遊園地エリアの施設の中に、ちょっとした広場のようなものがある。ただでさえ気候の整ったこのエリアだが、室内ともなると冷暖房のおかげでさらに心地よくなるので、最近はここに入り浸っている。なんたって今は7月、遊園地エリアは日本に気候が似ているため夏の暑さもいいところだ。サバンナエリアといい勝負である。
ウィーン……
「はぁー、すずしー……」
自動ドアに出迎えられて、外の暑さを忘れられるほどの冷房に身を寄せると、獣少女が前方に2人。
「……あら、トツカもここに来たの?」
「じーっ……」
目の前の先客達の名は、カラカルとニホンオオカミだ。2人はカラカルが迷子の時に出会ったらしく、俺もニホンオオカミに会うのはまだ数回目である。で、ニホンオオカミの方はさっきからずっと何かに集中している。
「お、カラカル……と、ニホンオオカミもここにいたのか」
「私は借りた本全部読んじゃってねー。ニホンオオカミは今マンガに釘付けなの」
……あぁ、なるほど。
というわけでこの広場では漫画や本の置いてある書庫が休憩用として置いてある。俺は普段は興味ないし寝てるけど。
「んで、またなんで突然漫画なんか?」
「このマンガが面白いからだよ!」
「うにゃっ!?」
うお!?って、ニホンオオカミか、焦った……てかなんで今度は返事するんだ、最初からしてくれ。
「んで、なんのマンガなんだ?」
「まぁ見てみなさいよ」
なんのことかと思いつつ、とりあえず紙面を見ると……
「これ、サッカーのマンガだな」
ちょうど、主人公達がスタジアムで戦っているシーンだった。
「ねぇねぇ、カラカルとトツカもこれしない?サバンナエリアのみんなを呼んでやってみようよ」
「これって……サッカーのことか?」
「じゃ、決まりね。トツカも手伝いなさい、どうせ暇でしょ」
「えー?」
どうやら拒否権はないらしい。しょうがない、ボール借りてくるか。
~数時間後~
カラカル達から呼び終わったとの報告を聞き、サバンナエリアのだだっ広い草原に集める。
まず、カラカル・ニホンオオカミと話しているサーバル。
サッカーボールに興味津々なキリン三姉妹。
ニホンオオカミの持っていたマンガでルールを教えるヒグマと、教わるコアラ、昼寝中のライオン。
「俺らを合わせて10人か。じゃちょうど偶数だしグッパーやって分かれるぞ」
「うん、今そっち行くよ」
あ、ゴール……は、なんかあそこに良さそうに生えてる木で代用すればいいだろう。
「んで、ゴールはあの木と木の間だかんなー」
「わかったわ」
さてサッカーか、俺もやるのは久しぶりだ。どうなることやら……
「じゃ、ぐっぱーじゃすで」
「わかれま……」
『しょ!』
~数分後~
サッカーボールが仮グラウンドの真ん中らへんに置かれ、そのそばにじゃんけんで勝った俺たちのチームのニホンオオカミがつく。
「おーい、準備はいいかー?」
「いいよー!」
チーム分けの結果だが、こちらはニホンオオカミ・ライオン・コアラ・ケープキリン、そしてなぜかゴールキーパーに配属された俺。
んで、相手はそれ以外のアミメキリン・ロスっち・ヒグマ・サーバル・俺と同じゴールキーパーのカラカル。
全員に合図を送り、試合開始を伝える。よし、問題ないな。
「ニホンオオカミ、蹴っていいぞ」
「わかったー!よーし、行くよー!」
ニホンオオカミがドリブルしていき、相手陣地へと進む。早速ルール守ってないが、いちいち注意すんのも面倒だし許容範囲ってことで。
「へっへーん、ここは通さないよ!」
「な、サーバルちゃん!」
しかし、すぐにサーバルがディフェンスに入る。ニホンオオカミも負けじと足を動かし、攻防戦が始まった。
「ぐっ……えい、あっ」
「よっ、と、ここだ!」
お、うまいなサーバル、隙をついてニホンオオカミからボールを奪い、駆け上がっていく。さすが経験しただけあるってとこか。
「まだまだ、ほっと!」
さらにサーバルは軽々と2メートル近くジャンプし、そのままちょうどゴール(仮)の前で着地した。
「すごいねサーバル、いいジャンプだよ!」
「おお、すごいじゃんサーバル!」
周りからは敵味方関係なく賞賛の嵐。だが俺とカラカルは褒めるどころか呆れてサーバルを見ていた。なぜか?
その理由は単純。
「おいサーバル……お前、ボールどうした?」
「えへへ……ってあれ?」
サーバルが慌てて足元を見るが、あるわけ無い。このドジがそんな円滑にことを運べるわけが無いのだ。
「サーバル、途中でボール足から落としてたの気づかなかったわけ?」
「え、えー!?いつの間にそんな、じゃあボールはどこに」
「今ケープキリンの前にあるな」
ボールの落下地点にピンポイントでいるとか運いいなあいつ……あれ、なんか動いてないぞ?
「ケープキリンさーん、なんで止まってるんですかー?」
「そ、その、アミメキリンちゃん達と戦うって思うと、あの……」
なんじゃそりゃ……一緒がいいなら先にそう言えばいいのに、なんだかなぁ。
「じゃあ、もらっていいですか?」
「あ、いいですよ」
「ありがとうございますねー」
「いえいえ、どういたしまして」
なんだこの和解。それでいいのかケープキリン。
とにかく、平和的解決手段でボールを勝ち取ったコアラは、たまたま敵のゴール付近で寝ていたライオンにパスする、というよりそばにそっとボールを置く。
「ライオンさん、シュートお願いしますねー」
「ん、もうちょい寝てからでいい?」
しかしこの好機においてもライオンは睡眠を選択。……うん、なんで?
くっ、ライオンをやる気にさせるには……あ、あれを使えば!
「ライオン、これを役の台本として演じてくれ!」
として俺は、とあるものを全力投球する。投げやすい形じゃ無いが、そこはアニマルガールの強靭な体で補った。
「これって……サッカーのマンガ?この人を演じればいいの?」
「そうだ!そっちにもう何人か行ってるから早く!」
頼むからライオン!そんなよいしょみたいな感じで立ち上がってないで早くシュートしてくれ!
「えーっと、ブツブツ……『オレは……絶対にココで決める!あいつらのためにも!』」
「うわあ、あいつらって誰なのかわかんないけど私の読んでたマンガそっくりー!」
うん、そこは言わなくていいから!あとセリフもいいからはよシュートしろ!
「うわ、暇だと思ったらなんかきてるし……まあいいわ、どっからでもかかってきなさい!」
「『はあああっ!くらえぇ!』」
スカッ
結果。ライオンの足はボールに当たることはなく、満足した本人はまた眠りだした。
「おやすみー……」
「いや待て待て待て!なにがあったらそうなる!?そこは決めろよ!」
「あ、この人を演じたのかな?確かにシュートできてないねー」
「えぇー、なんなのよそれ……気を入れた私が馬鹿だったわ」
嘘だろ……と思ったが、さっきマンガを拾ったアミメキリンがこちらに向けたページには、ライオンの行動と瓜二つな状況があった。
「アミメキリンちゃん、こっちこっちー!」
「あ、いまパスするね」
「全く……って、しまった、ボールが!」
いつの間にかボールはロスっちへと回る。くっそ、ライオンに完全に気を取られていた!
「ヒグマ、いくよー!」
「お、私の出番かい」
パスを受けたヒグマは勢いを弱めず、ゴールへ一直線に走ってくる。なんだ、正面なら問題ないはずだ。……フラグじゃないぞ?
「さぁ、全力で行かせてもらうよ!」
「できるだけ加減はして欲しいんだが!」
ヒグマの足が思いっきり振り上げられ、ボールにキラキラとした光が散り始め……っておいちょっと待て。
「え、それサンドスターだよね?サンドスター消費してまで全力出すの?マジなパターン!?」
おいおい冗談と言ってくれ。
「トツカ、必殺技だよ!」
「必殺技ぁ!?んなアニメじゃあるま……あ、持ってるか。でもあれは」
「いいから!名前を叫べば使えるはずだよ」
ニホンオオカミから突然のアドバイス。え、あれそういうメカニズムなの?てかあのはずい名前を叫べというのか、この俺に?死んでも嫌なのですが。
「トツカ、早く『にゃんにゃんネコパンチ』って叫んで!」
「嫌に決まってんだろ!」
あとなんでその名前知ってんだ!?
「よいしょっと!」
ズン!
まずい、ヒグマ本気で打ちやがった!プライドと勝負の板挟み状態なんだが!?
「トツカ!」
だああああ!
「『にゃんにゃん』!」
もう!
「『ネコ』ぉ!」
どうにでもぉ!
「『パンチ』ぃぃぃ!」
なれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
ドカーン!
そして。
目の前には──
──真っ二つのサッカーボールがあった。
~数分後~
「反省したぁ?」
「いや、本当に事故なんだってカラk」
「どうやらまだお仕置きが足りないみたいね、ニホンオオカミも来なさいっ!」
「俺は悪くねぇー!」
「なんで私もー!?」
大人数での回はセリフ分配が難しいですね……要勉強です。