※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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一話

 ビッチとはなにか。ありとあらゆる側面からその単語を検証した時、人類は平和の意味を知るだろう。ビッチとは平和なのだ。男も女も関係なく、粗末な“モノ”も御立派な“モノ”も関係なく、慎ましい胸も豊満な胸も関係なく、あらゆるものを愛するものがビッチなのだ。デカいブツにしか興味がないビッチや持続力にしか興味がないビッチなどは限りなく“似非”である。真のビッチとは似て非なるものだ。

 

 本当にビッチ足りえれば、極悪のカルマ値だろうが生まれそのものが悪性であろうが何も意味をなさない。ビッチとは平和であり愛である。暴力などもっての他――そういうプレイ以外――であり、ビッチが敵対するとすれば、愛のない暴力が(いたずら)に振るわれる時のみだ。

 

「故にわらわがモモンガ様の側付きをつとめんす」

「故に――の意味が理解できない。私は一人で冒険者をすると言った筈だ、シャルティアよ」

「ああ、モモンガ様……愛の権化たる至高の御方。ビッチの頂点たる貴方様でも――」

「ビッチの頂点!?」

「――貴方様でも、それを理解できぬ非ビッチはそこらに――」

「非ビッチってなに!?」

「――そこらにいると存じんす。故にわらわが警護と夜伽と性欲処理とシモのお世話を――」

「全部一緒なんですけど!? …あ、警護は違うか。いや、最後も微妙に……ってそうじゃなくて!」

「さぁ、行きんしょうモモンガ様。ご心配なさらずともこのシャルティア・ブラッドフォールン、至高の御方の嗜好を全て受け止める覚悟がございます」

「えぇ…」

 

 遂にカルネ村までナザリックに浸食され始めた今日この頃、安息の地を求めてモモンガは旅立った。王国の要所『エ・ランテル』で冒険者として登録するために、書置きを残して飛び出したのだ。しかし彼の行き当たりばったりなやり方でナザリックの頭脳達を欺けるわけもなく、一人寂しく歩いている姿をあっけなく捕捉された。そしてナザリックでの激しい闘争の果てにシャルティアがモモンガの警護を勝ち取り、今に至る。

 

「いや、しかしお前は吸血鬼だ。街の中へ容易には入れないから着いてくるんじゃない」

「アンデッドの気配を偽装するアイテムを用意していんす」

「だが牙が見えると正体がバレる可能性がある。街の中へ容易には入れないから着いてこないでください」

「先程ヤスリで削りんした」

「削っ!? い、いやしかし……瞳の色でバレる可能性もある。街の中へ容易には入れないと思いますので着いてこないでくださいお願いします」

「では目を抉りんす。お見苦しくありんしょうが、御勘弁を――」

「待て待て待て! わかった……シャルティア、お前に私の警護を命ずる。くれぐれも不用意なことをするなよ? ほんとに……ほんとに」

「拝命致しんした!」

 

 蕩けるような笑顔で片膝をつくシャルティアに、モモンガは果てしない不安を覚えたが気合で無視をした。誰が悪いかといえば、最大の要因は設定を書き換えてしまった自分なのだから。程なくして街が見え、いくつかのやり取りを無難に終えて彼等は街の中へ足を踏み入れた。

 

 冒険者組合で登録をし、安っぽいプレートを首にかける。どんな人間であってもまずは一番下の階級――銅級から始めるのが習わしだ。信用というものは積み重ねが大事だと、モモンガもリアルでの経験から嫌というほどに思い知っている。特に不満なども漏らさず、まずは拠点の確保だと宿を探し始めた。

 

 一瞬だけ陳腐なお城の様なピンク色の建物が頭に浮かんだが、(かぶり)を振ってそれを払う。そんなところに入ってしまえば、翌朝にはきっと骨も残らない。骨しかない彼には想像したくもない結末である。横のゴシックロリータな少女を見てゴクリと喉を鳴らす。

 

 宿屋にはランクがあり、駆け出しの底辺御用達の店から、上級の冒険者や商人が滞在するものまで様々だ。底辺クラスには相応に柄の悪いゴロツキ紛いも多く、モモンガはこの状況で色々と詮索をされて誤魔化せる自信がなかった。全身鎧の大柄な男と、傾国の美女とすらいえるドレスの少女の二人組。どう足掻いても訳アリの出で立ちだろう。妙な詮索や下種の勘繰りとは無縁の、上級の宿を確保するのが理想だ。

 

 しかし現実は非情である。彼には金が無かった。陽も落ちかけているこの時間、選択肢はどんどんと狭まっていたが、モモンガに思いつく案といえば誰でも思いつくようなもの――持ち物を売るといったことくらいだ。しかしそれはそれで、不用意にユグドラシル産のアイテムを売り飛ばして不審がられてはかなわない。そう焦っている内に周囲の店も閉まりはじめ、モモンガは結局一番問題が無さそうな最下級の回復ポーションを売ることを決意した。この程度であれば、流石に問題はないだろうと考えて。

 

「…すまない、まだやっているだろうか」

「うん? ああ、もう閉めるところだよ。じっくり見たいならまた明日にしとくれ」

「あ、ああ、いやその…」

 

 道行く人に聞いたポーションを扱う店に足を運んだモモンガは、ちょうど店仕舞いだったのか片付けを始めている老婆への返答に悩んだ。この店仕舞い寸前の老婆に対し、下級のポーションを一つぽっち取り出して売却する――少しばかり恥ずかしい行為だ。ガム一つに万札を出すような、閉店一分前のピザ屋に宅配を頼むような、居酒屋で酒を注文しないような妙な罪悪感が彼を襲う。

 

「じ、実はポーションをいっぽ――ごほんっ、いや、一ダース! 一ダース買い取ってほしいのだが」

「今どっから出したんだい?」

「えっ。い、いや最初から持っていただろう?」

「…まあそれはいいとしても、ポーションを一ダース? 劣化したものを売りつけようって魂胆じゃないだろうねえ」

「…まさか、そんなつもりはないとも(劣化ってなんだおい。なにか選択肢をミスした感がひしひしと…)」

「まあ見ればわかるさね――っ!?」

 

 ゴトリとカウンターに置かれたポーションを見て息をのむ店主――『リイジー・バレアレ』。このエ・ランテル最高の薬師であり、それどころか王国中を見渡してもこの老婆のポーションを超える品質のものは作れないとされている、街や国単位で重用される偉大な人物だ。

 

 彼女がモモンガの取り出したポーションを見て驚愕したのには理由がある。通常のポーションが淡い青色をしているのに比べ、カウンターに置かれたポーションは真紅であったからだ。それはポーションの完成系。『神の血』とすら呼ばれる劣化しない伝説のポーション。薬師が目指す最高峰がそこにあったからだ。

 

 故に彼女は考える。目の前の男がこの時間にこのポーションを出した理由を。これが十把一絡げのみすぼらしい冒険者であればともかく、目の前の二人といえば立派な全身鎧に貴族の令嬢然とした姿だ。紅いポーションの存在を加味すれば、銅級のプレートをぶら下げていることすら何らかの意味があると穿ってしまうのは当然ともいえた。

 

「…なにが望みだい?」

「えっ?(いや、お金だけど…)」

「〈道具鑑定〉――ふ、ふふ……ああ! 間違いなくこれは『神の血』! 私らの目指すポーションの最終形だとも! このリイジー・バレアレのもとにこれを持ってきたのは理由があるんだろう?」

「神のチン……でありんすか? それはモモンガ様の御立派とナニか関係が…?」

「シャルティア、黙れ」

 

 語気も荒く詰め寄ってくるリイジーに、モモンガの内心は混乱しきりであった。ナザリックの者が使用することなどまず有り得ない最下級ポーション。そんなものが伝説と言われては動揺するのも仕方ないだろう。

 

 とはいえ彼も彼で少し勘違いしており、リイジーが驚いたのは“劣化しない”という部分のみである。ポーションの効用そのものは彼女でも簡単に作成できる程度だ。しかしどちらにしても答えずに帰るという選択肢はなさそうで、混乱する頭で最適解を導き出す。自分で答えを出せないのならば、相手に出させればいい。モモンガこと鈴木悟は、投げっぱなしが得意なのだ。きっと配下がビッチでさえなければ『デミウルゴス、みんなに話しておやりなさい』というやり方が彼の得意技になっていたことだろう。

 

「…それはお前次第だな、リイジー・バレアレよ。お前はこれのために何を差し出す? このポーションを――自身が作成できるとすれば何を差し出すのだ」

「…っ、全てじゃ! 老い先短い人生の全てを捧げても、真なる神の血にはその価値がある!」

「ほう…(即答!?)」

「――いや。孫だけは……孫以外の全ては、じゃな。それ以外ならば家も資産も、何もかもを差し出す覚悟がある」

「体もでありんすか?」

「黙れって言わなかったっけ!?」

「体もじゃ!」

「いらんわ!」

 

 ぜえぜえとカウンターに身を突っ伏し、自分が引き起こした事態に苛まれるモモンガ。宿の代金を稼ごうとしただけだというのに、何故老婆の介護を引き受けねばならないのか。頭をヘルム越しに掻きながら、ため息をついてリイジーに指示を出す。

 

「とりあえず……そうだな。ひとまず“これ”はお前のものとしよう。正規の値段で買い取ってくれ。そしてその後は――カルネ村へ向かえ」

「カルネ村?」

「ああ。そこを一時的な拠点としているのでな。ポーション作成に必要な素材と器具はこちらで用意しよう。お前の求める全てがそこにある……言わずとも解るだろうが、他言無用だ。怪しまれぬよう、そして誰もが納得できるよう自然にそこへ移住せよ。私は拙速を好まない。多少時間がかかろうとも、後を濁さずこの街を去ってくれ」

「…うむ、わかった。――ンフィーレアや!」

 

 リイジーは別の部屋で作業をしている筈の孫――『ンフィーレア・バレアレ』を大声で呼びつける。この街を離れるというだけでも説明の義務はあるが、そうでなくとも“カルネ村に移住する理由”として、ンフィーレアは格好の餌である。本人にとっても悪くはない理由である上に、薬師としても自分と似た気質を持つ孫だ。否定の言葉が出ることはないと彼女は断言できる。

 

「どうしたのおばあちゃん……あ、お客様ですか? いらっしゃいませ」

「ンフィーレアや。急で済まないがカルネ村へ移住することになった」

「…へ?」

「確かエンリ・エモットと言ったかい。気になっている娘がいるんだろう?」

 

 孫の結婚をダシにカルネ村へ移住することにしたリイジー。それでも都市長などには強く引き留められるだろうが、構うものかと嗤う。人生には目標というものが不可欠だ。先程までの彼女にとって目標とは『孫に全てを継承する』ことであったが、言ってしまえばそれは“諦め”だ。自分の残された時間では高みへ辿り着くことができないからこそ、次代に希望を託すだけのことだった。

 

 しかし己の手で夢をつかみ取ることができるというならば、彼女は悪魔に魂を売ることすら厭わない。それが薬師の最高峰たる彼女の矜持であった。

 

「これからよろしく頼むよ――いや、よろしくお願いします」

「う、うむ……こちらこそ」

 

 怪しげに嗤う老婆。顔を真っ赤にしている少年に、どうしてこうなるんだと瞠目するオーバーロード。マーレとはタイプの違うショタっ子の存在に舌なめずりをする吸血鬼。金貨という当初の目的は果たされたものの、得たものと削られた精神が同価値なのかは不明である。兎にも角にも、魔境と化したカルネ村へ新たな住人が増えた瞬間の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 法国の六色聖典の一つ――漆黒聖典第九席次『クレマンティーヌ』は、道とも言えない道をひたすらに走っていた。その理由といえば先程の御立派な肩書“漆黒聖典”という言葉に『元』という単語が付け足されたからに他ならない。彼女は自らが所属していた聖典を――法国を見限り、抜け出したのだ。それどころか国が誇る秘宝を持ち出し、一人の少女を廃人にしてまで脱走を図った。

 

 国の理不尽や横暴に耐えかねて逃走を選んだというならば同情の余地はあるだろうが、彼女にとってこれは単なる自分本位。彼女の事情を聞く人が聞けばあるいは同情する可能性もあるだろうが、少なくともクレマンティーヌは自分を可哀想だなどと感じたことはない。歪んだ理由が環境にあったとしても、後悔など微塵もない。ただただ殺し、殺しつくし、強くなり、兄を殺すことができれば彼女は満足だった。

 

 しかし今はそれすら危ういことを彼女は実感していた。他の聖典など、自分が所属していた“漆黒”からすれば大したことはないと侮っていたのだ。それは確かな真実でもあったが、それでも数とは絶対のものである。ただの雑魚であっても、徒党を組めば強大な力となる。

 

 国の秘宝――“叡者の額冠”を取り戻すために、聖典の一色“風花聖典”が追っ手をかけたのはいい。それは当然の帰結であり、彼女も予想はしていた。彼等が束になってかかってきても彼女は生き残る自信があった。しかし散発的に奇襲をかけてくる追っ手に対しては碌な休みもとれず、彼等の情報収集能力にかかっては追跡を誤魔化すことも難しい。

 

 じわりじわりと獲物を弱らせていく手段は、彼女をして見事だと唸らせた。兎にも角にも休まねば死が近付くばかりだ。体力が限りなくゼロに近付いた時点で、最大の奇襲が行われることは想像に難くない。故に彼女は自分が現在所属する組織『ズーラーノーン』の同僚を利用しようと画策していた。組織の幹部は『高弟』と呼ばれ、横の繋がりはたいしてないが、それぞれの目的はある程度共有されている。

 

 自らも高弟である彼女は、同じ高弟であるカジット・デイル・バダンテールがエ・ランテルで怪しげな儀式を行うことを知っていた。その儀式に叡者の額冠があれば大幅な時間の短縮ができることも理解しており、その儀式によって起きる混乱は追っ手を撒くのに非常に都合が良いと確信していた。

 

 

「っ…! 待てよ糞がぁ! ――ちっ」

 

 岩の陰に隠れて睡眠を取ろうとし、遠方から飛ぶ弓矢に対し素晴らしい超反応を見せるクレマンティーヌ。魔物が跋扈する場所ならば逆に追っ手も襲い辛いだろうと考え、街を離れてから休憩を取っていた彼女であったが、やはり手は緩められない。下手人を追って殺すのは容易いが、それに使う体力を考慮して立ち止まる。殺したところでまた新たに追加されるだけだと考えれば、徒労としかいえないこともその行動に拍車をかけた。

 

 どちらにしても程なくエ・ランテルに到着することを思えば、少しぐらいの疲労は推して進むべきだろう。街の中では下手に騒ぎを起こすことはできず、上手くいけばズーラーノーンの拠点に隠れることもできる。風花聖典の調査能力を考えれば秘密の拠点といえども暴かれるだろうが、多少の時間を稼ぐことができれば彼女にとって問題はない。少ない体力と少しばかりの傷にイラつきながら、彼女は強行軍を開始した。

 

 歩き続けること数時間。後ろだけではなく時折前方からも奇襲が行われるため、単純に高速で走って撒くという方法は使えない。情報と人海戦術を駆使したやり方は、やはり法国という国の強大さが窺える。せめて《メッセージ/伝言》を阻害する手段さえあればもう少し攪乱はできるというのに、と歯噛みするクレマンティーヌ。

 

 《メッセージ/伝言》の魔法は完全に信用できないというのが各国共通の認識であるが、それはそれとして使用されないという訳ではない。対策はいくらでもあり、少なくともこういったキツネ狩りにおいては非常に有用な手段となる。相手が生粋の戦士だというならば尚更だ。通信を傍受したり妨害する手段を持ち合わせていないならば、これほど扱いやすい獲物もない。

 

 陽が落ち、周囲が夜闇に溶けた頃クレマンティーヌは遠目に灯りを見つけた。街の灯りではなく、冒険者などが焚火を使用する際によく見るぼんやりとした明るさだ。彼女はにいと口元を吊り上げる。流儀には反するが、冒険者であれば一時的に取り入ることも視野に入れて近付いていく。

 

 もし友好的な冒険者であれば、温かい食事に見張りを伴った睡眠が取れる可能性がある。それなりに金貨の持ち合わせもあることを考えれば、それをちらつかせて一晩を凌ぐこともできるだろう。冒険者に男が多いことを考えれば女としての魅力を使ってもいい。とにかく現状では体力の回復が彼女にとって最優先だった。

 

 有事には風花聖典への肉盾にもできるだろう。ありがたい邂逅だ、と彼女は人の良い笑みを浮かべて灯りへ近づいていった。もし翌朝まで休むことができたならば、ハンティングトロフィーたる“冒険者の遺品”が増えることも、彼女の暗い笑みの理由の一つだ。

 

 食事はもう終えたのだろうか、四人の横たわる影と見張りらしき二人の影が見える。あまり冒険者に似つかわしくない小柄な見張りだが、もし女性ならば尚更に好都合だろう。女性の冒険者は仲間でなくとも助け合いの精神が強い場合が多い。手を振りながら敵意がないことを示し、灯りの先に到着したクレマンティーヌが見たものは――

 

「た、助けてくださいー!!」

「ニニャ、待ちなんし……おや? こな場所に似合わぬ華が咲いていんす。神様からのご褒美かしら」

 

 ――服装を乱し首筋を舐められながら這いずってくる少年のような少女と、その上に伸し掛かる、野宿には全く似つかわしくないドレスを纏った美少女であった

 




モモンガ「俺は何も見てない聞いてない知らない知らないごめんニニャ」

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