狂気の最凶復讐鬼 ~最強の魔法を開発したので、勇者も聖女も両親も、いじめた奴らを全員嬲り殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺すことにする~   作:輪島廻

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序章 二つの世界で誓った復讐
1、同級生からも、先生からも、転生前の両親からも、


 紅い血が弾け、視界が揺れる。

 脂肪が付きまくって重い体が、地面の上を転がる。

 後から襲ってきた鈍い痛みに、宗太(そうた)は、自分が殴られたのだと理解する。

 宗太は相手の顔をキッと睨み付けるが、睨み付けられた側はそれを気にした様子もなく、再び宗太を殴り付ける。

 

「ぐふぅ……」

 

 腹の肉が鎧となって衝撃を吸収してくれるなんてこともなく、脇腹に刺さった拳は宗太の臓腑(ぞうふ)を大きく刺激する。その痛みと衝撃に宗太は尻餅を付き、口の端から涎を垂らし、腹を(さす)りながら呻く。

 

 そして、それだけやられながらも、宗太に反撃の意思は見られない。

 それは負け犬の風貌だった。

 こっぴどい目に遇わされながら、その恐怖に反撃を諦める、負け犬。

 

 今はこの(ざま)と言えど、宗太にも反撃をしようとしていた時期はあった。

 宗太は元々、嫌なことをそのまま受け入れるような(やわ)な性格ではなかった。むしろ、それにネチネチと抗う、嫌らしい性格の持ち主だった。

 その結果は更なる暴力の嵐。

 イジメは、宗太のねちっこい反撃に苛立ったいじめっ子の怒りによって加速したのだ。

 学んだことは、『反撃は火に油を注ぐ行為である』ということ。

 このときから、宗太は黙って殴られ続ける負け犬になった。

 

 気付くと、暴力の雨は止んでいた。

 絶え間なく降り注いでいた痛みが和らぎ、宗太は安堵する。

 痛みを我慢する為に、早く時間が過ぎ去るようにと瞑っていた目を開くと、屋上から校舎内へと入っていくクラスメイトの背中が見えた。

 

 宗太は焦点の定まらない虚ろな目でその背中を無気力に()め付けると、フェンスの隙間から射し込む夕暮れの日にその目を細めながらよろよろと立ち上がる。

 そして溜め息を一つ吐き、帰ろうと足を動かし始める。

 重い体を引き摺りながら廊下を歩き、下駄箱で靴を履き替え、昇降口から外に出る。

 

 そこで、ピンポンパンポーンという軽快な音が、放送の開始を告げた。

 宗太はその内容を予想し、微かに聞こえたその放送の内容を聞き逃すまいと、耳を澄ます。

 そして、予想を裏切ってくれと念じる宗太の期待を裏切り、放送は宗太の予想と全く違わないことを伝える。

 

『二年三組宗太くん、二年三組宗太くん、直ちに職員室まで来てください。繰り返します……』

 

 その放送を聞いた宗太は溜め息を一つ、先刻出たばかりの昇降口の方に体を向ける。

 そこで一旦動きを止めると、途端に重さを増した足を何とか動かし、職員室を目指す。

 ここで無視すると、翌日が面倒臭い。聞いていなかっただとか、既に帰っていたなどという言い訳が通用しないのは、確認済みだ。

 

 宗太が陰鬱な気分で職員室のドアをノックすると、ニコニコと笑みを浮かべた太り気味の中年の男性がすぐに出てきた。その男性こそが、宗太を職員室に呼び出した教師だ。

 

「やあやあ、よく来たねぇ……! 待ちわびたよ!」

 

 上機嫌にそう告げる彼の顔は明るかった。『ようやく人を殴ることができる!』と、そう言っているようであった。

 

「ではでは早速……」

 

 その言葉が聞こえると同時に走る痛みに、宗太は顔をしかめる。殴られた場所は脇腹だ。先刻まで屋上で繰り返し攻撃されていた位置にぴったりと合っていて、いつも以上の痛みが体を襲う。

 

「おらっ! おらっ!」

 

 繰り返し、繰り返し宗太は殴られる。

 唇を噛みしめ、目を瞑る。

 少しでも痛みがマシになるように。少しでも早く時間が過ぎ去ってくれるように。

 

 しかし、かえってその態度が地獄を長引かせることになる。宗太が何の反応も示さないのが気に触れたらしい。

 唇に歯形の傷ができ、口内を血の味が満たした頃、教師の猛攻はさらに勢いを増す。

 

「何かっ! 反応をっ! しろよっ!」

 

 転んだ宗太は腹を何度も何度も踏みつけられる。

 意識がぼんやりしてきたのを感じた。視界が霞む。

 すがるように黒目だけで周りを見渡すが、他の教師達は素知らぬふりをしていて、頼れそうにもない。

 

「お父さん……お母さん…………っ」

 

 宗太は、唯一自分に優しくしてくれていた両親を、呼んだところで来てくれないと理解しながらも、それでも呼ぶ。

 そして、瞼の裏に二人の笑顔を頭に焼き付けたまま、宗太の意識は暗転した。

 

 ▼

 

 気付くと、宗太は暗闇の中に居た。

 何も見えないし、何も聞こえない。感覚が一切なくなっている。

 

 宗太は狂ってしまいそうな気をどうにか押さえつける。

 何年も酷い虐めを受けてきた宗太だが、流石に全ての感覚が消え失せたことなんてない。

 人間に限らず、ありとあらゆる生物達はは五感で外の情報を受け取ることで危険を回避する。それができないということは、危険が迫ってきていても、対する術を持たないということだ。

 

 宗太は生物としての本能から、かつてない恐怖を味わっていた。

 これならば、まだ繰り返し殴られていた方がマシだったとさえ思える。

 

 数分か数時間か、あるいは数千年数万年が経過しているのか。極限状態は宗太の時間感覚を狂わせた。

 そしてその時間を越えた先、痛みすら救いに思えるほどに苦しみ続けた宗太の中に救いの声が響く。

 

『貴様は、何がしたい?』

 

 宗太は考えていた。狂っていた時間は、宗太が自分を見つめ直すための時間でもあったのだ。

 そして出した答え。宗太は一切迷うことなく、その答えを口にする。

 

「俺は……お父さんとお母さんと、ずっと一緒に居たい……!」

 

 唯一優しく接してくれた存在。

 時には相談を親身になって聞いてくれた。時にはダイエットに付き合ってくれた。時には脂肪で重く、脂ぎった体を抱き締めてくれた。

 宗太は思ったのだ。そんな両親とずっと居たい。両親だけと関係を保ち、それ以外とは関わることなく、一緒に暮らしていきたい。唯一ホッとできたあの場所にもう一度帰りたい。

 

『……本当に……?』

 

 しばしの沈黙の後に再び脳内に響き渡ったその言葉は、どこか宗太を嘲笑っているようで、無性に気を荒立たせた。

 

「何がおかしい! 別に良いだろ!」

『……これを見ても同じ事を言えるかな?』

 

 そして宗太の脳内に表示されるイメージ。

 そこには、二人の男女が居た。まごうことなき宗太の両親だ。

 

『お前が死んだ後の二人の会話だ』

 

 二人は何かを話していた。しかし、宗太の耳にその内容は入ってこない。

 

「お父さんっ! お母さんっ!」

 

 ただのイメージとはいえ、二人を見ることができた宗太は歓喜する。

 

『喜ぶ前に話を聞け』

 

 鮮烈に響いた有無を言わせないその声に恐怖を覚えた宗太は、一旦心を落ち着かせると、両親の会話に耳を澄ませる。

 

『ようやくあの豚が死んでくれたわね。しかも、あのクソ教師に殺されてくれて……。いつかは自殺すると思ってたけど、あの死に方は流石に予想外だったわ。保険金も貰える上に、教師からの賠償金まで取れるなんて、本当良い死に方をしてくれたものよ』

 

『そうだね。ここまで信用を稼ぐのは大変だったが……これだけのカネが入ってくるなら正解だったな』

 

『てかあいつは最後まで滑稽だったわね。カネ目的じゃなけりゃ、誰がいつまでも優しく、ここに縛り付けておくかっての』

 

 その両親の会話を聞き、宗太は絶望に震える。

 これまで救われていたあの態度は、全部自分達のところに縛り付けておいて、俺が死んだ後にカネを得る為の布石だったのか、と。

 

「何だ……それ……、ふざけるなよ……いい加減にしろよ…………」

 

 一切の感覚が失われた顔を、一筋の温かい雫が撫でた気がした。

 それは、宗太の苦しみが、悲しみが、憎しみが籠められた、感情の雫。

 

「どうしてデブってだけでこんなにいじめられなきゃいけないんだよ! ふざけるなよ!」

『……本当にデブってだけでこんなにいじめられていたと思っているのか?』

「……は?」

 

 しかし、話は元に戻される。

 

『もう一度問おう。お前は何がしたい?』

「俺は……俺は……」

 

 ソータはすぐに意味深な言葉を忘れて考え始める。

 頭の中を過るのは、両親の姿。

 瞬間。心の闇が増幅する。

 

「俺はあいつらを殺したい。あのクソどもを始末する。それができるだけの力を手に入れたい」

『そうか。ならばその力を掴み取ってこい!』

 

 宗太の口が凶悪に歪む。

 それは復讐者……いや、その表現ですら生温い、復讐鬼(ふくしゅうき)の顔だった。

 そして、奪われていた感覚が戻ってくる。

 宗太は、感覚が失われた不安すら、忘れていた。それほどの、復讐心を抱いていた。

 

 そして再び意識が途絶える。




本日は、一時間ごとに一話、合計十二話投稿します。

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