平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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今回も三人称視点オンリーです。セルリアンさんはアニメ版一期第一話のゲート前にいたあいつの紫色バージョンみたいなイメージでお願いします。


第40話 ALBUM(思い出)にさよなら

「おぅらぁぁあああっ!」

「─────!」

 

 

ズガアアアァァァッ!

 

 

煌々と光るトツカの爪先と、紫色をしたセルリアンが持つ表面のクリスタルがぶつかり合い、火花とサンドスターが周囲へ無造作に飛び散った。

 

 

「──────!」

「ふんっ、まだまだぁ!」

 

 

続けざまに両者の攻撃が空中に残光の円弧を描いて飛び交う。どちらも二、三発ほどの斬撃だったが、その速さに地面の雪が高く空へ舞い上っていた。威力が並のものではないことは誰の目にも明らかである。

 

十秒に満たない攻防の末、トツカが連撃の隙をつき後ろへとバックステップ。

 

セルリアンも二本の触手を一旦引き戻して、トツカの足が地に着く瞬間を狙って躊躇無く前方へ突き出す。速さこそ避けられないものではない──しかし。

 

 

ガバッ

 

 

接触の間際、触手はまるでクリップのように二股に分かれる。挟み込むつもりだ。

 

 

(なっ、それありかよぉ!?)

 

 

心中で悪態を吐きながらも体を柔軟に動かして攻撃を躱す。軽快な動きについていけない腕は二本とも的を外し、勢いの止まらないままにトツカの背後にあった木々を掴んだ。強大な衝撃に幹が耐えられずミシミシと音を立てる。

 

 

(木にぶつかったのは偶然だが、これで──)

 

 

トツカは翼を広げ、一気にセルリアンへ直進。

 

 

「──お前の両腕、封じたぜ!」

 

 

ドゴォッ!

 

 

輝いた腕でセルリアンの前面を大きくパンチ。腕を戻そうと前方不注意だったセルリアンは回避も防御もできるはずなく、伝わる衝撃と染みる威力に胴体を宙へ押し上げられた。

だがこの好機をこれだけで終わらせるはずがない。肩から手首まで渾身の力を込め、そのままスピードをつけて回転。勿論、宙へ浮いた巨体を支える摩擦はどこにも発生しない。

 

 

「ふんぬっ!」

 

 

そこへアニマルガールの『馬鹿力』とでも言うべき驚異の膂力が加わり、球体のセルリアンは野球ボールを投げるのと同じ様に投げ飛ばされた。

 

 

「───!」

 

 

ドガァァンッ!

 

 

成す術無くセルリアンは奥にあった木に衝突する。衝撃で葉が揺らされ、溜まっていた雪がセルリアンへ次々に零れ落ちた。

雪に埋もれながらも、張り付けられた目玉はギロリとトツカを睨む。

 

 

「おいおい……」

(まだやられないって、どんだけタフネスなんだこいつ……相当自信あった一撃だけに、こちとら地味にショックだよこの野郎)

 

 

のっそりとセルリアンは姿勢を整える。先の衝撃で腕が外れたこともあり、既に戦闘態勢に入っている。

 

 

(あれ、よくよく考えればでかいサイズのセルリアンと戦うのって初じゃね?カラカルが倒したときは奇襲だったし、初戦闘の時もでかいのはバリーとヒグマが戦ってたし。もっと言えば一対一も初めてか。……あれ、これ逃げた方が──)

「─────!」

「うおっ!?」

 

 

油断したところを狙い触手を伸ばすが、これも躱されてしまう。しかし今度は学習したのか直線的な突きではなく横から薙ぎ払う攻撃であり、判断が遅れればいくらアニマルガールの瞬発力とはいえど当たっていただろう。

 

攻撃は止むことなく、トツカは防戦を強いられる。

 

 

「こんのぉ……!」

(ったく、考え事してる最中に攻撃は反則だろうが!あぁもう、めんどくせぇ!)

 

 

時間がたつにつれ、単純な攻撃は複雑さを増していき、避けるのも簡単ではない。その上、今戦っている場所は木の葉が邪魔で飛ぼうにも高度が低くなってしまい、三次元的な行動が厳しい。

即ち、トツカは『飛べる』という利点を殺されている。

 

 

(とすれば、避けるのは悪手か……なら!)

 

 

タイミングを見て、一閃。飛ばされてきた一本の触手を爪で切り付ける。細い線で繋がれていた触手は力負けし、突き放される。

 

 

「──!」

「つぎっ!」

 

 

背後から襲う触手も爪での攻撃で跳ね返す。その先には、一本目、その前に攻撃していた触手。

 

二本の腕はぶつかり、重なり合う。この一瞬をトツカは逃さなかった。

 

 

「よしっ、喰らえ!」

 

 

爪をより一段と輝かせ、間髪入れずに突撃する。腕が暴れる様子も、逃れようとする様子もなかった。

 

 

(ちょろいもんよ、こいつで──)

 

 

 

しかし。

 

 

 

ガバッ

 

 

 

突然、両方の腕が示し合わせたかのようにして大きく開く。トツカの攻撃を利用し、近づいてきたところを挟み込むためだ。当然ながら勢いは消しきれず、すんなりと腕の射程圏内に入ってしまう。

 

追い打ちをかけるように、腕はトツカの上半身・下半身を捉えて向かってくる。

 

 

「なん──」

 

 

ガシッという音が響く。触手は何かを抑え込み、そして掴んでいる。セルリアンにはその感触が確かに存在していた。それでも捕まえたものにさらなる攻撃を与えるため、標的を確認しようと掴んでいるものを胴体に近づけようと触手を引き戻していく。

 

そうしてセルリアンの一つ目に映ったのは──

 

 

 

 

 

 

「『にゃんにゃん』──」

 

 

 

 

 

──茶色の薄い布……俗に言う、マフラーだった。

 

 

 

 

 

「──『ネコパンチ』ぃ!」

 

 

ドガァッ!

 

 

 

 

 

重い衝撃音とともに、背部から来た衝撃によってセルリアンが前方へと吹き飛ばされる。背後には、防寒着が無くなっていつも通りの服装になったトツカが翼をはためかせ浮いていた。

 

 

(あぁあぁ、よくも俺のモンをしわくちゃにしてくれたな、厳密には借り物だけど。あの()に貸したコート持ってたら身代わりにはしなかったんだが……ま、こいつでやられてくれれば──)

 

 

シュンッ!

 

 

雪の煙の中から二本の触手がトツカめがけて飛んでくる。対するトツカは最初からそれを予想し、余裕をもって受け流すとともに数発の攻撃を喰らわせた。

 

 

「……そうはいかないと思ってたよ。はぁー、なんか疲れてきたし……猫は持久力ないんだからさぁ、気を遣ってくれないかな?」

「────!」

「はいはい、俺もお前の言葉はわかんねぇよ!」

 

 

再度爪と触手が衝突し、鋭い攻撃音と激しい火花が空間に現れる。だが、トツカの戦法は触手との防戦からセルリアン本体へのヒット・アンド・アウェイに変わっていた。これまでの戦闘で木が何本か倒れて空間が広がり、三次元行動が生かされてきたのだ。

 

 

「────!」

「おうらっ!」

(あぁもぉー!さっきから考えないようにしてたけどやっぱこいつら怖すぎ!その見た目どうにかならないわけ!?しかもなんなんだあの背中についてる石みたいなアレ!絶対攻撃しちゃいけないやつじゃん……今世こそは悠々自適な人生をと思ってたのになんでぇ……!)

 

 

尤も、本人は全く意識せず本能でその戦い方を選んでいたが。

 

しかし無意識とはいえ、飛行能力の無いそのセルリアンにとって、翼を使った様々な方向からの攻撃はとてつもなく有効だった。少しずつ、紫色のクリスタルにヒビが入る。

 

 

「これならもう、十分だよなぁっ!」

「───!?」

「さぁーてもう一発!『にゃんにゃんネコパンチ』!」

 

 

 

ズゴオオオォォォッ!

 

 

 

両腕のガードも虚しくセルリアンは大きくノックバックする。それもこれまでの距離とは比較にならないほど飛んでいき、周囲の木々を巻き込みながら森の暗闇へ消えていく。大きすぎるダメージに身体が多少、軽くなっていたんだろう。

 

 

(っつーことは、もう少しで倒せるな。なんだ、俺も結構強いじゃんか……あ、守護けものなんだからそれが普通なのか)

 

 

その光景を見て戦いの終わりが近いことに安堵するトツカ。

 

 

(えーと、アイツの飛んでった方向は……)

 

 

意気揚々とセルリアンを追いかけようとして、方向を確認し。

 

 

 

(……っ!うそだろ……!?)

 

 

 

自分の予想が、ぬか喜びであることに気が付いた。

 

 

「くそっ!」

 

 

翼を羽ばたかせ、猛スピードで追いかける。

 

セルリアンの吹き飛ばされた方向。それは、最初にトツカがセルリアンへ攻撃した方向だった。

セルリアンに攻撃する前、トツカはアニマルガールの少女を置いてきていた。

 

そして今、セルリアンは彼女のいる方へ向かっている。

 

なら、どうして彼女が襲われないと言えようか。

 

 

(『離れるな』って言ったのが仇になったか……さっきまでの自分をぶん殴りてぇ……!)

 

 

間に合え。ただそれだけを、トツカは祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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激しい音が鳴り響く。どこかはわからないが、とにかくその音だけが事の重大さを物語っていた。

 

 

(きっと……たたかってるんだ、いま)

 

 

ここからでは何も見えないから、真相はわからない。実際に何が起こっているのかを確かめるすべも、また確かめようという勇気も、今の彼女にはない。

今は唯、雪の上に座ったまま、脱ぎかけのコートを握りしめていた。

 

 

(すごい……きいたこともないおと。だいじょうぶ、なのかな……)

 

 

不安よりも心配の方が大きかった。心の中にあったのは、今戦っている彼女──トツカの安全を一心に想い、そして願う、祈りの感情だった。

 

 

(……しんじてみても、いいのかな)

 

 

ふと、孤独だけだった心にいつの間にかもっと別の感情があることに気が付いた。見ず知らずとも言えるにも拘らず、誰か守るため命がけで戦える姿に心が感化されているようだった。

『けものを守護(まも)るけもの』。トツカが自らをそう称した時、少女はそこに優しさと決意を見出し、その言葉に奇妙な安心感を持った。その時の感情を知るには彼女はまだ幼すぎたが、自分の中におきる小さな確変を感じ取れていたことに間違いなかった。

 

自分の居場所を、見つけられるかもしれない。淡い期待と信頼が、確かに芽生えていた。

 

 

──へぇ、そーやってまた利用するんだ。

 

 

だが、その芽を心の奥底で認めることができなかった。

 

 

(そんな、わたしはただ……)

 

──いいや体良く利用するね、それに今もしてる。だって貴女、彼女から受け取ってばっかりじゃない。貴女がしてるのは、信頼じゃなくて依存なんだよ。

 

(でもひとりはこわいよ。ひとりにはなりたくないのに……いきてるから、なのかな)

 

──……え?

 

(もういやなの……このきもちがずっといるくらいなら、わたし、もう──)

 

 

 

 

 

ズゴオオオォォォッ!

 

 

 

 

 

「な……なんなの……?」

 

 

その瞬間、あり得ないほどに巨大な音が彼女の耳を劈く。見れば、目の前には、巨大な紫の既視感のある球体が転がっていた。

 

 

(そんな……かのじょがたたかってたのに、どうして……)

 

──ここにいるってことは、何かあったのかもね、彼女。

 

(てことは……もう、だめなのかな、わたし)

 

──ほら、依存するからこうなるんだ。自分じゃ何も出来ない。

 

(わたしのいばしょは、ないってこと?)

 

──貴女がそう思うなら。

 

 

球体は雪に埋もれたままで動き始める様子はない。今から逃げて隠れられたら、きっと助かるかもしれない。それくらいなら体力も持つ。

 

 

──それで、どうするつもり?

 

(どうもできないよ。わたし。)

 

──……そう。

 

 

ぴくり、とセルリアンが蠢き出す。被さっていた雪は振動で全て振り落とされる。

 

しかし彼女はそれを眺めることしか出来なかった。無気力感に包まれ、半ば諦めを含んだ眼差しを送ることしか思い付かなかった。実際、心には諦めの念が巣食っていた。

 

 

異様な一つ目が彼女を睨む。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

突然、自分のものとは思えない声が口を突き出る。全身が今までに無い程に震え上がっている。痙攣が止まず、呼吸も正常に機能しないのか声が上ずっている。

 

 

 

 

──今のは、貴女の声だよ。間違いなくね。

 

(わかってるけど……はは。わたし、しぬのもこわかったんだ)

 

 

 

 

声は答えなかった。ザクザクと足音が刻まれ、距離が狭まる。

 

 

 

 

 

(しにたいっておもっておいて、そんなゆうきもなかった。……ずるいね、わたし。ほんとに)

 

 

 

 

 

振り落とされた触手を前に、彼女は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガァンッ!

 

 

 

 

 

 

「──あっっっぶねぇぇええ!」

 

 

 

 

怒号にも似た大声。

 

 

 

 

「はぁ、しつこい野郎だ……すまねえ、怖い思いさせたよな」

 

 

 

 

目の前に佇むのは、翼を広げ宙を飛ぶ少女。

 

なにより、月光に照らされた純白の翼が、あの時──最初に襲われたときに助けてくれたあの存在を、模っていた。

 

 

 

(まさか──)

 

 

 

 

彼女はその姿に、自らを助けた天使(Angel)の姿を、重ね合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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空中で触手を掴んだトツカにセルリアンの視線が移る。トツカも負けじと睨み返す。その瞳に、怒りにも似た感情を含みながら。

 

 

「まぁ、ここに吹き飛ばしたの俺なんだけどな。とにかく、さっき離れるなとか言っといてなんだが、出来る限り逃げてくれ、さもないと──」

「────!」

 

 

会話を遮るようにもう一本の触手が伸びる。トツカは慌てること無く振り返り、腕を光らせたままがっしりとキャッチした。両腕を押さえ込みながらも少女の方へ語りかける。顔に余裕は無く、振り向くことも出来ない。

 

 

「──っと、こんな風に巻き込んじまうからな。マジで危ないんだ」

「……ごめんなさい」

「え?な、うおっ」

 

 

セルリアンの腕が激しく暴れ始め、その振動にトツカの身体も振り回される。なんとか翼で腕を引っ張ることで姿勢を安定させるが、頭の中は「何故彼女が謝ったのか」という疑問に埋め尽くされた。

 

 

「なんで、んっと、謝るんだ」

「ちがうの……わたし、あ、あしが……」

 

 

彼女の言葉はたどたどしく、また、トツカも悠長に聞いていられる状況ではない。セルリアンの力は強まり、気を抜けば力負けしてしまう。

 

 

 

「あしが、うごかなくて……!」

「……何?」

「あっ、だめ!」

 

 

その言葉に驚き油断した、刹那。つい集中を怠ったそとほんの僅かな瞬間を、セルリアンに狙われた。

 

 

「────!」

 

ブンッ!

 

 

「ぐわっ、こいつ──」

 

 

ダァン!

 

 

腕に投げ飛ばされたトツカは一本の幹に衝突し、大きな音を立てる。勢いによって舞い上った雪が煙となって彼女らの視界を塞ぐ。

しかし、それから1秒も経たない内に白い細やかな身体が雪煙を突き破って現れる。

 

 

「うみゃあっ!」

「─────!?」

 

 

ズガアァァッ!

 

 

腕のガードが来るよりも早く、拳が正面に直撃。お返しと言わんばかりの威力がセルリアンを襲い、より遠くへ軽々と弾き飛ばされた。

 

 

「さて、行くぞ!」

「ふぇ……な、なんで」

「いいから、掴まれ」

 

 

だがトツカは追い打ちをかけず、少女の背と脚を持って抱きかかえるとセルリアンとは逆方向へ飛翔した。

セルリアンも立ち上がって(というより、脚がない為バウンドして)追いかけてくる。

 

 

「こ、これは」

「あぁ、お姫様抱っこってやつだ。……じゃなくて、ちょっと場所が悪いから、ご覧の通り逃げてる。カッコ悪いけどしょうがないし」

「……ごめんなさい。めいわく、かけたよね」

 

 

トツカの腕の中に蹲る顔には、悲しげな表情が満ちていた。トツカにはその理由はわからなかったが、とにかくなんとかしようとセルリアンの視界を振り切りつつ作戦を練った。

 

 

「……なぁ、辛ければ言ってくれていいからな」

「きを、つかってくれてるの?」

「本心だよ。自分に辛く当たるのは良くないんじゃないか」

「ちがう。めいわくかけるのも、ぜんぶ、ほんとうだから」

 

 

どんな言葉をかけようと、彼女の声色は、弱くなるばかり。

トツカはセラピストでは無い。今世は勿論、前世でもそのような経験は無かった。相談を受けるような人間関係もお世辞には多いとは言えないし、他人の感情というものも読み取れたことが無い。

 

だから、時におかしな事を口走る。

 

 

「迷惑かけるの、そんなに嫌か?」

「……え」

「あぁいや、なんとなくそう思ってな。どうにも俺の周りには迷惑かけてくるやつばっかだったもんだから、つい」

 

 

思いもよらなかった言葉に、目をぱちくりさせる少女。その仕草に、トツカはつい微笑みを零した。

 

 

「……でもめいわくだと、じゃまだよね。じゃまなものに、いばしょはいらない」

「別にいいけどな、俺は。迷惑かけあえる仲ってのも良いもんだぞ」

「ううん、わたし、あなたからもらってばっかりだよ。なにもあげられない」

「そりゃそうさ、見返り求めてるわけじゃあないし。それに……」

 

 

一旦言葉を区切り、瞼を閉じる。

 

 

「……それに、あいつらの笑顔には勝てねえからな」

 

 

呆れたような表情。

でも、少女には、その顔もどこか楽しそうで嬉しそうに見えた。

 

 

「……よし、決めた。居場所が無いんなら、俺らが居場所になってやる。あいつらも文句は言わないだろ」

「だめだよ、あなたのなかまのじゃまになるし、わたしはなにも……」

「まぁまぁ最後まで聞けって。それに、そんなに何かくれるんなら……そうだな」

 

 

瞼が開く。優しい眼差しが、少女を見つめた。

 

 

 

 

「お前の元気な姿と、元気な笑顔。そいつを貰おうか」

 

 

 

 

吹っ切れたような気がした。

 

心の靄が無くなっていくような。

 

自分にも、何かできる。彼女はそう思った。

 

 

「それは……」

「まぁなんだ、こういうこと言うの慣れてないから恥ずかし……」

 

 

ガン!

 

 

「いったぁ!?」

「わわっ、なに!?」

 

 

前方を見ていなかったためか木の枝にトツカの頭部がクリーンヒット。衝撃に飛行姿勢が崩れ、へなへなと力なく着陸する。その顔も何処と無く力無い……いや、情け無い。

 

 

「あっだだだ……なんか絞まんねえな、俺……」

「ま、まって!うしろに!」

「なっ、やべっ」

 

 

悠長な雰囲気も御構い無しにセルリアンは距離を縮める。トツカ達が止まっているのを知ってか知らないでか、まだ距離があるのに今までのバウンドよりもより一段と高く跳んだ。跳躍して押し潰す作戦を取ったのだ。

 

 

「やらせっか!」

「─────!」

 

 

ガシンッ!

 

 

地上に少女を置いたままトツカも直ぐに飛翔し、腕と爪が空中でぶつかり合う。両手の爪で押し返そうと力を込めるが、どうも感覚が軽い。

まさか、と目の前を注視する。トツカがその爪で抑えている腕は──一本だった。

 

もう一つは。

 

 

「─────!」

(クソッ、後ろかよ!)

 

 

躱せない。根拠こそなけれど、それだけは確かだった。

 

 

 

 

 

 

「……あれ」

 

 

しかしいつまで経っても痛みも何も襲ってこない。思っていたような状況では違う。(まさかこの土壇場で俺にも新要素追加か!?)などとありえない期待を抱きながら後ろを見れば、そこには確かに微動だにしない一本の触手があった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……うで、とめたよ……!」

 

 

 

そのクリップ状の腕に、青みがかった灰色の──少女の飛ばした羽根を、数本、刺されながら。

 

その下には、眼を虹色に輝かせ、頭にある一対の翼を広げた少女が立って居た。

 

 

「……っ!ナイスだ!」

 

 

トツカは攻撃した腕でセルリアンを押し飛ばし、さらに追撃を与えに飛んで行く。

反対に少女は力を使い尽くし、翼も閉じて眼も元の色に戻っていた。ばさり、と膝を曲げてその場に座り込む。

肩に、可憐な青白い小鳥が停まっていた。

 

 

(はぁ……ねえねえ、みた?わたし、なにもできないわけじゃなかった。こんどこそ『なかま』をたすけられた)

 

──『なかま』……貴女、彼女の仲間になるの?

 

(だって、いばしょをくれたから。いばしょに、なってくれたから。それにもう、やくそくしちゃったからね)

 

──……調子の良いヤツ。

 

(おおめにみてよ。ちょっとくらい、いいじゃない)

 

──いやだよ、卑怯者め。……で、過去の私達(仲間)はどうするの?新しく出来ちゃった訳だけど。

 

(……さよならだね。でも、わすれるわけじゃない。ぜんぶおもいだした。わたしも、みんなのえがおに、かったことなかったから)

 

 

ふふっ、と目を閉じて小さく笑う。

 

 

(ねぇ、あなたはさいご、わたしはなにっていおうとしたの?)

 

──さぁ?自分で考えて。それじゃ、私は行くから。

 

(うん。……さよなら、おもいでのわたし。)

 

 

 

そう言って肩を見たとき、そこには雪が積もっているのみだった。

 

 

 

 

 

 

その真上でトツカはセルリアンを追い込んでいた。もう倒すのも時間の問題だ。

爪は煌めき、セルリアンに当たる──

 

 

「これで決め──」

 

 

 

 

 

パッカーン!

 

 

 

「──る……あり?」

 

 

──という直前で、ばらばらに砕け散ってしまった。これまでの激闘に対してあまりにもあっけなく、その上対戦相手が最後を決める事も出来ずに終わってしまった。何が起こったのかもわからず、真下の少女の元に降りる。

 

 

「……おわったんだ」

「あぁいや、なんつーか……そもそも一体誰が」

 

 

「とぉつぅかぁぁあああ!」

 

 

森に響いたのは、二人共に聞き覚えにあるとある少女の大声。

 

 

「あ、カラカル、お前何処に──」

「ふたりともぉ!無事でよかったぁぁあああ!」

 

 

その声の主、カラカルは二人に有無を言わせず強く抱き着く。走ってきたのか勢いを殺しきれず危うく倒れかけそうになるほどに強く抱き締められていた。

 

 

「おいカラカル、頼むから落ち着いて」

「あんたは後でいいのよバカ、それよりも!」

 

 

ぐるんっと少女の方へ向き直す。

 

 

「だいじょぶだった?このバカになんかされてない?怪我とかないわよね?」

「えっ、あー……うん、えとあの、だいじょうぶ……」

「……ほんと?」

「…………(コクコク)」

 

 

数秒、じぃーっと顔を見つめ続ける。若干ジト目にも似たような瞳に睨まれ続け、セルリアンに見られたときとはまた違う恐ろしさを感じる。眼をそらそうにもそらせず、額に冷や汗が流れるのを感じるのみだった。今にもその冷や汗を舐められて「この味は!ウソをついてる味ね……」と言われてしまいそうでならなかった。なぜかはわからないが、とにかくそんな気がした。

 

 

「……はぁ、どうやらほんとに何ともないみたいね。さっきのセルリアンも気になるけど、先ずは宿に帰ろっか」

「ん、もう帰っていいのか?」

「電話してたのあんたなのに何で覚えてないのよ……つーか、もうすぐそこで職員さんたちも待ってるわ」

 

 

一通り話し終わり、トツカとカラカルは立ち上がる。

 

 

「了解だ。あ、この娘今疲れてるらしくてさ、抱えてくから先に行ってくれ」

「ひゃあっ!ま、またこのかかえかた、なの?」

 

 

ひょい、と少女を抱え上げるトツカ。

 

 

「ってバカバカ、なにしてんのよ!?」

「なにって……お姫様抱っこ?」

「そうよそれよ!他に抱え方ないわけ!?」

「無い」

「あぁもぉー!私が抱えるから先に行けこのばかぁ!」

「何でキレてんだよ……」

 

 

蹴り飛ばすようにさっさとトツカを先に行かせたカラカルは小声で二、三つ愚痴を零し、溜息を吐くと、両頬を軽く叩いて気を入れなおして少女の方へ向いた。

 

 

「さて、行きましょうか。……もう、何処にも行っちゃダメよ」

 

 

屈み込んで手を伸ばす。

 

 

「……はい」

 

 

少女はその手を、しっかりと握り返した。




擬音の使い所がめちゃ難しい……
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