「では、向こうの方へ真っ直ぐです」
「ありがとうございます」
スタッフさんから部屋の場所を聞いて歩き出す。
「ふふっ……」
私、カラカルは今非常に機嫌が良い。なんたってこれからあの
「ま、私だけが頼りとか言われたらね……」
なんでも前に
「……ってバカバカ、なに喜んでんのよ私!あくまで看病に行くの、か・ん・びょ・う!」
誰もいないのを確認して一人呟く。まったく、久しぶりに友達に会えるからって興奮しすぎよ……私の馬鹿。
……そういえば確かに久しぶりよね、前にサッカーやったとき以来かな。サーバルはなんか毎回会うけどあいつ普段何処いるんだろ?ニホンオオカミじゃないけど趣味とか結構気になるし。歌とか?
「いやいや、あいつに限ってそれはないわね。女の子っぽくないし」
何かしらね……って、もう着いちゃったか。じゃあ後で質問しよっかな。あ、サッカーのときのお仕置き、あいつあのあと二ホンオオカミと逃げたわよね。ちょうどいいから少しそれでからかって――
「………こ……れ……」
「……ふふっ……まで……」
――あれ、なんか声が聞こえる……これ、トツカの部屋の方から?
「……始めよっか、トツカ」
「サーバル……」
この声、サーバルとトツカ?
いやトツカのいる部屋が向こうにあるんだからトツカがいるのは良いとして、なんでサーバル?呼ばれたのって私だけじゃないの?
……なんか、騙されたみたいでムカツク。
私に内緒で一体何をしているのか疑問に感じつつ、ゆっくりと慣れた手つきで扉を開ける。
ガチャリ
「ねえトツカ、私サーバル来てるなんて聞いてないけど……え?」
「ほら、自分で開けて……」
最初に聞こえてきたのはサーバルの声。目をやれば、オペラグローブを脱いで色白な素肌と華奢な腕を見せながらトツカを押さえつけるように跨がっていた。
「いちいち言わなくとも……ふぁぁ……」
続いた声はトツカのもの。こちらは仰向けな上になぜか手足を服で縛られていた。そのためにしなやかなラインがくっきりと現れていて顔も心なしか紅くなっている。
こうなってしまえば、私の妄想はオーバーヒートしてしまい。
~カラカル's フィルター発動~
「ねぇ……早くイレてよ……」
「いまナカにイレてるって……せっかち……」
「だ、誰が……って、きゃっ!そんな、急に」
「はぁい、私が動くから動かないでねぇ……」
~非情な現実~
「なぁ、早く口にいれてくれないか?その
「今薬を中に入れてるってば、せっかちさんだなぁ」
「誰がだ……うおっ、急に顔近づけんなっての」
「はいはい、私が動くから動かないでねー」
「ちょっ、あ、あんたたちなっななな何をぉぉぉぉ!?」
「あ、カラカル来たのか」
「ってトツカ、急に立ち上がったら」
「問題ないってあわわっ!?」
これは夢これは夢これは夢ぇぇぇ!こんなことありえないしありえてほしくないから早く覚めてぇぇぇあああぁぁぁー!
「と、とりあえず落ち着き――わぶっ!?」
「ほらー、いわんこっちゃな……あ」
えっ、なになに何なの今度は!てか重い!誰かが乗っかってる?誰よ急に倒れて来るバカは……
ムニュ
……なにかしら、このやわらかい感覚。
「あのー……カラカルさん?」
「なっ、なに!?」
呼ばれて顔をあげるとトツカがそこにいる。ってことはこいつが倒れてきたのか。ほんっと後でどう懲らしめてやろうかね……
ムニュムニュ
「そのですね?倒れかかったのは申し訳ないんですけど」
「そ、そうよ!何であんたは事あるごとに倒れてんの。迷惑してるんだけど!」
ムニュムニュムニュ
「いや、なんというか……」
「な、なによ」
「そろそろ
……胸?もしかして、今私が揉んでるのって……?
恐る恐る視線を下げる。
そこには。
ムニュムニュムニュムニュ
普段見ていてもわかるトツカの立派な双丘が。
「…………たい」
「はい?」
「触んなこのドヘンタイがぁぁぁぁ!」
「触ってたのカラカルだろってエリアルループクローすんなへぶぅぅぅぅ!?」
の の の の の の の
「からかるぅー……!」
「さーばるぅー……!」
あー……いったい、これはどうしてこうなったのだろうか。
「だぁーかぁーらぁー、本も持ってきたしもう失敗しないもん!確かにもう既に二回やらかしてるけど、私だって学習するんだよ!」
「あぁーのぉーねぇー、学習せず二度どころか三度四度と繰り返していくのがあんたでしょーがっ!この天然ドジの失敗永久機関!」
いや、ね?俺におおよその原因があるってのは解るんだよ。でもその肝心の原因がわからないんですよ。と言うか今一番怒るべきなのは風邪引いてる側で大声出されてる俺だと思うんすよ。
「そもそもなんでタオルをびちょびちょなまま被せてんのよ!水滴溢れてたし!ある程度絞るのが常識じゃない、サバンナの雨で濡れたのが原因なの音速で忘れてるわけ!?」
「だって最初に持ってきたときは『絞りすぎで乾ききってる』とか言うから今度は濡らしたんだよ!?乾かしたら濡らして、濡らしたら乾かせってどっちなのっ!」
うん、待ってなんか凄い大げんか始まってるんですけど。この場にいるだけで罪悪感たまらないんですけど……
「適度ってもんがあんのよ!物事で重要なのはバランスなのよこのドジ!乾いてるかびちょびちょかの二択しか選べないからそんな極端になるのかしらねっ!」
「説明がわかりにくいんだもん!そんなに言うならその適度っていうのをちゃんと説明できるようになってからいってよね!ほんっと文句だけは多いんだから!」
あー、それ小さい頃よく言ったなー。学校で先生に注意されてそれに対する反抗心的な感じだったわ。
……いや、それ以前に子供かって突っ込むべきだと思うぞ、俺よ。
「そ、それ以前に薬飲ませようとして、あ、ああああのポーズはないでしょ!」
「あ、ああああれは私が考えに考え抜いて出した結論だし!別にそんな思いはなかったし!」
はぁ、しょうがねぇ。俺が救いの手をさしのべてやるか──
「こうやってすればいいじゃない!」
「それができなかったからなの!」
「なぁ、二人とも……」
「「トツカは黙ってて!!」」
「……あい」
……やっぱ俺この場にいない方が良いのかもしれない。ぐすん。
~喧嘩中~
「「がるるるる……!」」
四つ足で互いに威嚇する二人、つか最早2匹の猫を目前に絡まった服を少しづつ解いていく。
ちなみに今、俺の姿は足がニーソ、腕がシャツとグローブで絡まっていてどこか現代アートのような雰囲気を醸し出している。普段なら真っ先に煽ってくるであろう2匹が丁度こちらを見ていなかったのは不幸中の幸いだった。
「……んまぁその、なんだ。二人とも一回落ち着け」
「んぅ、さっきから何なのよ」
「黙っててって言ったじゃん」
そう言って火花を散らしつつ俺を睨むサーバルとカラカル。ぐっ、結構心に響いたぞ今の発言……なんて思ってても埒があかないので気を取り直して、現状を説明しよう。
まず俺は風邪をひいて寝込んでいる。そんでこの前
勿論このドジのする事なす事を信用していない俺は看病の方法が書かれた本をサーバルに渡し、さらにカラカルにも来てもらうことにした。俺はこの判断を賢明だと考えていたし、少なくとも問題を引き起こすことはないと信じていた。
だが、それはあまりにも愚鈍すぎたのだ。
「で、まずは。なんでサーバルは本を持ってきてなかったんだ」
「うぅ……だって急に『はい、これやるから』なんて言われたってわからないよぉ」
話が見えていなかったんだが、どうもサーバルは俺が渡した本をプレゼントかなんかだと思っていたらしい。受け取らせた時やけに嬉しそうにして大事に抱えてた時点でなんとなく違和感があったが、まさか単に贈り物として見てたとは……
まぁ単にあげるとしか言わなかった俺にも非はある。でもわざわざ重い体を引っ張ってたわけだからあんま長話もできなかったししょうがないと思う。
「てか、それ以前に本の内容で色々わかるじゃない。特にサーバルはドジするし」
「ドジって言うなぁー!」
サーバルの顔を真っ赤にしているところ申し訳ないが、お前にも用はあるぞカラカル。
「で、カラカル」
「ふぇっ、わたし?」
自分が呼ばれることが想定外だったのか、カラカルはビクンッと体を跳ねらせてこちらに向き直る。
「まずはあのポーズに関して──」
「そ、そうよ!なんであんなことを……まさか二人ともそういう関係!?だだだだからってここでそんなことしなくとも!」
「ちちちちがうってぇー!いや違わないけど違うっていうか、その、私だってソレはマズいとは思ってたっていうか……」
顔を真っ赤にしてまた言い合う二人。あとソレってなんだソレって、俺の知らない裏で一体何が起こっているんだよ。ただでさえ病気だってのに恐ろしくてとてもじゃないが休めないぞ。おい、看病しろよ。
「ほらそこー、誤解を生む発言をしない」
「「5回も産む!?」」
お前らほんと少し黙っててくれ。俺に何を産ませるつもりなんだ。というか、どうしてこんなことに……あ、サーバルが何もしなくとも問題引き起こすトラブルメーカーだからかなるほどなははは。泣けるぜ。
「まぁそれはともかく、だ。カラカルのその……ソレな点、って言えばいいのか?そこを教えてくれ、俺が誤解をただすから」
~回想~
事の発端は服を脱がすこと。本来ならスッと抜けられるはずなのだが手の不器用さもあってなかなか脱げず、そこにサーバルのドジパワーが加わって見事に腕やら足やらが絡まったのだ。
しかしこの馬鹿は何を思ったのかこの状態で薬を飲ませようとしたのである。
「あ、ねえねえ、トツカ自分で飲めないよね。飲ませてあげるよ」
「飲ませるって、んまぁ適当に口に入れてくれれば自分で飲むぞ」
ほんで、手は空いていないので当たり前だがサーバルが飲ませることになる。
「あれ、うまく摘まめない……私も脱いだ方がいいかな、この腕のやつ」
「おいおい……早く入れてくれよ。口疲れんだぞ」
さらに、俺は服の絡まり方が影響し上体を起こすことすらままなっていなかったため、サーバルは四つん這いで俺の上に被さって飲ませようとしてきた。
「こけてこっちに倒れないでくれよ?風邪移られてもあれだし」
「ふふっ、わかってるよ。ちゃんと最後まで私が看病してあげるからね?」
それは、はたから見れば「サーバルが俺を押し倒している」ように見えなくもない。
「じゃ、初めよっかトツカ」
「サーバル、失敗だけはやめてくれよ?」
極め付けに、俺は熱があったため顔に赤みがあった。
ガチャリ
きっと、廊下にいたカラカルにも会話は聞こえていたのだろう。
「ねえトツカ、私サーバル来てるなんて聞いてないけど……え?」
こちらからすれば何てことないが、きっとおそらくカラカル視点から見ればこうなっていただろう──二人っきりの部屋で、縛られたうえに服がはだけ頰の紅潮した俺を、上からサーバルが押し倒している、と。
~現在~
「だがそれは完全なお前の妄想だからな、決してそんなことは起こってねぇし。俺がそんな不埒な奴に見えるか?」
「「見える」」
「おふっ」
二人同時して言うことないだろ……涙のダムが決壊しないように我慢しながら、何とか服を脱いで下着だけになる。
「てか、なんでサーバルがいんのよ。私聞いてないんだけど」
「私もカラカル来るなんて言われてないよ?」
「あー、言ってなかったっけ……あ、それを怒ってんのか?」
「私は構わないけど……カラカルは?」
「べーつにー」
や、違ったか……個人的には結構当たりをついてたと思ったんだがなぁ。カラカルはそっぽを向いたまま、サーバルもなんか苦笑いしてるし。何をそんな拗ねたり怒ったりしてんだろうか。
「んー……わかった、俺が悪かった。何が悪かったのかはさっぱりわからんが謝る。二人も怒りをおさめてくれ」
とにもかくにも、ここで大人気なく意地張ったところでいいことはない。険悪なムード解消のためにも一応謝っておく、というのが俺の導き出した結論だった。
「まぁ私はもう怒ってないっていうより、いろいろ納得して複雑な感じかな。それにトツカが謝っても意味ないんじゃない?『関係ない』んだからさ」
「ぶべらっ」
「サーバル、言ってることは正しいけど全然フォローになってないわよ」
「あれ、そうかな」
この野郎、笑顔でなんてこと言いやがる……つかいつの間に仲直りしてんだよ。俺煽られただけなんだが。決死の謝罪を返せ。
「ま、そういうわけでごめんね、カラカル」
「……それなら私も謝るわ。ごめんなさい」
よし、これでおっけー。あれ、俺なんでここにいたんだっけ……あ、大事なこと忘れてた。
「一段落したところでカラカル、頼みがあるんだが」
「なに?側で体拭いたり熱計ったりとかは、で、できなくはないけど?ドジじゃないし」
「カラカル今私意識したよね?したよね!?」
「してないから安心しなさい。あと着替えもちゃんと着せられるわよ」
「やっぱりしてる~!くそぅ、くそぅ!」
ええと、何を頼めば……そうだ。
「というわけで――」
「というわけで?」
「お粥持ってきてくれないか?」
「…………」
「…………」
沈黙。
気まずくなって声が出ないのでカラカルを見る。そしたらそこにいたのは手からサンドスターがあふれかかっている阿修羅だった。別の意味で声が出なくなったぞどうしてくれる。
涙目になりながらサーバルを見る。こちらは呆れたような視線を俺に突き刺しまくっていた。俺が何をしたっていうんだ、とハンドサインで訴える。
『いやいや、今のは特大の地雷発言だったと思うよ?』
ハンドサインがかえってきた。まだよくわからないので応答続行。
『地雷発言って、今のどこらへんが地雷だったんだよ』
『どこらへんも何も全部だよ!あんなこと頼むのはおかしいじゃない!』
『頼み聞いてくれるっていうから頼んだだけだぞ!』
『あんなの頼むのはトツカくらいだよ!カラカルの気持ちも考えなよこの鈍感バカ!』
『ああ!?あの短い言葉の中からどう気持ちを汲み取るんだよこの単純バカ!』
『たくさんそれっぽいワードあったでしょ
『それっぽいってどういう意味なんだよ天然バカ!』
『うるさい、バカって言った方がバカなんだよばーか!』
『ならお前もバカって言ったからバカなんだよばーか!』
『『こんのぉ……!』』
「いちいちハンドサインがうるさいのよこのバカコンビ!」
ゴンッ!
「「みゃあああぁぁぁ!!」」
うおおおい!?俺病人!病人だから!しかももう既に一度エリアルループクローくらってるから!大切にして!?
「もういいっ!」
だんっ、と音を立てて苛立ち気にカラカルが立つ。
「ちょっ、カラカル!どこ行くの!?」
「お粥もらって来るだけよ。あんたらはそこで楽しく喧嘩してればっ、このバカ!」
「あ、カラカル待てって」
追いかけようとしたが、すぐに扉が閉められてしまう。
「……あー、どうしよ」
気まずい沈黙の中にサーバルと取れ残される。何か悪いことしたんだろうか、俺……それより、追いかけた方がいいのか?
いろいろと考えているが、答えが見えない。
「……うん、よしっ。トツカ、もう服脱げたなら薬飲めるよね。飲んじゃいなよ」
「サーバル、今はそれ所じゃ」
「大丈夫だよ、お粥もらって来るだけって言ってたし。それに今トツカが行っても、鳩の群れの中に猫をおいて来るようなものだよ?」
「どういう意味だよ……」
だが確かに今行っても成果は得られない、むしろ悪化するだろう。ならとりあえず戻って来るまで待たないと……
「っくしゅ!寒っ」
「今下着だけなんだから当たり前だよ。私は薬とかシート?の準備してるから着替えといて」
「ういうい」
はぁ……俺の風邪、治んのかなぁ。
幕間(作中初の6000字)
暇なときに続きを書く感じです。なので次はバンド編の更新になるかと。