「んぅ……むにゃ」
意識が覚醒する。脳が起きるよう全身に命令を送るのがわかる。俺の筋肉たちはまだ眠りたいという欲求を退け、目を覚まし、そっと瞼を開ける。
視界に入ってきたのは、ちょうど昨日寝た部屋の壁──
「……あれ」
──ではなく、ずっと向こうまで続いていく草原。草原とはいってもサバンナとは違い、平坦な場所に背丈の長い雑草が青々と繁っている。
「……んっ……んぅ、っと」
体勢を変え、仰向けになってみる。案の定、真上には見知らぬ天井……あ待って、天井すら見えないからやっぱ今のなし。
……ってか。
「ここ……どこ?」
あれ……ここどこだ?おかしいな、昨日は研究所の仮眠室みたいなとこに入った後にそのまま寝ちまったはずなんだが……とりあえず、伸びでもして眠気を取り払うか。
「うにゃ〜……って馬鹿か俺は!いや思考は猫みたいだったから馬でも鹿でもないけどそうじゃなくて!それ以前に色々突っ込むところがあるだろうが!」
いやまずここどこなんだよ!?こんな場所見たことないし……てか、研究所もサバンナも諸々全部消え去ってんだけど!?なんで転生2日目から急展開なんだよ!なんで俺の高校時代の日記継続日数とおんなじなんだよぉ!
「転生したてのときも思ったけど、運悪すぎ……」
ガサッ
……うん?
え、今なんか音が……
ガサッ、ガサッ……
うぉぉぉぉい!?もしかしてここ誰かいんの!?いや待て、人間の確証はないから「誰か」ではなく「何か」がいるってこと?ま、まさか獣だったりしないよな……
ガサッ、ガサガサッ
むりむりむりむりぃぃぃぃ!これ絶対なんかいるってぇぇ!俺こういうのダメなんですぅぅぅ!
ガサッ
やべっ、音がこっち近づいてきてる!?マズイマズイ、こういときって何て言えばいいんだっけ!
「本日はお日柄も良く」?なんでのんきに挨拶してんだ!
「食べないでください」?それが通じりゃ苦労しないんだよぉ!
あわわわわ……!
バッ
「た、食べな──」
「お、なんじゃ、こんなところにおったのか」
「──いで……え?」
恐る恐る頭をあげる。
そこには、
「……えーと、どちら様で──もがっ」
「あー、もう少し待っておれ、今他の者も来るからの」
口を開くと同時に手でもって塞がれる。
他の者って、この女の子ひとりじゃないの?でも前世はともかくこの世界に来てからはこんな謎の組織よろしく変なところへ連れられるようなことはしてないぞ。
よく耳をすますと、向こうから足音や話し声が聞こえてきた。聞き分けると、えー……3つか。
「……あら、ここにいたのね。反対方向探しちゃったし……」
「やはりこの方法、発動にも使用にも色々と手間がかかるな。やめた方がいいんじゃないか」
「そういうわけにもいかぬ、ただでさえこうして集まれることもないからの」
数秒経つと、3人の少女がそれぞれの方向から空を飛んだり歩いたりしてこちらに来た。何者なんだこの子たち。
「さてと、全員そろったわけだけど……」
「んー、んー?」
「……そろそろ手を離したらどうだ」
「ん、おおう、すまんすまん」
っぷはぁ、ようやく手を離してくれたか。
「わしらはお前に用があってな、ここへ呼び出させてもらった。まあ少しだけ時間をくれ」
「ちょっとしたお話みたいなものよ。ただ、しっかりと聞いてはほしいけれど、ね」
はい、つまり拉致られたということですねわかりたくありません。でもべつに縛られてるわけでもないし、自由に動けるあたり敵対してるわけではない、ということだろうか。
「別に構わないけど……あなたたちは、いったい?」
取り敢えず初対面だし、だいたいこれ言わなきゃね。
で、言っといてなんだけど、この子たちの姿どっかで見たんだよなぁ。なんか思い出せない……まぁ思い出せなくとも、本人たちの口から聞ければいいし、とにかく誰かわからない相手と話し合うのはこう、人間の性というか、気がひけるからな。
「うむ、ではまずは私から自己紹介しよう」
そう言って、まず最初に白い服を着た女の子が口を開いた。
「私は
次に、その隣の黒い服を着た、頭になんか蛇や亀みたいのが乗っかってる子。
「わしは
そして、赤い孔雀みたいな尾羽を持つ子。
「我の名は
最後に、長い尻尾の特徴的な青い服の子。
「私はパーク東方の守護者、
「は、はぁ」
……すげぇ名前してんな。なんだっけ、所謂『キラキラネーム』ってやつだっけこれ……あれ、パーク?もしかして今、ジャパリパークの話してたの?あかん、お兄さんもうついていけない。
「なんかその、錚々たるメンバーって感じの名前っすね」
「そう言われても自分の名前だから困るのだが……まぁ私たちは『四神』という」
へー、四神かぁ……「四神」?
……そうか思い出した!確かパークを守る「守護けもの」だったか?確かそんなんの部類だったはず。ゲームでもレアリティ高かったんだっけ。ん、でも確か四神ってあと麒麟もいなかったっけ?あんま深く突っ込むなってことですかそうですか。
「……ってことは、もしかして君たちアニマルガール?」
「当たり前じゃろうが。逆に何に見えたのじゃ」
ちょっと逝っちゃってる系女の子に見えてました、とか言ったら怒られそう。でもそれなら、なおさら俺なんかに何の用だ?確かに「けもフレをしる転生者」という大きなアドバンテージがあるが、それを除けば普通のアニマルガールのはずだが……
「しかし、こうやって集まるのも久々じゃな」
「久しぶりに力比べと行くか?」
「お?私に勝とうというのか?」
おーい、話が脱線しかかってるぞー。
「あー、俺を呼んだ理由ってのは?」
「お、そうだったな」
いや、そこがメインだったろ!あと「そうだったな」って聞こえたんですけど、まさか忘れてたってことですか?いやそんなことないと信じたい、てか今なんか俺の中であんたらの株が下がってるからこれ以上聞きたくない。
「……何だったかの?」
忘れてたんか!さっきこれ以上聞きたくないって言ったじゃん!心の声だけど!
「お、どうしたスザク?もう忘れるとはの」
「ぐ、なにお言うかビャッコ!お主よりはマシじゃ!」
「『マシ』とはなんだ『マシ』とは!」
なんで小学生レベルの言い合いをしてんだよ。お前ら喧嘩すんなみっともない、四神の名が泣くぞ。
「では、喧嘩を始めたあの二人にかわって私が」
いや、あの喧嘩を止めるのが先決なんじゃないですかねぇ……そこの黒い服きた子も苦笑いしてるし。
「それで、本題なんだけどね。あなたには、とある『守護けもの』の代理になって欲しいの」
……またぶっ飛んだ発言をされますねあなたも。
「守護けものの……代理に?」
「ああ。守護けものとは、このパークに住む全ての生物と
動物少女……あぁはいはい、アニマルガールのことね。いやまぁ、実は守護けもののこと自体は知ってたんだけど。にしたってつまりサーバルみたいなのも守ってねってことだよなぁ。そんな神様みたいなことできるほど俺は仕事熱心じゃねぇぞ……?
「もともとあなたは守護けものじゃなかったんだけど、一応守護けものと同レベルの体は持ってるの」
「といっても特に何か強いるつもりはない、この地を見守ってくれればそれで良い」
「そうそう、飽くまでボーラー……お主の前任の代わりとして動いてくれればよい。というか、最悪なにもせずともよい」
はぁ……守護けものの仕事って意外とアバウトだな。
「が、ひとつだけ、行ってほしい仕事がある」
「仕事?」
「うむ」
白い女の子──ビャッコが手をかざすと、そこに虹色の粒子が集まっていく。
粒子は固まって形をなしていき、そこに現れたのは──
「……これは?」
「これは『お守り』というものだ」
『お守り』とよばれたそれは、ルーペのレンズがある部分だけを切り取ったようなものだった。
「そして、これ」
そう言って青い子──セイリュウが『お守り』に手を触れると、そこに白いもやが現れ、光を発しつつ輪郭を形成していき、或る形になって止まった。
上向きになった三枚羽の羽根つきの羽根を中心に、その上に輪が、両隣にはブーメラン状のデザインがあしらわれている。
「そしてこれがそなたの……正確にはそなたとそなたの前任の『紋章』だ」
「……紋章、ねぇ」
黒い蛇亀の女の子──ゲンブが説明する。
何かのマークには見えたが、紋章とはな。なんの紋章かは知らないが、多分守護けものの証とかそんなものだろうか。
「仕事というのは、これの管理のことよ。単純に言えば、私たちが紋章を書いてほしいって言うときに、この模様を書いてほしいの」
「んー、それなら俺の前任でもいいんじゃないすかね?同じ紋章なんだし」
「それがそうも行かないのじゃ」
紅い女の子──スザクが口を挟んだ。
「紋章は所持者の力を司っている故、他人の力に干渉するには紋章を経由する必要があるのじゃ」
「そして、主と前任は同じ担当の守護けものとはいえそれぞれ別の存在。だから、主の力と紋章は主自身の管理に委ねられるのだ」
「……なるほどねぇ。ちなみに紋章を使うときってのは?」
「例えば、今お主のいるこの空間の創造にも力が必要だな。まぁ話すと長くなるから今は割愛するが」
へぇー、あにまるがーるのちからってすげー。
「で、さっきのことを聞く限り守護けものは守る範囲が決まっているらしいが。俺はどこを?」
最悪今いるところから遠いところに配属されるかもしれないからな。できることなら移動はしたくないんだがな、なんたって主人公組に出会っているわけだし。
「できるならここの近くで……」
「あ、範囲はここの『時間』よ」
はーはー、なるほど時間ですか、もちろんおやすい御用です、ちゃちゃっとに守ってみせます、どんと来いですよ……
……って、なるか!
「時間をまもるぅ!?」
「いや、だから正確には見守るだけで良い。もしある程度危なかったらそれこそ守らなければならないが」
「やっぱ守るんじゃねーか!」
「もともとはボーラーが担当だったんじゃが、まぁ範囲が範囲だけに相当な力が必要でな。お主が必要不可欠な訳じゃ」
いやいや、それ絶対頼む相手間違えてますって!俺にする話、つかそもそも俺にできることじゃないですよ!?
「とにかく、私達はあなたの力を見込んで頼んでいるの」
「お主は体全体がけものプラズムでできておる。アニマルガールの中でも、我らに近い存在だ」
「んー……まぁできるだけやってみるが」
さすがに断りはできなさそうだし、けものブラズム?も確かゲーム登場用語だから信用できるし……あれ、なんかまわりが白くなってね?ここってこんな明るかったっけ。
「では、よろしく頼むぞ!あ、あと5秒で目が醒めるからよろしくな!」
「はいぃ!?ってことはこれ夢うおっ眩し──」
こうして、元平凡人間の転生守護獣日記の1日目は、ドッタンバッタン平和に終わった。
※12月11日 書き直し