まぁ30分なだけあって、なかなかに細かく教えられていた。テクニックだけに限らず細かな指の動かし方やストレッチまで10個以上ずつ紹介してたけど、意外と今の自分に必要な練習法ってある程度わかるもんなんだな。
「なるほどな、大体コツは掴んだ」
「え、そうなの?」
サーバルが素っ頓狂な声を上げた。
いやお前なぁ、そうも何も今から練習なわけだし必要なことわかっとかないとついていけなくなるぞ。
「お前たちはどうだったんだ」
「私はよくわかんなかったなぁ。サーバルちゃんは?」
「うん、私は……う、うーん、あんまり、かな?なんて」
アードウルフがサーバルに話しかけるが、どうも歯切れが悪い。
「ならスマホ使ってていいわよ、私はドラムであんまり関係なかったからね」
「で、でもさすがに私1人で使っちゃうのは……」
「俺らはなくても平気だからな。ないと厳しいと思うぞ」
「うん……」
ま、サーバルができるようになってくれなきゃ困るからな。1人でも不在だとバンドとしてキツいし。
「あ、じゃあ私も手伝うよ!邪魔かもしれないけど」
「そんな、アードウルフがいてくれたら百人力だよ!」
「決まりね。30分後にあわせましょっか」
さて、こっちもこっちで練習しますかね。
「……最初は2番目にあった練習法が良さそうだな。ちょっとやってみるか」
「あ、あれメトロノームあったほうがいいって書いてあったし、持ってきたら?」
お、サンキュー。さて、メトロノームメトロノーム……
「……って、なんでカラカルがいるんだ」
「なんでって、私もメトロノームほしいからだけど?」
「んー、そりゃ別に構わないんだが」
カチャ、と音を立たせながら、俺は目の前にある機械群から
……はぁ、しょうがねぇ。
「ほいよ」
「きゃっ!?」
ぽいっ
「うわっととと、急に物投げないで……って、これメトロノーム?」
「見つかったから先使っていいぞ。俺はもう一個探しとくから」
「そう?ありがと、使わせてもらうね」
ま、探してもないんだけどなー。
カラカルが十分にはなれたタイミングで立ち上がり、自分のギターを持ってメトロノームがないことがばれないような位置で練習開始。
「……の前に」
少し気になることがあるから先にそちらを済ませてしまおう。考え事があると練習に集中できないしな。
ちらと横に目をやる。その視線の先にいるのは……
「みゃ、みゃ……うまくいかない……おかしいな、今まではできてたところだと思ったんだけど」
「サーバルちゃん、今度はもう少し遅くしよっか?」
一緒にスマホを見ながら練習する、アードウルフとカラカル。あいつらはまだ合わせるときもミスがあるし、少し心配になっていた。特にサーバルは動画の内容よくわかってなかったっぽいし。
「絶対、できる、はずなのにぃ……あっ」
ビロン
「あわわ、サーバルちゃん大丈夫?弦の音が外れちゃってたけど、私のと交換する?」
「ヘーキヘーキ!これくらいなら自分で……」
ペグが動いていたらしく、それを直そうと色々といじるサーバル。
だが、そう簡単に楽器は言うことを聞いてくれない。
「これで合ってるはずなのにっ、なんで動かないんだろ、っしょ……」
「サーバルちゃん、私が動かしてみるよ」
問題を見つけたらしいアードウルフがやってみようとするが、サーバルは意地を張っているのかなかなかギターとチューナーの前から動かない。
「私でできるって、アードウルフも練習しないとダメだよっ、と」
「で、でも原因がわかったの!それに、サーバルちゃんと一緒に練習したいもん、私!」
おいおい、そんな様子だと一生終わらんぞ。俺が手伝いに行ったほうがいいか……と思って、駆け出そうとした時。
「まったくなに割れてんの、私に見せて」
「か、カラカルちゃん」
先ほど俺からメトロノームを持って行ったカラカルが仲裁に入り、サーバルからギターの前の位置を取ってチューニングをした。
「これからは自分でできるようになること、でも困ったらみんなに相談すること。特にサーバルは1人で抱え込まないの、いい?」
「……うん。ごめんね、アードウルフ」
「いいよ、私こそごめん」
……どうやら一段落はついたか。さて、こっちもこっちの問題を片付けるかな。
取り敢えずの策として、メトロノームの代わりに自分の足踏みでリズムをとることにした。
「せーのっ」
トン、トン、トン……
いい感じになってきた頃合いを見計らって、メモしたコードを奏でていく。
「……案外、行けなくもない?」
何回か同じコードを鳴らし、慣れてきたところでレベルを変えてみる。無意識にもかかわらず足が均等なリズムを刻んでいき、それに同調するようにしてピックを弦に当てていく。
「えーと、ここは斜めから当てるように、っと……」
トン、トン、トン、カチッ。
コードを確認しているときに、突然足踏みとは違った音が乱入する。
今までの足音と同じく正確に拍を教えてくれる、時計の針のようなそれは……言うまでもなく。
「……メトロノーム」
「話聞いてたんでしょ?あの2人にも行ったけど、困ったら相談してよね」
俺の座っていた机にそれを置いたカラカルは、こちらを見て笑った。
「なんつーか……ありがとな」
「何よ、水臭い。友達なんだからこれくらいは当たり前だって」
……そうか、友達か。
友達は、助け合うもの、だもんな。
なら。
「ずっと俺使っていい?」
「それは無理」
デスヨネー。
~30分後~
「結構いい感じになってきたかな。サーバル、アードウルフ、そろそろ合わせるわよー」
約束の時間となり、早速あわせに入る。
「えっ、もう合わせるの」
と思った矢先、サーバルが驚きの声を上げた。
「なんだ、まだ時間いるか?ならもう少しとるけども」
「あ、いや、そうじゃないの。焦っちゃっただけで」
それならいいんだがな。練習なんだし気楽でいいと思うんだが。
「大丈夫、アードウルフならできるよ!頑張って!」
「……うん」
ま、キツくともあと三週間弱ある。そのうちのどっかで矯正していけば何も問題ないしな。
譜面台の楽譜を見つつ、頭の中で再度イメージする。タイミング、ピッチ……よし、いける。自信持て、俺。
「じゃ、いくわよ?せーのっ」
カラカルがスティックを打ちつけ、小君よく音がなる。それをリズムに、示された音程を鳴らす。
が。
「……あれ?」
その中で、何か、他の音程と調和していない音が混ざり、続いてサーバルが声を上げる。
「どうした、なんか間違えたか?」
「あ、うん、ごめんごめん」
「ささ、気を取り直してもう一回!」
同じような手順で最初から進めていく。今度は目立ったズレもなく入ってゆき、音程がしっかりと重なっていく……が、またベースの音がなかなか合わなくなっていった。
「あれ、あれれ、おかしいな……」
「サーバル、大丈夫?」
アードウルフに続いてサーバルに駆け寄る。どこか怪我してるとかでは……ないな、よかった。とすると、サーバルにとってまだ合わせるのは早かった、ってことか。もう少し早く気付いてやればよかったな。
「結構惜しかったと思うんだけど、緊張したのかな」
「ここと、ここら辺がずれてたわね。私も付き添うから、もう少し自主練習にする?」
「だな。俺もベースはかじったからサポートを」
「ダメだよ!」
突然、サーバルが叫んだ。
「あ、その、ダメっていうのは、私なら大丈夫ってことだから、その、とにかく大丈夫だよ」
「だが、そうは言ってもな」
「みんなの練習時間は削れないから、これ以上3人に迷惑かけられないし……わ、私水飲んでくるね!」
「ってこら、待ってサーバル!」
カラカルの制止も聞かず、サーバルは部屋をかけ出て行く。それをアードウルフが追いかけていくが、俺には何が起こったか理解できず、閉まっていく扉をただ眺めるだけだった。
そのため、このサーバルの言葉は、俺の耳に入ることはなかった。
「……追いつかなきゃ」