平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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第48話 JUNGLE(熱帯雨林)を抜けて

蒸し暑いジャングルで、とある少女を見つけた。

 

もともと単なる散歩で誰かと会うとは思ってなかったから、つい驚いてしまった。あらゆる服がクリーム一色で毛皮付きと、密林の中では一際場違いな格好をして、そのモフモフな身体は、もはや見ているだけでもただでさえ高い体感温度が急上昇してくる。

本人もそれに耐えきれなくなったのか立ち止まって服を触る。指先を首元の毛皮に止め、動きに追従していた両眼は突然──横に居たのに気づかれなかった(・・・・・・・・・・・・・・)俺の身体に釘付けになった。

 

 

「あ、ごめん」

 

 

まぁ、居たっていうか……

 

 

「ちょっと助けてくんないかな」

 

 

……ツタに絡まって逆さ吊りにされてる、が正しいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んしょっ、っと。

 

 

「いんやぁありがとねぇ、あのままだと道行く人全員にパンチラする羽目になってたわぁ」

「ははは、どっちかっていうとパンモロだろう。ていうか、いったい何したらああなるんだい」

「んー、暇してたな」

「答えになってないよ」

 

 

だって考え事してたら転んで引っかかった、なんて恥ずかしくて言えないだろが。他のこと考えると前が見えなくなる癖はいまだ健在なんだよ……あぁクソ、頭に血が上って痛いし垂れる胸で顔は隠れるしパンツ丸見えだしで良いことなかった。

 

 

「んじゃ、俺はこの辺で。助けてくれてありがとな」

「あぁ待って、聞きたいことがあるんだけど。ここ、どこにあるかわからないかな」

「どれどれ……」

 

 

ひょいと見せられた手元にあるのは、なんとここキョウシュウチホーのパンフレット。ほんで、ちょうどいま開かれてるページにこれは……高山地帯へ続くロープウェイ路線図とやら。それに、高山地帯のカフェ。

 

 

「んぁあこれなら、この道を真っ直ぐ行けば」

「いやいや、そうじゃなくてね。お願い、一緒に行ってほしいんだ」

「……一緒にすか」

「うん!私は物覚えが悪い上に寂しがり屋でねー。それに君、暇してるんだろう?」

 

 

……まぁ、確かに今日は暇である。

なんせ遊び相手がいない。シロハは生まれたばかりのアニマルガールということで、昨日からあっちこっちに引っ張りだこ、他の奴らもそれについて行ったのである。本人もいろんなとこに行ってみたいとは言ってたし、信頼のセコム(カラカル)もいるから大丈夫だろうが……んー、俺も早起きして着いてけばよかったかも。

 

 

「それとも、もしかしてこんな可愛い女の子を一人で行かせるつもりなのかい?」

「身体能力はバカ高い癖に……あーったよ、俺も行く」

「そう来なくっちゃ」

 

 

……カピバラに似てんな、こいつ。

 

 

 

 

「あ、自己紹介が遅れたね。私はアルパカ・スリ、住処はアンインチホー。こっちにいる友達に、ワカイヤと二人で……あ、そういえば……ええと、こんな感じのコサック帽を被ったアニマルガールを見なかったかい?」

「んー?いや、見てないけど。知り合い?」

「うん、私の友達。アルパカ・ワカイヤっていう()で、遊園地までは一緒だったんだけど、彼女だけバスに乗り遅れて。待っても来ないから、先に目的地に行こうと思ったってワケさ」

「……それを先に聞いてやれよ」

「あはは、忘れちゃってたなー……」

 

 

俺もよく忘れるけどさぁ。

 

 

「それで、君は?」

「ああ、ツバサネコっていう猫のアニマルガール。トツカって呼んでくれ」

「いいけど……『ツバサネコ』で『トツカ』なの?」

「そ」

 

 

あんま詳しく聞かないで、と目配せすると、なんとなく察してくれたようでそれ以上は聞かないでくれる。やっぱ物分かりがいいと助かるな。なんせ他の奴なんて、サーバルはバカでカラカルは煽り全一でミライさんはケモナーでシロハは純真無垢で。あ、アードウルフ……は早とちりか。むぅ、恵まれてない……

 

 

「……っふぅ、それにしても暑いねここは。もうちょっと脱いでおこうかな」

「そういや俺が引き止めちまったんだったな……あ、後ろ向いてた方がいいか?」

「え、別にいいけど」

 

 

あ、そうなの。このひとプライバシーとかゆるゆるな感じなのかな。いや、首の毛皮とか外すくらいなら別に後ろ向かなくてもいいか……意識しすぎてた自分が恥ずかしくなってきた。

 

一人赤面する俺にはてなマークを浮かべながらも、さっきの様にそっと首元へ右手を運ばせるアルパカ。指先が触れた部分は、少し揺れたかと思えば、淡く虹色に光りだして段々と塵が空に舞うかの如く……

 

 

「って待て待てお前!そっ、それ、どどどうなってんだ!?」

「なんだい急に。普通に服を消してるだけだろう」

「世間一般でそれを普通とは言わねぇよ!」

「まぁまぁ落ち着きなって。君だってやったことないだけで、できると思うけど」

 

 

涼しい顔でセーターを消しながら言われると狂気しか感じない。

いや、服を消せるようになれれば脱ぐときに便利か……つか、ホントに誰でも出来んのか……?

 

 

「あ、じゃあ試しにやってみよっか。ほーら、消したい部分を思い浮かべて、消えろーってやってみて」

「そんなんで出来るわけ……ぬおぉっ消えたぁ!?」

「ふふっ、そんな感じ。まぁニーソくらいなら普通に脱いでもよかったと思うけどね」

 

 

ほわぁ、この体って思ったよりも便利なんやなぁ。アルパカもセーター消してシャツとショートパンツだけになってるし。あ、これ服の復活もできんのかな?って、復活してくれないといろいろ困るし、できるに決まってるか。

 

 

「と、トツカ!まえ!前を見て!」

「んぁ?バカだな、この先は橋だからツタに絡まることはもうな──」

 

 

バキッ

 

 

……え、何今の音。

 

驚いて下を見れば、バキッと割れて流され行く木材。

もちろん橋の一部なので、その下には川が鎮座。

つまり俺が乗ったせいで橋がぶっ壊れた、と。

 

……ははーん、何が言いたいかわかったぞアルパカ。

 

 

 

「俺がデブネコって言いてぇのかてめぇぇぇえええ!」

「んな訳ないだろぉぉぉおおお!?」

 

 

ドボンッ

 

 

なっ、バカ言ってたけど割と危険かもこれ!

 

 

「かはっ、ぐぁっ……にゃっ、あぐ、がぁあっ!」

「だぁもう!待ってて、いま助けに──」

 

 

シュッ

 

 

「なっ……誰だ!?」

 

 

アルパカが言い終わるよりも先に、彼女の後ろから謎の影が宙を跳び、真っ直ぐに俺へと突進する。

 

水面からほんの僅かに見えたその姿は、黄色の髪に、ネコのような耳と尻尾、全身に疎らに広がる点が入った丸模様。

 

 

「にゃっ、おまえはっ」

「掴まれ」

「はぁ!?」

「跳ぶぞ」

 

 

それに、どこか見覚えのあるような顔。

あれは……

 

 

 

 

 

 

~救出~

 

 

 

 

それからというものの、その少女の活躍はすごかった。空を飛んでるみたいに水の中に入って、ひょいっと俺を抱えてジャンプしたし。水の抵抗が仕事してなかったよアレ。

 

 

「ぶるるるっ……で、今日二回目の謝礼か。ありがとな」

「なに、礼はいらない。困っているものを助けるのは当たり前だ」

 

 

クールなセリフとともに顔に笑みが浮かぶ。

しっかしこの笑顔、若干釣り目っぽい目元、この模様も……誰だろ、ヒョウ?似てるけど違うか。

 

 

「……って君、もしかしてトツカさんかな」

「にゃ、そうだけど。なんで知ってんの?」

「なんでもなにも、ライブでボーカル担当してたじゃんか。君、キョウシュウの中ならかなり顔が割れてる方だよ」

「ライブにボーカルって、なかなか面白そうな話じゃん!私にも色々聞かせてよ!」

 

 

はぁ、まためんどくさいのが食いついたよまったく。

 

 

 

 

~かくかくしかじか~

 

 

 

 

「……ってことはつまりお前、ブラックジャガーとゾナの……」

「ああ、姉妹だ。って、言わなくても名前からもわかっちゃうか」

 

 

そう言って俺を救った少女──ジャガーは微笑を見せる。

で彼女の言った通り名前からわかるが、なんとライブ前日にお世話になったブラックジャガーの妹、ゾナのお姉さんである。生憎その二人は今はいないが、久しぶりにその名前聞いたなぁ……ライブが確か七日前、会ったのはその前の前だから九日前か。べっ、別に忘れてたわけじゃないんだからねっ。

 

 

「それと、姉さんと妹が世話になったらしいな。私は行かなかったんだが、話は色々と聞いたよ、姉さんのあんな顔を見たのは久しぶりだ。ありがとう」

「あー、なんつーか世話になったのは俺らの方なんだがな」

 

 

事実、借り一個作っちゃったし。あ、となるとジャガーにも助けてもらったわけだから、姉妹揃うと俺に貸し1つ、合わせて貸し2つじゃん。やっべ。

あとジャガーもアルパカの友達である『ワカイヤさん』のことは見ていなかった。俺もアルパカの言うようなアニマルガールはみてないし、そもそもまだ来てない説。

 

 

「でもそんなにやらかしてたなんてねぇ。キミ、見た目に反してかなりのドジっ娘なんだな」

「安心しろ、俺を越えるドジっ娘を知ってる」

「ツタに絡まって川に落っこちる娘よりもか?」

「ジャガーも乗ってこないで」

 

 

イジリ役二人とかさすがに制御できないからね?

 

 

「で、二人はいまどこへ向かってるんだ?」

「ロープウェイ乗り場に。高山地帯にあるジャパリカフェに行きたくてね」

「ふーむ……ここならもう少しで到着だ。でもこの先もまだまだ危険だから、気を抜くなよ」

「特にキミはね」

「こっち見んな」

 

 

つーか最近俺はドジみたいなイメージ広まってる気がするけどな、大半はサーバルあたりが原因なのであって、俺は巻き込まれてるだけなんだ。それに、ここまで来たらもうドジることとか……

 

 

「「…………」」

「なんだそのドジれとでも言いたげな目は」

「いや、別に何を言っても」

「結果は同じかなと」

「……挑発には乗らんぞ」

「「ちぇー」」

 

 

こいつら……。

 

 

 

 

~到着~

 

 

 

 

森林の中を歩いてて突然に人工物がバンッと出てきたら謎の安心感沸くよね、ってことでロープウェイ入口に到着。

 

いま思えば、アルパカはバスに乗ってた来たって言ってたな。なら、そのままバスでロープウェイ入口に来ればよかったのに……いや、俺が逆さ吊りされたままになるから、むしろアルパカが降りたのは幸運だったと捉えるべき。

 

 

「それじゃ私はここまで。橋の件については私の方から職員さんに言っておこう」

 

 

まぁその橋って全然使われてないんだけどねー。

 

 

「おや、ジャガーは一緒に来ないのかい?お礼に奢ろうと思ったのに。トツカが」

「なんでだよ」

「お、それは考えものだな」

「ちょっ、冗談だよね!?」

 

 

睨み顔を見せつけても「冗談冗談」と軽くあしらうだけのアルパカとジャガー。むぅ、俺を弄る時だけ連携力が上がるシステム止めて欲しい。

 

 

「はは、すまない。でも今日は姉さんと修行の約束でな。機会があれば、ゾナや姉さんと行ってみよう」

「是非ともそうして……っと、そろそろ来たみたいだ。さ、早く切符を買って」

 

 

咄嗟に振り返ったアルパカに続くと、遠くの方にこちらへ向かってゆっくり降りてくるロープウェイの滑車……列車?が見えた。待ち時間なしとは幸先良し、ジャパリコインを持って券売機に……

 

 

「……え、待ってこれもしかして自腹?お前が払ってくれたりしないの?」

「私はそんな金持ちじゃないよ、先に行くからね。それと、またね、ジャガー」

「待ちやがれこのぉっ!あ、ジャガーもいろいろありがとな!」

「あぁ、楽しんでこい!」

 

 

閉まるドアがうんぬんのアナウンスに怒らつつも車内へ滑り込んで、数秒後には登山開始。下から見送るジャガーに応えながら、時間経過に比例して高くなる外観に、つい童心に帰ったような気持ちに。高いとこに行ったのはサーバル抱えて飛んだあの時以来か。

 

 

「おおー、良い眺めだ。アルパカは興味ないのか?」

「私はもとからこういうとこに住んでるからね、あまり珍しくは。そうだ、君の言ってた、君よりドジっていう娘について聞かせてくれない?」

「あっ聞きたい?サーバルって名前なんだけど、こいつがまた面白くてな……」




アルパカ「ふわぁぁ~↑いらっしゃぁ~い!」
ジャガー「全然わからん!」
トツカ「えぇ……(困惑)」

次回へ続く。

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