待ちに待った……いや、この表現は違うな。とにかく、ちょっと個人的に楽しみなガイドが始まった。といっても今はまだジャパリパークに関する説明中で、正確には始まっていないが。
「皆さんは、『けもの』が、お好きですか?」
それが、ミライさんの最初の一言だった。
そういえば「獣がお好きですか」って、たしかアプリ版でも最初の方で言ってたよな。あれどういう意味かよくわかんないでプレイしてたしストーリーも完結させずに途中でやめてたけど、なんだったんだろう。
「大好きだよー!」
「サーバルには言ってないわよ」
カラカルの言う通り、なんでお前が返事してんだ……ミライさん苦笑いしてるぞ。これは目の前の客に言ってるのであって、決して勝手について行ってる俺たちに宛てたもんじゃないし、あんまり大声出すと迷惑かけることになるからな?あとちゃんと説明聞いとけ。
「え、えーとですね、皆さんのいるここ、キョウシュウチホーは、地図にあるアソ山から噴出するサンドスターによって、おおよそ8つのエリアに分かれています」
「あ、ガイドさんがガイドっぽいことしてる」
「アレでも一応ガイドだからな、アレでも。普段からこれくらい常識人ならいいのに」
「一昨日『特別招待客』とやらのガイド担当になったらしくて、そのための経験積みなんだって」
あとカラカル曰くその通告を受けたあと思いっきり別の研究員さんにぶつかって、さらにその人のコーヒーが隣にいたサーバルにかかったのはなかなかに見ものだったらし……いや待て待て、猫にコーヒーはマズイだろう。俺だって飼ってた猫の前では飲まないようにしてたってのに……あ、もちろん前世の話な。
「うう、あんまり思い出したくないよ……」
「いやぁ、あの時はお腹がすごい痛かったわ、確か立ち上がろうとしてまたコーヒーで滑ったのよね」
「もー、カラカルずっと笑ってばっかりー!」
カラカル……サーバルのドジが面白いのはわかるが、なんかちょっとSっ気を帯びてきてない?てか、もしかしてもとからそういうタチだったりする?俺の方に来ないよねそれ?しばらく考えないようにしとこ。
「ジャパリパーク自体もフジ山のサンドスターによって気候が分布しているので、キョウシュウチホーはパークの縮図とも言えるでしょう」
……んまぁ、カラカルのことはさて置いて、キョウシュウチホーのエリアについて少し。
ミライさんも言ったが大きく分けて8つある。
まずは四季の見られるここ「遊園地エリア」。
俺の目覚めた「サバンナエリア」。
そして動物やアニマルガールの多い「ジャングルエリア」。
逆に動物が少なく基本地下道を通る「砂漠エリア」。
さらに湖畔やアトラクションの城がある「平原エリア」。
世話になっている図書館のある「森林エリア」。
水族館などのある「水辺エリア」。
んでもって、温泉宿がある「雪山エリア」。この順番に、時計回りにつながっている。あとは、たしかカフェとかやってた気がするアソ山を囲む高山地帯だな。
「へー、ジャパリパークっていろんな場所があったんだね」
「お前らは普段サバンナエリアからでないもんな」
一応これまだキョウシュウチホーだけだからな?ま、かくいう俺も行ったことがあるのはサバンナから森林エリアの間だけで、しかも途中のエリアに関してはバスに乗って通り過ぎただけだから本当に無知なのだが。
「私はパークの施設へ本を借りに行ったり以外だと、あまり自分の縄張りからは離れないわね」
「私も、普段は木の上で寝たり、近くの他のこと遊んだりだし、遠くにはいかないかなぁ」
縄張りって、アニマルガールでも縄張り意識ってあるんだな。自由気ままに生きてる感あるけど、そういう住処的な意識はあるのか、なんか初めて知った。
「今回行くのは、ここからおおよそ西南の方角にある『サバンナエリア』です。サバンナというだけあって、シマウマさんなど様々な動物に出会えます」
サバンナエリア、文字通りサバンナのような気候なわけだが、正直俺の体には合わないんだよな。汗あんまりかかなくなったってのもあって、厳しい暑さが結構身に染みる。
「ただしサバンナは危険な動物もいますので、森林地帯を抜け次第、待機しているジャパリバスに乗る予定になってます」
「ってことは私達は残念ながら乗れないわね、そこで一旦お別れかぁ。にしても、サバンナエリアはもう慣れてるからかちょっと新鮮味がないって感じ」
「いや、案外そうじゃないかもしんないよ?新しい発見に期待して、レッツゴー!」
「まだ行かないわよアホ」
とはいえサーバル、お前なかなかポジティブだな……確かにそういうのを期待してもいいが、やっぱり他のエリア、行ってみたいよなぁ……
「でも、個人的にはいろんなとこ行ってみたいのよねー。ほら、高山地帯に確かカフェとかあったじゃない、行ってみたいなぁ」
「んー……安直な受け答えかもしれんが、行けばいいんじゃないのか?ロープウェイも通ってるし問題ないだろ」
「そうなんだけどさ……でも、一人だとなんか不安って感じかしら。さすがにサーバルのようなドジはないと思うけど」
「みゃー!ドジっていうな!」
うーん、やっぱり住み慣れた地を離れるのは獣の習性故に不安なんだろうな。とはいえ俺も一人暮らし経験者だからな、わかるぞその気持ち。サーバルなら迷わず突っ込んでドジするだろうが、カラカルは結構考えてる性分だからしょうがないのか。
「それで、アニマルガールというのは……」
あ、ミライさんの説明がかなり進んでる。全然聞いてなかった……って、あれ?なんかこっちに手を振ってるような……
「……あれ、ガイドさん手招きしてない?」
「アニマルガールの説明するんじゃないのかしら」
こっちに来いってことなんだろうが、なんかあったんだろ。一応世話になっている身なわけだから、手伝うくらいなら俺たちでも……あ、いや待て。
「……(ニヤッ」
まずい。なんかよくわからんが、あの目はとにかくまずい。俺の第六感がそう告げてる。逃げないと死ぬって俺に伝えてるのがすっげえわかる。
「カラカル?」
「わかってるわ、あれは近づいてはならない、逃げるべき……」
そうだな、早いとこにげ……
シュンッ
その瞬間、俺とカラカルの横を何かが通った。
「わーい、早くいこー!」
「おいいいい!?」
あいつぅぅぅ!?よりにもよってあんなわかりやすい罠へと猛ダッシュしやがった!
「サーバル、ストップよ!ストーップ!」
「え、呼んでるんだから行かなきゃダメだよ?」
カラカルがすぐにサーバルを止めようとして叫び、俺も止めようとしたその瞬間、強烈なオーラを眼前に感じ口をつぐんだ。
「いやだってあんたそれ……」
「カラカル、もうだめだ」
「ちょ、トツカ?だめってどういうこと?」
俺は静かに指をさした。その先にはモフり魔の三角地帯へと突貫してゆくサーバルと、それを思いっきり「してやった」みたいな顔で見ているミライさんがいた。
「来たけど、どうすればいいの?」
「ちょっとまってくださいね。えーと」
おほん、と一呼吸置き。
「皆さん、この子はサーバルキャットのアニマルガールさんです。サーバルキャットは全体的にほっそりした体で、耳が大きく、なによりジャンプが高いのが特徴ですね!」
「えへへ、そんなに褒められると照れちゃうな」
なんかミライさんが普通にガイドしてる。そしてサーバルは照れてる……と思ったらめちゃくちゃどや顔してやがる。あいつあの後何が待ってるか本当にわかってないみたいだな……
「それではサーバルさん、自己紹介してくれますか?」
「まかせて!私はサーバルキャットの……」
ふいに、サーバルの口が止まる。
「あ……えっと……その…」
口はどもり初め、顔はみるみる赤くなっていった。
……そりゃ無理もない。あいつはこんな大勢の前で話したことなんてないだろうし、まして心の準備とかできてなかっただろうから、恥ずかしくなるのは当たり前である。お客さんも笑いこらえてるし。あとミライさんそのガッツポーズやめてあげなさい。
「ほんと、あのドジッ娘は……なんというか、アホ可愛いというか」
「お前も笑ってるぞ」
ま、生まれつきの性格なんだろうし、直んないんやろなって。
フジ山やエリアの呼称、建物等は二次創作設定が多いです。必ずしも全てが本家様に登場するわけではないので注意してください。
※12月9日 少し書き直し