チュンチュン……
……というのは幻聴だ。いくら朝が来たとはいえ、サバンナで囀りなど聞けるはずがない。
「うにゃ……朝か」
そんなわけで、転生から2日目の朝だ。ただまぁ、日の光自体は入っておらず部屋はまだ薄暗い。この部屋の窓が付いている方角が南だったりするとかかな……と思いきや、時計は未だ5時程を指している。
「ん、まだこんな時間か……」
成る程、そりゃあまだ日も昇ってないわけだ。日の出前に起きたことなんざ一度もなかったし、寝起きだからか頭の回転も遅くて状況を整理出来てなかったが、要は早起きしたってそんだけか。昨日めっちゃ早く寝たからかな。
まぁなんねせよ、だ。こんな早くに起きたからには、することはだいたい決まっている。ジョギング?ノンノン。ラジオ体操?そんなめんどくさいことだれがするか。
…………
「……よし、二度寝する──」
「トツカ!散歩しに行かない?」
……チッ。
「あ、その前におはようだよね。おはよ、トツカ……って、なんでそんな不機嫌そうな顔してるの?」
「なんでもない。なんでもないから、取り敢えずお前は反省してくれ」
「え、えー!?どういうことー!?」
「冗談だっての」
つか、サーバルもやっぱ早くに目が覚めて暇だったのか。それにしても朝から元気旺盛だな……あれ、確かサーバルキャットって夜行性じゃなかったっけ?いや別の動物だったかな……まぁいいや。
よいしょ、と部屋に入ると、サーバルはなれた手つきで電気をつけた。
「んで、話変わるけど結構起きるの早いのな」
「え?わ、私は……」
もじもじしながらベッドでくっすり眠るミライさんの方をそっと見るサーバル。なんか申し訳なさそうな、それでいて恐ろしいものを見るような目をしていた。なにがあったんだこいつ……あ。
「……ずっと起きてたのか」
「……うん、抜け出してちょっと遊んできてたよ」
あーはいはい……そういえばこいつ昨日の夜めちゃくちゃミライさんにベットでモフられてたな。それから抜け出して夜通し遊んでた、ってことか。
「……え、お前寝なくていいの?不健康じゃない?」
「あぁいや、ちゃんと友達のところで寝てきたよ。あと、みんなもこのくらいに起きてるんじゃないかな」
なるほど、アニマルガールは基本夜早く寝て朝早く起きる体質なのか。そりゃまあ元は動物な訳だから当たり前なんだが、うーむ、自由気儘だ。
「それで、散歩しに行くんだよね?」
「……ま、それでいいけど。なにせやることないし」
本当に、転生先がアニマルガールでよかった。また人間とかだったらそれこそ前世と同じ生活に戻りかねないからな。対してこっちはただ遊ぶだけでいい楽な生活ができるし。あ、そういや俺『守護けもの』なんだっけ。えー、まさかの転生してなお社畜になるの?だるー。
「それじゃ、早速いこ、朝日が綺麗な場所があるんだ!」
「ういよ、今……って待て待て。まだ行くな」
「えー、なんでー?トツカはまだ眠いの?」
さすがに今から速攻で行くのはまずいだろ。あと人をねぼすけみたいに言うな。アニマルガールだけど。
「あのなぁ、このまま黙ってどっか行けば、それこそミライさんとかが焦って探し出したりするかもしれないだろ?」
「あー、確かにそうだね」
そそ、そういうわけだ。とはいえ今この時間に起きているスタッフがいるとは考えられないし、さてどうしたものか。
机には……お、丁度紙があるな。なんかの裏紙だろうし、使っても問題ないだろ。残るは筆記用具の方だが、多分ミライさんのポーチとかに……あ、ここに置いてある。ちょっと借りますよっと。
「あ、それで書き置きしていくってことだね。なんか映画みたいでかっこいい!」
「どこに『散歩してくる』って書き置きする映画があるんだよ」
「普通にあるよ?例えばこの前見たあの映画とか。あ、トツカは昨日生まれたばっかだから知らないかもだけど、おすすめの映画はね……」
「はいはいそうですね」
突然始まるサーバルの映画トークは受け流しつつ書き置きに専念。えーっと、何書こうか?まずは散歩してくること、あとは場所だが……まぁキョウシュウチホーの中、いやこの施設の近くって書いとけばいいか。そんな広くもなさそうだしな、ジャパリパーク。
「それじゃ無難に、散歩に行ってきます、とでも……」
ガリッ、ガリッ。
「…………」
「と、トツカ?その、紙が破れて……」
……大丈夫、ダイジョーブ。落ち着け俺。多少力が強くなりすぎてコントロールできてないってだけの話だ、なんとかなる。次はペン先をゆっくりと、そーっと近づければ……
ガリッ。
…………
「トツカ、私が書くよ?」
「大丈夫、問題ない、これでコツは掴んだから!」
「ほ、ほんとー?」
「文字を書く」という単純な行為程度で、そんなくじけるような人間では──
ズガガガガガッ!
……………
……………ぐ。
「グアハハハハ!上等だこんにゃろうやってやろうじゃねえかこんにゃろう!」
「トツカ落ち着いてー!」
~数分後~
結局書き置きはサーバルに俺が指示した通り書いてもらうことで書き終わらせた。おのれ文字、マジで許さん。
というより、いくらなんでも不器用すぎじゃね?元が動物とはいえ、それがアニマルガール化したあともそのままなんて……
「大丈夫、私も最初はトツカと同じくらい下手だったから!」
「それ遠回しに俺の字が下手くそっつってんだからな?」
「そ、そういう意味じゃないよ!」と慌てて訂正しようとするサーバルはともかく、話を聞く限りだと一応練習すれば字は書けるのか……でもあの感じだと、まだまだ遠そうだなぁ。サーバルも複雑な漢字は書けなかったし。
「ところで、今どこへ向かってるんだ?朝日がどうこうらしいけど」
「あ、今向かってるのは向こうに見える山だよ」
そう言って指された指の先に見えたのは──
「……うお、でかっ」
──典型的な、富士山型の大きな山。だがその圧巻の光景はとても典型とは当てはまらない、独特で幻想的の過ぎたものだった。
赤褐色の山肌で覆われた大きな火口の中から虹色に輝く透明なクリスタルのようなものがごろごろとのしかかり連なって空へと延びている。地平線の奥に隠れた太陽で赤みがかった空色が、山のすべてを染め上げている。
まるで、雲を貫き天へと昇るかのようだ。美しく幻想的な光景に自然と意識が引き込まれる。
……あれ、なんかあの山も既視感があるな……でもアプリにあんなん登場したか?うろ覚えすぎてよくわからん。
「確かアソ山、だっけ、そんな名前だよ」
「それで、あの山から日の出を拝むと、そういうわけか」
「あぁいや、あの山じゃなくて、その前にあるもうちょい低い方だよ。アソ山、今は立ち入り禁止だからね」
「ほーん。でも登山か、めんどくさいな」
今はまだ暗いのだが、ネコのアニマルガールとしての恩恵あってか結構夜目が効く。普通に道を歩けるくらいにはな。
「ううん、そんなに時間かからないよ。それに中腹あたりでも見れると思うし」
「ま、それならいいんだが……」
……中腹でもかなり高さありそうだぞ、あれ。
~登山後~
「……よし、この辺でいいかな!」
「んっと、意外と登ったなー」
予想どうりかなり高さあったが、身体能力の向上のおかげでそれほど苦労はしなかったな……お。
「きれーい!」
「ああ、綺麗だな」
顔をあげると、東に見事なほど真っ赤な太陽があった。空の染まり具合も相まって、なかなかに美しいじゃないか。早起きは三文の徳っていうの、なんとなくわかった気がする。
あんまりにも綺麗なもんだから、二人揃って数分間見とれてしまった。
「……さて、とりあえず第一目標達成だな。戻るか?山頂へ行ってもいいが」
「うーん、あんまり上に行くと危ないし、もう戻ってもいいんじゃない?」
それもそうだな。さて、下山コースはこっちっと……
「……(じーっ)」
「……サーバル?」
サーバルがじっと俺の顔を向いたまま目を動かさない。そーっと頭を動かすとそれに追従してサーバルの視線もずれるくらいに見つめてくる。
が、ある程度見つめ続けたあと、にっと笑って口を開いた。
「ねえねえ、トツカのその羽って飛べるの?」
「んぁ?飛べな……くもないな。滑空はしたことある」
でもなんで唐突にそんな……まさか「飛んでみて!」とか言わないよな?
「飛んでみて!」
「予想と一字一句ぴったし!?」
単純すぎてビックリした。
「飛んでと言われても、めんどくさいしなぁ」
「えー、でも飛べるんでしょ?飛んだ方が新しい経験にもなるよ!」
う、一理ある……そろそろこの翼、使いこなさなきゃって思ってたしな……
「……わーったよ。でもちゃんと掴まれよ?」
「え?私は別に」
俺は大きく助走をつけて、翼を広げる感覚を意識しながら──
ガシッ
「うみゃあ!?」
──
「うみゃ〜!?」
へっ、旅は道連れってやつだ……お望み通り飛んでやるぜぇ!
「どうだサーバルって高!?」
「トツカ落ちそうだよ!助けてー!」
「アソ山」という名は完全なオリ設定です。一応アニメ版のあの火山を指してます。
※12月11日 書き直し