※ちなみにビッチである《完結》   作:ラゼ

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あと三日…! 待ちきれないね新刊!


六話

 

 法国が誇る大神殿の最奥、限られた者しか踏み入ることを許されないその場所で、陽光聖典隊長『ニグン・グリッド・ルーイン』は事の詳細を説明していた。その相手は各聖典の神官長とそれを統括する最高神官長であり、実質的な国のトップといっても差し支えないだろう。

 

「…なるほど。お前は敵対するべきではないと判断したのだな?」

「はっ。直接『ぷれいやー』様にお会いした訳ではありませんが、配下の御方ですら最高位天使を意にも介さぬ実力をお持ちでした。そしてそれだけ我らが敵対してもなお一人の死者も出ず、悪魔でありながら慈悲深き心の持ち主であったかと。さらにその主である御方は人々に(あまね)く愛を与える御方であると断言しておりました」

「ふむ……それが本当ならば六大神の再来と成り得るやもしれぬ」

「だが我等が害されたのは事実だ」

「そうは言ってもな。ニグンへの説明が真であれば、監視に対する反攻召喚型の防壁であったのだろう? 萎びた体を晒された屈辱は理解できるが、この事態においては些事だろう」

「やかましい!」

「まあまあ、巫女姫の額冠を盗られなかっただけ重畳でしょう」

「いずれにせよ敵対は愚の骨頂。拠点ごと来たというならば、その戦力は我等の想像を絶する可能性もある。たとえ表面上であろうとも友好的ならばやりようはあるというものだ」

 

 喧々諤々と議論を交わす神官長達を見て、ニグンは先日の出来事を脳裏に浮かべる。王国戦士長『ガゼフ・ストロノーフ』を抹殺せんと、辺境の村を取り囲むように動いたあの時のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各自展開、距離を詰め過ぎるな。装備のランクが落ちていようとも『ガゼフ・ストロノーフ』が強者ということを忘れるな」

 

 法国の特殊部隊六色聖典が一つ、“陽光聖典”が王国の辺境にきている理由はただ一つ。周辺国家最強と謳われる王国戦士長を抹殺し、王国の弱体化を図るためだ。人間種族と敵対的な亜人や異形種に対して、法国を前線国家とするならば王国や帝国は後方国家という位置付けになる。法国にとってそれは『我々が守護している間に後方で戦力を充実させてほしい』という、自己犠牲に近い国家精神をもってのことであった。

 

 しかし結果を顧みれば、王国や帝国は自国の利益だけを目的に争いを繰り返すだけの害悪となった。数百年も経てば六大神、八欲王が広げた人類の勢力図はまたもや衰退の一途を辿るというのに、だ。やりきれないとはこの事だろう。

 しかし不幸中の幸いというべきか、ここ数代の帝国の皇帝は優秀な者が多く、それが目的ではないといえ亜人に対する戦力は増加傾向にある。

 

 故に帝国が王国を併呑することを是とし、法国は陰ながらそれをサポートするために王国戦士長を討とうとしていたのだ。強い“個”は数を凌駕する。練度の高い職業軍人を基本とする帝国の兵であっても、ガゼフ一人で数百、あるいは千を超える戦果を叩き出すことも可能なのだ。

 

 そんな無駄な消耗を避けるため、陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインは彼の抹殺を仰せつかった。聖典の下部組織による村々の虐殺を容認し、本来であれば守るべき者達を蹂躙するのは本意ではない。しかし大を護る為に小を殺すのは、人類の守護を標榜する法国にとっては必要なことでもあった。覚悟をもって事に当たろうとする陽光聖典であったが――その直前、彼等の前に悪魔が現れる。

 

「…っ!? 総員、警――」

「しゃぶ……んんっ、“動くな”。不躾で申し訳ありませんが、少々不穏な空気を漂わせておられるのでね。目的をお聞かせ願いたい」

「なっ…! くっ、動けん……何をした悪魔め!」

()()()()()()()()だけのこと。ちなみに相当な実力差がなければ有り得ないことであると認識して頂きたいものですね。こちらに危害を加える意志はありませんよ……我々から見て、あなた方は無辜の民を害する不逞の輩だということをご理解いただきたいのですが」

「…っ! 悪魔の言うことを信用しろと?」

「信用とは積み重ねるものです。初対面であれば種族の違いは関係なく信用などおけるものではありません。そこから恐る恐る手探りで手を取り合えるか確認していくものですよ。対話をしたくないと言うのなら、それはもう()()()()()()()()()

 

 深い笑みで彼等を脅す悪魔――デミウルゴス。しかし脅しというにはあまりにも優しいものであり、幼子を諭すようにといった方が正しいかもしれない。そしてだからこそ、ニグン達は抗ったのかもしれない。その優しさを“隙”であると勘違いして。

 

「…了解した。だがこれは交渉ではなく脅しではないか? 対話だというならば先に拘束を解いてほしい」

「…ええ。では――“自由にしたまえ”」

「ああ、すまないな……くくっ、愚かな悪魔めがっ! 最高位天使を召喚する! 各員時間をかせ――」

「“平伏したまえ”……君は馬鹿なのかね?」

「ぐおぉっ!? う、動けん…!」

 

 一言で動きを封じる悪魔に対し『時間を稼げ』とは非情すぎる命令であった。部下達も『どうやって?』といった感情が透けて見えていたが、命令は命令。ニグンが言い終えるかどうかのところで行動を開始しようとしていたが、すぐに膝を突く羽目になってしまった。

 

「ふむ……なるほど、魔封じの水晶ですか。確かに最高位天使を召喚されると厄介ではありましたが――おや? これは…」

「ぐうぅっ…! それは貴様などが触れていいものではない! そっ――なっ…!?」

 

 事前に確認していた戦力からすれば、警戒には値しないとタカをくくっていたデミウルゴス。しかし使用されかけた魔封じの水晶を見て過信を戒める。ニグンの言う通り、『至高天の熾天使』級が召喚されれば彼であっても最悪の事態が起こる可能性があるからだ。

 

 膝を突き震えているニグンに近寄ると、デミウルゴスは水晶を奪い取ったのだが――その中身を看破し、皮肉気なため息をついた。この程度の天使であっても彼等にとっては最高位に映るのか、と。神官長から直接に賜った魔封じの水晶を奪われ激高するニグンであったが、次に起こった事態に目を剥いた。

 

「“好きにしたまえ”……ああ、これも返そうじゃないか。どうぞご自由に…」

「な、にを…! くっ――何を考えているのかは知らんが、その愚かな行動の代償は高くつくぞ! …出でよ! かつて魔神をも屠った最高位の天使――“威光の主天使”よ!」

「《メテオフォール/隕石落下》」

「ふははは! 見よこの威容をあぁぁぁ!!」

 

 魔封じの水晶を返却し、拘束まで解いたデミウルゴス。その行動に啞然とする陽光聖典であったが、すぐに正気を取り戻し攻撃の態勢を整える。悪魔の行動を見てなんとなく――なんとなく不安を感じ、虚勢を張るように天使を召喚したニグンであったが、嫌な予感というものは往々にして当たるものだ。

 

 ぬか喜びすらほとんどさせてもらえず、天使は顕現した瞬間に巨大な隕石に潰されて消滅した。巨大な質量が落下した余波で吹き飛ばされる人間達。しかしこの状況にあっても死者が出ていないことこそ、一流が集う法国の部隊の証明であった。

 

 ただ一つの魔法で瞬殺された“最高位”天使を目の当たりにし、彼等は――そしてニグンは、ようやく自分達の愚を悟る。己より遥かに強い存在を目の前にしても不遜な態度を崩さなかった最大の理由は、どんな盤面をも覆す切り札が存在していたからに他ならない。それが呆気なく屠られた今、拠り所となるものなど何もない。故に残された行動など一つしかないだろう。

 

「待っ……待ってくれ! いや待ってください! 非礼は詫びます! どうか命だけは――い、いくらでも渡します。私はこれでも本国では地位ある者でして! 望むものならばいくらでもご用意いたしますので! 何卒…!」

「ほう……自分の行動を反省し、後悔しているというのですね?」

「深く! ふかぁぁく反省しております!」

「では謝罪を受け入れるとしましょうか」

「本当です! 敵対の意志などもはや欠片も――え?」

「ですから謝罪は受け入れましたので、赦しましょう。最初から危害を加える気はないと言っていた筈ですが」

「ほ、本当に…? い、いや! ありがとうございます!」

 

 悪魔の優しさに疑念を覚えるニグンであったが、この状況で赦してもらえるというならこれ以上の幸運はないだろう。慌てて頭を下げ、部下にも追随するよう合図を出す。全員が一糸乱れぬ動きで地に頭を擦り付ける様子は、流石集団戦に長けた部隊である。

 

 そして命の危機が去ったとはいえずとも、軽減されたことで思考に余裕ができたニグン。法国が誇る特殊部隊の長ともなれば、当然ながらかなり深いところまでの情報を持っていた。その知識から考えれば、最高位天使を軽々と滅ぼす存在など極々限られている。すなわち『神人』か、『真なる竜王』か、『ぷれいやー』か、あるいは『魔神』である。

 

 見た目からして竜王はないだろう。これほどに温厚な魔神もありえない。そして神人の出現は法国が厳しく管理している関係上、唐突に現れる可能性はごく僅かだ。ならば残るはプレイヤーのみ。そして人類に友好的なプレイヤーというものは、聖典の者にとっては神と同義である。

 

「も、もしや……貴方様は……『ぷれいやー』様では?」

「…! その単語をどこで聞いたか教えていた――む…」

 

 ニグンの言葉に少しの驚きを見せて情報を問うデミウルゴスであったが、唐突に邪魔が入る。遠隔からの監視などに対する防壁が発動したのだ。それが意味するのは、この戦いを覗き見する輩の存在である。

 

 モモンガなどは情報系の魔法に対抗する際、即応的な対策を取ることが多い。大したダメージを与えられないとしても、即座に監視を止められるからだ。しかしデミウルゴスは悪魔らしく、中々に性質の悪い防壁を張っていた。

 

 《サモン・アビサル・レッサーアーミー/深遠の下位軍勢の召喚》という魔法がある。攻撃力は皆無だが、ライトフィンガード・デーモンという『持ち物を盗む』手癖の悪い悪魔を多数召喚する魔法だ。これを監視魔法を使用した対象の近くに出現させ、混乱に陥らせる厭らしい対策がデミウルゴスの情報系攻性防壁である。

 

 ちなみにその真の恐ろしさは、下位悪魔が一定数討伐された際に起こる。減じた数に伴って更なる中位悪魔が召喚され、それを倒してしまうと上位悪魔が出現するのだ。デミウルゴスがとあるアイテムを使用することによって起こせる『ゲヘナの炎』――悪魔の無限召喚に近いものがある。

 

 元よりこれはナザリックの防衛機構にも実装されており、その発案者が『ウルベルト・アレイン・オードル』であることから、デミウルゴスが使用するのは当然ともいえるだろう。

 

「監視対象は……私ではなくあなた方のようですね。心当たりはおありですか?」

「え、ええ……恐らく本国の者が定期的に様子を窺っていたのではないかと……もしくは我等には知らされていませんが、何か異常があれば察知されるようになっていたのかもしれません」

「なるほど。もしかすると魔封じの水晶が使用された場合の保険かもしれませんね。あなた方にとっては貴重なものであるようですから」

「は…」

 

 デミウルゴスの下に続々と帰還するライトフィンガード・デーモン。次のトラップが発動しなかったところを見ると、この程度の悪魔にも対応できない可能性が高い――と思考を回転させながら、彼は悪魔が持ち帰ってきた下着などをポケットに突っ込む。女物も男物も様々だが、彼にとっては全て同様に価値あるものであった。

 

 二コリと微笑んで、平伏す陽光聖典に優しく声をかける。もはや悪魔というよりは天使であったが、ビッチというものは小悪魔であり天使なので、あながち間違いとは言い切れないだろう。

 

「――では改めて。事情をお聞かせ願えますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓宝物殿。厳重に管理されており、空間ごと隔離されたナザリックの秘奥とでもいうべき場所だ。そしてそこを守護する領域守護者は、唯一モモンガが手ずから創りあげた特別なNPCであった。『パンドラズ・アクター』と称され、浪漫と理想を詰め込んだ究極の配下だ――“当時”のモモンガにとってだが。

 

 今の彼にとっては、もはや自分の黒歴史の証拠になってしまっているのだ。ドイツ語やら芝居がかった口調やらネオナチの軍服やら、見る人が見れば『うわぁ…』ということ間違いなしだろう。中二病を過去のものとし、高二病を経て、大二病すら卒業したモモンガにとっては見ると羞恥に悶えるNPC。それがパンドラズ・アクターだ。

 

 そんな彼のもとへと向かっているのは、想定よりも大幅に早くワールドアイテムが必要になってしまったからだ。まさかデミウルゴスが法国と既に接触していたとは思わず、彼等の来訪など寝耳に水の事態であった。とはいえ報連相ができていなかったといえばそうではなく、カルネ村で迫真の鬼ごっこをしている最中の報告であったためにモモンガが聞き流していただけである。

 

 ナザリックにおける裁量の九割九分九厘を配下に任せている都合上、モモンガが与り知らぬところで事態が進んでいるのは珍しくない。社会人の頃にあった責任感というものは、この異世界にきてガリガリと削られていったのだ。もはや彼に残っている僅かな責任といえば、ナザリックの脅威から異世界を護らねばならぬという使命感のみだ。それも最近では薄れてきているが。

 

 一歩進むごとに足が重くなる。それでもモモンガは気力を振り絞って前を向く。いつかは向き合わなければならないのだ。必要な事態が早まったというのはむしろ喜ぶべきかもしれない。一歩、また一歩と進み、彼は遂に再会した――悔いた過去の残骸に。

 

「…久しいな、パンドラズ・アクター。元気でやっていたか?」

「はっ! ようこそおいでくださいました! 我が創造主たるモモンガ様!」

「…」

「…」

「…?」

「…本日はどのようなご用件で? いえ、もちろん用件などなくても足を運んでくださるのであれば、これ以上の喜びはございませんが!」

「あ、ああ……いや、実はいくつかワールドアイテムを持ち出す事態になっていてな。使う事はないと思われるが、万一に備えてのことだ」

「なんと! あれらを使用する事態とは……んん! 恐れながら申し上げます我が主よ」

「な、なんだ?」

「そのような事態となっているならば、このパンドラズ・アクター! 不肖ながらモモンガ様のために役立ちたくございます。どうか私めを供に!」

「あ、ああ……その、なんだ。それはいいんだがパンドラズ・アクター……お前は、その……ビッチじゃないのか?」

「ビッチ……でございますか? 申し訳ございません、ご質問の意味を理解しかねます。ああ、役立つといいながら早速の醜態…! どうかお許しください我が主よ!」

「…!」

 

 モモンガは目を見開いた。目は無いが。痛々しい言動はそのままであるが、パンドラズ・アクターには『ちなみにビッチである』という設定が適用されていないのだ。

 

 いったいどういうことだと、心なしか湧き上がる期待感に拳を握り、設定を書き換えた時の自分の行動を思い返す。たった一人であっても、配下がビッチでないというのは喜ばしい――を通り越して狂喜乱舞する出来事だ。ああ、最高だパンドラズ・アクター。流石俺の創ったパンドラズ・アクター。設定もよくよく考えてみれば一周回ってカッコイイじゃないかパンドラズ・アクター。そんな感動が脳内をぐるぐると回り、宝物殿の内部は猛毒とよくわからない雰囲気に満たされていた。

 

 ――げに悲しきは、自分の配下に依存しかけているモモンガであった





元々一発ネタみたいなものなので、合計十話と少しに収める予定です。

この作品を書き終わりましたら、またわたモテの方とfoget dayly lifeを再開致しますので、よかったら見てやってください。




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