※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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久々にゼロ魔を読み返して二次を書きたくなったけど、あらゆるものがやり尽されてる感。


あ、今回は真面目な話だからギャグないです。


十一話

 ナザリック地下大墳墓のNPC達――彼等はビッチである。しかし定められた設定としての悪性が無くなっているかといえば、実はそうでもない。善か悪かでわけるならばビッチだが、善なるビッチか悪のビッチであるかを問えば後者の方である。

 

 彼等は会話できる存在であれば、大抵は性欲の対象にできる寛容さを持ち合わせていた。しかしどうあっても良好な関係に持ち込めない相手に出くわした時、善と悪の違いが現れる。愛し愛されることができないならば――そして愛すべきものを害するのならば“殺す”のは仕方ない。そう判断を下せるのが悪のビッチである。

 

 竜王国を良好な狩場とするビーストマン。彼等に何度も相対し何度も説得を繰り返した守護者統括は、どうあっても友好的な関係を築けないことを理解した時点で悲し気に瞳を閉じた。

 

 力に重きを置くビーストマンならば、ナザリックという勢力が圧倒的な武力を持つと知れば従う可能性はあった。しかし彼等に『人を食うな』というのは、嗜好品の一切を取りやめろと言うに等しい。更に、竜王国を食糧庫としているということは『飢えて死ね』と強制しているようなものだ。

 

 狩るに面白い獲物、舌を満足させ、腹も満たせる手軽な存在。それがビーストマンにとっての人間であり、そして必要不可欠なものであった。彼等に恭順を促すのは、死より辛い生活を強いることと同義だ。故に守護者統括――アルベドは首を振りながら、目を細めて線引きを決めた。

 

 ()()()へ来る者に死を。去るならば追わず。()()()で飼育、家畜化させているモノについては問わない。それが彼女の決めた線だ。ビーストマンという存在は、カルマ値で表すとすれば上にも下にも振れていないフラット――大抵の者が中立である。人間にとっては悪であっても、彼等にとっては単に生活においての営みでしかないからだ。

 

 人間に敵対的な存在を一々滅ぼすことなどできる筈もない。故にどこかで必ず境界を引かなければならず、アルベドにとってはこれが()()であった。

 

 マーレ、アウラ、シャルティア。広域殲滅を可能とする者を集め、竜王国の国境を不可侵のものとした。それは完全なる神の所業であり、竜王国の人々の畏れ――そして崇拝を集めるのは必然であったのだろう。ダークエルフだろうが吸血鬼だろうが、それこそ悪魔であったとしても、救ってくれるのならばそれでいい。少なくとも明日ビーストマンの腹の中にいるよりはずっといい。それ程に竜王国というのは追い詰められていたのだ。

 

 持って三年。そこまでいけば国が消えるか()()()()()()の選択を迫られることに疑いの余地はないと、竜王国の上層部はそう考えていた。だからこそ、基本的に人間に敵対的な種族たる彼等を、ナザリックの守護者達を――救いをもたらした英雄達の凱旋を歓迎したのだ。

 

 スリットが入った純白のドレスを纏い、黒い翼と白い角を持つ、この世のものとは思えない美貌の女が先頭を歩く。続くはゴシックな装いに青白い肌、口元から牙を覗かせる深窓の令嬢。そして誇らしげな顔と不安げな顔が対照的な双子のダークエルフが殿を務める。

 

 既に誰もが知っている、救国の英雄が街を歩く。両手を前にして清楚に、周囲に笑いかけつつ優雅に、腕を振って元気に、それぞれが歩を進める。しかし国民の反応はおそるおそるといった風で――歓声などは見られない。手を合わせ祈りと感謝を捧げる者はちらほらと見受けられるが、やはり人間とは違う存在に戸惑っているのだろう。

 

 けれど彼等の歩みを止める者はいない。守護者達の足が王宮に向いていても、阻む者は誰一人としていない。それは戦力的な意味で止められる者などいないという現実的な理由でもあり、いまさら自分達に害意を向けないだろうという虚ろな信頼でもあったのだろう。

 

 まばらに列をなす国民達。そしてその先に――開けた場所に、彼女はいた。竜王国の女王であり、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の系譜たる王族『ドラウディロン・オーリウクルス』が不安そうに両手を組んで、そこにいた。女王という肩書に反し、その身は年若い――というよりも“幼い”。王に相応しい意匠の高貴なドレスに身を包み――しかしその丈は非常に短い。足のほとんどが見えているそれは、幼い体ながらもある種の妖艶さを感じさせていた。そんな、ともすればアウラやマーレよりも幼く見える少女が守護者達を待ち構えていたのだ。

 

 彼我の差が一メートルといったところで、アルベドは歩みを止めた。そして後ろに続いていた守護者達も同様に止まり、大勢の国民が見ている中、数瞬が過ぎる。見知らぬ者を迎えに女王がわざわざ足を運ぶなど、普段は有り得ない。だからこそ彼女の感謝の大きさがよくわかるというものだろう。そしてアルベドが口を開こうとしたその瞬間、女王が幼い体躯を折り曲げて頭を下げた。

 

「あ、あの! わがくにをすくってくれて……ありがとうなのじゃ!」

 

 ――瞬間、守護者達は鼻血を吹いて倒れた。二人は後頭部を殴られたように突っ伏し、二人は顔面を殴られたように後ろ向きに倒れた。ついでに女王の近くにいたアダマンタイト冒険者の一人も同じように倒れ、王都の中心は静寂に包まれるのであった。

 

 ちなみに『ドラウディロン・オーリウクルス』という女王に対する各国の評価は概ね一致している。帝国の皇帝曰く、“若作りのババア”である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、帝国は蜂の巣をつついたような大騒ぎに包まれていた。ひっきりなしに皇帝のもとにあがる情報は、晴天の霹靂という言葉ですら追いつかないほど有り得ざるものだ。それはかつて《伝言/メッセージ》によって滅んだ国のように、王国が情報戦という戦争を仕掛けてきているのかと錯覚するほどだ。

 

「ふん……どう思う?」

「さて、どうでしょうな。しかしあらゆる物理的手段、魔法的手段で確認しても『真実』であるという結果が残るのみ。ならば――」

「真実、か。しかしあの怪物王女、いったいどんな手を使ったんだ? 貴族を粛清する武力なんぞ持っていなかっただろうに。そもそも“即位”とはなんの冗談だ。父親はどうなった? 兄は? 遂に悪魔と契約でもしたのか? 戴冠式への招待状などと、戦争の時期が近いと理解しているのか――まぁ理解しているんだろうが。ならばどういう意図があるかだが……まったく、ますますもって気味の悪い…」

 

 執務室でバハルス帝国皇帝『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』がぶつぶつと愚痴を零す。傍で肩を竦めてそれを聞き流しているのは、主席宮廷魔術師である『フールーダ・パラダイン』。どちらも帝国における柱とでもいうような人物であり、それ故に先日から入ってくる王国の情報の波に辟易としていた。

 

「失礼致します!」

「…今度はなんだ?」

「は、こちらをご覧ください」

「…税率の引き下げに関税の撤廃だと? 新しい政策を打ち出すのはともかく、なんだこれは? 残った貴族共が納得する訳が――いやまて、まさか」

「王国全土が“王都直轄領”となっております。貴族位の撤廃、そしてゆくゆくは民間からの官位選出も視野に入れているとのことです。農地改革……法整備、犯罪組織の撲滅、あらゆる改革を同時に進めているように思えます」

「――有り得ん。血を流さずしてこのような大規模な改革……貴族(ゴミ)とその私兵はどこに消えた? そもそも腐った貴族共といえど、領地を治めるための能力が無いという訳ではない。管理能力を持った者が()()()()()わけでなし、今あの王女は王国をどうやって管理している? 俺が粛清をした際、どれだけ文官の不足に悩まされたと思っているんだ! 王国は今どれだけ混乱している!?」

「そ、それが…」

 

 王国の現状。それはまさに変革の真っただ中で――しかし国民からは不満の声が全く上がらず、暴動どころか争いの兆しすら見えていない。税率は一気に引き下げられ、関税はゼロになったのだから当然ともいえるだろう。商人の動きが活発化し、国民の財布の紐も緩み始めている。なにより貴族の横暴というものが消滅し、蔓延する理不尽は見る影もない。人間というのは自分にデメリットがなく、メリットを享受できるのならば些細な変化など二の次になる。

 

 元々が人気ある第三王女だ。それが王となり、生活が豊かになるのならば否定の声などあがろう筈もない。貴族領を新たに管理する者は()()()()()()()とでもいうように貯めこんだ財貨などを放出しており、どの地域においても特需に沸いている状態だ。王国全土に富が遍在し始めているといってもいいだろう。

 

 異常といえるのはこれが全て同時に行われている点だ。魔法があるとはいえ、情報の伝達速度は非常に遅い世界だ。それが魔法後進国である王国ならば尚更だろう。だというのにまるで各地で情報が共有されているかのようにスムーズに事が行われ、混乱なく改革が進んでいる。ジルクニフからすれば不気味などという言葉を超えた、恐怖に近い感覚を覚えるほどだ。

 

「法国が王女を全面的に支援したか…? いや、それでもこれ程のことを成せるとは思えん。人知を超えた何かが動いているという方がまだしっくりくるな」

「まさに! その通りで御座います!」

「――っ!? なっ…!」

「何者――げぶぅ!? な、は……じゅ、じゅう位階…? か、はっ…!」

 

 報告を終えた部下が部屋を後にし、またも増えた書類に頭を抱えていたジルクニフ。そして彼に不憫そうな目を向けて部屋を後にしようとしたフールーダは、唐突に姿を現した“山羊頭の異形”に目を剥いた。その姿ではなく、その魔力を見てだ。魔力量を可視化し、使用できる位階を推測できるフールーダからすれば、侵入者の位階は前人未到の位階――十位階に到達していることを確信させられた。

 

 そしてそんな彼の姿と零れた呟きを耳にして、ジルクニフは逆に冷静になった。十位階を使用できる化け物となれば――つまりフールーダをしてどうしようもない怪物が現れたとなれば、自分に打てる手は“交渉”をおいて他にない。帝国という武力が通じないのならば、己の知力を頼るのは彼にとって当然といえた。称えるべきはジルクニフの胆力、そして頭の回転の速さだろう。

 

 ものの数秒で状況を理解した。十位階の魔法を使用する――正しく埒外の武力だ。つまり王国の変革に間違いなく絡んでいる。何故ここにいるかはともかく、今自分が死んでいないということは話し合う余地がある……というより話し合うためにきた可能性の方が高いだろう。驚愕を飲み込んで、それだけの思考を瞬時にしてみせたのだ。

 

「さて、どちら様かな? 謁見の予定は聞いていないが」

「これは失礼を! (わたくし)はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』が拠点、ナザリック地下大墳墓の宝物殿領域守護者――ドッペルゲンガーの『パンドラズ・アクター』と申します! 以後お見知りおきを」

「――!」

 

 名乗りと共に山羊頭の異形の姿がぐにゃりと変化する。陶器の様な顔に三つの丸い穴、歪な手。全体的に細長い印象を抱かせ、そして次の瞬間には軍服を纏っていた。同時に強い魔力の波動が掻き消え、フールーダが呆けた様に口を空けた。

 

「…本来の姿ではない訪問は失礼かとも思いましたが、この方が状況を理解し易いかと考えました――申し訳ありません」

「いや、確かにそうだろうな。フールーダの反応がなによりの指針になったのは確かだ……謝罪の必要はないとも」

「有難く」

「しかしドッペルゲンガー……か。なにぶん別の種族には詳しくなくてね。よければどういったものか教えてくれないか?」

「平たく申し上げますと『他人の姿と能力を真似る異形種』で御座います! もちろん真似られる数と精度は個体によって大きく隔たりがありますが」

「そ、そうか…」

 

 じわりと汗をかきながら頷くジルクニフ。目の前の異形の言葉が本当であれば、この後に最悪の展開が待っていることが予想されたからだ。すなわち皇帝への成り代わり。周辺諸国とは違い、帝国は皇帝に権力が一極集中しているのだ。自分を意のままに操ることができるならば、それは帝国を乗っ取ったも同じだろう。そしてドッペルゲンガーという種族は姿と能力を真似ることができるのだから――ジルクニフの背中から冷や汗が流れ落ちる。

 

「――何か勘違いをされているご様子。どうか落ち着…」

「パンドラズ・アクター様!」

「…? 如何なさいましたか、フールーダ・パラダイン殿」

「私を! 私めを弟子にしていただきたいのです! どうか、どうか! 魔導の深淵のその先を――知りたいのです! そのためならば全てを捧げる覚悟があります!」

 

 狂態を晒す老人に少し驚くパンドラズ・アクター。魔導の探求に多大な興味を示していると前情報により把握はしていたが、まさかこれほどとは、と。さっさと回答を示さねば、足元に這いつくばって靴を舐めるような勢いだ。

 

「…ふむ。であれば、私よりも適任の方がナザリック地下大墳墓には幾人かいます。弟子入りの件を伝えることはお約束致しますので、皇帝陛下とのお話を優先させていただいてもよろしいでしょうか」

「――は……な、何人も…?」

「ええ。ナザリック最強の魔法詠唱者たるウルベルト様の御姿を取れるとはいえ――私のそれは所詮真似事にすぎません。精々八割……ウルベルト様やたっち・みー様に至ってはそれ以下の実力しか発揮できませんので」

「はは……は……ははは! なんと! なんと素晴らしい! 神の如き位階の使い手が幾人も! ふはははは!」

 

 狂ったように笑うフールーダを見て少しばかり引いたパンドラズ・アクターであったが、本来の目的を思い出してジルクニフの方へ向き直る。そこには理知的な瞳を取り戻して、交渉に臨もうとする皇帝の姿があった。優秀な人間だ、と内心で感心しながら彼は口を開いた。

 

「失礼致しました。本題に入らせていただいても?」

「ああ、頼む。こちらこそフールーダが失礼をした……魔法のこととなると見境がなくなることがあってな」

「では! まずは我々の組織の規模と理念から――」

 

 王国にはデミウルゴスが。竜王国にはアルベドが。そして帝国にはパンドラズ・アクターが。三者三様、やり方は異なれど変化を促していく。それは主が望む『世界の変容』でもあり、自分達が望む『国家の変態』でもある。

 

 六人の神達とは違う。八人の王達とは違う。彼等は彼等なりのやり方で、共にこの世界と歩んでいくと決めたのだ。足元から聞こえるペロペロという音を無視しつつ、パンドラズ・アクターは噓偽りなく――そして友と接するかのように、皇帝と言葉を交わすのであった。




『変態の国家』じゃないからね。間違えないように。
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