平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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第23話 WRITING(筆記)というもの、獣もしてみん

森林エリア。春の遊園地エリアのように気候のある程度整った場所。そこには、キョウシュウチホー唯一の図書館がある。

 

うん、まぁ別に図書館なんていくつもいらないし言ってしまえば遊園地や研究所の休憩スペースで事足りてるし。つーかそもそもサファリパークに図書館って必要なのか……?

ちなみに平原エリアにはお城風アトラクション、雪山エリアには温泉、遊園地エリアには文字通りの遊園地があるから、娯楽としてはそっちの方が向いている。現に今ここには人影がほぼなく、一階の休憩スペースは俺の貸切状態。

 

だが、それだけ人気がなくとも、俺にはそこへ行かなくてはいけない理由がある。

 

その理由、とは。

 

 

 

 

 

「……ぐぬぬぬ、全然うまくできねぇ……なんで『四』の字も書けないんだ俺は……」

 

 

 

 

字を書けるようになること、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、ひらがななんて難しすぎだろあれ。特に「ぬ」とか、お前なんでそんなグネグネしてんだよ。仕方なく漢数字に変えたけど「三」までは棒なのに「四」からはなぜ形が変わるのか全くもって解せない。

 

 

「俺、もうダメかもな……」

「なんやどないしたん、さっきから唸って。図書館なんやから静かにせんとあかんよ?」

「にゃっ、誰だ……って、ヒョウか」

 

 

センチメンタルな俺に後ろから流暢な関西弁で話しかけてきたのは、食肉目ネコ科ヒョウ属のヒョウ。

 

 

「せや、ナイスバディで可愛いヒョウ姉さんやで!」

「あんまり言いすぎるとオカピがうるさいぞ」

 

 

一週間前、今話に出てきたオカピとどっちの足が美しいかなんてしょうもない論争に俺を巻き込んだアニマルガールである。

 

 

「お、これもしかして漢字?三まではできてるのに四が全然だめやないか」

「しょうがないじゃん、俺の不器用さはヒョウもわかってるだろ」

 

 

わかられてても困るんだけども。それ以前に文字の読み書きができるアニマルガールだっているんだから、むしろ俺はまだマシな方である……はず。

 

 

「んで、お前は何しにここへ?」

「うちらはちょっと料理の本を探すよう頼まれてな。研究所の本は貸し出しできないから、こっちに来たんや」

「へぇー、誰に?」

「ふっふーん、それは『ぷらいまりー』に関わるから秘密!」

「それはプライバシーってことでいいんだよな」

 

 

にしてもなるほど、本を探す依頼を受けて、か。確かにここの図書館いろんな本があっから、探せば大抵は見つかるだろう。何で真ん中に木が生えてんのかは知らんけど。これ雨降ったら全部濡れるんじゃ……

 

 

「ん、うち『ら』?」

「せや、向こうにクロヒョウもいるで」

 

 

おーい、とヒョウに呼ばれて、後ろ髪を2つ結びした黒い服の子が振り返る。あとヒョウ、さっき静かにしろと言っておきながら大きい声で呼んだら本末転倒だからな。

 

 

「なに、お姉ちゃん……って、トツカちゃんも居とったんやね」

「久しぶり、クロヒョウ。姉の方と同じく、ちょうど一週間ぶりか」

 

 

この子はヒョウの妹、食肉目ネコ科ヒョウ属クロヒョウ。俺をヒョウの自慢話から救ってくれた恩人でもある。

 

 

「ほら、クロヒョウも見てみこれ!この『を』みたいな字なんかすごいことに……」

「あー!あー!ちょっとその話はあとでな!あとで!」

 

 

ここで俺の字を話題にしなくていいから!てかできることなら未来永劫話題にするな!

 

 

「う、うん……なんかお姉ちゃんが迷惑かけてるみたいで、ごめんなあ」

「いやいや、クロヒョウが謝ることなんて全然ないって」

 

 

クロヒョウが普段からこういう性格なのは知ってるが、それでもこっちが申し訳なってくる。おいヒョウ、なに頷いてんだ。お前が原因なんだぞ。

 

 

「それで、お姉ちゃんなんでうちを呼んだん?」

「あ、せやった。目的の本って見つかったか?うちが探したところにはなかったで」

「うーん、うちも今探してるところやからなぁ……」

 

 

というか、ヒョウはここら辺から料理本を探してたのか。いや見た感じ探してる雰囲気ではなかったけど。あとここは文学系の本棚が多いから料理本はないんじゃないですかね。

 

 

「そもそも、料理、というか家庭系の本なら向こうなんじゃないのか?ほれ」

 

 

そう言って指を向けた先には、区切られた本棚とそこにつけられた「家庭本」と書かれた看板。

 

 

「あ、本当や!どうりで今まで変なこと書いとる本しかないわけやわ」

「気づくのが圧倒的に遅すぎだろ……次から使うときは参考にするんだな」

 

 

姉妹は全力疾走で階段を上ったあとしばらくあちこちを探していたが、1分経つか経たないかのうちに『お家で出来る簡単レシピ! 50選』と表紙に書かれた本を持って降りてきた。

 

 

「ほんまにありがとう!これでなんとか約束も果たせそうやし、みんなトツカのおかげやよ」

「そこまで言われると逆に照れくさいな。実際俺なんもしてないし」

「どしたんどしたん、まったく照れちゃって〜」

 

 

何でだろ、前世ではこんなに照れ屋ではなかったと思うんだが。あと頭撫でられても無意識に首よじらせるほど敏感ではなかったはずなんだが。それにしたってこんな気分だったんだな、いっつも撫でる側だったからなんか新鮮だ。

 

 

「でさ、トツカちゃん。お礼ってしてもいいかな。流石にこのまま帰るってわけにもいかないし」

「あぇ?いや、そんなの別にいいって。俺だって今日は字の練習だけしかしないし」

「あ、それや!字の書き方を教えたるよ!」

 

 

……は?

 

 

「えっ……マジ?」

「むぅ、その目、このヒョウ姉さんを信じとらんな!うちだってやるときはやるんよ?」

「お姉ちゃんはやるときとやることがあれなんやけどね……」

 

 

うわぁ、胸張ってんのにその隣で妹に苦笑いされてる。何だこの構図。単純にヒョウの胸だけが強調されてやがる。

 

 

「まぁトツカちゃん、うちも一緒にするから。もしものときは何とかするよ」

「それはそれで申し訳ないんだがなぁ」

 

 

……ま、いっか。なるようになるだろ。

 

 

「じゃ、お手柔らかに頼むよ。特にヒョウのことで」

「ん、今うちバカにされへんかったか……?」

「気のせいだぞー」

 

 

 

~数分後~

 

 

 

レクチャーはまず座る姿勢から始まる。クロヒョウの教え方は意外と上手い上に細かくて、なぜかヒョウも俺と並んで授業を受けることとなった。

 

 

「……そうそう、ええ感じやと思う。まず姿勢はおっけーや」

「字を書くのがここまできついと思ったんは初めてやなぁ」

「まだ鉛筆握ってすらいないのになに言ってんだ」

 

 

俺にとっては復習みたいなもんでしかなかったが、まぁ言うて俺も完璧じゃなかったし結果オーライだ。まさか(元)社会人になってから小学生レベルの教えを受けることになるのか、とも思ったけど、意外と忘れてたり間違ってたりとするもんなんだなぁ。

 

 

「じゃ、次は実際に持ってみよか。まずは2人とも自由に鉛筆握ってみて」

 

 

言われた通りそれまでと同じように鉛筆を握る。……ん、やっぱ慣れてきたとはいえまだ握るのも難しいな。

苦戦していると、クロヒョウが気づいたのかこちらに寄ってくる。

 

 

「ご、ごめんトツカちゃん!わかりにくかったかな、あんまり深く言わんかったし……」

「別にクロヒョウの言い方は問題ないんだがな、俺が元からこうなだけで」

 

 

クロヒョウの持ってるみたいにやってるんだが……くっ、あれ、うまくいかない?

 

 

「えーと、もうちょいやね。鉛筆の軸は……人差し指の、第二関節か第三関節に当たるようにして」

「どれどれ見せてみ、こう親指は力を抜いて少し曲げるように……うん、そんな感じやな」

 

 

ヒョウも加わり、アドバイスをしつつ、手と手を重ね合わせながら2人がかりで俺に鉛筆を持たせる。3つも手があるのに重ならないあたりさすが姉妹といったところか。

 

 

「中指と薬指は、のばさずに、親指と一緒にそっと曲げるの」

「他の指は抑えといたるから、添えてみ」

「んーっと、ここはこうで、薬指はこの辺でいいのか」

 

 

ヒョウに手を添えてもらいつつ、クロヒョウの指示通り指を動かす。お、だんだんと様になってきた。

 

 

「そうそう、上手い上手い!なんかおぼこい子を見てる感じやなぁ」

「おぼ……なんだって?」

「な、なんでもないなんでもない!」

 

 

なんでそんなに慌てて隠すんだ?意味がわからなかっただけなんだけど。あ、もしかして俺に言えない意味か。

 

 

「お姉ちゃんたら、わからんでもないけど……とにかく、今言った、親指、中指、薬指の添え方が重要なんよ」

「それと、人差し指に軸を預け、腕に重心を置く、だな」

 

 

あとわからんでもないってどういうことですかね。

 

 

「そしたら、試しに何か書いてみてくれる?う、うまく教えられへんかったし、もしかしたら難しいかもだけど……」

「まぁまぁ、何事も試しだ。要はこの形を維持して書ければ良いわけだし」

 

 

紙に面と向かい、教わった姿勢・持ち方のままゆっくりと鉛筆を滑らせていく。

まずは単なる棒を幾つか。そのまま、曲げたり文字に変えていったりする。

 

 

「……すごいな、今までよりスラスラ行く感じがする」

 

 

今までどころか、前世の時よりもめちゃくちゃ滑らかに腕が動いていくぞ。どれ、小さい動きは……あれ、流石にそこまで細かくは動かせないか。でも線も真っ直ぐになってきたし、筆圧も濃すぎたのが普通くらいになってる。

 

 

「そりゃあなぁ、トツカは今までがダメすぎ……あいたっ」

「もう、お姉ちゃんたらそういうこと言わない!」

 

 

ヒョウの言葉にクロヒョウのチョップが入る。今までがダメという言葉に反論できない自分が悔しいが、それこそ最初は文字書こうとして紙破いてた俺からすれば大発見である。

 

 

「それじゃトツカちゃん、一回鉛筆を置いて、もう一回持ち直して……そういえば、お姉ちゃんはええの?」

「うっ……ほら、うちはその、もともと教える側なわけやし?」

「じゃあなんで途中から一緒に習ってたんだ」

 

 

「ははは〜」と笑って誤魔化すヒョウをよそに一旦手から鉛筆を離す。

 

 

「それでは、よーい……どうぞ!」

 

 

合図に合わせて鉛筆を握る。人差し指に軸を合わせて、親指と中指、薬指を添える……うん、こんな感じだ。

 

 

「お、最初より力んでなくてええ感じやな。ちゃんと持ててるやん、えらいえらい!」

「ちょっとしか教えてへんのに、すごいよトツカちゃん!」

「は、はは……」

 

 

1日に二回も照れさせないでくれ……カラカルに謝られた時もそうだが、照れは結構慣れないんだよなぁ……

 

 

「そしたら、もう実践できるんとちゃうかな」

「ということは字を書くのか」

「あ、実践と言っても、まずはこう……ジグザグに、線を書くんよ」

 

 

こんな風に、とクロヒョウが線を書いていく。

 

 

トン、スーッ、スッ、スー……

 

 

紙には、Zを縦にいくつも重ねたような、綺麗な線が残っていた。

 

 

「今のトツカちゃんなら、難しくはないと思うんやけど」

「りょーかい、先生の言うことにはちゃんと従うさ」

 

 

それじゃ、いっちょやってみますか。えー、確かまずはまっすぐ線を下ろして……

 

 

「でも先生呼びされるんは悪くないな……」

「お姉ちゃん、下見て!本置いてあるよ!」

「って、おわっ!?」

「ん、どうしたヒョウってこっち倒れてくんな!?」

 

 

なにがあったあああ!?

 

 

ドシーン!

 

 

 

「あわわわ、2人とも大丈夫!?」

「あたたた……あれ、トツカどこや?」

「お前が今乗っかってるよ……」

 

 

早く降りてくれないか、出来るだけ早く。

 

 

 

~数時間後~

 

 

 

「いやー、今日はありがとうな、勝手に俺の練習に付き合ってもらっちまって」

「ええねんええねん、こっちも楽しかったで!」

「こらお姉ちゃんてば、ほんまにごめんなあトツカちゃん」

 

 

ま、ヒョウも問題こそ起こしたものの役に立ったわけだし。今日のところは許してやろう。

 

 

「んじゃクロヒョウ、うちらはこれから縄張りに戻ろか。ほな、またな、トツカ」

「うん、さよなら」

「忘れ物すんなよー」

 

 

さて、俺は練習の続きを……

 

 

「……あれ、これなんだ?」

 

地面に落ちていたのはどうやら何かの本らしいものだった。表紙は、えーっと。

 

『お家で出来る簡単レシピ! 50選』

 

……あ。

 

 

「おーいトツカー、本落っこちとらんかー?」

「お姉ちゃんがなくしちゃって……ほんっまにごめん!」

 

 

全く、あいつら言ったそばから……図書館では静かにしような。

 

 




関西弁うまく書けない……ご指摘等お待ちしています。

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