ギルドを出て門前へ向かうハヤトに続いてカズマ達も彼の後ろをついていく。

 

 

 

 

 

 

ハヤト達が正門にたどり着くと他の冒険者達がワイワイと金銭を出しあっている。

 

「いいか、ハヤトか魔物が攻撃を加えた時点で開始だからな」

 

「今日は四体か。よし、5分以内に始末するに五万エリスだ!」

 

「オイラは8分以内に三万エリス!」

 

「あのデカブツはタフそうだな……10分以内に七万エリスで賭けるぜ!」

 

どうやら掛け金を出しあっている様だ。

 

「え、今何分以内にって言ってたけど……何を賭けてんだ?」

 

カズマは首を傾げながらダクネスに問う。

 

「あそこに四体の魔物がいるだろう?」

 

「ああ、いるな。何か皆ボス格っぽい奴らだけど………」

 

ダクネスが指を指す先には屈強な魔物が四体。

一体一体がそこいらにいる雑魚の魔物ではなく、上位に位置する奴らだと一目でわかるくらいだ。

 

「そう、あいつらはただの魔物ではない、魔王軍幹部の候補達だ」

 

このダクネスの一言に、カズマとめぐみんが目を見開きながら。

 

「幹部候補⁉」

 

「な、何故その様な輩達がここに?」

 

ここは駆け出し冒険者が集まる街である、幹部候補とはいえ強力な力を持つ魔物である事には変わりない。

そんな魔物がアクセルの街に何故来るのか、ただ一つ、一つだけの理由があった。

 

「本来なら幹部候補になる程の魔物ならば、こんな所には訪れないだろう。しかし彼らにはここへ来る理由がある、それは彼、ハヤトを倒す事だ」

 

「ハヤトをですか?」

 

「うむ、前に挑んで来た幹部候補曰く魔王軍の間でハヤトを倒した者には幹部の席と多額の報酬金が用意されてるらしい。無理もないだろう、最強と謳われる冒険者ハヤト、彼のおかげで魔王軍側は各所で甚大な被害を被っている。魔王の必死さが伺えるな。因みに皆が賭けているアレだが、ハヤトが何分以内に幹部達を葬れるかを賭けている」

 

と説明しているダクネスだが……

 

(違うんだよな~、賭け事はその通りだけど……魔王が必死になって手先を送ってるというのは違うんだよな~)

 

心中で真っ先に否定しているハヤト。

彼が語っている通り、魔王がハヤトを倒す為に幹部候補を送っている訳ではない。

では何故なのか……それはただ単に魔王軍の中で、制御の効かない身勝手な魔物、変に魔王に対して媚を売りすぎて逆にウザがられた魔物など、他にも様々な問題を起こした魔物を処理するのが面倒だからと、魔王がハヤトに送りつけてるだけである。(ウィズを通して魔王が泣き付いてきた為、ハヤトは渋々承諾した)

いわゆる後始末だ。

当然幹部候補というのは名だけ、幹部の席や多額の報酬金などはそいつらを釣る餌にしか過ぎない。

 

 

ハヤトとしては非常に面倒な事だが、アクセルの街もといウィズの店を守る為に魔物達の目の前に出る。

 

四体の魔物のメンツは。

 

一体目が自身の身の丈程ある斧を軽々と担いでいる、2メートルは越えてるであろう牛の頭を持つ魔物ミノタウロス、物静かな印象で中央に立っている事から彼がリーダー格だろう。

 

二体目がボロボロな武道着を身に付けている虎の人型の魔物ウェアタイガー。

 

三体目がライオンの頭と前肢、背中にはヤギの頭と後肢、尾が蛇の合成獣の魔物キメラ。

 

四体目が左手に巨大な鉄棒を持つ単眼の巨人サイクロプス。

 

駆け出しの冒険者からしたら、相手にすれば無理ゲーな魔物達だ。

そんな魔物達の目の前まで歩いて来たハヤトに、リーダー格のミノタウロスが彼を睨み付ける。

 

「我はミノタウロスのガイラス。貴様が最強の冒険者と名高い拳神皇魔帝か?」

 

「………ああ、魔王軍の各々方にはそう呼ばれてるねぇ」

 

ハヤトの答えにガイラスとウェアタイガーとキメラ以外のサイクロプスはケラケラと笑い出す。

サイクロプスは前に出て、ハヤトに指を指しながら口を開く。

 

「へへへへ、この優男が噂の拳神皇魔帝だあ?笑わせないでくれよ、こんな奴指一本で捻り潰せるぜ⁉」

 

「あー、少しいいかね木偶の坊君。今私に向けているその汚ならしい指をどかしてくれないか?言っておくが、君らが殺意を持って私に戦いを挑むのであれば、死を覚悟したまえよ」

 

ハヤトは目の前に向けられたサイクロプスの指を軽くあしらう様に払いのける。

 

「この……丸腰の人間風情が…このブルタス様を木偶の坊扱いか?ぶっ潰してやる!」

 

サイクロプスのブルタスがハヤトに鉄棒を振り下ろす。その力はすざまじく、風を切る音が鳴り、鉄棒が地面につくと辺りが砂煙に被われる。

 

「ねぇ……あれじゃあ流石のハヤトもヤバイんじゃないの?」

 

額に汗を流しながらアクアはチラチラとカズマを見ながら言う。

 

「……は、ハヤト?」

 

カズマ達も心配しながら砂煙を眺めてる中、少しずつ砂煙が晴れていく。

 

「がぁっ、ゲホ!オエエッ!」

 

砂煙が晴れて現れたのは鉄棒に潰されているハヤトではなく、ハヤトに水月を蹴りで突かれ苦しんで膝を着いているブルタスの姿だった。

 

「まったく心配させんじゃねーよハヤト!」

 

「あ……あの鉄棒の一撃を受けると考えただけで……んんっ……⁉」

 

「お前こんな時に興奮してんじゃねえよ」

 

「してない!」

 

心配するカズマ達だが、ダクネスはというと………彼女は平常運転だった。

 

 

 

「おやおや?巨人族ともあろう者が人間の『軽い』蹴りで膝を着くか?」

 

水月にめり込んだ足を抜いて、やれやれと首を振りながら挑発を始める。

 

「ヌゥ……貴様…許さんぞ!このブルタス様をバカにしやがって、お望み通り俺様の本気を見せてやるわぁ!カハァァァァァァ…」

 

フラフラと腹をおさえながら立ち上がるブルタスは、頭に血管を浮かばせながら何か力を溜め始める。

 

『アイアンスウェット』

 

ブルタスの体の色が黒く変色していく。

 

「グハハハハ!今の俺様は何の攻撃も通さぬ鋼の体よ‼これで終いだ!」

 

「ほう、どれどれ?」

 

バチッ‼

 

ハヤトはブルタスの顔面の目の前に飛び上がり、一発のデコピンを打ち込む。

 

「うぐっ⁉………む、無駄だ。今の俺は爆裂魔法を撃ち込まれても傷一つつかん!フン!」

 

ペコッ

 

ブルタスは衝撃で後ずさるが、頭がへこんでいるものの、ブルタスが力を込めるとへこみが元に戻り何もなかったかの様に振る舞う。

その様子を見ていためぐみんは。

 

「その言葉聞き捨てなりませんね。我が爆裂魔法を前にそんな口叩けるか試してみますか?」

 

「バカやめろって!ハヤトも巻き添えになるだろうが、今はあいつに任せておけ」

 

「むぅ……」

 

めぐみんは自身が手にしている杖を掲げて爆裂魔法の詠唱を始めようとするが、案の定隣にいたカズマに止められ渋々と詠唱を取り止める。

 

 

 

「私のデコピンを耐えるか……ではこれは耐えられるかな?」

 

ハヤトはブルタスに自身の右の掌を向ける。

 

「何だ?その手は?なんもしてこねえなら、こっちから行くぞ!死ねえ!」

 

ブルタスは再び鉄棒をハヤトに振り下ろそうとした瞬間。

 

「フン!」

 

「うおっ⁉おああああああああ!」

 

ハヤトの右の掌から赤い破壊の闘気が放出され、ブルタスに直撃し後方へ吹っ飛ばす。

あまりの衝撃に数回バウンドしながら吹き飛び、やがて電車道の様な引きずった跡を地面に残して、ブルタスは大の字になり倒れていた。

苛立ちから歯を食い縛りながらゆっくりと立ち上がるブルタス。

 

「ぬぅぅぅぅ……何の魔法だか手品を使ったかは知らんが、俺の防御力は無敵。何度言わせれば……グゥッ」

 

ピキピキパキペキ

 

ハヤトの元へ戻ろうと一歩足を踏み込んだ瞬間、彼の黒く変色した鋼の様な体に罅が入る。

 

ジュルジュルズル

 

「あ、あああああ!うあああああ!」

 

ブルタスの罅が入った体から、肉やら骨が鋼の皮膚を押し出す様に飛び出てボトボトと落ちていく。

その光景を見ている女性冒険者は、口元を抑えたり、目を背けたりしている。

男性冒険者達も顔に青筋をたててその光景を目にしている。

彼らもモンスターを狩るのが日常茶飯事とはいえ、こんな光景は目にしたことがない。

いや、見たことはあるが、全てハヤトの処刑ショーの時である。

 

やがてブルタスの体が不自然に膨れていき。

 

「うがぁぁぁぁぁああああっ!」

 

ボンッ

 

断末魔をあげながら弾け跳び肉塊と化した。

 

 

「これで無敵と語るとは片腹痛い……さて、次は誰が相手してくれるのかな?」

 

「……俺が行こう」

 

次はキメラが前に出る。

 

「あの時は兜が邪魔で顔を拝めなかったが、まさかこんな優男とはな……驚いたぞ」

 

そのキメラの姿を見てハヤトは眉をひそめ。

 

「私の勘違いかもしれないが、君……前に私と会った事あるかい?」

 

「……貴様が魔王城に単身攻めて来た時…」

 

キメラは牙を剥き出し腹立たしそうに言った。

 

「ハンス様が戦闘不能になり真っ先に貴様に襲いかかったキメラのザンゲだ……覚えているだろう!」

 

ハヤトは心当たりがあった様で唸り声で威嚇しているザンゲを意に介さず、逆にスタスタとザンゲに歩み寄り、距離をつめる。

 

 

「ああ、シルビアの部下のキメラか。随分逞しくなったじゃないか」

 

「あの時、貴様に殺されかけた所……駒にしか過ぎない俺をシルビア様は庇ってくださった。そんな無抵抗のシルビア様を手にかけた外道め、貴様を倒す為に耐えられるかもわからぬ高度な強化合成を施したんだ。この連中と共に来たのもシルビア様に変わって拳神皇魔帝を倒す為、幹部の地位なんてどうでもいい!」

 

ザンゲの言葉を聞いて、先程まで軽い表情をしていたハヤトは殺意の籠った真剣な表情で答える。

 

「成る程成る程、上司の為に覚悟を背負った君の意思は伝わったよ。正直感動したよ………しかしだ、私にも守るべき人達がいる。手加減はしないぞ」

 

「加減なぞいらぬ!」

 

ザンゲはハヤトに飛び掛かりながら、獅子の強靭な前肢でハヤトを切り裂こうとするが。

 

「遅い!」

 

ハヤトは跳び上がって宙返りをしザンゲの爪を空を切らし、彼の背にあるヤギの頭を仕留めようとする。

 

「やはり跳んだか!喰らえ!『氷河期の吐息』ッ!」

 

ザンゲの初撃は囮だった、攻撃を避ける為に自身の真上へ跳んだハヤトに対して、今度は背にあるヤギの頭がハヤトに氷属性のブレスを吐きかける。

 

「いやはや私の行動パターンを読んでいたのか………ブレスも中々の威力みたいだ。では、これでどうかな?」

 

ハヤトは絶対熱の『滅殺』の闘気を放出して、ザンゲのブレスと相殺させて防ぐ。

 

「ぐぅっ!こいつも防ぐか………」

 

すかさずザンゲは尾の蛇を伸ばしハヤトの腕に絡ませて地面に叩きつけるが、ハヤトは地面へ叩きつけられると同時に受身をとりながら体制を立て直す。

 

「こいつで『チェックメイト』だ!猛毒に苦しんで逝け『ヴェノムタスク』ッ!」

 

ハヤトの腕に絡んでいる蛇が紫色の液体を滴らせた牙で、彼に噛み付こうとするが。

 

「ところがどっこい『詰み』ではないんだな」

 

ハヤトがそう言うと、蛇が散り一つ残さず消えていく。

 

「がああああ!貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

苦痛で顔を歪ませるザンゲ。

ハヤトが使ったかのは、先程と同じ『滅殺』の闘気。

闘気によって蛇は消滅したのだ。

 

「私の行動パターンを読んで対処したのはよかったよ。ただ私に触れ続けたのが汚点だったな」

 

「ま、まだ……まだだ!まだ闘えるぞ!」

 

ザンゲはライオンの頭で炎属性のブレスを吐きながらハヤトに突進していく。

 

「頭に血が上ったのかい?……ザンゲ。君の今とった行動は、自身の死を決定付けた」

 

ハヤトは炎を跳んでかわし、そこに氷属性のブレスで追撃しようとするヤギの頭を蹴りで怯ませて、そのままヤギの角を土台に倒立をする。

 

「さて、次は私が言わせて頂くよ。チェックメイトだ」

 

倒立の状態からハヤトは両足を振り子の様に回して、自身の体ごとヤギの頭を回転させる。

周囲には骨が折れて砕ける音が響き、ヤギの頭は血泡を吹いて力なくあらぬ方向を向いて力尽きた。

 

「ぐぁぁぁっ!ま、まだ、終わっていないぞ」

 

ザンゲの本体であろうライオンの頭は歯を食い縛りながら、踏ん張り立ち上がる。

 

「いや、終わりだよザンゲ……」

 

「貴…様……」

 

ザンゲが見上げると、ハヤトが腕を掲げて立っていた。

 

「はぁぁぁぁっ!『斬手刀』ッ!」

 

「ゲハッ⁉」

 

掲げていた腕をザンゲの首へ振り下ろし、ハヤトの手刀がザンゲの首を切断する。

ゴトッと重い音を発ててザンゲの首は落ちた。

 

「………さて、次は誰が相手かな」

 

ガイラスに向き直りながらハヤトが言うと、ガイラスは鼻で笑いハヤトに指を指す。

 

「フ………拳神皇魔帝よ。僅かなる油断も時として死を招くぞ」

 

「………なに?」

 

「おいハヤト!後ろだ!」

 

カズマが叫んだその瞬間、何者かがハヤトにしがみつく。

 

「………首を跳ねられても、食らい付いてくるのか」

 

しがみついていた者の正体は本体のライオンの首がないザンゲの体だった。

ハヤトは察してザンゲの落ちた首へと目を向けると、風前の灯だが僅かに、気が巡り回っている。

つまりまだザンゲは生きている、これこそとてつもない執念を持つが故と言わんばかりの生命力だ。

体をハヤトの拘束に使い、ザンゲの首は目を開きゆっくりとハヤトに向くと。

 

「シルビア様の為!ここで潰えろ拳神皇魔帝!」

 

ザンゲの首は蛇の様に這いずりながらハヤトに近付いて、自身も彼の首を食いちぎらんと口を大きく拡げて飛び掛かってくる。

 

「………君のその執念、魔物といえど尊敬に値する。故に私も応えよう!」

 

するとハヤトは拘束されている腕を広げて、その勢いで拘束に使っていたザンゲの体の前肢が千切れ飛ぶ。

 

「今度こそこれで終わりだ!天に滅せよザンゲ!」

 

「ガアアアア!」

 

「『完遂捻り貫手』ッ!」

 

「………ッ!」

 

ハヤトの捻りを加えた貫手がザンゲの顎下から脳天を貫く。

それと同時に前肢がなくなりのたうち回っていたザンゲの体が、ピクリとも動かなくる。

 

(シルビア…様………申し訳ありません……)

 

ザンゲの目から一滴の涙が落ちゆっくりと閉じられる、今度こそザンゲはこの世から去った。

 

ザンゲがこの世から去った同時刻の魔王城。

城内の廊下を、下級悪魔の革を使った赤いドレスとライオンの鬣を使ったショールを身に付けた女性?が歩いていた。

彼女?の名はシルビア、魔王軍幹部の一人である。

 

「ザンゲったら何処に行ったのかしら、最近姿を見ないから心配だわ」

 

その時、シルビアの身に付けているショールの紐が切れて地面へと落ちる。

 

「あら……ザンゲから貰った彼の鬣で作ったショールが」

 

シルビアは落ちたショールを拾い、切れた紐の部分を見つめる。

 

「シルビア様!ザンゲ様の事でお話が!」

 

後ろからシルビアの部下と思われる魔物が大慌てで駆け寄ってきた。

 

「ザンゲの居場所がわかったの?」

 

シルビアは部下の言葉に顔を曇らせる、何か嫌な予感がする。不安を誤魔化すかの様にシルビアはショールを握りしめた。

 

「い、居場所というか……その…我が軍の預言者にザンゲ様の捜索をさせたのですが……あの方は独断で魔王軍幹部候補隊に加わり拳神皇魔帝の討伐へと向かったとの事です」

 

拳神皇魔帝の討伐、その言葉を聞いたシルビアの顔が青ざめる。

部下の肩を掴み、揺すりながらシルビアは訊いた。

 

「幹部候補って……ただ名前だけの処刑行事じゃないの!ザンゲは……あの子は無事なの⁉どうなのよ⁉」

 

シルビアにとってザンゲは特別な部下だった。

常に自身の後ろを付いて回り、誰よりも自身を慕っていて、そんな彼とシルビアは部下と上司というのは建前の友人となっていたのだ。

 

「……それが…たった今……魔王軍幹部シルビア様の側近、強化合成獣のザンゲ様は……拳神皇魔帝と闘い…戦死致しました……」

 

「……え」

 

言葉を詰まらせながら語られた知らせを聞いてシルビアの時が止まる。

あのザンゲが死んだ。

身近にいた親しい者の死は時が止まったシルビアの膝を崩た。

最後に部下は口を噛み締めながら。

 

「預言者によるとザンゲ様は最期までシルビア様の事を思い逝かれたとの事です……あの方は自身を庇ったシルビア様を傷付けた拳神皇魔帝を目の敵にしていましたから………恐らくシルビア様の敵討たんと、幹部候補隊に加わったのでしょう」

 

シルビアはザンゲから貰ったショールを見つめる。

このショールについてる鬣の持ち主はもうこの世にはいない、つまりこれはザンゲの形見。

彼はもうこの世にはいない、そんな現実がシルビアの心の中でぐるぐると渦をまいていた。

 

「敵討ちなんて……死んだら元も子もないじゃない………」

 

シルビアはショールを握り締め、それで顔を覆う。

声は出していないが、部下は一目で理解した。シルビアは泣いている、直接声を出さずとも心で泣き叫んでいる。

部下は何の言葉も出ない、きっとシルビアは自身が想像しているよりも大きな傷を心に刻んでしまっただろう。

そんな状態で安易に声は掛けられない。

部下はただただ顔を隠してヘタリ込んでいるシルビアを、黙って見守る事しか出来なかった。

 

今日ここに大切な存在を失った『魔物』がいた。

今日とある街のそばで大切な存在の為に闘った『魔物』がいた。

今日……そこでその魔物の命を奪った『冒険者』がいた。

 

この日魔王城で魔王軍幹部シルビアはその冒険者に対して、ある誓いをたてた。

大切な友人、ザンゲの命を奪った冒険者『シラヌイ ハヤト』をいつか必ず殺すと。




オリジナルなシナリオのせいなのか、一際駄文感が目立った気がします……
次回はいよいよハヤトと魔王軍幹部候補の決着です。
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