平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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第31話 私のWORD(ヤクソク)は空を駆ける

静まり返る廊下。

 

 

足音と共に歩く2つの影。

二人の間に会話はなく。

 

 

ただ延々とした静寂の中に靴の床をたたく音だけが響き──やがて、それも聞こえなくなった。

 

 

 

 

「……カコさん……今回のサーバルさんの件、あれはもしかして……」

「報告にあった再起時の症状も、前例と酷似してる。間違いない」

「っ……」

 

 

 

 

目が合うことはない。カコの言葉はミライを凍えさせそうなほどに冷ややかだ。必要以上の発言を許さない。だから。

 

 

 

 

 

「……アニマルガールによる、セルリアンとの接触インシデント」

 

 

 

ただ、この単語だけで十分だ。

 

 

沈黙の訪れ。音を立てることすら、憚られるほどの。

重苦しい空間に声が響く。

 

 

 

「……ミライ、この件は本部に言ってある?」

「……いえ。所長もそのつもりはないと思います。ただ……経過観察を、スケジュールに入れようとしてるそうです……カコさん、所長は決して」

「わかってる。多少の介入は入る、それは正しい。観察報告のにみにまで小さくできるのは、さすがってところだけど……アデリナには、相当な厄介を押し付けたわね」

 

 

安堵と嘆息の息で途切れる。やはり会話は断続的に過ぎない、幾らかの時間は隙を縫って流れている。

次の言葉が出てくる様子はなく、その深緑色の目は誰もいない薄暗い廊下の先へとただ向けられるのみ。

 

 

「……あっ、あの!」

 

 

耐えきれなかったミライの声が、場の重圧に押し出される。カコは変わらない。

 

 

「えと……本部は、そんなに信用できませんか?」

 

 

 

ぴくり。

カコの顔が反射して僅かな強ばりを見せる。来るだろうと予想はしていた。

していた、はずの問いだった。

 

それでもカコは一瞬、何かを思い出したかのように口を噛み締める。そして、噛み締めた上で告げる。惑いは、残したままだった。

 

 

「セントラルにいた時も接触したアニマルガールが保護されたことが数件あったけど……その後どうなったかは、私でもわからない 」

 

 

 

惑いは伝染する。空気を伝って、ミライに染み込んでいく。

心の、より奥底へ。

 

 

 

「……逆らえない、ですか」

「……私も、知人や研究仲間に協力して探ったけど……ダメだった」

 

 

 

 

状況は深刻、依然変わることなく。

初めから変わることはなかった。変えられるほど賢くない。受け入れられるほど潔くない。

 

 

 

「……彼女(・・)のこと……向こうも、気づくでしょうか」

「……今回ばっかりは、発生の時期と、場所が悪かったから」

 

 

カコの足が進む。足音は廊下に戻る。

 

 

「わたしももう戻らなきゃいけない、だから今だけ、彼女(・・)についてはあなた達に委ねさせて。どうしようもない時は、最悪規則を破っても構わないから」

「……わかってます。でも……」

 

 

吐き出すように、言葉を紡いで。

 

 

「……とても、哀しいことです。ここは、こんな場所じゃないと思ってた……」

「……そうね。こんな場所ではないはずだった」

 

 

 

 

 

奥底で理解した時──目をそらしていたものに気づかされた時。

身に棘として刺さるもの。突き刺されるもの。

 

それは無力感か、或いは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私……バンド、やめる」

 

 

 

……あー、しまった。カンッゼンに忘れてた。焦りすぎてて、何のためにアードウルフと話してたのかが忘却の彼方へすっ飛んでた。

 

 

 

「……どうしたの?みんな急に静まりかえって」

 

 

空気が重苦しくなったのを感じたのか、ゾナが口を開く。

 

 

「あー、これはその……こっちの問題なんだ。ホントちょっとした、な」

「ちょっとした、問題?」

 

 

そう、こっちの問題。つかサーバルの問題。なんでこいつこんなにトラブル持ってくるんだろうな。今日でもう2つ目だぞ、しかもデカイの。

 

一応心配をかけないように答えたが、ゾナはまだ何か心に残っているのか俺たちの方を覗き込む。

んー、正直なところあんま関わって欲しくないんだよな……バンドに関してってのもあるけれど、こっちのゴタゴタに巻き込むのは申し訳ないし。幸い、さっきのサーバルの発言は聞こえてないみたいだが。

 

 

「大丈夫なの?ゾナも、何か手伝う──」

「そうか、わかった。じゃあオレ達は部屋の外で待っているぞ」

「ちょっ、姉さん!?」

 

 

そんな風に思っていたところ、ブラックジャガーは察してくれたようで、一度俺たちだけにしてくれるらしい。内容もあまり聞かれたくないし、助かる。

 

 

「ああ。迷惑かけまくっちまってすまんな、恩にきるわ」

「ふっ、貸し一つだぞ。覚えといてくれ」

「わーったよ……つか一つどころじゃないかもしれなくて怖い」

「安心しろ。そんなにしつこく迫るような考えは持ち合わせてない」

 

 

あぁ、なら良かった。にしても、ブラックジャガーってなんとなくイケメンっぽい雰囲気あるんだなぁ……これがクールビューティってやつか。

 

 

「ねぇ、姉さんてば!このまま放っていくつもり!?」

「そう慌てるな。ゾナの欲しがってたいちご味のジャパまんでも貰いに行こうか」

「だぁー、子ども扱いしないでぇー……」

 

 

2人が仲睦まじく部屋を出たのを確認して、カラカルが話しかける。

 

 

「……それで、サーバル。さっきのってどういうこと?まさかそんなに症状が重いの!?」

「違う!病気なんかじゃ無くて……悪いのは、私自身なの」

「サーバルちゃん……」

 

 

そう言ったっきり、サーバルはただ俯いてしまう。カラカルもサーバルの顔を見つめるだけで、話しかける様子もない。

うーむ……何考えてんのかさっぱりわからん。こういうときに読心術が使えればいいんだが、肝心のカラカルがあれじゃあなぁ。

 

 

「アードウルフ、サーバルが何考えてるかとかわからないか?」

「ううん……でも、サーバルちゃんが悲しんでるっていうのはわかるから」

 

 

アードウルフはベッドにすわり、握りしめられた手にそっと自分のを重ねた。

 

 

「何があったのか、教えてくれないかな。力になりたいんだ」

 

 

普段の臆病さを抑え、優しく問いかける。俯いていた顔が、少しだけ上がったような気がした。

 

 

「私も同意見よ」

 

 

続くように、カラカルが寄り添う。

 

 

「教えて、サーバル。あなたが今何を考えていて、何を感じているのか……辛くない範囲で、ね」

「あ……わた、し……」

 

 

口を開きかけるが、唇は震えて、なかなか声にならない。身体も少しずつ震え始めている。

目元も潤み、感情が溢れかかっているかのようで。

 

ついに、耐えきれなくなり。

 

 

次の瞬間──

 

 

「「大丈夫」」

「あっ……」

 

 

サーバルは、優しく腕に包まれた。

 

 

「二人とも……?」

「大丈夫よ。私たちはここにいる。心配なんて要らないわよ」

「うん、サーバルちゃんの大親友だもん。一緒にいるに決まってるじゃん」

 

 

両横から静かに語りかけていた。

 

……さすが、付き合いが長いだけあるな。俺はこういう状況に合ったことないから正直どう行動すればいいのかわからず硬直してたんだが……

 

 

「……とつ、か……は……?」

「ん、おう。なんだ?」

「…………」

 

 

……あれ?なんでそんな何回も目を反らすの?俺は直視できない何かではないと思うぞ。だってお前の両隣からより強い視線を感じるし。

 

 

「……お二人様はなんで俺の方睨んでんの?」

「……はぁ。これだからこの鈍感は……」

「もうっ、トツカちゃんがそんなんだからだよ!」

「そんなんってなんなんだ……」

 

 

毎度思うけど俺への当たり強すぎだろ。何でだ、悪いことしたわけでもねーのに。

 

 

「とにかく、ほらっ」

「わぶっ」

 

 

って、うおっ!急に腕引っ張られたらバランスが……

 

 

ドサッ

 

 

「あっだだ……んぅ」

 

 

布団から顔をあげると、見慣れた顔が3つ。

 

 

「トツカちゃんも一緒に、ね」

「そーいうこと、早くしなさい」

「あー、はいはい……ったく、それならそうと言えばいいのに」

「「言わなくても察して、この鈍感」」

「二人して言うか」

 

 

まぁいいや。それなら、さっきまでの暗い雰囲気忘れて目の前でわたわたしてるバカのために、お兄さん(今は体の性別的にお姉さん?)が一肌脱ぎますかね……っと!

 

 

バサッ

 

 

「うわっ……あ、これ」

「ああ、腕だとカラカルとアードウルフだけで、お前まで回しきれないからな。守護けものだけの特権だ」

 

 

翼を背中に作り出して三人を包み込み、空いた腕はサーバルに伸ばす。もっとも、久しぶり過ぎて少しデカい翼を作っちまったが。

 

 

「密着しない程度にな。さぁ、これでいいか?」

「えっとその、うん……暖かいよ」

 

 

回した腕がそっと触れられる。ほう、頭程ではないが腕を撫でられるのもなかなかよい感触……

 

 

「……だから二人はなんで俺を睨むんだよ」

「「言わなくても察して、この鈍感」」

「いや、わかるかっての!」

 

 

2人は俺をじっと睨んだ後、くしゃっと笑ってサーバルに向き直す。その先にあった顔も、いつの間にやら微笑が戻っていた。場の雰囲気が和んで緊張も解けてきたんだろうが、何にせよここからが問題だ。

 

 

「それじゃあ、話してくれる?」

「……うん」

 

 

真剣な顔に戻り、サーバルはゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あのときは、何て言うのかな……すごい不思議な感覚だったんだ。なんで倒れてたのかは思い出せないんだけど、力が入んなくて、ぼーっとしながら倒れてるだけで。あんまり怖くなかったんだ。

 

それで、そのあとゾナ……あ、さっきいたちっちゃい方の子だよ。その子に助けてもらって、スタッフさんにはこんでもらって。博士さんにこの部屋で診てもらったの。

 

 

博士さん、最初はとても焦った顔で聞いてきたけど、問題ないっていうのが伝わったのかな。診察とかしたくらいで、あとはずっとスタッフさんと話してた。

 

スタッフさんが帰るときに、『バンド、頑張ってね』って言われたんだ。

 

 

 

 

なのにね、最初に聞いたとき……私、なんのことかわからなかったの。

 

 

何も感じなかった。応援してくれて嬉しいとか、バンド頑張らなきゃとか、ひとつも思わなかった。それどころか、自分がバンドしてるってことをまるっきり忘れてるようだった。それこそ、記憶からすっと抜け落ちたみたいに──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「──だから、今の私は、バンドはできない……ううん、する資格がないんだよ。何にも、感じられなくなっちゃったんだから……」

 

 

そう語り終えると、何かを我慢するようにぎゅっと目を閉じた。

痛々しかった。何か、何だっていい、言ってやらなきゃならないのに……言葉は喉でつかえて、声にならない。

 

 

「……はは、変だよね!私の問題なのに、勝手に辞めるなんて言い出して、また迷惑かけたりして……やっぱり何でもない。早く練習に」

「変じゃないよ!」

 

 

アードウルフが声を上げる。

 

 

「だってサーバルちゃんはいっつも練習頑張ってた、それはわかってるつもり!バンドをする資格がないなんて、そんなこと絶対にない!」

「アードウルフにはわからないよ!みんな上手くなっていくのに、私だけ上手くならなくて、しかも頑張ろうとすら思えなくなったら、私……」

「わかってる!だってずっと一緒に練習してたんだよ?もうできないって思ったときも慰めてくれた!友達として、助けてくれた!それに今だって」

「もういいのっ!」

 

 

我慢できなくなり、隠すように顔を背ける。その瞬間、目元が少し輝いて見えた。

 

 

「もう、迷惑をかけたくない……だから、関わらないで……」

 

 

嗚咽が漏れる。まぶたの隙間から少しづつ涙が滴り落ち、手の甲に水滴をつけた。

手を伸ばせない。伸ばさねばならないのに、身体が固まってしまう。

 

そんな中、カラカルはベッドから立ち上がり、ふぅ、と息をする。

 

その口が開き、中から──

 

 

 

 

 

「あんたって、ほんっとうにバカよね」

 

 

──いつもの呆れたような声が出てきた。

 

 

「「「……はぇ?」」」

「って、何3人揃ってとぼけたような声だしてんのよ。当たり前のことを言っただけじゃない」

 

 

……いや、そうなんだけど。そうなんだけどね?……あ、いやそれだけのことか。

 

 

「……じゃなくてですね、このタイミングで言うことじゃないだろ!ドSは今は抑えた方が……いいいだだだだっ!」

「だぁーれがドSだ、このバカ!……そうじゃなくて、ここまでわかりやすいと一周回って呆れるってことよ」

 

 

平然と俺にアイアンクローを出しつつ説明する。サーバルもアードウルフも、突然のことに反応できずぽかーんとしている。

 

 

「わかりやすいって……何が?」

「そんなの一つに決まってんじゃない」

 

 

そういうと、自信満々の顔でサーバルに向き直す。

 

 

「サーバル。あんた、本心では資格がどうたらこうたらなんて微塵も思ってないでしょ」

 

 

そしてきっぱりと、なんの躊躇も迷いもなくズバッと言いきった。本人は、さも当たり前かのように平然とした顔で。言われた側は、自分についている4つの耳が同時に機能しなくなったのかと思っているかのように驚いた顔で。

 

 

「……カラカル、ありがと……でも私は、そこまで自信過剰にも、傲慢にも、なれないよ……」

 

 

少し考えて、それが自分を慰める嘘だと思ったのかすぐに暗い顔に戻る。

サーバルの晴れることのない言動に、カラカルも……

 

 

 

 

 

「あ、あんたよく『傲慢』なんて言葉知ってたわね」

「…………」

 

 

……違う、そうじゃない。そうじゃないんだカラカルさん。そこはボケるとこじゃなくて説得するとこなんだよ。というか普段ツッコミ側なのになんでここにきてボケちゃうんだよ!シリアス!シリアス忘れないで!

 

 

「えーっと……カラカルちゃん、さっきのって……?」

「あぁ、簡単なことよ。このバカは自分が迷惑だと思い込んで、それであれこれ杞憂しまくってるだけ。バカの考えることなんてすぐにわかるからね」

 

 

おおう、なんかデジャブ。つか、よくもまあ遠慮なくすらすらと……さすがにここまでくると、カラカルのペースだなこりゃ。

 

 

「思い込みじゃない、事実だよ!練習でも私ばっかりミスするし、何より、下手だし……」

「そりゃ始めたばっかで上手だったら私とガイドさんの顔がないわよ。むしろあんたは自分を過小評価しすぎ!」

 

 

顔を乗り出してサーバルに近づけながら大声で言いのける。その目は叱ってる、というより……普通に友達にアドバイスするような感じ、か?

 

 

「ダメだダメだーって言ってるけど、私からすれば上出来よ。ていうか、ミスならトツカの方が多いじゃない」

「うん、事実だよ。事実なのは変わりないけどさ、悲しくなるからやめて?」

「確かに先週のミスはトツカちゃんがトップだったよね」

「やめて!?」

 

 

なんで俺のダメ出しになってんの?アードウルフも参加しないで止めて!俺のハートそろそろ割れるぞ!

 

 

「だいたいね、なんとも思ってないんなら今こうやってあれこれと悩んでるはずないのよ。それが何よりの証拠じゃない」

「……あっ」

 

 

その言葉に何か気づいたのか、小さく声が聞こえた。

 

 

「……まっ、とにかく」

 

 

表情を優しくして、顔を向け直すカラカル。

 

 

「あんたがもうバンドやりたくないっていうんだったら、無理強いはしない。したいっていうんなら、ロスした分をこれからスパルタで練習させてあげる……でもね」

 

 

もう一度サーバルを抱きしめる。今度はより強く、決して離さないかのように。

 

 

「これだけは忘れないで……私たちは、フレンズ(友達)なの。困った時は助け合うものよ」

 

 

それまでの勢いも忘れて、ただ優しく伝えた。

 

 

「そういうことだよ、サーバルちゃん」

 

 

重なった二つの身体が、さらにその上からもう1人の身体にふっと包まれる。

 

 

「言いたかったことは全部カラカルちゃんに言われちゃったけど……とにかく、いくらでも頼って。ね、トツカちゃん?」

「まぁな。それにお前のそんな顔、正直似合ってねぇぞ」

「……似合ってない?」

「ん!?お、俺がそう思うだけ……だが、な?」

 

 

うおっ、びっくりしたぁ……まさか反応されるとは思わなかった。

 

 

「あー、えっとその……なんだ。とにかく元気出せよ」

「何よそれ、随分と適当なお見舞い言葉ね。バリエーション少なすぎでしょ」

「お見舞い言葉のバリエーションとか聞いたことないぞ」

「いま私が作ったよ。因みにトツカちゃんは5流だね」

「なんの基準!?」

 

 

「おーい、そろそろ終わったか?」

 

 

そんな中、部屋が騒がしくなってきたのを合図としてたのかブラックジャガーが戻ってきた。よく見ると、後ろにゾナもいる。

 

 

「あなたたちはさっきの……なんというか、恥ずかしいとこ見られてたかも」

「誰しも怒りたくなることはあるさ。まぁ、あれはすごかったが」

「うぅ……」

 

 

一応話すのは初めてとなるブラックジャガーとカラカルたちが色々と話している。もうすでにあってるんだけどな……状況が状況だったししょうがないか。

 

 

「じゃあ、ゾナたちそろそろ行くね。おうちも気になるし」

「あぁ、世話かけてすまんかったな」

 

 

ブラックジャガーが話し終えたタイミングでゾナがそう言うと、姉妹は部屋の出口の方へ進んでいった。

 

 

「……あ、そうそう」

 

 

が、突然振り返る。

 

 

「トツカ、姉さんずっとあなたのこと噂してたんだ」

「え?」

「あっ、ゾナ!?」

 

 

……え、そうなの?

 

 

「そうなのか?」

「いや、別にそんなことは……」

「すっごい熱心に語ってた。というかトツカは結構有名だよ?『天使のような声(エンジェルボイス)で歌うアニマルガールがいる』ってことですごい有名で」

 

 

あ、噂ってそっち系のか。もしかして歩きながら歌を練習してたせいか?

 

 

「しかもその歌がちょうどここでやるライブの歌で、姉さんそれをたまたま遊園地エリアで聞いてからずっと……もがもが」

「もーっ、違う違う違うっ!なんでもないのっ!じゃあなっ!」

「もががっ……ライブ楽しみにしてるねー!」

 

 

そういうと、2人はすごい速さで彼方へと消えていった。

 

 

「へぇー、よかったじゃないエンジェルボイスさん。あ、もしかして『天使猫』だけに、ってことかしら?」

「全く上手くないし。俺がつけたわけじゃないし」

「私も天使みたいな声だと思ってたんだー。トツカちゃんはやっぱり歌が上手いよね!」

「ストップ、それ以上されると俺が恥ずかしさで死ぬ」

 

 

あなたも十分天使だよアードウルフさん。だから俺をほめころす悪魔にならないで。

 

 

「でも確かに、トツカは歌うの上手いし。そこはまぁ……すごいと思うわよ?」

「あのカラカルが俺を褒めた……!?」

「それは天使として天国に行きたいってことでオッケーかしら」

 

 

わいわい、がやがや。暗い雰囲気になったり、かと思えば明るい雰囲気で飛ばしたり。とにかく移り変わりが早く、ついていくのが辛すぎたが……まぁ、いわゆる『終わり良ければすべて良し」というやつだ。

 

 

「はぁ……で、どうするよ。うちの大事なメンバーさん?」

「……もちろん。どうせやるなら最後まで、どーんってやらなきゃ!」

「そうそう!それでこそいつものサーバルちゃんだよ!」

「擬音の意味不明さは治りそうにないけどね……」

 

 

笑いながら、サーバルは俺を見据える。

 

 

「だから、トツカ。私の想い(コトバ)……あなたのと一緒に、伝えてくれる?」

「……ああ。そんな約束、バンド始めた時からしてたに決まってんだろ?……じゃ、練習行くか」

 

 

恥ずかしくなって急かす。

サーバルは大きく頷き、顔をあげた。

 

 

「うん、私──」

 

 

涙に濡れた時も、あったけれど。

 

その顔は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──バンド、やるよ!」

 

 

 

 

眩しいくらい、輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なーんてこともあったけど、ついに本番当日かぁ。感慨深いもんだな」

 

 

暗い屋根の下、1人で呟く。その時、突然「うみゃっ!?」という声が聞こえてきた。

 

 

「ねえねえ、外すごいことになってるよ!もう見渡す限り埋め尽くされてた!すっごーい!」

「そんなに騒がないの、まったく子どもみたいにはしゃいで……でも結構な数よね」

「そりゃそうだろ。スタッフさんの話によれば満席だったらしいからな。なんのために会場こっちに移したんだ、って話になるし」

 

 

舞台の裏からこっそりと外を覗く。すると、恐ろしい人数で埋め尽くされた夜の野外会場(・・・・)が現れた。

 

 

「みんなどうしたの……って、すごい数!」

「あら、アードウルフ。ま、最初に見れば誰でも驚くわよね、この光景」

「うん……正直私もこんなになるとは思わなかったなぁ。企画部?が頑張りすぎたって聞いたけど」

 

 

そう、なんと俺たちのライブは企画部のせいでキョウシュウチホーの一大イベントにまで発展したのだ。そしてなぜかお客さんからの応募が殺到したために、こうして使われていなかった遊園地エリアのライブ施設をわざわざ作り直さなければならなくなったわけである。

 

 

「お客さんどころかアニマルガールまでたくさん来てるわね……あ、あれニホンオオカミ?」

「どれどれ……ほんとだ!あ、でも手は振っちゃダメなんだっけ。トツカ、そうだよね?」

「多分なー」

 

 

会話を聞き流しつつ、舞台裏でせわしなく動くスタッフたちをチラ見する。この規模になるとさすがに俺たちでは手が回らない、ということで手伝ってもらっているのだが。

 

 

「はい、では端末番号102kaで受信した後に回線番号B5でディスプレイ1と2に送った上で無線LANから各ポイントまで送ります。それとアランさん、アクセスポイント3での映像処理と保存後の送信地点についてですが……」

「救急対応チーム配置を確認、アデリナ所長に報告します。あ、チームブラボーに関しては会場の西ゲート付近にアクセスポイント4を設置し直したのでそこへ端末を接続して全体状況の確認を行ってください、他の2チームも事前連絡通りに……」

「Bブロックの監視カメラ情報回して!それとお客さんの数の報告も!」

「リザ先輩、通信環境的に第二ルーターあたりに問題ありっぽいっす。連絡頼みます」

「りょーかい、回線番号A7経由で……あ、ポイント1担当のジェニファーさんいますか?ちょっとお願いが……」

 

「……よくやるよな、あれ」

「何言ってるのかサッパリだね……本気になるとすごいってことかな」

 

 

なんか普段では見れないほどのテキパキとした指示飛ばしをしていた。これもこれである意味壮観だな、普段こんなキビキビしたところ見たことないし。

 

 

「2人とも、そろそろ始まるわよ。ちゃんとスタンバイして」

「あいあい……あ、そういえばサーバル」

「ん、どしたの?」

 

 

あれ、確かこいつって。

 

 

「お前って、人前はダメなんじゃなかったか?羞恥心がどうのこうので」

「あー、それはちょっと言いづらいというか……」

 

 

少しもじもじとしつつ、口を開いたり閉じたりを繰り返す。ったく、言いたくないなら別に言わなくたっていいんだが……

が、何やら一心がついたらしく、真正面から言い直した。

 

 

「……トツカに……トツカたちみんなに支えてもらってるって思うと、なんか嬉しくて、安心して。とにかく、なんかいけるなーって思ったんだ」

 

 

 

 

ひとしきり言い終わると緊張もほぐれたのか、明るく笑った。

 

それはいつもと変わらない笑顔で──いや、違う。今の彼女は、それこそ最高に輝いた笑顔をしていた。

 

そんな笑顔に信頼されていることを今、心から誇りに思えた気がしたんだ。

 

 

 

 

「トツカ……約束したよね。私のコトバ、歌に乗せて伝えてくれるって」

 

「……ああ。この約束と一緒に、大空を駆けさせてやるつもりだ」

 

 

ステージの上に広がる夜空を眺める。飛ぶのは晴れに限るが、今ばっかりは夜も悪くないと思った。

 

 

「ふふっ、翼に関してはすっかり専門家だね。頼んだよ、天使サマ?」

「頼まれたよ。なんたって俺はThe Man Of My Word(約束を守る男)だからな」

「まったく頼もしい限り……あれ、今『男』って──」

 

「サーバルちゃん、トツカちゃん!ステージオッケーだって、早く行こ!」

「おう、今行く。悪いサーバル、後でな。行くぞ」

「え?あ、うん!」

 

 

結局サーバルが何を言いたかったのかはわからなかったが、とにかく時間も押しているので、すぐに練習通りの配置に着く。

 

 

照明が消え、辺りは静かになっていく。

 

夜目を効かせてしっかりとマイクスタンドを握る。

 

 

カラカルが合図を出し、音楽が鳴り始める。

 

 

ゆっくりと息を吸い、頭の中のイメージを湧かせて。

 

 

 

俺は、ゆっくりと口を開き──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『つっっっかれたぁぁぁああああ!』

 

 

思いっきり休憩スペースのソファにダイブした。

 

 

「だぁーめだ、身体が動かねぇ。浜辺に打ち上げられたような魚のポーズが解除できない」

「まったく、だらしないわね。顔までふにゃってなってるじゃないの。ほれほれ、ぷにぷにー」

 

 

カラカルが俺の頬をぷにぷにとつつく。普段なら俺も抵抗するが、何故かつられて俺もカラカルのほっぺを「ぷにぷにー」ってした。するとまたぷに返されたので、俺もぷに返す。どうやら興奮と疲労でテンションがおかしくなっているらしい。

 

 

「よいしょ、っと。皆さんお疲れさま、お水おいとくね……これがトツカさんので、こっちがサーバルさんのだけど」

「じゃ、俺は少し飲むかな。サーバルは?」

「私はいいや。ごめんなさい、置いといて博士さん……正直動きたくないやぁ……」

 

 

カコさんが四人分の水を持って戻ってくる。ボーカルだった俺は喉からっからだったから即効でもらったが、サーバルは飲む気力すら残ってないらしい。

 

 

「サーバルちゃん、お水飲んどいたほうがいいよ?あっ、でもでも、腕とか壊さないようにだよ」

「ふふっ、だぁーいじょうぶ!後でちゃんと飲むってば、アードウルフは優しいね」

「ふぇっ?そ、そうかなぁ、サーバルちゃんだって……じゃなくて、お水飲んで!ほらっ!」

「くっ、騙されなかったか……って、あむっ!?あむあむぅ!」

 

 

まぁ、だからといって飲まされないわけではなかったが。なむなむ。

 

 

「ほどほどにしなさいよー……てか、あんたは逆に飲みすぎ、もうなくなってんじゃない」

「むぅ?ぷっはぁ、だってまさかアンコール来るとは思わなかったんだよ。一回増えるだけでここまでとはな……って、あぁ!」

「だからって私のまで飲もうとしない!私だって疲れてんのに」

「じゃあ二人で一緒に飲めば……」

「だっ、だだだめに決まってんでしょーがっ!」

「えぇー?けちー」

 

 

いいアイデアだと思ったんだがなぁ。あ、それだと結局カラカルの分が減るからか……?いや、それだといくらなんだってケチすぎだろ。俺もそこまで飲みたい訳じゃないけどさ。

 

 

「トツカさん、ほしいなら、私がまた持ってきます、よ?」

「あぁいや、そこまでじゃないから大丈夫……」

「きゃあ!?」

「うにゃっ!?」

 

 

扉を開けて出ようとしたカコさんが、短く声を出して転ぶ。どうもなんかに驚いたような顔で完全に腰が抜けたのか立ち上がれていない。

 

とりあえず俺とカラカルが疲れたからだを無理やり動かして助けに。

 

 

「カコさんどう……し……おっ」

「なになに、なにが……って……」

 

 

そんな俺たちの前に現れたのは、白衣を着て息を荒げる研究員の──

 

 

「「……ゾンビ?」」

「が、がおー……なんちゃっ、て……はぁ……」

「あ、えと、リュウさんですよね……?」

「はい……」

 

 

そりゃゾンビなわけないわな。それにしたってどうしたんだ?こんなに焦って。ここの職員ってみんな焦って走ってくるよな、ジンクスでもあるんだろうか。

 

 

「えと、どうしたんですか?」

「はぁ、はぁ……まず、サーバルに連絡をね」

「あむむっ、っぷはぁ……えと、私がどうかしたの?」

「うん、君は一応セルリアンに襲われてるから、今後の経過を見ておきたいたいんだ。それで、これから一ヶ月は1日に一回必ず職員検査を受けてくれないかな」

「うぇー、めんどくさい……まぁスタッフさんとお話もできるし、いっか!」

「それじゃあ頼むよ」

 

 

奥の方にいるサーバルと話した後、「次に」と言ってこちらに向き直す。

 

 

「トツカとカラカルさん、だよね?君たちに伝言があるんだ」

「私と、トツカに?」

「そうそう。雪山エリアって知ってるかな、そこの温泉宿に二人に来てほしいって伝言があったらしくて。招待状も届いてるから、後で渡すよ」

 

 

来てほしい?一体だれから?これまで雪山エリアはいったこと無いし、そもそも知り合いもいないはずだぞ。

 

 

「それと……カコ博士に、お願いがありまして」

「わたし、ですか?」

 

 

リュウは一呼吸おいて、ニコッと笑ってから、穏やかに言った。

 

 

 

 

「雪山エリアの温泉宿まで、データをもらってきてくれませんか。トツカ達と、一泊二日で!」

 

 

「「「……あ、はい」」」

 

 

 

……リュウ。その人、あくまでも副所長だぞ……




そんなわけで、バンド編最終回でした。これも全部セルリアンってやつの仕業なんだ!

※10月25日 最後を書き直し

※12月3日 冒頭を書き直し

※12月4日 冒頭をさらに書き直し
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