※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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お、日刊に乗ってるぅー。感想、評価等ありがとうございます。






三話

 

 エ・ランテルに死者の大群を巻き起こそうとしている、ズーラーノーンの高弟『カジット・デイル・バダンテール』。善意の第三者として彼のことを通報したモモンガは、無事に事が終わった様子を陰ながら確認し、ほっと安堵の息をついた。クレマンティーヌが把握している限りの情報を前提に、ミスリル級の冒険者が複数でことに当たったため、秘密結社の幹部といえどもどうしようもなかったのだろう。嘆きながら墓地から連行される姿はもはや哀れを誘っていた。

 

「意外にさらっと終わったな。案外ズーラーノーンとやらは大したことがないのか?」

「モモちゃんがそれ言うんだ……そりゃ切り札も出せずじまいで封殺されたらああなるよ。隠してある入り口も知られてるなんて思わなかっただろうしねー」

「いや、バラしたのはお前だろう」

「バラさせたのはモモちゃんだし」

 

 宿屋の一室で責任の擦り付け合いをしている二人。同僚を売った罪悪感など微塵も見せていないクレマンティーヌは、やはりモモンガという男は『善人』なのだろうと、その本質を観察し見極めようとしていた。無辜の民が蹂躙される事態を放置しない程度には善性がある。しかしその力があるというのに自分で行動しないというのは、虚栄心や承認欲求が少ない証明だ。

 

「さて、では憂いもなくなったことだし行動を開始するとしよう」

「はーい。法国に直行するの?」

「まさかだな。異形種を嫌う国へのこのこと無防備に姿を晒すわけがないだろう。たとえお前の言う通り『神』のような扱いを受ける可能性が高いとしても、だ」

「私が所属してたとこはモモちゃんみたいな骨を崇めてたからねー。ぜんぜん問題ないと思うけど」

「それでもだ。というか骨ってお前……骨って」

「骨じゃん」

 

 宿屋でモモンガとシャルティアの正体を明かされたクレマンティーヌは、声を上げて驚きはしたものの、同時に納得もした。化け物染みた実力を持った連中の正体が、そのままに化物だったというだけの話だ。彼女が所属していた漆黒聖典が崇めているのは“死の神”スルシャーナであり、伝承に謳われる姿はモモンガの容姿とよく似ている。そんな理由もあって彼女は二人の正体を問題なく受け入れた。

 

「でもなにか対策あるの? 私が知ってることは話したけど、あの国はそれだけってわけじゃないよ。(したた)かで腹黒いし」

「…まあ敵対したい訳じゃないし、なんとかなるだろう。それに私達と同クラスと思われるのは一人だけなんだろ? こちらには私を含めれば二桁近くはいるしな。制御は利かんがそれ以上の化け物(ビッチ)も…」

「えっ」

「えっ」

「なにそれこわい」

 

 二人だけじゃなかったのかと恐る恐る問う彼女に対し、モモンガは自身と仲間達が作り上げた『アインズ・ウール・ゴウン』の素晴らしさを語る。千五百人のカンストプレイヤー(覚醒した神人クラス)を退けた伝説を。全盛期にはギルドランク九位にも輝いた栄光を。

 

 モモンガは語る。自身がやらかしてしまった『アインズ・ウール・ゴウン』の現状の残念さを。性欲の無い自分(オーバーロード)すらを退けたNPC達の恐怖を。足を踏み入れただけで妊娠するんじゃないかという恐ろしい大墳墓の存在を。

 

 クレマンティーヌは逃げ出した。

 

「何処へ行こうというのかね」

「ひいっ!? じょ、じょーだんだよぉ……わ、私、お留守番してるから、準備ができたら戻ってきてもらってもいいかなー?」

「私は非効率が嫌いでな……なに、心配するな。いざとなれば私だけは逃げられるようリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンというアイテムを装備している。ナザリック外に持ち出すのはどうかと思ったが……苦渋の決断だったのだ」

「今のセリフに安心する要素あった!?」

「…………ナザリックは美女とイケメン揃いだぞ(ごく一部)」

「だから!?」

 

 お前もあんな姿で歩き回る変態だし、案外気に入るかもしれないぞと見当違いの慰めで彼女を励ますモモンガ。情報の秘匿やナザリック戦力の外部漏れが非常に深刻となっているが、それ以上に彼は誰かに聞いてほしかったのだろう。自分の苦労や苦境、そして懺悔を。そして境遇を共有できる生贄が欲しかったのだろう。

 

 普通に暮らしている一般人にそれを強要することなど、彼にはできなかった。その点クレマンティーヌといえば『いまいち同情できない自業自得な境遇』、『何気に犯罪者』、『この世界では有数の強者』という打ってつけの人間だ。彼女自身も明らかにこちらへすり寄ってきているのが見え見えだったのだから、モモンガは嬉々として自分が片足を突っ込んでいる泥沼へ引きずりこんだ。

 

「では行くか――《ゲート/異界門》」

「うぅ…」

「ふごっ、むぐっ…」

「あ……シャルティア、もういいぞ。いったんナザリックへ帰ることになったから、お前もついてこい」

「ふぐぅっ――ぷはっ! かしこまりんした、モモンガ様。ああ、もう、はぅぅ…」

 

 モモンガはできるだけ視界に入れないようにしていた変態守護者に声をかける。部屋の隅に転がっている縛られたシャルティア――ギャグボールを噛ませられ、目隠しをさせられている状態だ。もちろん彼女の力であれば簡単に引きちぎることができる拘束であったが、これも放置プレイの一環と思えばこそ、涎と様々な液体で床を汚しながら一晩を過ごしたのだ。

 

 モモンガはようやく一人のNPCに抗う手段を見つけたのだ。すなわち“放置プレイ”。まだまだ無数にビッチが蔓延るナザリックにおいてどれだけ有効かは不明だが、守護者の一人を無力化できたのは大きいと、クレマンティーヌとの邂逅を神に感謝したのであった。

 

 ナザリックへ戻るからには完全武装しなければと、自身がもっとも力を発揮できる姿へと戻り転移するモモンガ。何故未知の異世界よりも自分の本拠地を警戒しなければいけないのか疑問に思いつつ、久しぶりの我が家へと帰還を果たした。

 

 ――転移したその先には、地面から植物の触手を生やして、冒険者らしきチームをあられもない姿に変えているマーレの姿があった。

 

「あっ、お、お帰りなさいモモンガ様」

「…………ただいま、マーレ。ところで何をしているのか……聞いてもいいですか?」

「は、はい! このお姉さん達がナザリックへ侵入しようとしていたので、入り口で話を聞こうとしたんですけど――忍者のお姉さんとゴリラのお姉さんが誘ってきたので、ボ、ボク…」

「あっはい」

 

 自業自得なら仕方ないと、うねうねする触手に弄ばれている冒険者達を無視して通りすぎようとしたモモンガ。きっとビッチパワーを吐き出すナザリックにつられてビッチが引き寄せられてきたのだろうと、なるべく視線を合わせないように歩く。

 

「ま、待てっ、待ってくれ! この墳墓の主か!? 侵入しようとしたことは謝罪する! 償いはするから止めてく――んん゛っ!」

「お、お願い助けっ……んぐぅっ」

 

 しかしとても悦んでいるようには見えない面々にモモンガは困惑する。もしやマーレの勘違いなのではないだろうかと察するが、一人だけ恍惚の表情で喜んでいる忍者を見て瞠目した。隣で股間をもじもじさせているシャルティアに、色々とドン引きしているクレマンティーヌ。碌なことにはならなさそうだとため息をつきながら、マーレへ魔法の行使をやめるよう促す。

 

「…やめよマーレ。その悦んでいる忍者以外は解放してやれ」

「は、はい!」

 

 ずべしゃぁ、とモモンガの足元に投げ出される女性達。ぬらぬらと、てらてらと体を濡らしている彼女達に無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)を差し出し、ついでに上質なタオルも用意して介抱する。彼はビッチの被害者には殊更に優しくなる癖があった――もちろんこの世界にきてから出来た癖だが。

 

「大丈夫か?」

「はぁはぁ……はい、ありがとうございます。あ、あの…」

「謝罪はしない。お前達にも責任はあるようだしな。それよりこのナザリック地下大墳墓へ何の用があって来た?」

「調査じゃないのー? わざわざアダマンタイト冒険者が来てるのはよくわかんないけど」

「アダマンタイトだと…? 彼女達を知っているのか? クレマンティーヌ」

「この辺で私と戦える戦士は把握してるからねー。王国戦士長『ガゼフ・ストロノーフ』、そいつと対等に渡り合った『ブレイン・アングラウス』……それにアダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”の『ガガーラン』。女性だけのチームって聞いてるし、数も合ってるからこいつ等がそうなんじゃない?」

「ほう…」

 

 一応マナーとして、水差しとタオルを渡した後は後ろを向いているモモンガ。その紳士的な態度に“蒼の薔薇”の面々は警戒を緩めた。

 

 神官戦士であり、リーダーでもある『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』。厳めしい表情と凄まじい大胸筋を持つ漢女『ガガーラン(童貞食い)』。元暗殺集団の頭領で、現アダマンタイト冒険者の忍者『ティア(レズ)』。国堕としとも呼ばれる伝説の吸血鬼『イビルアイ(チョロイン)』。

 

 そこにアヘ顔で触手プレイに興じている『ティナ(ショタコン)』を加え、王国が誇るアダマンタイト冒険者チーム“蒼の薔薇”だ。大惨事である。

 

「ええと……とりあえず先に謝罪を。不躾に侵入しようとして申し訳ありませんでした。“蒼の薔薇”のリーダーとして全面的に謝罪致します。その――死者の大魔法使い(エルダーリッチ)……様?」

「…私は死の支配者(オーバーロード)だ。種族としては同じ系統だが、まあそれの最上位クラスだと思ってくれれば問題はない。個人名は『モモンガ』だ」

「モモ…?」

「ンガだ」

「は、はあ……その、偉大で……か、可愛らしいお名前ですね」

「ぬしはわかっていんすな! まず『モモ』の部分で淫靡さと一粒の可愛らしさ、『ンガ』の部分でいやらしさと偉大さを――」

「シャルティア、黙れ」

 

 謝罪を受け入れたモモンガは、彼女達が此処にいる理由を尋ね――更に悩みの種が増えたことを実感した。事態を要約するならばこうだ。

 

 最近王国で多発している娼婦の失踪事件。物理的にも魔法的にも要として事件の核心が掴めない状況。元々王国の闇――『八本指』が違法に経営する娼館をどうにかしなければと心を痛めていた第三王女は、その真相を知るために交友のある冒険者へ依頼したのだ。

 

 それが“蒼の薔薇”だった。『八本指』が血眼になって下手人を探している状況から、彼等が違法の証拠を残さないために娼婦を“処理”しているわけではなさそうだと判断し、それなりの規模の組織がかかわっている事を彼女達は確信した。少なくとも数人程度でできる犯行ではなく、組織立った計画の可能性が高いことは間違いない。

 

 そして理不尽な暴力に虐げられている、悲惨な状況の娼婦から優先的に消えている事実に着目し、この組織の目的は弱者の救済にあると判断したのだ。そして痕跡を探す内に、一つの奇妙な噂が彼女達の耳に入る。これまで何もなかった平原に巨大な墳墓が現れたという噂だ。

 

 特に隠されることもなく堂々と存在しているそれは、道行く商人や護衛の冒険者に当たり前のように目撃されていた。確かに奇妙ではあるが、流石に距離が離れすぎているために関係はないだろうと考えた彼女達に、依頼人が待ったをかける。

 

 依頼人――『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』は黄金の容姿と、それに勝るとも劣らない智謀を持つ王国の第三王女だ。彼女は自分のもとに上がってきた僅かな情報をもとに、その墳墓がなにかしらの関係を持っていると確信していた。辺境の村で謎の魔法詠唱者に助けられた王国戦士長の存在が、推測を確信に変えたのだ。

 

 アダマンタイト冒険者クラスの実力者が複数存在している『八本指』を相手に、何一つ気取らせることなく目的を遂行している状況を鑑みれば、実行犯の実力は容易に推測できるだろう。同時期に現れた強者と墳墓を結びつけることは、彼女にとって当然の思考であった。

 

 しかして蒼の薔薇はその墳墓を目指して王都を出発し、目的の地へと辿り着く。そして開かれた入り口に足を踏み入れようとした瞬間、可愛らしいダークエルフの女装少年が姿を見せたのだ。頬を染めてもじもじと目的を問う彼に対し、ショタコンのティナと童貞食いのガガーランが強い反応を見せた結果が――先ほどの状況に繋がったわけだ。

 

「…そうか」

「それで、その……やはりこちらが…?」

「…うん……たぶん」

「は、はあ(なんか凄いやさぐれてる…)」

「…うむ。まあ好きに行動しろと言ったのは私だから、責任の所在は明確だ。それを問うならば私にしてくれ」

「いえ、そんな――消えた人間が、その、無事であれば…」

「配下は私の様な異形も多いが、総じて人間には友好的(・・・)だ。その娼婦とやらの心配は――うん、心配だ…」

「えぇ…」

 

 まさか慰みものになっているとは思えないが、しかしここはナザリックである。断言できないのが悲しいとモモンガは嘆き、もう何度目かも知れないため息をついた。

 

 好戦的にガガーランを見つめるクレマンティーヌ。その視線を楽しそうに受けて立っているガガーラン。金髪幼女吸血鬼を舐めるように見つめるシャルティア。そのシャルティアにねっとりとした視線を送っているティア。触手の制御に勤しんでいるマーレと、それを心から愉しんでいる変態忍者。

 

 まともなのはリーダーと名乗った彼女だけかと肩を落とすモモンガ。いや、一人だけでもいるなら僥倖だと考えなおし、とりあえず彼女達をナザリック地下大墳墓へと招き入れた。同じ常識人であるラキュースと主に会話しながら親交を深めるモモンガは、普通の会話というものに飢えていたのだろう。

 

 貴族として育った彼女の、相手を楽しませる軽妙な口調はモモンガの精神を癒した。何より彼女は、身に着ける防具“無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)”が示す通り非ビッチである。そこがとても重要な部分だ。ああ普通とはなんと素晴らしいのかと、彼は久しぶりに精神に高揚を覚えたのだった。

 

 ――ちなみに彼女は中二病である





さよなら蒼薔薇
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