※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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エロに対する姿勢は人それぞれです。自己主張はいいとしても、他人の性癖を貶めるのはやめましょう(戒め)


九話

 

 法国の宗教とは、リアルの世界と比べると非常に(いびつ)である。六大神――基本は四大神を信仰する者がほとんどだが――という複数の神を信仰しながらも軸はぶれず、国民は高い規範意識を持ち、纏まっている。一神教であればその神を唯一として崇め、信仰を拠り所として強固な繋がりを持つのはおかしくない。

 

 逆に多神教となれば、生活に根差した信仰形態をとることが多い。とても大雑把に言ってしまうのならば『自分達の行動を是とするための信仰』が多神教であり、『自分達の行動を教義に沿わせた信仰』が一神教である。前者は自分が信じる神を選べるが、後者は当然のことながら選べない。故に神を絶対としながらもその解釈のしようを巡って派閥ができ、争うことも多々ある。

 

 どちらもメリットとデメリットがあるが、信仰意識の平均が高いのはどちらかというと一神教の方だろう。だからこそ六柱も在る信仰の対象を持ちながら、信心深い法国の民は異質である。火の神、水の神、土の神、風の神を主軸とし、その上に光の神と闇の神をおく宗教形態。

 

 教義的には闇の神と他の神は仲が悪いとされながらも、信者達の間で不和は広がらない。リアルの世界のどの宗教とも似通っていないその理由は『神の実在が確か』だからだろう。彼等が人類を守護したからこそ今がある。彼等が死してなお、絶大な力を持つ遺産を遺したからこそ今がある。

 

 ガラクタを聖遺物と言い張る強欲者(ナマグサ)もいなければ、ありもしない奇跡で騙す聖職者もいない。実際に神が存在し、人の上に立ったからこそ彼等は崇められているのだ。

 

 ――しかし彼等は本当に“神”なのだろうか。

 

 法国の民に聞けばほとんどがこう答えるだろう。畏れるべき、敬愛すべき、慈悲の心を持った絶対の存在であると。王国の民や帝国の民に聞けばこう答えるだろう。歴史書に残っているのだから、そうなのだろうと。

 

 神という存在はなんなのだろうか――神官に聞けばこう返すだろう。真摯に祈れば力を貸してくれる存在だ、と。結局のところ人によって違うものが神だ。

 

 しかし六大神は違う。実在した“人間”なのだ。長い歴史は人を“象徴”にし、肥大化させ、なにか大きなものであると誤認させる。

 ヒトラーは世界最悪の戦犯で差別主義者の象徴であり、悍ましい精神構造の持ち主だろうか? 妹であるパウラならばこういうだろう。『その日暮らしの馬鹿野郎だ』と。

 ガンジーは博愛主義であり、無抵抗を是とする優しき人物だろうか? 母であるプタリーバーイーならばこういうだろう。『戒律は破る、盗みは働く馬鹿息子だ』と。

 

 六大神は高潔で崇められるべき存在なのだろうか?

 

 ――ああ、そんな訳がない。彼等は日本人としてほどほどに善性で、ネトゲにのめりこむ()()()共だ。世界の情勢と共に娯楽がインドアに集中したとはいえ、それでもネトゲというものに傾倒した廃人達だ。萌えを愛した者もいれば、腐ったものをこよなく愛した者もいる。そう、彼等は世界に誇る“HENTAI”文化を嗜む日本人でしかない。

 

 理不尽に晒されている人達がいた。そして自分達に危険はなさそうだ。()()()助ける。ただそれだけのことであり、けれど助けられた者達にとって神の所業であったのだ。苦笑いをしながら、照れを浮かべながら、“良い事”をした気持ちの良さに熱されながら、彼等は救い続けただけなのだ。

 

 彼等は何故それぞれに崇められているのだろう。複数人いたとしても、教義がわかれる理由にはならない。ただただ偉大なる神として、一括りに崇められるべきが自然な流れだろう――ならば何故か。

 

 それは――それは性癖の不一致であった。性格の不一致ではなく、性癖の不一致。しかし本能に根差すそれは、互いに譲り合いの余地を狭めてしまう程に大事なものだ。火の神、水の神、土の神、風の神、光の神、闇の神を信仰する法国民は互いに尊重し合い、認め合う。しかしそれぞれに不文律があった。

 

 かの神は一夫多妻(ハーレム)を認めない。かの神は一妻多夫(逆ハー)を認めない。かの神は同性愛(ホモォ)を認めない。かの神は少女愛好(ロリコン)を認めない。かの神は、かの神は――と、許される性癖が違うのだ。

 

 建国の際、法の整備は光の神に一任された。六人の中で唯一高等な教育を受けた者であり、オタク特有の無駄な雑学に詳しい彼女は、糞ギルドと名高い『2ch連合』とのレスバトルで負けないために法律にも明るかった。しかし“法”とはけして一人で創っていいものではなかったのだ。

 

 総務大臣、法務大臣、外務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、エロマンガ担当大臣を兼務する彼女は、忙しさか――あるいは権力に酔いしれたのか、次第に『自分を基準にして』規律を強要し始めた。

 

――光の神曰く、おねショタは純愛しか認めない。なおショタが仲間を連れてきた場合は厳罰に処す。

 

――光の神曰く、男どうしの姦通は認めない。なおヤオイ穴などという掻い潜りを行った場合は厳罰に処す。

 

――光の神曰く、女どうしの貝合わせは認めない。なおソフト百合は素晴らしいのでもっとやるように。

 

――光の神曰く、女の子が酷い目にあいすぎると抜けないので認めない。なおキメセクとシャブセは厳罰に処す。

 

 他の神は抗った。しかし鉄壁の理論武装を持つ彼女に舌戦で敵う筈もなく、法国はニッチな性癖を許されない絶望の都になりかけた。

 

 そこに一石を投じたのが火の神だ。

 

 意識してのことではない。ただ最近横暴が過ぎる光の神に対し、少しばかり嫌味を言っただけだ。趣味の書物を読み耽る彼女の背後に立ち、内容を確認して顔を顰める火の神。そこには『謎の存在によって男性からTSした少女』が、徐々に幼馴染の男性に惹かれ、最後には致してしまうというストーリーが描きなぞられていた。それはお前が決めた規律に違反しているだろうと、火の神はぼそりと呟いた。

 

『TSしたとはいえ元が男なんだから――結局のところホモでは?』

 

 キレた光の神と火の神の戦いは三日三晩続いた。禁句を口にした者に対する憤りを行動に移した光の神。日頃の鬱憤が溜まっていた火の神。両者の争いはアベリオン丘陵の一部を平らにし、地形を変えた。この聖戦で出来た土地に興った国こそ、ローブル聖王国である。

 

 この戦いによって派閥が分かれ、信者も分かれた。とはいえひとまず仲直りには至り、火の神を信仰する信者は男性どうしの姦淫が許されたのだ。

 

 それから数ヶ月――再び争いがおこった。今度は水の神が自らの性癖を我慢しきれず、その上、規範であるべき光の神が規律ギリギリの書物を読み耽っていたのだ。この戦いも嫌味という名の皮肉から始まったのは想像に難くない。そう、女どうしのネチョはアウトだと言った光の神が読んでいたのは――“生えている女性どうしの姦淫”であった。最近の横暴に我慢しきれなかった水の神は、ぼそりと呟いた。

 

『竿が二つあるんだから――とどのつまりホモでは?』

 

 キレた光の神と水の神の戦いは三日三晩続いた。禁句を口にした者に対する憤りを行動に移した光の神。日頃の鬱憤が溜まっていた水の神。両者の争いはトブの大森林の一部を湿地に変え、湖を創造した。この聖戦で出来た場所へ、後に蜥蜴人が移り住んでくるのは余談である。

 

 更に土の神、風の神と都合二つの戦いを経て、法国の信仰は六つに分かたれた。ちなみに最後まで中立を貫いた闇の神――スルシャーナを信仰する人々は、まさに“まとも”な人々である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒聖典とは法国の暗部だ。とはいっても彼等の日常が血に染まった恐ろしいものであるかといえば、まったくそんなことはない。基本的には戦いと無縁の、善良な一市民として日々を過ごす。有事の際には迅速に駆けつけるため、急な休みに理解のある職場――あるいは自営業で生計を立てている者がほとんどである。結婚している隊員も一定数在籍しており、そして闇の神スルシャーナを崇める彼等は貞操観念が強い。

 

 豪華な客室でふかふかのベッドに包まれている“時間乱流”も多分に漏れず、結婚はしていないものの身持ちは固かった。もう二十も近い年頃だというのに、幼い顔つきや低い身長のせいか良い人は見つからない。しかし人類の為に働いているのだから、そんなものは二の次だ――という言い訳で己を慰めているのが彼女だ。

 

 そんな“時間乱流”であったが、今夜はどうにも寝つきが悪い。エステのせいか、あるいは慣れない環境のせいか、体が妙に火照り、寝付けない。

 

「(薬を盛られた……なんてことはない筈。“占星千里”も“天上天下”も何も言っていなかった。メニューも食べたことがないものばかりだったけど、変なものはなかったし……なんだっけ、ウナギにスッポン……とろろ? とかガラナチョコとか……美味しかったな)」

 

 夕方ごろのエステは彼女にとって少しばかり恥ずかしかったものの、体の中の悪いものが全て抜けきったような満足感を得られた。あらゆる贅を尽くして持て成されたが、彼女にとって――神官長や漆黒聖典にとって本当に重要なところはそこではなかった。贅を尽くされたことが信用に足りたのではなく、礼を尽くされたことが信頼に足りたのだ。

 

 信頼されたいのなら、まずは相手を信用すること。それを地で行くモモンガに彼等は(ほだ)された。もちろん彼等が崇める闇の神に似ているというのもプラスに働いた。元々が悪魔やアンデッド達の王ということでマイナスのイメージを持っていただけに、そのギャップ差は好印象を助長させたのだ。

 

 だからこそ“時間乱流”は何かされたと疑ってはいないのだが――体の(うず)きは治まらない。なんとなく太腿を擦り合わせ、切なさに身を震わせる。ああ、これはいけない。これはまずいと彼女は遂に立ち上がり、水でも飲もうと灯りをつける。

 

「…あれ?」

 

 しかし部屋に備え付けられていた筈の『無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)』が見当たらない。いつの間にか回収されたのだろうかと訝しむが、そんなタイミングは無かったと首をかしげる“時間乱流”。そして飲み物が無い事実を認識してしまうと、余計に喉が渇いた。仕方なしに一円シールが貼られた猫型スリッパを履き、扉を開けて食堂の方へ向かう。

 

 諜報活動ととられてしまうだろうかという考えが一瞬だけ頭を過るが、今更だろうと首を振る。これほど明け透けに、なにも隠し立てすることなく持て成されたのだ。深夜に廊下を歩いていた程度で咎められることなどないだろうと、ぼんやりとした明るさの中でパタパタと足音を隠さず歩き続ける。程なくして食堂の扉――これもまたとんでもなく豪華だ――の前に辿り着き、中へ足を踏み入れる。

 

「…あ」

「――むぐっ!? も、申し訳ございません! お見苦しいところを…!」

 

 そこには山盛りのスパゲティを口に運ぶ一般メイド――インクリメントの姿があった。隣の椅子には本が置かれ、食事と娯楽を楽しんでいたことがうかがえる。大事な招待客の姿を認めるや否や、彼女は慌てて口元を拭って立ち上がった。部屋を案内された時の落ち着いた雰囲気を覚えていた“時間乱流”は、インクリメントが取り乱す姿を見てくすりと微笑んだ。人間に見えるが異形種(ホムンクルス)であると説明されてはいたものの、この状態を見て彼女に敵意を持てる存在などいないだろうと、小さい手でくつくつとお腹を抱えた。

 

「気にしなくていい。お水をもらえる?」

「は、はい……かしこまりました」

 

 グラスに水を注ぐインクリメントを見て、“時間乱流”は()()と溜息をついた。それは呆れや嘲りなどではなく、美貌への称賛だ。この墳墓の女性は誰も彼もが美しく、芸術品のように整っている。創られたというからには元からそうであったのだろうし、ようは彼女の創造主が面食いだっただけのこととは理解しつつも、感動を覚えずにはいられない。嫉妬するには、彼女達は美しすぎた。

 

 冷たくも美味しい水を飲み干し、インクリメントに礼を言う“時間乱流”。普段の彼女ならばそのまま部屋に帰り、ベッドに潜り込むだけだっただろう。しかし今日は――この夜だけは、この時だけは違った。体が火照る。熱を持っている。毅然としているように見えて――少し恥ずかしそうにしている、少しバツが悪そうにしている、傾城傾国の美しいメイドが目の前にいた。

 

寝ずの番(おしごと)なのに……インクリメントは悪い娘」

「あ、あう…」

「バツとして――その本を読み聞かせてほしい」

「え?」

「目が冴えて眠れないの。それ……六大神様が使っていた文字に似てる。覚えたいから、読み聞かせをしてほしい……ダメ?」

「わ、私でよろしければ喜んで!」

 

 完全に眠気が消えてしまった彼女は、インクリメントが読んでいた本を見て表紙の文字に見覚えがあることに気付いた。それはかつて六大神が使用していた文字と似通っており、知的好奇心から興味を抱いたのだ。子供のように読み聞かせをねだるのはどうかと思ったが、知らぬ言語、文字を覚えるのには適した方法だろう。

 

 食べかけの料理を片付けた後、二人連れだって客室へと戻る。ベッドの端に腰を下ろして、夜の鑑賞会が始まった。体を密着させ、本を開くインクリメント。その顔は――“上手くいった”という笑顔に満ち溢れていた。獲物の体温の上昇を確認し、(ほう)けた様に頬が朱に染まっている“時間乱流”の腰にそっと手を回す。

 

 “時間乱流”はもっと深く考えるべきだったのだろう。水差しが消えた理由を。体が火照っている理由を。完璧なメイドたるインクリメントがそう簡単に失態を犯すだろうかと。本当に寝ずの番だというのなら、誘いに乗るわけがないということを。

 

 ――本のタイトルは『メイド達のご奉仕』。ホワイトブリムの愛書の一つであり、メイド達の聖書でもある。ビクリと体を震わせ、熱い吐息を零す“時間乱流”の体温を感じながら――インクリメントは『他の娘達も上手くやってるかしら』と、首元のリボンをするりと外した。





「ワイらレベル1やから無理やり事には及べんなぁ……せや!」

というお話。
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