第45話 デート・ウィズ・
太陽の眩しい午後1時半。昼丁度には劣るとはいえ、サバンナエリアともなると日が昇った時の暑さというのは夜の寒さとの気温差も相まってより顕著になってくる。
ならば向かう先はただ一つ──サバンナエリア研究所という名の人工的避暑地。
俺がここまで生きてこれたのも、全てクーラーとかいう人類史上最高の発明品のおかげと言って過言ではない。よってそこへ向かうからには、胸中をオアシスへの期待で昂らせておくのが普通である……
……が、今の気分ははっきり言って最悪の最悪、下の下の下。プラシーボ効果だかなんだか知らないが、肩にのし掛かるどうしようもない絶望感と、自らの運の無さに積る怨念は、大地を踏み行く脚には重い鎖だ。はぁ……イキタクナイナ、イカナクテハ。気怠さと責任感による板挟みで、こうして見ればまるで
果たしてここへ来た目的について──見つけた。他人の苦労も気負わずに、入り口の前で額に『M』の字を輝かせるブロンディ。彼女こそ、只今の悩みの種であり、今日のミッションターゲット。
「……おーい、あのー……」
「みゃ、来た来た。もー、女の子を待たせるなんてしたら嫌われちゃうからね」
「あのなぁ、一応だが集合時間には1分たりと遅れ……ん、口調が戻ってる……!?」
「……こっちのがお好みなんだ」
「だぁーもうなんでだよ、悪かったって」
「ふふっ、冗談冗談。あ、バス来たよ、トツカも早くいこ!」
「おいサーバル、ま……はぁ、調子のいい奴」
さて、今はいったい何をしているのか。
事の発端は昨日まで遡る──
ゲート近くに設置されたバス停。そこに止まっていた雪山帰りなバスの車体は、ガタガタという唸りに合わせて揺れると真っ直ぐに進んでいった。やはりと言うべきか、平日だとゲート前でも人があまりいない。
それ故、やはりアニマルガールの衣装は一際目立つ。
「おー、真っ白な景色。どこまでもずっと森だねぇ」
「まさしく『雪景色の名に恥じぬ』か。これ、どこで撮ってきたんだ?」
「バスに乗ってるときに窓からね。ま、トツカは寝てたけど」
「ははは、トツカちゃんらしいや」
とはいってもここにいるアニマルガールはそんなにいない。俺とカラカルに加え、迎えてくれたアフリカゾウとバリー、アードウルフ……そして。
「うっせ、いいだろ。あ、サーバルは見ないのか?」
「…………(ぷいっ」
「……頼むから無視してないで何かしら喋ってくれ」
見ての通り、やけにご機嫌斜めなサーバルさん、以下敬称略。流石にもう一夜が経ってるんだから話してくれるだろうという俺の楽観視は見事な大外れをかまし、何回も話しかけているにも関わらず進捗はゼロ、一言もかまってくれない。
「んー、ダメだ。カラカルは何したら話せるようになったん?」
「何もしてないわよ?ただちょっと『ごめんね』って言ったら抱き着かれて、それからは何とも。トツカも謝ってみれば……」
「ねぇカラカル、宿の写真とか無いの?」
「あるわよ、ちょっとまってねー」
頼み綱のカラカルも俺には興味が無いようで、アフリカゾウ達の方へスマホを持ってゴーアウェイ。なおカラカルとサーバルは普通に話している。……何故だ、昨日はこいつにも知らんぷりだったろうが。これもうある種の虐めだからな。もう動物愛護団体にでも訴えちゃうんだからな。
「わかった!もう俺が悪かったから、何かしら償わせてくれ、それで機嫌を直してくれるだろ?」
「……ご機嫌取り?」
「うわ、開口一番からひでぇ……あぁ待て待て、そういう意味じゃないから!バカにした訳じゃなくて、本当に何かお詫びをしてやろうって思ってるんだよ」
ったくよぉ、なんで俺がこんな目に会わなくちゃなんねぇんだ。サーバルには脅される、アフリカゾウとカラカルには爆笑される、バリーには哀れみの視線を向けられて可哀想な人に見られる!唯一わたわたしてるアードウルフがマジに女神様だよもう……
「それは何でも言うことを聞いてくれるってことだよね。トツカ」
「あー……まぁ拡大解釈すればな。但し何でもはしない、できることしかやらん。絶対」
「ふーん」
ワオ、どうでもよさげ。じゃあ聞くなよって声を張り上げたい俺の怒りは一般的な反応であり許されていい筈。
「あーあ、トツカが余計なこと付け足すからよ。せっかくのチャンスが台無しねー?」
「カラカルもそう煽ってやるな、ガサツなのは本人が一番わかっているだろう」
「あべしっ」
「バリーさんそれフォローになってないですー」
なおこの瞬間に腹筋を崩壊させて笑い転げたアフリカゾウにチョップを当てた俺はまず間違いなく正当防衛である。異論は認めん、笑ったヤツが悪い、終わり。
「あぁもうわーったわーった、どんなことでも出来る限りの努力はしますよハイ。で、何がお望みなんですか、サーバルサマ」
「……と」
「あん?」
「私と……私を、連れてってよ。遊園地に」
……あん?
「別に一人で行け……と言いたいところだが、それで許してくれるんなら話に乗ってやるよ。で?まさかとは思うが、俺とお前の二人だけでなんてこたぁないよな」
今のこいつと二人きりとか精神が持たないと考えて保険を掛けてみるが、向こうの四人衆からは「うわ、逃げた」「ヘタレめ」という言葉しか聞こえず目線もあからさまに乾ききっている。
となると勿論、俺の振りに対しても。
「ごめんねトツカちゃん、私はカラカルちゃんとアフリカゾウちゃんに押し花で
「私はヒグマとサバンナからジャングルあたりまで巡回しなければならぬ。この前のセルリアン騒動もあるしな」
「という訳で、明日はみーんな予定がありまーす。二人で楽しんできてねー!」
まぁ何となくは察していたが全員拒否の予定調和。最近、なんだかカラカルの性格が他のヤツらにも感染している気がしてならない。カラカル本人に至っては俺に答えすらせずサーバルに何やら耳打ちしている。それドSへの洗脳とかじゃないよね?
「……なに見てんのよ?」
「あいや、何の話かなーって」
「トツカには関係ないからっ。それより、明日の1時半に研究所で集合だからね、絶対だよ」
「構わないけどなんで1時半?」
「絶対だよ」
「オーケー、この話は深くは突っ込まない」
こうして俺は、濁流に流されるが如く面倒事へ引き込まれ──
~現在~
──こうしてシートに預けた身を揺らしているのだ。毎度恒例の展開ではあるし俺も若干はあきらめているが、所謂いつもの貧乏くじである。
「……トツカー、なに見てるのー?」
「みゃ?いや、お前のそれ、いい服だなってさ」
「これ?ふふーん、可愛いでしょ。じっくり時間かけて選んだ甲斐があったねー」
どんと張られた胸元が普段と違う色合いを見せていたことに気が付き、適当にあしらう為のつもりだったが、いつの間にかサーバルの服装をまじまじと見ていた。
軽やかなシャツは黄土と白の縞模様、その上には薄い空色で染まったパーカーを羽織って、下のホットパンツはアードウルフのよりも数センチ長め。否応なしに「可愛い」と感じさせられたセンスに、普段のサーバルからは考えられないというか、ちょっと悔しくなる。
「んもー、胸ばっかり見ないでよ、トツカのエッチ。あ、もしかしてトキメいちゃった?」
「お前の性格さえ知らなければ口説いてたかもな」
「つれないなぁートツカは……」
「釣られてた堪るかってんだ。つーか、お前が俺に普通に話しかけてるってことはさ、つまり……その、なんだ。もういいのか?」
「んー?えーと……いい、っていうのが何を指してるのかで変わってくるけど、とにかくまだ許してはないよ。トツカのこと」
ニコッと目を瞑って満面の笑みを張り付ける。こんな可愛らしい笑顔でも口から出た言葉が『許さない』な辺りは性格が滲み出てるよね。
「なんでだよめんどくさい……」
「だって、約束したでしょ?『遊園地に連れてってやる、そのとき使うコインも俺が研究所の資材運搬の手伝いする約束して借りてきてやる』みたいな感じに」
「前はともかく後半の内容は身に覚えが……オイ待て、まさかお前が持ってるコインって──」
「いいじゃんいいじゃん、最後までエスコートしてよね……って、もう着いちゃった」
駆け足気味に降りるサーバルを見て、凡そ帰ったらおし寄せるだろう厄介事についてはもう諦めた。
ゆっくりと地面に足をつける。深い新呼吸で、外の空気を胸いっぱいに溜めれば、見上げる景色全てに、淡くも確かな期待が見え隠れ。そんなつもり、全然なかったのに。
装飾煩い観覧車も、騒音五月蠅いジェットコースターも、手振りの大きな黄色の少女も。
なんだろう……ワクワクする。
「こっちこっち!はーやーくー!」
「今行くっての」
前を行く彼女に手を握られて、転ばない程度に小走りのまま、遊園地ゲートへと向かった。
「わー、人が多いねー」
「祝日だしな。寧ろこれが普通ってくらいか」
「結構並んじゃうかもなぁ。あ、ねぇトツカ、あれに……」
~ウォーターライド~
ザブンッ
「「きゃあぁっ!」」
「っとと、すっごい水飛んでる。さっすが本場はちが……あ」
「……おい、さっきからなんで俺を凝視してんだ」
「トツカ」
「おう」
「…………前、透けてる」
「いやぁぁぁ見んなぁぁぁ!」
~ドロップタワー~
「うえぇ、まだまだ上がるんだこれ、思ってたよりも高いかもしんないぃ……どどどっ、どうしようトツカぁ……!」
「これくらいの高さなら前にも飛んだことあんだろ。いくらなんでも怖がり過ぎ──」
ガタンッ
「うみゃあああぁぁぁ
「ってトツカも怖がってるじゃあああぁぁぁ!」
~ジェットコースター~
「いやぁ、さっきも予想外に高かったけど、こっちもなかなか上るな……ん、サーバル、さっきからもじもじしてっけど大丈夫か?そろそろ落ちるぞ?」
「いや、その…………はぅわっ!?」
「えっ……何今の声」
「あ、あのね……ちょっと漏れそう」
「耐えろ!絶対に耐えろぉぉぉ!」
~トイレ前~
「ふにゃぁ~……いやー、間に合ってよかったよかった」
「なんもよくねぇよ。こちとら別の意味で絶叫マシンになるとこだったわ」
「むぅー、デリカシーのない発言どうもぉー。べーっ」
舌を出して不機嫌表明をする姿はやはりサーバル。そもそもなんでさっきから絶叫系アトラクションばっかり乗せられてるんだろうか。楽しかったからいいけどさ。
「さってと、コインもまだまだあるから大丈夫だね。次はどこ行こっか」
「ほれ、パンフやるからここで待つついでに決めといてくれ。喉乾いたしなんか飲み物買ってくるわ」
「飲み物……あ、ならカフェに行こうよ」
ぐい、と裾を引っ張って提案された場所は、アトラクションではなくまさかのカフェ。
「カフェなんてあったっけかここ」
「多分だけどお客さんの休憩用に作った売店なのかな。まぁまぁ、せっかくなんだから行ってみようよ、最近はジャパまんくらいだったから甘いものが欲しいなぁ」
甘いモノ。成る程、良いかも知れない。前世では忙しくさらに金欠でこれといった贅沢はできなかったし、今世も研究所の食堂が誇る圧倒的バリエーションの無さのせいでデザート=ジャパまんみたいなところがあるし、もっと言えば温泉宿ではデザートをカラカルに取られたし。つか猫って甘いものは食べなかった気がするけど……気にしたら負けか。
「で、行く?それとも、やめる?」
「行くっての、ほれ。先導すっから離れんなよ」
「はーい」
こじつけた理由で自己完結してパンフを広げれば、左の施設紹介コーナー下側に、紛う事無き
"㉕
一人ニヤついているとサーバルも顔を覗かせてきて窮屈になったのでさっさと出発。サーバルと「トツカは紅茶飲めないよね」「はいはい」なんて適当な会話を垂れ流して、歩幅を合わせる。
「…………」
「トツカ?」
「いや、なにも」
……なんかに見られたような感覚を、気のせいだと誤魔化しながら。
さて、その場を去っていく二人の背後、やけにガサガサ動くあからさまなほど怪しい二人組。人ごみの中に隠れているが、サングラスと帽子を基本装備に、コートやジャケットを羽織り、片方が持つ携帯でコソコソと。これを不審者と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
「……よし、バレてないみたいね。こちらチーム"赤毛のアン"、二人の尾行を……ねぇ、ホントにこれで行くの?話してるたびに周りからの視線が痛いんだけど」
『私はいいけど、アフリカゾウちゃんがダメって……あっそうだった、こちらチーム"頭文字A"了解、そっちに向かうね。ニホンオオカミちゃんもはぐれないように』
「わかったよー。でもイニシャルエーってかっこいいね、私たちもイニシャル一緒にしようよ」
「無理に決まってんでしょバカ。てかなんでよりにもよってニホンオオカミなの?バリーはどこ行ったのよ」
『"付き合ってられん"ってさ。あと見回りの件も本当だったみたいで、縄張りにもいなかったよ」
そんな訳で二人組の少女は携帯を持つ方をカラカル、珍しそうにサングラスを振りかざす方をニホンオオカミと言う。"赤毛"の由来は間違いなく、彼女らの毛色であろう。
二人、正しくは電話先のアードウルフとアフリカゾウを含めた四人は、なんとなく察しはつくだろうがつまりこっそり覗きに来たわけである。なんともまぁ性根腐ったヤツらであろうか。
「バリーめ……ああもう、二人とも行っちゃう。ニホンオオカミ、行くわよ」
「おっけー」
焦るように追いかけて、しなやかな脚が行ったり来たりと忙しない。角を曲がり坂を下り、時に振り替えるトツカの視線から逃れ、ついに辿り着いたのは、木造の小さなカフェ。時間の関係上あまり客は見られないが、営業はしているようだ。
「ふーん、カフェなんてあったのね……あ、入ってった。えっと……」
「場所の連絡はしといたよ。こんなこともあろうかと」
「ありがと。何よ、変に準備がいいわね」
「私はやるときはやる子だからね。褒めてくれていいんだよ」
カラカルが店前のベンチに座って店内を眺めると、二人は注文を終えてテーブル席に向かっているところであった。しかしこうして見るとサーバルが普通の服であるためトツカの服装はかなり派手である。本人も感づいているようでそわそわした雰囲気を隠せていない。
自分のボケすらかまってくれなかったことに拗ねて、ニホンオオカミもつまらなさげに視線を店内へ。しかしトツカ達はすでに談話に入っていて、その光景はより一層面白みに欠けている。
「なんて言ってんのかなあれ。あ、確かサーバルの服を一緒に選んでた時に、ちっちゃい盗聴器かなんか付けたわよね!あれって使えないの?」
「あ……ごめん、アフリカゾウに渡してきちゃった。てへっ」
「もぉー、変に準備が悪いんだから」
「しっ、静かに!見つかっちゃうよ……」
プルルルル
「ん、アフリカゾウ達からだ。んしょ、もしもし、ニホンオオカミだよ」
『だから二人は"赤毛の"……もういいや、私たちもトツカ達が見れる場所に来たから報告。それと、サーバルの服に仕込んでおいたアレ、そろそろ使おっかなって』
「あぁ、やっぱりあんたたちが持ってたのね。私たちも聞ける?」
『今つなげるね』
獣耳がざわつくと帽子が不可思議に揺れる。無駄な程息を潜め、静かに待っていると。
『─で──になった感じだな』
『───ど、じゃあトツカとは見た目が違うんだ。可愛いの?』
『可愛い。もうヤバいくらいに』
『ははっ、そんなにー?これは会うのが楽しみだねぇー』
「あ、これ今シロハの話してる」
『シロハ?確か温泉宿であったっていう……なんで?』
「あいつにヤバいくらい可愛いなんて言われたことある?」
『あぁ……悔しいけど確かに』
二つのスマートフォンを通して一斉に漏れる四人のため息もお構いなしに話題はシロハというある少女について、宿での体験について、最近の悩み事等の談義へと移る。彼女らが醸す姿は最早、遊園地に遊びに来たというより昼時のカフェで執り行われる美人の女子会である。
そしてそれを見る四人はこう思うのである──
((((つまらな……っ!))))
想像してほしい。たった二人だけで、遊園地という打って付けの場所に、しかも(片方だけだが)わざわざオシャレしてまでいるのだ。ここまで来てデートを期待しない者などいるだろうか。
しかして、実際に二人がしているのは単なるお喋り。更にトツカは注文していたものを取りに席を離れたしまう。
『うぅー、見てるだけなのに歯がゆいなぁ。もう私が行って無理やりにでも……!』
『はーいアフリカゾウちゃんステイステーイ』
「扱い慣れてるわねあんた……でも全然進展がなくて面白くないのは確かね」
「皆静かにっ、戻ってきたよ」
『……ん、持ってきたぞー。ほらこれ、フルーツパフェ、お前が頼んでたやつ』
『わぁー、やっぱり美味しそうだね。毎日食べられたらいいのにな』
『普通の猫は少しも食えないんだから我慢しろ。アニマルガールの体も万能じゃないんだ』
『ふーん。でもカラカルとかは普通に食べちゃいそうだよね』
『そりゃああれだろ。食べちゃいけない、わかってる、でもつい手が伸びちゃうっていう』
『少しくらいならーってやつだよね。それで大抵は後悔してから焦るっていう』
『まさにカラカルだな』
『まさにカラカルだね』
『『あっはっはっはっは!』』
「アフリカゾウ、ちょっとあいつら殴ってきましょ」
「はーいカラカルどーうどうどうどう」
『そんな馬じゃないんだから……って二人とも、漫才やってないでほら!トツカ達が!』
画面の前で争う二人が、アフリカゾウに促されて視線をスマホからカフェに戻せば。
『なんでー?早く食べてくれないと腕が痺れちゃうってー』
『ならなおさらその手を戻せ、自分で食べるからっ』
『あっ、ダメ!ちゃんと私に食べさせられなさい、ほーら、あーん』
『やめろや!』
『もー、だからなんで避けちゃうんだよー』
『だ、だって、その……恥ずかしい……』
『……カラカル、サーバルってあんなに鈍感だったっけ』
「そう?普段からあんなんだったと思うけど。というか、トツカの方がおかしいのよ、いきなり恥ずかしいとかいつにも増してなんか乙女じゃない、性格的におかしいって」
『まぁカラカルちゃんの言い分もわからなくもないけど……』
あーんを当たり前の事象と見做す貴様らには全国に居る漢達二兆人の浪漫などわかるまい。
「でもさでもさ、ようやくそれっぽいことが始まった感じはするよね」
『うん、でもまだトツカ次第かなぁ。だってあの調子だし』
「とにかく見てましょ」
『ちょちょちょ、ホントにやめろって、みんな見てるってぇ……』
『んー、そんなに言うならもういいよ。あーあ、せっかくトツカの食べれるチャンスだと……』
『あーわかったって、食べます食べます!』
どうにでもなれとでも言いたげに、ん、と唇を突き出すトツカ。目を瞑っているのは覚悟の足りなさ故か。その様子に満足してサーバルも、自分の口に運びかけていたクリームをトツカの方へと伸ばしていく。
「おっ、来た来た!ようやく来たよもう待ちわびたよもう!」
「ちょっとニホンオオカミ、見とれてないでカメラ!カメラ早く!」
『カラカルちゃん待って、今撮影をぉ!』
『ってアードウルフが今離したら通話が切れちゃうってぇ!』
……少し外野が喧しいが、二人だけのムードに入っているサーバル達はまるで気づかない。
銀色の柄が、先端に盛る白いホイップクリームが、薄肌な小顔に吸い込まれていって──。
『あ、あむっ…………』
『どう、おいしい?』
『……まあ』
(((きっ、きたぁーっ!)))
甘味を喜ぶ表情と、そんな表情に喜ぶ微笑み。傍らで撮られているとも気づかずに、場の柔らかなムードに包まれて二人は、ぎこちなさも残しつつ会話へと戻った。
この光景に飢えていたニホンオオカミと
そうだ。
(((いまカラカルいるじゃん…………)))
彼女とてサーバルらの親友、二人だけで楽しんでいるところなんぞ見せられて、嫉妬してしまったりしないだろうか。流石にそれで突っ込むほどのバカではないのは知っているが、後から『ハブられた』と感じて拗ねられようものなら流石に手のつけようがない。
中でも隣に座るニホンオオカミの心臓はもう破裂寸前。
恐る恐る、見上げれば……
「はぁ、ようやくそれっぽいのが撮れた。これでサーバルはトツカと遊べて、私はアイツをいじる切り札ができてWin-Winの関係ってやつねー、メイン任務完了っと」
『……え?そのために来たの?』
「他になんかある?」
「あぁうん、ないならいいんだけどね」
「そう」
……何もなく、どうやら大丈夫な様子だ。そんなカラカルの意外に普通な反応に、スパイ組は無謀にも面白みが無いと残念に思い。
(…………ま、嫉妬はしてるかも、ね)
少女は、苦笑いを抑えられなかった。
その感情が、互いに笑みを零し合うあのカップルに届く見込みは、今の所は無い。
ブロンディ←え?サーバルちゃんは金髪じゃない?
……HAHAHA(汗)