平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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第41話 BLESS()はすぐそこに

アソ山の周囲、比較的なだらかな山肌に位置した三回建ての観測所。その一室では、蛍光灯の淡い光がコンクリートの壁面に塗られた白色を照らし出し、パッと見れば誰も居ないのではと錯覚してしまうほどに人気も少なくひっそりとしていた。開いた扉から差し込む光の方が、まだ明るかろう。

だが、その部屋にキーボードを叩く小刻みな音とラジオの音声が流れているのは、決して幽霊がいるからなどではなく、ある一角のデスクで1人の職員──カコ博士が、パソコンの画面相手に黙々と作業をしているためだった。

 

 

「……ん、こんなもん、かな」

 

 

両手の忙しない動作もひと段落終え、今度は自らの傾げられたうなじへと当てると、首を左右へと倒して筋肉を柔らかす。暖房で暖められたためか、そこを一筋の汗が艶やかに伝う。作業から解放されたのも相まり、一気に様々なことが頭をよぎった。

 

何より、温泉宿に残った2人、トツカとカラカルは何も無く安全でいてくれているだろうか。何かされるのでは、というよりも何かしでかしてしまわないかという不安が気がかりだったが、今は信じるしかない。

 

とにかく今は、変に考えすぎてしまわないよう、ささやかな休憩も程々にすぐに作業へ戻るべきだ。次の作業の為またモニターを睨み直し、最後の一時として手元のコーヒーカップへと伸ばしていた手を口元へと近づけた。

 

 

「……あら?」

 

 

口に流れてきたのは空気が唇に触れのしかかって来る、とてもコーヒーに感じる味覚とは似つかない感触。違和感に画面からカップの中へと視線を移し、中身を確認する。見ればカップは1番底から満杯の部分まで無色透明の気体群で完全に満たされていた。つまり、(から)である。

 

 

「どうしよう……淹れに行くのも時間かかるし……」

 

 

コーヒーを淹れた時のメリットと淹れなかった時のメリットをかけられた天秤に連動して深緑の髪に隠れる華奢な首が小さく傾げる。狭いオフィスからはタイピング音が消えることになったが、その役割を埋めるかの如く現れた扉を閉める音と誰かの足音にカコは気がついたのは、足音の主が声をかけた時であった。

 

 

「カコ博士、お疲れ様です。コーヒー、要ります?」

「……ナイスタイミング」

 

 

2人分のマグカップを持って来た白衣の女性は、机に乗せられた小さめの空マグカップを見ると『ナイスタイミング』の意を理解してふっと微笑を浮かべ、片方のマグカップを渡すとともにもう片方へと静かに口をつけた。カコも呼応してコーヒーを喉に入れ、ようやくとキーボードを叩く。

 

 

「……あれ、そのプロジェクトってセントラルからこっちに移設するやつですよね。もう始まるんですか?」

「まだ検討中だけどね。さすが最重要研究エリアの開発主任研究施設、情報が入るのも早くて助かるわ」

「いえいえ、ここはどっちかっていうと田舎みたいな感じですよ。最初の数年は兎も角、今はホートクとかの方が重要度が高いですし」

 

 

部屋に入ってきたばかりのその職員によってデスクがもう1つ埋まり、2人の会話とタイピング音、ラジオの三つ巴が始まる。明かりは相変わらず静けさを保ちながら部屋には2人の声が完全にではなく丁度良いくらいの密度で響き、ジャズが齎すピアノの柔らかな旋律がデスクに乗せられたラジオから漏れ出ていた。代償と言うべきか作業進行のスピードは遅くなったが。

 

 

プルルルル

 

 

「ん、電話だ。携帯に直接なんて、珍しい……あれ、この施設の番号」

「ああこの番号、多分他の研究員からの呼び出しじゃないですかね」

 

 

それでも苦痛な仕事が多少は楽になってきているのが確かに感じられることに間違いはなかった。確信しながら、カコはコーヒーを口に当て、スマホの通話ボタンを押すと──

 

 

『カコ博士!温泉宿でトツカさんとカラカルさんがアニマルガールを保護したそうです!』

 

 

「ぶっふぅぅぅうううう!?」

「ちょっ、カコさーん!?」

 

 

 

 

──思いっきりコーヒーを吹き出して、空中に綺麗な虹を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなざぁぁん……ほんと、ぶじで、えぐっ、よかっだでずぅぅ……!」

「おう、なんかデジャヴ」

 

 

なんやかんやあって宿に戻って来た俺たちは、一旦例のあの()を職員さんたちに預けた上で職員さんたちのオフィスで寛いでいる。……と言うのはカラカルだけで、俺は暖簾を潜ると同時にスタッフさんによって縄で締め上げるかの如く抱擁されるという大歓迎を受けた。なんで……?

 

 

「はぁ……まぁいいです、今日はこれくらいで勘弁してあげます」

「いや勘弁って、何故に上から目線」

「また……モフらせて、くださいねぇ……?」

「あっはい」

 

 

……まぁ一部始終と走っていくスタッフさんは一旦側に置き、何故オフィスにいるのかだが、答は目の前のモニター(・・・・)にある。

 

 

『ははは……スタッフさんも熱いね』

『カラカルも助けてやったらどうだったんだ……』

「いいのよバリー、それにバカはほっといた方が面白いからね」

『そ、そうか……?』

 

 

そして今聞こえてきたのはアフリカゾウとバリーの声。

サバンナエリアにいる二人の声が雪山エリアにいる俺らに聞こえる理由……まぁここまで言えば解ると思うが、単にサバンナエリアの観測所と通信していただけなのである。言うてつい2分前くらいからだけど。

 

 

『でもさ、二人は……えと、なんだっけ……セルリアン?だったかと戦ったあとなんでしょ。このまま放っておいたら、浜に打ち上げられた魚みたいになっちゃうよ、トツカ』

「妙にリアルな例えね……確かに、ちょっとは疲れたかもね。ただ、どっちかっていったら探す方に疲れたかなー」

「お前はあんま戦ってないじゃん。奇襲したり最後かっさらったりでメインに戦ったの俺じゃん」

 

 

しかもお前を運んだりお前らに置いてきぼりにされてあちこち飛び回ったりしたんだぞ。俺が一番働いてるんですけど。もう運んでやんねーかんなチキショー。

 

 

『とは言え私が鍛えたんだ、トツカなら倒せると思っていたぞ。それにそこまで強くなったのなら私と一戦するのもありかもな』

「やめてください死んでしまいます」

 

 

さっき俺が戦ったヤツと同じくらいの大きさのセルリアンをこの前10秒くらいで倒してた癖して何故対等に戦えると思ったし。

 

 

「そんなこと言ってさ、ホントはバリーも心配してたんじゃないのー?」

『む?あぁ、心配してたな。特にお前たちは大事な仲間だからな、そういう意味では、お前たち二人は期待を裏切らないから好きだぞ』

『うんうん。危なっかしいってのはあるんだけど、そういうとこは好きだなー』

「ふぇ……?あ、ありがと……なんか、これはこれで調子狂うわね……」

 

 

お、珍しくカラカルが押されてる。カメラ持ってたら絶対に撮影して未来永劫に記録として残すレベルには珍百景だぞこれ……あ、睨まれた。やっべ。

 

 

『でもま、危なっかしいのは何とかしてほしいですけどね。カラカルちゃん達なら大丈夫ってわかってても、心配なのは心配だから』

『お、アードウルフか。戻って来たんだな』

「なんだ、アードウルフもいたのか」

『トツカちゃん。んーと、さっき来たばっかり……かな』

 

 

足音と共に現れたのはアードウルフの声。よいしょ、という声に合わせて椅子の軋む音が聞こえる。

 

 

『じゃなくって!トツカちゃんもカラカルちゃんも、ちょっと言いたいことがありますっ!』

「「は、はいぃ!?」」

『あ、アードウルフ……どうかしたの?』

 

 

かと思えば突然のアードウルフの怒声。俺とカラカルは身を縮こませ、アフリカゾウは驚いたように小声を出し、バリーからは恐らく溜め息であろう声が聞こえた。

 

 

『まず、危険を冒さないこと!トツカちゃんは守護けものだし、カラカルちゃんも強いけど、だからって危険は禁物なんだからね!』

「いやうん、それはわかってるのよ?わかってるけど、あのときはしょうがなくて」

『そしてちゃんとスタッフさん達と連絡を取る!誰かを助けるのは良いことだけど、二人だけで雪山の中、ましてや寝るだなんて、低体温症って言葉くらい知ってるでしょっ!』

 

 

飛び出してくるマシンガンの説教に、スピーカーを割らんばかりに響く大声のスペシャルコンボ。アフリカゾウは『あわわわ……』と困り、バリーに至っては『やってしまった……』というバリーらしくもない哀れな声を出していた。

 

 

「でもでも、吹雪の中を過ごすよりは快適だし実際に問題無かったから良いじゃんか」

「そうよ、それに寝たのはこのバカだけで私は起きてましたしー」

「ばっ、このっ!仲間を売りやがったなぁ!?」

「こんなのと仲間になった覚えもありませんしー!」

『二人ともうるさい!というかかまくらの中だって危ないに決まってるじゃん!あと私もかまくら入りたかったよ羨ましい!』

「「絶対それが本命でしょ!!」」

 

 

その後も数十秒間に渡ってアードウルフ怒りの説教が続いたが、話題がかまくらの安全性に逸れかけたあたりでようやく俺らを解放してくれた。はぁはぁと息を荒げつつもいつの間にやら立ち上がっていた椅子にガタンと音を立てて座り、数秒の間だけ静まり返る。

 

 

『はぁ……ごめんね、ちょっと言い過ぎちゃったかも』

「褒め殺されるよりは平気でした。というかあの時のサーバルってこんな気分だったのな」

「私、説教される側は久し振りだから、なんかフクザツ……」

『まぁまぁ、それだけ二人を信じてるってことだよ』

 

 

それにしてもアードウルフがこんなに怒るのもさっきのカラカルに続いて珍しい光景だ(声しか聞こえないけど)。俺は起こられても別に初めてじゃないし耐性がついてるけど、カラカルはそうでもないからかなんか少しシュンとしている。

 

 

『特にサーバルなんて凄かったんだよ?さっすが大親友、二人のことは何でも知ってるって感じだった!私達があたふたしてたときも、ずっと落ち着いてたからね』

「サーバルって、サーバルもそこにいるの?声も聞こえないし、てっきり居ないのかと」

『あぁいや、すぐそこにはいるんだけど……』

「……だけど?」

 

 

しばらく三人とも口ごもる。よくよく聞けば、少し遠くから聞こえてくるような声で、『本当に良いのか?』とバリーが小さく話しているのがわかる。誰に話しかけてんだろ、流れで言うとサーバルかな。

 

 

『……さっきアフリカゾウちゃんが言ってた通り、サーバルちゃんも私が来る前からずっと信じてたんだよ?私達にも大丈夫って何回も言ってくれて』

『だが、ちょっと今は調子がおかしくてな。……お前たちが帰って来たと報告を聞いたっきり、窓の外を眺めてばっかりなんだ』

 

 

はぁ、とため息が一つ。

 

 

『それでね、せっかくトツカたちと話せるからおいでよって言っても、ずぅーっと知らんぷり。何を聞いてもつっけんどんだし、なんか怒ってるみたいで怖いし』

「それはなんというか、そりゃあそうよね……心配かけたのは事実だから、怒るのも無理ないわ」

 

 

なるほど、確かに耳を済ますとアードウルフがサーバルに説得しているような会話がある。怒ってるのは良いけど、せめて口を利いてくれたって……あ、いま小さくだけどサーバルの声で『やだ』って聞こえた。あんにゃろう、どんだけ怒ってやがるんだ?

 

 

『そうは言っても、大事に思われてるというのは良いことだ。特にアードウルフなんか、お前たちが消息不明だったって伝えた瞬間にいきなり──』

『わーっ、だめだめ!それは言わない約束じゃないですか!』

 

 

ガタン、と椅子の音。

 

 

『って、サーバルちゃん?ちょっ、どこに……と、トイレ?あぁごめんね、えと、行ってらっしゃい……え?カラカルちゃんに伝言?』

「わ、私に?」

『どれどれ、このアフリカゾウさんに言ってみなさい!ふむふむ……えぇー、子供じゃないんだし意地張ってないで自分で……あぁはいはいわかりましたって、早く行かないと漏れちゃうよ』

 

 

扉が軋みながら閉まる音がして、一斉に三人分のため息が漏れた。

 

 

「たいへんだな、お前ら。元凶は俺らだけど。んで、伝言ってどんなんなんだ」

『カラカル宛てだからね?えっと……"今度は攻守交代だね"だって。カラカル、どういう意味?』

「は、はは、何でもない……そっか、攻守交代かぁ、交代ねぇ……ちょっと覚悟決めとくわ……」

「大丈夫では無さそうだな。つか今日のお前って珍百景が多くない?」

「やりたくてやってるんじゃないから。んしょ、ちょっと席を外すね」

 

 

攻守交代って……これは確実にバンドの時の説教を根に持ってんな、アイツ。あれもあれで災難だったけど、カラカルもまさかやり返されるとは思ってなかっただろうなぁ。

 

 

「なんだ、本当に覚悟決めに行くのか」

「んな訳無いでしょ、私もトイレよトイレ。後で戻ってくるからその間は話すなりなんなりしててね。そういうことだから、バリー達もまた後で。じゃ」

『ん、後でな』

 

 

言い合いながらもカラカルはそっと席を立って、そのままオフィスの扉へを通り廊下へ向かった。

 

 

「それで、俺の方はもう話題が尽きちまったんだが。もうなんも話すこと無いなら、眠いから切るけど」

『待って待って、まだ話したいことがあって。……イヤホン、つけてくれる?』

「良いけど、なんでだ?」

『良いから良いから』

 

 

訳がわからないが嫌でもないので、スピーカーの接続端子を外して代わりにイヤホンの端子を差し込む。

 

 

「できたぞー」

『うん。じゃあ、単刀直入に聞くよ……』

「お、おう……」

 

 

なんだ、妙にもったいぶるな……アフリカゾウの声と他二人の唾を飲む音から、相当な「重要な話」感が漂っている。

 

 

 

 

 

 

『トツカは──カラカルに、何かした?』

「いや、何も」

『『『はぁ!?なんでぇ!?』』』

 

 

ちょっ、声がでけぇよ!耳に響くから!こっちイヤホンなんだから音量を考えて!

 

 

『あり得ないって!だってカラカルと一緒にお風呂入ったんだよね!?』

「あぁ、カコさんとかもいたけど」

『カラカルと一緒にかまくらの中にも入ってたんだろう!?』

「そうだぞ、もう一人一緒にいたけど」

『だったらいつだってカラカルちゃんに手を出せるじゃない!絶対に何かしたでしょ!』

「してないし、寧ろしてることを期待してない?」

 

 

そもそも手を出したら怒られるし、キレられるし。もっと言えば転生してからそっち系の感心が薄れてきてるし。あれかな、俺ももう歳なのかな、中身だけ。

 

 

『嘘だっ!どうせあんなことやこんなことを想像してあわよくばとか考えてたでしょ!』

「そういう趣味は無いから」

『ほ、ホントになにもしてないの!?それはそれで問題だよ!』

「えぇー、めんどくさ……」

「何がです?」

 

 

いきなり現れた声に驚いて振り向くと、茶色に近い赤褐色の服を着た小柄の少女──カピバラが立っていた。

 

 

「ってその前に、お帰りなさい、ですよね。無事で良かったです、ホントに心配で……」

「カピバラ来てたのか、いつの間に──」

『おいトツカ、そこに誰かいるのか?』

『ていうか女の人の声だよね……まさかカラカルやサーバルというものがありながら、それでも飽きたらずまた被害者を……!?』

「そんな仲じゃないから!」

 

 

 

 

~事情説明~

 

 

 

 

「なるほど、つまりトツカさんはそういうヒトだったんですね」

「それはわかってるんだよな。……わかってるんだよな?」

 

 

右耳に差したイヤホンをいじりながらカピバラがふっと笑う。なんともまぁ意地悪な目付きでいらっしゃるもんだが、イヤホンを二人で片方ずつ使っている以上、どうしても目に入ってしまう。

 

取り敢えず、双方の紹介も含めて事情を説明し終え、なんとか事は収まった。

 

 

「ところでカピバラ、出歩いても良いのか?体調が優れてないなら、まだ休んどけよ」

「はい……そう、ですね。もうちょっと、この宿にはお世話になりそうです。ただどうしても、二人の姿を確認しておきたくて」

「……心配かけたな」

「……ホントですよ」

 

 

哀しそうな表情で、意地悪く微笑を浮かべた。赤褐色の柔らかな髪がふわりと優しく揺れる。そのせいで、憂いに満ちて滲む瞳が静かに隠された。隠した、の方が正解なのかもしれない。

 

 

『あーもう、まぁーたそんなイイカンジの雰囲気みたいに持ってってさ!トツカのそういうとこ、ほんっと大嫌い!』

「トツカさん、言われてますよ?」

「こんにゃろう許さんぞ」

 

 

しかしそんなものも結局は一時の惑い、まるで最初から無かったかのように自然な流れで、俺の毒ごと楽しそうに受け流し、そっと席を立つカピバラ。中々の実力派だったようだ、見事に騙されてしまったぜちくせう。

 

 

「さて、私はそろそろ戻りますね。ちょっと無理したみたいで、頭がふわふわしてて……」

『身体は大事にしてくださいね、カピバラさん!』

「ありがとうございます、アードウルフさん。まぁ実際、あんまり長居してるとカラカルさんとトツカさんの甘々な関係にヒビが入っちゃいそうですからねー?」

 

 

悪戯っ子のような悪趣味に溢れたセリフに少々イラっとくるが、怒りを通り越して呆れに到達していた俺は目だけでこちらを見やるカピバラの顔を睨み返すだけで勘弁しておいた。ついでにその小悪魔な美少女顏に最大級の溜息をオマケしてやる。本人はビクともしてないが、特に構いはしない、自己満足の溜息だから。……いや、よく見れば俺の溜息も楽しそうに見物している。今からでも遅くないな、呆れから怒りに引き返そうか……やめよう、それも今の彼女には笑いの種だ。

 

 

「……はいはい、お気遣い有り難く存じますよ全く。気を付けろよー」

「忠告と受け取っときます。では皆さんも、またいつか」

『うむ。またな、カピバラ』

『じゃーねー!』

 

 

そうしてオフィスの扉へと向かっていき、途中で戻ってきたカラカルとばったりと会っていた。なにやら短く話し合っていたが、一通り終わった辺りでカピバラがカラカルに何かを耳打ちして、カラカルがぼーっとしている間に笑いながら行ってしまった。対するカラカルは数秒の後に正気を取り戻し、何やら独り言を呟きつつ俺の方へ歩いてくる。

 

 

「……何よ、見つめられても何もないんだけど」

「いや、カピバラになに言われてたのか気になってな」

「あぁあれ?んー……別にあんたが気にするようなことじゃないわよ」

「そうは見えないんだがなぁ」

 

 

そう言いながらイヤホンの端子からスピーカーの端子へともう一度差し換える。思えばカピバラが来たときもこうしておけば良かったような。

 

 

「それで?なに話してたのかしら」

『特に何も話してないよ、ただかまくらの中がどんな感じだったのかなーって』

「いや、全然ちが……あぁいや、そんな話だったな」

「ふーん、しょうもないこと話してたのねー」

 

 

一回否定しかけたが、どうやら本人にはバレていないようだ。話の話題が自分自身だったなんて知られれば、色々と聴きこまれて余計に厄介になりそうだからな、ギリギリで話を合わせる選択を取って正解だった。

 

 

「……そうだ。ねえねえトツカ、実は私──」

「あ、いたいた。えーっと、トツカさんにカラカルさん、で合ってるよね?」

 

 

唐突に名前を呼ばれ、ビックリしながら二人して後ろへ振り向く。

そこに立っていたのは、白衣を着た大人の女性……ともう一人、隠れて見えにくいが、さっき助けたアニマルガールの少女だった。

 

 

「……はい、もう大丈夫だよ」

「う、うん……」

 

 

どうやら、俺らが話している傍らに検査を終えたらしいその娘がスタッフさんの案内に連れられて来たようだった。体力の回復と精神の安定のおかげか、しっかりと自分の足で歩けている。ただそれでもちょっと恥ずかしいのか、スタッフさんの背の後ろに隠れている。あざといな、おい。

 

 

『トツカ?カラカル?どうかしたのー?』

「……あれ、通信中?てことは、今はちょっとまずかったかな?」

「いや、大丈夫よ」

 

 

カラカルがスタッフさんの対応をしつつ、俺にアイコンタクトを送る。えーと……はいはい、理解したわ。

 

 

「えーとだな。アフリカゾウに他の奴らも、ちょっと一旦通信を切っていいか?」

『え……切るって、トツカちゃん、何かあったの?』

『まぁ待て。恐らくスタッフさんあたりと話があるんだろう?アードウルフ達も、そういうことらしいからわかってくれ』

『あー、なるほど、じゃあもう終わりなのかぁ……帰ってきたら、色々聞かせてよね』

「一旦って言ったのにこいつ……おう、またな」

 

 

それぞれと挨拶しつつ、マウスを動かして通話終了のボタンをクリックする。ところでこのスタッフさん、金髪で背の高い女性、しかも中々の美人なんだが、明らかに日本人ではないよな。なんというか……日本語、流暢すぎです。

 

 

「それでスタッフさん。その娘、もう問題無いの?」

「ああ、大事にはなってないよ。ただかなり疲労が溜まってるみたいだから、一応携帯食で軽い食事もさせておいたんだ。それでもまだ体が冷えてるみたいで。そこでお願いがあるんだけど」

「「……お願いって?」」

 

 

同じように聞き返す俺ら二人の光景を見て若干の笑いを含みつつ、改めて言い直す。

 

 

「はは……それでお願いなんだけど──」

 

 

 

 

 

「──この娘を、お風呂に入れて欲しいんだ」




後半へ続く。
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