平凡人間の転生守護獣日記   作:風邪太郎

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失踪しそう(激ウマギャグ)


第49話 等身大の DRESS-UP(お人形さん)

涼しい風が、耳元を泳いで行く。

 

水平視界180度、見渡す限りの青空。ロープウェイ入口の先へ広がる世界に、つい連れがいることも忘れ地面の端まで見に行けば、いつも見上げている雲たちはなんと眼下を流れて、これまたなかなか不思議な雰囲気が……なんて感動に浸っていると、連れに呆れた声を出しながらこちらへ来ていたんで、空返事をして目的地への進行を再開。

 

 

「あ、飲み物1つくらいなら奢ろうか。ちょっとしたお礼ってことでさ」

「おっ、いいの?じゃあそうだな、あるかわからんが麦茶がいいな」

「……キミ、ここカフェだよ?」

「うっせぇ」

 

 

いいじゃん麦茶美味しいじゃん猫って麦茶好きじゃん。ソース元は前世の俺が飼ってた猫。

 

 

「冗談だよ、子猫ちゃんがコーヒーも紅茶も苦手なのは知ってるって……さて、扉を開けて、と」

 

 

 

カランコロン

 

 

 

鈴の音に出迎えられて見渡せば、静かな店内に古っぽいジャズ、カウンターでグラスを拭く女性店員さんとこっちに気づいて走ってくる給仕らしきメイドさんがひと……って。

 

 

「はーい、いらっしゃいま……あああぁぁぁっ!?ななっ、なんでいるのぉ!?」

 

 

俺を見るなり案内も忘れて暴れだすメイドさん。

隣にいるアルパカの視線が痛い中、ようやく出せた言葉がこれ。

 

 

「……そりゃこっちのセリフだ、サーバル」

 

 

 

なんかもう、今すっごい複雑なキブン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタン

 

 

「はーい、ご注文のやつ。ここ置いとくね」

「あいよ……ん、お前まで休んでいいのか?まだ休憩じゃないだろ?」

「マスターさんが休んでいいって言ってくれてね。お客さんもトツカ達だけだから」

 

 

椅子を引いて隣に座るサーバル。テーブルの上に置かれたカップに手を伸ばし、中の液体を喉へ流し込む。

 

 

「にしても驚きだよ、まさかついさっき聞いたばっかりのヒトに会えるなんてね」

「みゃ、どういうこと?」

「実はさっきロープウェイで──もがっ」

「まぁまぁそれはいいとして!……おほん。でサーバル、おまえここで何してんの?メイド服まで着て」

「んー、話すと長いんだけど」

 

 

事のいきさつを聞いてみると、昨晩シロハ案内組の数人でここに来て目覚めたらここにいたんだとか。む、そういやカラカルがいつしかここに来たいって言ってたか。

 

 

「マスターさんには『全員帰ったあとに私だけ戻ってきた』らしいんだけど、さっぱりなんだよー……」

「お酒でも飲んでたんじゃ?」

「酒ってかマタタビだな」

「うっ、ご名答ですぅ……」

 

 

こいついっつも誰かに面倒かけてんな、と思いながらカウンターを覗くと、無言のまま品物のチェックをする店員さん、ことマスターさんがそこに。かっけぇ……女性に向けて言うにはあれかもだが、なんつーか、ハードボイルドだ……

 

 

「じゃあその恩を返そうと思い立って、今に至るんだ。でも従業員ってだけならメイド服じゃなくてもよかったんじゃ?」

「えーとね、制服はマスターさんの以外は全部クリーニングに出しちゃったらしくて、宴会用の衣装?とかで地下室の倉庫にあったのを代わりに持ってきたの。あとマスターさんが可愛いもの大好きだし」

 

 

嘘だろ、と思ってマスターさん見たらめっちゃ顔赤くしながら二階に上がってった。……まぁしゃーねーよ、マスターさんだって乙女だもんな、うん。

 

 

「ははは、マスターさんもなかなか乙女だね……ところでサーバル、ここに……ええと、こんな感じのコサック帽を被った、アルパカのアニマルガールが来なかったかい?」

「えー?今日は二人が最初のお客さんだから、それ以外の子は見てないなぁ……その()がどうかしたの?」

「うん、私の友達でね。アルパカ・ワカイヤって言うんだ。ここが目的地だったんだがどこかではぐれてしまって、もうついてるだろうと来てみたんだけど、結果は御覧の通り。入違っても大変だから、私はここで待つかな」

「オーケー、なら俺も待つか。そのワカイヤさんとやらにも会ってみたいしな」

 

 

言い終わると同時にサーバルがじっと俺らを見つめて考えるような仕草を見せる。

おい、なんだその目は。

 

 

「そうだ!下にいろいろ服が合ったから、その娘が来るまで二人にも着せたいと思いまーす」

「……私たちまでかい」

「そ!たくさん仕舞ってあって一人じゃ全部は着れないもん」

「まぁ、たまにはそういうのも悪くないかも。トツカは?」

「お前らが着るならいいけど、俺が着るのはパスで」

 

 

そもそも全部を着る必要だって無いでしょうが。

 

 

「えぇー?……どうしてもヤダ?」

「どうしてもヤダ」

「どうしても?」

「どうしても」

「仕方がない……マスターさん」

「おいおい、マスターさんならさっき二階に……ぬぅおおっいつの間に!?あちょっ、うにゃっ、尻尾は引っ張るなって!もっと優しくしてぇ!」

「さて、諸々終わるまで待とうか」

「おっけー」

「俺はどこへ連れてかれるんだぁぁぁあああ!」

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

「……マジで行かないとダメ?」

 

 

ニッコニコで無言のまま頷くマスターさんにため息が口を突くも、眼が後退を許してくれず。ついには全身に薄布と羞恥を引っ付けたまま、地下室から階段を登り、二人の視線に雁字搦めされる有様に。これ絶対にさっきのサーバルの発言に対する八つ当たりじゃん……あぁもう、本当についてない。

 

なんせこの服、露出度がとんでもない。薄い白の布地に青い刺繍、そこは問題ない。しかしノースリーブだから肩が付け根まで丸出し、何より下半身は前後で分かれてるもんだから、最近になって駄肉の付き始めた肉塊、もとい両脚がうっすらと外に出ている。

 

なんたってこの服は──

 

 

「「……チャイナドレス、とは」」

「そんな目で見ないでくれ」

 

 

ちょっと新しい性癖できちゃうだろ。嘘だけど。

 

 

「わお、実物は初めて見るけどぴちぴちなんだねこれ。本人のスタイルがそのまま出てる」

「それは良い意味でだよな」

「まぁいろいろね」

 

 

腹回りを凝視しながら言うな。

ただ正確に言うと、チャイナドレスがぴちぴちっていうより、この服と俺のサイズが合ってないんだろうな。左右にある服の分かれ目なんてくびれあたりにあるから、こりゃあ結構背の低い人が着てたもんだ。それに靴がピンヒールってことは背丈を伸ばそうとしてたってことかもしれんし。おかげで着付け中に四回は転んだ。

 

 

「ここまで横があいてる服ってのもそうそうないよ、腰も丸見えだし……あれトツカ、ちゃんとパンツは履いてる?」

「履いてるって、ほら、紐が見えるだろこっから」

「ほんとだ!うっわ紐パンじゃんこれ!」

「たくし上げてパンツ見るのみっともないからやめなさい」

「「はーい」」

 

 

このままだとマジの露出狂になるとこだった、ありがとうアルパカママ。

 

 

「それよりほら、これなら足動きやすそうだし映画でよくやるカンフーポーズとかできそうだよ」

「あぁ、あちょーっ!ってやつ?いいねそれ、やってよトツカ」

「んぁ?あー……あ、あちょー」

「「いやダッサ」」

 

 

仕方なく腕だけでもポーズとってやったのにこの言われよう。こいつらからすれば『内股で歌舞伎みたいなポーズとるカンフーがどこにいるか』って感じかもしれんけど、あのな、今は履いてるのハイヒールだかんな。立つのですらやっとなんだから気を使って。

 

 

「もっとかっこいいポーズあるじゃん、飛べるんだし空中回転蹴りとかさ」

「お?踏みつけの練習台にするぞ?」

「ピンヒール刺さっちゃう!?」

「暴れない暴れない」

 

 

この靴履いてて良かったと思う瞬間。

 

 

「ねぇねぇ、後ろについてる髪留め、可愛いよこれ。この花って服の柄と一緒かな」

「唐突に話題を変えてくるなお前。えーと……あ、ほんとだ。何の花かは知らんが、リアルだな」

「ねー!他の髪飾りも探してくる!」

 

 

そう言い残して階段を駆け下がるサーバルだが、丁度いま髪を後ろで纏めてポニーテールにしているから、『髪留め』ってのは多分そこに刺してる簪のこと言ってたんだろう。思えば髪も長くなってきてたな、最近だとカラカルによくいじられてたからあまりいい思いは無かったが、マスターさんに纏めてもらってた間はちょっと気持ちよかったかも。

 

 

「この花は白い椿、だけど……トツカにはもったいないかもね」

「アルパカ?」

「いや、何でもない。しかしこの服、君にはぴったりだね。マスターさんのセンスには全く感服……む、ここ、ちょっと髪が絡まってるよ」

「マジで?直してもらったから問題は無いと思ってたが、どこらへんだろ」

「こらこら動かないの、やってあげるから。ほら」

 

 

むず痒さが脳直上に走り、なんとなく髪が触られてるなって感じて、しかしすぐに何もなくなる。細い指が髪一つ一つを手繰り寄せて、かつ痛みもないから、まるで髪の毛だけ自分の身体じゃないような気がして不気味だ。

 

 

「ちょっとー、二人していちゃついてないでこっち見てよー!」

「……すまんな、うちの五月蝿いのが」

「はは、いいのいいの」

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

それからサーバルがまた変な服を持ってきた上に『着たい』とか言い出したんで、仕方なくマスターさんさんに地下室へ再登場してもらい今に至る。サーバルが迷惑かける度に俺も全方位に謝ってる気がするけども、背中の"帯"をポンポンたたいてるマスターさんの顔を見ると、寧ろ嬉しそうに見えるし、一応Win-Winなのかも。

 

で、帯ってことは、こいつが着てんのは和服──

 

 

「──みたいだけど、ミニスカートとかあるし割と和洋折衷な服だね」

「和風喫茶、ってやつらしい。和の要素は簪と衿あたりくらいか」

 

 

ぶかぶかな袖とスカートが暴れてるのを見ると時代が解らなくなるが、本当にこんな制服の喫茶とかあるのだろうか。色は制服が黒基準に下着とエプロンが真っ白。

 

 

「和っつっても、どっちかというと明治時代とかにありそうだが」

「あー、時代背景的な?」

「わかってないだろお前」

「いいでしょ別に。あ、そうそう、これ見て!ほいっ」

 

 

自慢げにくるりんぱされてから後頭部を見せられて、ようやく白い花の簪が刺さっていることを自慢したかったのかと理解した。僅かに残る記憶によれば、簪を探しに行くと言ってたような無いような、とりま合点。

 

 

「えへへ、可愛いでしょ」

「あーうん、まぁ」

「なーにその微妙な反応は。私の髪色に合うやつ探すの、結構苦労したんだよ?服とセットだから色が合っても着られないのまであったしさー」

「ほーん……」

 

 

この花、前世でも花屋とかで見たことあるなぁ。花びらが内側三枚に外側三枚で、縦長のティーカップみたいな形の……確か、フリージアとか言った気がする。なんで覚えてんだ俺。

 

 

「……もしかして俺と色お揃いにしてくれたとか?」

「…………」

「えっ、なに?フリーズ?てか図星か?」

「いや違うけど。色が同じなのも偶然だし」

「あっはい」

 

 

なんだ、女子はお揃いが好きとか聞いてたんだがなぁ。しかもフリーズ中の顔、あれ心の中で『うっわ』とか言ってそうな顔だったような気もする。マジで女心ってわからねぇ……

 

 

「って、マスターさんいなくない?さっきまでここにいたのに」

「仕事に戻ったんだろ。客がいなくたって、お前みたいにサボるような人ではないしなー」

「サボってない、休憩なんだってば」

「冗談だよ。む、そういやアルパカもいないな」

 

 

いったいどこへ……と口にしようとするも、不意に「きゃっ」と短い悲鳴の木霊が耳に入り、獣特有の耳の良さが効いたらしい頭は無意識に音の方向を探知して、部屋の隅にアルパカの姿を見る。しかもただの姿じゃなく、タキシード姿だ。

 

 

「アルパカ、こんなとこにいたんだ。何してたの?」

「してた、というマスターさんにいろいろされてたね。見ればわかるだろう」

 

 

やや苦笑いで身体を見せる。メイド服にチャイナドレスに和風喫茶にタキシード、なんの宴会しようとしてたんだここ。

 

 

「なるほどな。さっき声があったから心配したが、大丈夫か」

「あぁ、蝶ネクタイが落ちかけて焦ったんだ。なんともないよ」

 

 

首元のネクタイに手を当てる仕草だけ見れば女性っぽい、でも顔と立ち方のせいで中性的な男性に見えんでもない。もとから中性的ではあるけども。

 

 

「アルパカとかマスターさんとか、カッコいい服も着こなせるのって羨ましいなー。なんだっけこういうの、ホストっていうやつじゃん」

「俺の第一印象としは執事さんって感じ。上着の後ろもちょっと伸びてるし」

「ふむふむ……じゃあ、一回やってみよっか」

「「は?」」

 

 

言葉を飲み込めない俺たちに対し、アルパカは咳払いを挟んで軽いお辞儀と共に潔白の手袋で包まれた右手を差し出す。

 

 

 

「さ。何なりとお申し付けくださいませ、お嬢様方」

 

 

 

……おぅふ。イケボ過ぎて惚れた。

 

 

「えっもっかい!その声どっから出したん!?咳だけでそんな変わるの!?もっかい聞きたい!」

「かしこまりました。それで……貴女は?」

「あぁ、えっと……ん」

 

 

あ、違う。あの目は普通の対応は求めてない目だわ。「お前ならノってくれるよな」っていう同調圧力の目をしてらっしゃる。うぇー、そういうのはサーバルに振ってくれよ……えーと。

 

 

「んんっ……あーあー。よし──」

「……トツカ?なにを……」

 

 

近くの椅子に音もなく座り、言い放つ。

 

 

 

「──私はいいわ。楽になさい、バトラー」

 

 

 

……とまあ、出来る限りのお嬢様ボイスを披露してやった訳、なんだが。

 

 

「おぉ、なんか声高っ。『私』なんて言ったの初めてじゃない?」

「声域広めなんだね、まさに人が変わったって感じしたよ」

「どーも……」

 

 

うわ、我ながらめっちゃ恥ずい。男なのにいいわ~とか、どっかの劇団かよ。顔がもうすごい熱いんだけど……多分、いや絶対にもう二度としない。

 

 

「となるとやっぱり、チャイナドレスなのがどうしても残念」

「あーうん、明らか雰囲気合ってないもんねー……あ!ちょっと待って、確かさっき向こうにそれっぽい服があったんだよ!あのハロウィンの時にトツカが着たやつみたいな」

「あぁ、あのゴスロリ系の」

「そ。ちょっと待ってねー!」

 

 

また昔のことを思い出してくるなお前、というかお前らまで俺で着せ替え遊びしようとしてないかこれ。マスターさんの性癖に感染してんぞ。

 

 

「元気だね彼女は……トツカも、さっきは割とそれっぽい声で驚いたよ。そっちの方には手を出した事とかあるのかい?」

「知り合いに演技が得意な奴がいてな。そいつと遊んでたから、齧る程度には……お、戻ってきたな」

「うん!で、これ着てみてほしくて……あ」

「ん、どした?」

 

 

じーっと顔を見るサーバル。すると今度は自分の前髪の上を手でくいっくいっと動かす仕草をし、そのまま俺の前髪もいじり始める。

 

 

「……なに?」

「トツカ、前髪長い。今気づいたけど、両眼も隠れてる、これじゃ似合わないよ」

「うん、それは私も思ってたな」

 

 

髪をいじる手が二つに増える。前髪以上にお前らの手の方が視界を邪魔してるよ、と言ってやろうと思ったが、髪伸びてきたってのは自分でも思ってたし反論しづらい。

 

 

「んなの別にいいじゃねぇか、服を着れないわけじゃないんだし。それに長いからって今から短くするのも無理だ、そんなの後でいいだろ」

「そうだけど、トツカったらいつも後でやるって言ったことやらないじゃん」

「それとこれとは関係ないだろうが。とにかく、今はできないんだから、もう着せ替えごっこは終わりに……」

「なら、私が今からセットしようか?」

 

 

……え。

 

 

「え、できるの?」

「もちろん、私の本業なんだ。任せて」

「本業ってことは、お前働いてんのか?」

「ちょっと特殊な事情でね、っと。マスターさん、二階の屋根裏、借りていいかな」

 

 

アルパカが階段を上るの追従する頷きは、言葉の内容からマスターさんであり、いつの間にかカウンターに戻っていたらしく相変わらず無言のまま微笑している。なんも言えないままでいると急に手招きを始めたが……これは俺じゃなくてサーバル宛てで、当人も理解したようでてくてくと歩いていく。ああもう、誰も散髪するなんて言ってないのに。

 

 

「早くおいで、先に着替えないといけないから時間ないよ」

「くっそ、今行くっての」

 

 

はぁ、流れに逆らうすべを身につけないとなぁ……。




2ヶ月も投稿できず誠に申し訳ないです。失踪の予定は無いのでご安心を。次回こそはなるべく早く出せたらな……

-追記-
けもフレ3リリースおめでとうございます!

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