第1話 二度目の
開口一番に言うことじゃないと思うが、俺は死んだ。
今は特に痛みとかもなくブラックアウトしているが、最後に見た光景だけは、はっきりとまではいかずとも朧げに覚えている。
普段着でコンビニの前にある歩道に立っていた。両足にスニーカー、左手にレジ袋、眼鏡をかけた目の前には暴走車。
……自分で言うのもなんだが、まぁ間違いなく即死コースだったろうなぁ。交通事故での死といえば暴走車から猫を救うのがメジャーなはずだし、最後くらいカッコよく決めたかったんだがなぁ……なんて馬鹿げたことを冷静に考えられるのも、やはり人間の神秘というやつなのか。
未練はない、と言えば嘘になるだろう。
学校に入れたのに成績は平凡、なんとか大学を出て社会人になったあとも結局は平均的な会社員になり、ついに最後さえも平凡に閉められるのだ。そりゃあもう未練タラタラである。
とは言っても、同僚や数少ない親友との会話、アニメ視聴やゲーム、飼ってる猫の世話だったりが癒しとだったから特に夢みたいなのは……あ、あの猫ちゃんと誰かに預けられたよな?つかそもそも飼い主が死んだ後の猫って誰のものになるんだ?友人が引き取ってくれたとかでもいいから無事ていてほしい。
…………
……あのー、もう暗転して数十分経ってるんですけども。いつ頃になったらあの世に行かせてもらえますかね?あれか?三途の川が渋滞してんのか?はあ……
ったく、あの世も大変だな。
──ったく、あの世も大変だな──
突然、声が頭の中に反響する。
可愛らしく、美しく、透き通った女性の声。言葉遣いこそ荒く男性的なものだが、それは確かに女性の声だった。
驚いて
眩しい光が入り込む。
目の前が色づいてゆく。
情景が、景色が、世界が
「……ここ、は……?」
俺はもう一度、この世に
……ワオ、マジかいな。
あれ、てことは俺生きてる?死んだわけではなかったってこと?……いや、だとするとコンビニの前にいないとおかしい。
目の前に広がる地平線と植物たち。一言で表すなら、ここはまさしく「草原」であろう。いやほんと、見渡す限り草とか木しかない。俺の住んでいた
……兎にも角にも、ここから推測するに平凡平均一般的な俺にも超常異常圧倒的なチャンスが訪れたわけか。
こういうのってなんかこう「魔術に深く関わってきた家系の末裔」とか「悪の手から世界を救った勇者」みたいな、それこそRPGの主人公だけができるようなもんだと考えていたが、神様って以外と太っ腹なのな。サンキュー神様。会ってねぇけど。
なんにせよありがたいことに変わりないが、なるほど、これが所謂『転生』ってやつか。
「なるほど、これが所謂『転生』ってやつか」
うん、そうだよ転生だよ。だから俺の言葉を反駁すんな鬱陶しいぞ謎の……あ、これどっちかっていうと天の声か?確かに天使みたいなイメージの声だしワンチャンあり得る。
「いや、ねえよバカ……うっせえ、誰がバカだと!?俺も思ったけど言わなくたっていいじゃ……だから繰り返すなっての!」
だああ、なんなんだこいつ!俺が声を出そうとすれば必ず同じ内容で同じタイミングで返してくるし!そもそも俺の声が聞こえな……
…………
「……あー、あー」
……これあれだー。これ天の声じゃなくて俺の声なやつだー。一人で言い合ってて恥ずかしいやつだー。
なんだよ、俺の声なら教えてくれたっていいじゃんかぁ……転生前に特典くらい教えてくれたってよくない?つか顔見せてから転生させろこのクソ神様。おかげで俺のメンタルは早々から壊れそうだよ。向こうでちょっと引き気味になってるシマウマ?が見えてツライよ。
というわけで、反省を活かしまず自分自身の体について調べるか。一応これからお世話になる身体だから、大まかな外見と身体能力くらいは知りたいところ。
どうすっかな……鏡とかはないし、とりあえず全身触って全体像を把握するか。ある程度動けたし多分人間だと思うんだが、どうだ……?
「……これ、体型は女の子だな」
……あ、もちろん人間の、な。
まず最初の決め手として、胸がでかい。自分で言うことじゃないけど、結構でかい。下の方向くとその威圧感がすげえ出てくる。持ち上げてみると……うお、変な感触。ま、前世ではそれこそ女の胸なんぞさわらんかったからな……彼女?HAHAHA。
それと、服が結構きわどい。アイドルの着てそうなひらひらしたやつで、下はニーソなんだが、その上のスカートの丈が結構短い。背丈の高い草とかめっちゃ入ってくるんだよ、中に。
それにしても生まれた時からすでに高校生くらいの体か……これ「転生」というより「憑依」の方が正しかったりする?いやこんな場所にこんな服着て倒れてる女子高生とか前代未聞だ。あれ、もしかしてこの子人間じゃない……!?
ぴょこぴょこ
……あ、その線あるかも。なんか頭の上……正確にはツインテールの横あたりになんかよくわかんないのが生えてる、気がする。少しだけぴょこぴょこ動くし、やっぱ人間じゃない説。
「これ……なんかの耳か?いや、耳は普通に顔の横に付いてるしな……」
でも触った感じなんかの獣の耳なんだよなぁ……てかさっきからゆらゆらと動いてるこれもなんなんだ?なんかの尻尾?ちょっと触って……
ピクッ
「みゃっ!?これよりにもよって俺の……あ、ほんとだちゃんとくっついてる……」
いや、マジでビビった。これも俺のなのか……どうなってんだ、俺の体(てか「みゃっ!?」ってなんだ。猫か俺は)
「それにしたって獣耳に尻尾か……マジでなんだろ、いわゆる獣人って奴か?」
だがそれにしては衣装が派手だと思うんだよな。首のリボンとか意外に大きいぞ。民族衣装だとしてもこんなの見たことないし……ただ、この衣装自体はなんか見覚えあんだよな。派手な衣服、獣人……なんだったっけ?うーむ、思い出せない。
だああ、もうっ!悩んでても仕方ない、別のことをしよう!
「さて次の問題だが……ここ、どこだ?」
見渡しても、さっき確認した通り一面に草原が広がるのみ。その上、若干だが日差しが強くなってきた気がする。こんなとこでどうやって生きてけっていうんだよ、生まれた時から難易度ハードコアじゃねえか!「サンキュー」とか言ったけど前言撤回、やっぱり死ねクソ神様!
「せめて日が暮れるまでに食料が欲しいんだが……探すっきゃねえか」
はぁ……せっかく第二の人生手に入れたってのに、生きるだけでこれじゃあな……頑張るしかないか。
意を決した俺は、広い草原へと足を踏み入れた。
~数十分後~
「くっそ、なんもねぇじゃねえか!」
草原の中、1人苛立って叫んだのには理由がある。ここ、本当に何もないのだ。
いや、木と草はあるよ?あるけど何に使うんだよ!食えってか?地面に生えてるこいつらを?ちょっとお腹壊しそうなので無理です食べませんてか食べれません。
「木の実でも手に入れられればと思ったんだが、どうしよ。マジで草食うの?」
さすがに天に祈ってもなんもないだろうし……開幕から食糧難はまずい。いざとなったら雨水ためたり草食ったりできるようにならんとダメか?何それめちゃくちゃ原始的。
「こうなれば……」
ここは見た感じ完全な自然空間。何もないとは言ったが、一応シマウマなどの動物も確認できる。つまり、「狩り」できるのだ。
俺が目を凝らした先には、一匹の蛇がいた。こちらには気づいていないからうまくいけば……と思ったが、こっちもこっちで狩るための武器を持っていない。反撃されるのもなんか嫌だし、ここはやめておこう。
「そこら変も要検討だな、サバイバル訓練受けとくべきだったか……」
食糧に関してはとりあえず後回しにして、先にここら辺を歩き回ることにした。地形把握は生きる上で重要、運が良ければ人に会えるかもしれんし。かなり低い確率だが。
~さらに数十分後~
「結構歩いたな」
たった数分だが、自分でも気づかないうちに目で見てわかるくらいに移動していたようで、周りの変わらない風景の影響もあって最初いた場所がもうわからん。だが、それだけ歩いても収穫はなかった。
「日はまだまだ大丈夫だろうが、そろそろ喉が乾いてきたな……水場を探すか」
木の上から観察するのが手っ取り早そうだな。木登りに関してはそれほど上手くなかった、というかほぼやったことないのだが、さてどれだけいけるかな……っと!
「……ん、こんな簡単なのか?」
あれ、そんな難しくない……?むしろ楽しくなってきたのだが。おっと、目的を忘れるところだった、水場を探さないと。どれどれ……お、あれかなり大きめだな。普通に水飲んでる動物もいるし、水分補給にはピッタシじゃないか?
やった!食糧は難ありだが、水の問題は解決できた。正直もうヘトヘトだったんだが、九死に一生を得るってこういうことなんだな。ともかく、そうと決まればさっさと行くぞ!木は……そうだな、時間短縮のためにもジャンプして降りるか。そんな高い木でもないし。
「せーのっ、よっと!」
足に力を入れて、思いっきり伸ばす。この程度なら助走だっていらない。俺の体は見事に空高くへ跳び、そのままゆっくりと……
「……あれ、いつまで浮いてんだ?」
おかしいな、そんな高くジャンプしたか?なら今は上昇中?いや、周り見た感じそうでもなさそうだし……むしろ、視界は少しずつ下がってきてるんだが、なんだこれ?
あとなんか頭の方から風を受けてる感覚が凄いする。上手く表せないんだけど、なんかこう……下からと力を受けてる、みたいな。
「これ……もしかして滑空してる?」
いや待て待て、だとしたらなにが滑空させてるんだ。俺は手を広げていたわけではないし、そもそも翼もないし……
「……うわあっ、ととと」
考え事をしながらふわふわと飛んでいたら、つい水場を通り越していた。
「やべっ、戻らないと」
うーん、全然使いこなせねぇ。あんま触れない方がええんかね?でも役に立つ日が来るかもしれないしなぁ。
まあ、まずは喉を潤して……
「……あっ」
思わず声が出た。
水面に映るクリーム色の少女──それはもはや、天使だった。
手や足の先は黒く、しなやかなラインをより強調する。
それでいながら服の間から覗く肌はうっすらと白く、そのシアンブルーの瞳は宝石のようにキラキラと輝いてこちらを見つめ返していた。さらに中心の黒に、思わず引き込まれそうになる。
頭頂部にある鳥のような、天使のような一対の翼は、今にも羽ばたいて何処かへ行ってしまいそうな美しさだった。
俺は、
「って、また考え事しちまった……さっさと水飲むか」