※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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※ちょっとエロい表現が出てきます。ちょっとだけね。ちょっとだけ。


二話

 モモンガとシャルティアのチーム名『ソナントゥ・マーク・ヒッチ』――通称『SMH』が『漆黒の剣』に声をかけられたのは、冒険者組合でのことだ。誘蛾灯に引き寄せられた蛾の如く、シャルティアの美貌に吸い込まれたルクルット・ボルブが彼等に声をかけてきたことに端を発する。

 

 熱く愛を囁く彼に対し、シャルティアは歪んだ笑みと共に当然のようにそれを受け入れた。断られることを前提にお調子者として玉砕することを常としていたルクルットは、そんな望外の幸運に身を固まらせる。『え? え?』と首を振り辺りを見回す彼は、外見に反して微妙に童貞臭さが漂っていた。そしてそんな彼を後ろから凝視する三人の仲間達。

 

 ダイン・ウッドワンダー、ペテル・モーク、ニニャの三人。ここにルクルットを加えて四人の男性パーティが『漆黒の剣』である――というのが世間一般の認識だ。実のところニニャの正体は女性であり、それを他の三人にも隠しているのだ。しかしバレていないと思っているのは本人のみであり、他の仲間は自ら話してくれるのを待っている状態といったところだ。そもそも日常の殆どを一緒に過ごしていて性別に気が付かない訳もない。そんな馬鹿が通じるのは、ペロロンチーノがこよなく愛する古き良きエロゲーの世界だけである。

 

 ――そしてそんなニニャの軽蔑の視線が、ルクルットを突き刺していた。会ったばかりの女性と爛れた関係になるというのは、性欲の強さを想起させる行為だ。姉を貴族の愛玩物として貴族に連れていかれた彼女にとって、たとえ両者が同意の上だったとしても、どうしようもなく軽薄に映ってしまうのだ。もちろん理性では問題ないと判断していても、湧き上がる嫌悪感は自分では抑えられないものだ。

 

 ルクルットはレンジャーの職業だけあって、人の視線には敏感である。ニニャの視線の意味をしかと理解した彼は、このまま“致してしまう”と、そのままチームが崩壊するだろうと確信を抱いた。どちらにしても、ルクルットは言動や外見に反して意外と身持ちが固い。本気で惚れたのであれば何度も迫ることはあるだろうが、いくら目の前の少女が有り得ざる美しさを持っていようとも、それだけでベッドにダイブするような男ではないのだ。

 

 血の涙を流しながらシャルティアに謝罪して離れていくルクルットに、モモンガは自然と敬礼をしていた。それは地獄の蜘蛛の糸に絡められる直前で回避した幸運への畏敬か、美少女にオーケーサインを出されても我慢できた自制心への尊敬か、とにかくモモンガはルクルット・ボルブという人間に漢を見た。

 

 そんなよくわからない縁もあり、彼等はエ・ランテル近郊にて合同で魔物退治の依頼を請け負うこととなった。依頼とはいってもこれは常時出ているものであり、仕事の無い冒険者の糊口を凌ぐための避難措置といった側面が強い。しかし魔物を倒す経験が積め、必要な部位を持ち帰れば金になるというのだから、冒険者はこれを発案した黄金の姫に足を向けて寝られないというものだ。

 

 合同で狩りをするにあたって『漆黒の剣』が驚愕したのは言うまでもない。モモンガはシャルティアの残念ぶりにばかり気を取られ、位階の制限を課すことをすっかり忘れていた。その結果が彼女による十位階魔法の行使であり、『漆黒の剣』はその詳細まで理解できずとも、彼等が既存の冒険者の枠に収まるような存在ではないと感じていた。

 

 しかし彼等の反応は畏れではなく憧れであった。特に魔法詠唱者であるニニャの、シャルティアに対する憧憬は群を抜いていた。魔力系と神官系という違いはあれど、その尋常ならざる力は彼女を感動に震わせた。姉を取り戻すために力はいくらあっても足りない。憧れと羨望は当然ともいえた。

 

 子犬のように感情を露にするニニャに、シャルティアは聖母のような笑みで会話に付き合った。強くなるための質問――彼女は元から強いのであまり意味は無かったが――や、逆にニニャの方がこの世界の一般常識などを教えたりすることもあった。強さはともかくとして、その美貌や衣装は一般とは程遠いのだ。庶民のいろはを知らなくとも不自然ではなかったというのが大きい。

 

 モモンガは彼女の存在に初めて感謝した。“常識を問う”というのは、言う程に簡単ではないのだ。見るからに強い戦士が『武技ってなに?』などと宣えば奇異この上ない。社会を生きていく上で必要なことについて小首を傾げながら問い続けるシャルティアは、今の彼にとって女神のようであった。

 

 最初の戦闘以降、シャルティアは後衛に徹した。それはモモンガの見せ場をつくるためともいえるし、単純に彼女が魔法を放てば必要部位ごと消し炭になるからだ。そして彼等がどれだけ強かろうとも、全てを任せてしまうような信義にもとる行為をよしとしない『漆黒の剣』の清廉さもあった。

 

 狩りを始めて数時間。日もとっぷりと暮れ、彼等は夜営の準備を始める。食事の時間でも話に花を咲かせる少女二人を見て、モモンガは滂沱の涙を流していた。目は無いが。

 

 これがあのシャルティアなのかと。下着が乾く暇がござりんせんなどと言っていた変態なのかと。こいつだけは俺のせいじゃなくペロロンチーノのせいではないのかと疑っていた、あのビッチなのかと。目頭を押さえながら感動に打ち震える彼に対し、色々と勘違いをする面々であったが概ね関係性は良好といったところだろう。

 

 男四人が気を使って見張りをニニャとシャルティアに任せたのは、そういう事情もあってのことだった。すぐに眠りにつけることも冒険者としての技能の一つであり、アンデッドであるモモンガ以外は早々に意識を落とした。見張りの交代までの数時間を寝転がっているだけというのは苦痛であったが、二人の邪魔をするのも悪いかと彼は言葉を発さず彼女達の会話に聞き入っていた。

 

 ――しかし数分後には耳を抑えて狸寝入りをしていた。耳は無いが。

 

「はぁ――ニニャはわらわの知らないことを沢山知っていんすねぇ」

「あはは……くだらないことばっかりですけどね。――それに魔法に関してはシャルティアの爪先にも届いてないじゃないですか」

「ああ、そう口を尖らせないでおくんなまし。せっかくの可愛い顔が台無しでありんすぇ」

「か、可愛いって……からかわないでくださいよ。僕も男なんですから」

「…くひゅっ」

 

 純朴といった顔立ちで、短髪にしているニニャ。服装も相まって確かに男に見えるとはいえ――実際の性別をシャルティアに気付かれない筈もない。手頃な岩に並んで座っている二人であったが、一方がすす(・・)と距離を詰め寄る。

 

「ちょ、シャ、シャルっ!?」

「だぁいじょうぶでありんす。天井の染みでも数えてるうちに終わりんしょう」

「星しか見えないよ!?」

「数え切れぬ星を数えなんし。月が落ちても陽が昇りんしても、見えようとも見えぬとも、変わらぬものはありんしょう。こな夜こそ切れぬ瞬き――」

「ひうぅっ!? た、助けっ…!」

「――ニニャ、待ちなんし……おや? こな場所に似合わぬ華が咲いていんす。神様からのご褒美かしら」

 

 首筋から頬に舌を這いずらせ、そのまま耳を(ねぶ)るシャルティア。外からではなく、耳の内より聞こえるぬちゅり、ぐぷりとした粘性の音にニニャは身を震わせる。服の隙間からねじ込まれた白魚のような指が彼女の背をつつ(・・)となぞり、それに反応するかのようにビクリと体が跳ねた。声にならない声が掠れたように漏れ、宵闇に溶けて消える。開いたままの口腔をもう一方の指が動き回り、別の生物のように内部を蹂躙し始めた。

 

 その間も耳を犯す舌の感触はやまず、ぴちゃぴちゃと響く音と口内を愛撫する指の感触に、彼女は星々が瞬く月影の下――達した。息を荒げて脱力するニニャ。そしてその一部始終を見ていたのが、ご存じクレマンティーヌその人である。

 

「えーと……邪魔しちゃった? ごめんねー」

「合縁奇縁は多生の縁、ぬしとの出会いもまた喜ぶべきものでありんすの。(えん)がりんして、よしめくかたは好かぬとは言いんせんが――くふ、存外に初心(うぶ)なのかしら?」

「…っ!」

 

 生娘でもあるまいし、とクレマンティーヌは努めて冷静に少女へ声をかけた。しかし暗がりでも昼間と変わらぬ視界を持つシャルティアからすれば、ほんの少し頬に朱が差しているのがよく見えた。

 

 クレマンティーヌは義務的なそれ(・・)しか知らない。愛を感じるようなそれ(・・)を知らない。増してや女同士の秘め事など無縁だ。執拗な責めで幸せそうに痙攣している少女など見たこともない。拷問を目の当たりにしても動じない自信ならば彼女にもあったが、これに関しては少し勝手が違ったようだ。

 

「う、ううんっ! …む? シャルティアよ、何かあったのか?」

「あい、モモンガ様。この素晴らしい露出を見てくれなんし。これはもう誘っていると考えて問題ありんせんわぇ」

「うおぉっ!? はっ? ちょ、え、な、なんでっ!?」

 

 知らぬ誰かが現れたとなればモモンガも無視はできず、不承不承に狸寝入りをやめて身を起こす。その挙動にほんの一瞬――刹那としかいえない僅かな時間、気を取られたクレマンティーヌ。瞼が閉じてから開くまでのそんな時間で、黒い外套を剥ぎ取られていた事実に驚愕を隠せない。

 

 動きの一切が感知できなかったのだ。羞恥と呆れで気が緩んでいたとはいえ、有り得ない事態に混乱をきたす。一方モモンガはといえば、またもや新たなビッチが出現したのかと戦慄していた。黒いマントの下には下着同然のビキニアーマーとくれば、彼の常識に照らし合わせて考えるならば紛うことなきビッチである。

 しかし目のやり場に困ってしまいそうな胸の部分に――冒険者の証たるプレートが無数に詰められていることに気付く。

 

「…ん? お前、その胸の――……それは、冒険者プレートか?」

「っ! ちっ……あーあ、予定へんこー。なんかよくわかんないけど、全員ドスっと穴だらけにしてぶべらっ!?」

「くふ、なんて可愛らしくありんしょうか。暗がりで足元がよく見えんせんのねぇ……わらわが優しく介抱してあげましょうぅぅ」

「ひっ!?」

「ひぃっ!?」

 

 自分の犯罪の証拠が明るみに出てしまったため、懐柔策を諦めて皆殺しを選択したクレマンティーヌ。爆発的な加速で地を駆け抜け――る前に脛を思い切り蹴り上げられ、したたかに体を地面に打ち付けられる。足元にうずくまる彼女を心配そうに抱き起すモモンガであったが、舌なめずりをして迫りくるシャルティアに対し悲鳴をあげる。クレマンティーヌもようやく彼我の実力差に気付き、同様に悲鳴を上げた。怯えるように抱きしめあう二人は無力な子犬のようだ。

 

「…っ、ま、待て! 命令だシャルティア! “待て”!」

「――はい、モモンガ様」

「…え? 止まった……の…?」

「…ふぅ」

 

 絶体絶命の事態に陥ったモモンガは、最終手段である“命令”を行使した。どうにも暴走しがちな配下達であったが、どれだけのビッチであろうとも忠誠心はそれを上回る。自分がやらかしてしまった設定ミスだけに、出来る限り自由にさせてあげなければという罪悪感もあって、モモンガは滅多にこれを使わない。しかしここまで身の危険が迫れば話は別だ。片膝をついて(こうべ)を垂れるシャルティアを見て、彼は安堵のため息をついた。

 

「――さて。では……ああそうだ、お前は何者だ? まさかそんなものを着込んでいて一般人だと言い張る気はないだろう?」

「…っく! なっ!? クソ――放しやがれ!」

「おっと……悪いがそれは無理な相談だ。なに、これだけ月が綺麗な夜なんだ。抱き合って語らうには悪くない雰囲気だろう」

「こ……の! この、こ、ぐぅっ!?」

 

 暴れるクレマンティーヌを万力の様な力で抱きしめて、モモンガは尋問を開始した。それは傍から見ればまさに男女のアレコレで、シャルティアは“待て”の意味を“そういうこと”かと理解した。すなわち――主人の青姦を見ているだけしか許されぬ放置プレイなのだ、と。乾くことのない下着など意味を果たさず、彼女は既に日常をノーパンで過ごしていた。秘所からとめどなく溢れる液体が足を伝い地を濡らすが、彼女にはどうしようもない。“待て”という命令は何よりも優先されるべきものであるからだ。

 

 ――ああ、これが至高の御方か、と彼女は主であり世界最高のビッチであるモモンガに更なる忠誠を誓ったのだった。

 

「諦めはついたか? ならば説明しろ。お前が何者なのか、何を目的で近付いてきたのか、このプレートはいったいなんなのか」

「…はぁ。はいはい、もうどうしようもなさそうだもんねー。言うよ、言えばいいんでしょ?」

「ああ、それでいい」

「私は……法国の特殊部隊“漆黒聖典”の元第九席次で、秘密結社“ズーラーノーン”の十二高弟――」

「ぶふっ!」

「っ!?」

「あっ、いや、その……すまん、続けてくれ」

 

 特殊部隊だの秘密結社だの――中二病全開なことをのたまうクレマンティーヌに、モモンガはつい吹きだしてしまった。しかしここが異世界だということを思い出し、そういうこともあるかと謝罪の言葉を口にした。そして更に詳細を聞くにつれ、どんどんと気分が沈んでいく。異世界が厄介ごとに溢れているのか、それとも自分が厄介ごとを引き寄せているのか、とにかくして彼女の処遇をどうするべきかが現状最大の問題かとため息をつく。

 

「放置は流石に……あれだよな。でも警察――いや、兵士か? それに突き出すというのも……というか信用してもらえるのか? 銅級の冒険者が女を片手に『秘密結社の幹部』だとか……いや無理だろ。下手すれば逆に捕まりかねん…」

「…ねえ、私どうなるのー?」

「む――いま考えているところだ」

「じゃあさ、仲間にしてよー」

「…は?」

「二人共『ぷれいやー』でしょ? 私、強くなりたいの。強くなれるなら殺しも我慢するからさ、お願いモモちゃん。ね?」

「なっ――! というかモモちゃん!? じゃなかった、プレイヤーを知っているのか!」

「そりゃ法国そのものが『ぷれいやー』から成り立った国だしねー。その辺も詳しく話すからさ、ダメ?」

 

 冒険者のプレートが敷き詰められたビキニアーマーを外し、人類でもトップクラスを誇る膂力で少し離れた川へ放り投げるクレマンティーヌ。ここが勝負所だとばかりにモモンガへ迫る。出会いから先程までの行動、言動を鑑みるに――目の前の男はどうしようもなく善人だった。そして疑いようもなく『ぷれいやー』であった。

 

 彼女の出自から考えれば神と崇め敬うべき対象は、どうしようもなく“一般人”であった。敵対は有り得ない。従属はしたくない。ならば仲間はどうだろう。少し心配になるくらい『普通』の人間である彼ならば、案外色よい返事が返ってくるのではないかとクレマンティーヌは考えた。なにより神の側にいれば、追手への警戒などする必要もないだろう。

 

「…悪いが国と事を構えるつもりはない。お前を内に入れるにはメリットに対しデメリットが高すぎる」

「えー……じゃあ一緒に謝りに行ってよ。モモちゃんが口添えしてくれたらたぶん悪いようにはならないからさー」

「いや、なんで俺が悪ガキのお母さんみたいな役割になってるんだ」

「――ごめんね。私、ずっと母親と父親に差別されてきたからそういうのはよくわからない、かな…」

「えっ、あ、いやその……すまん」

「…」

「…」

「…だめ?」

「む……いや、むぐ……少しだけなら……まあ。こちらの心証が悪くならない程度に庇うくらいなら……うむ」

「あはは、チョロっ!(ありがとうモモちゃん!)」

「うおぉい!?」

「はわっ!? 間違えた! ご、ごめんってモモちゃん……これからよろしくぅー」

「お、お前な…」

 

 かくしてモモンガの法国行きは決定された。配下の異形種達があまりに残念すぎるため、彼の人間に対する執着はいまだに強く残っている。クレマンティーヌの策とも言えない策が成功したのはそのおかげもあってのことだ。

 

 法国は人類に友好的なプレイヤーを何よりも欲していると、彼女は理解している。そして強者を出来る限り生かしたいという本音も見透かしている。謝罪と共にプレイヤーを連れ帰れば間違いなく許しを得ることができ、そして許されたならば『仲間』にしてくれるという言質は遠回りに取った。

 

 彼女は法国が嫌で抜け出したのではない。目的への近道がそれであっただけで、目の前に強くなれる可能性が転がっているというのなら、それを掴むことになんの躊躇もない。そのためには気持ちの籠っていない謝罪などいくらでもすることができる。

 

「はぁ……なんでこうなるんだろう」

 

 乳を曝け出したまま口元を三日月型に歪ませている彼女を見て、モモンガはやっぱり前言撤回しようかなと瞠目していた。『ほら、お母さんも一緒に謝ってあげるから』作戦が成功するかどうかは――今のところ神のみぞ知る、といったところである





沢山の感想ありがとうございます。やる気が出ます。

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