緑谷出久の中の人 作:アニメ勢
そこには惨劇が広がっていた。
むせ返るような血の匂い。辺り一面に飛び散っている血は鮮血色をしている事から、今しがた作られた惨状であることが窺える。平穏な日常では決して作ることができない異様な空気をその空間は漂わせていた。
そこにあるのはたった2つのモノ。
1つは人間だったもの。首を中ほどから断ち切られていて、それが致命傷になったのだろう。それ以外には小さな切り傷が幾つかあるだけの死体。
1つは人間の様なもの。姿かたちは間違いなく人間であるが、それが纏う異常な雰囲気が認識を躊躇わせる。まだ人の姿をした化け物と言われた方が信じられる程だ。
化け物が息を吐く。まるで内に籠る熱を吐き出すように、内に秘めた激情を鎮めるかのように。
「え? なっ何だよ、これ…………」
日常に戻れる唯一の道、この空間で唯一光が差し込む道から現れた男が呆然とつぶやく。言葉の端から理解できない、理解したくないという感情が感じ取れる。
化け物が男を見やる。目が合ってしまった男は体が動かなくなっていることに気が付いた。悲鳴を上げるどころか、指先一本動かせない。殺人犯と現場でカチ会ってしまった恐怖か、化け物の瞳にある狂気に気圧されたのか。
男にとって永遠にも感じた一瞬が過ぎる。化け物は男には興味を示さず奥に続く路地へと踵を返していった。
化け物が完全に姿を消した後、男はへたり込んだ。そこでようやく自身の呼吸が荒れていることに気づく。呼吸すら止まっていたらしい。
「そ、そうだ。ヒーロー、ヒーローに連絡しなきゃ…………」
震える手で携帯を操作する男。コール音を聞きながら、男は益体も無いことを考えていた。
果てして、あの化け物に勝てるヒーローは存在するのだろうか?
ここはプロヒーローであるインゲニウムの事務所。今は昼休憩中のその場所にはインゲニウムこと飯田天晴が昼食を取っていた。彼だけでなく、事務所で働く多くのサイドキックもいる。チームプレイを重要視しているインゲニウムが昼食は皆で食べるとルールを作っている為だ。
かなり広めに作られた部屋なのだが、サイドキックの数が多い為に手狭に感じる。部屋に備え付けてあるテレビでは雄英体育祭の中継が流れていた。第一種目の障害物競争が終わったいま、テレビの中では第二種目の騎馬戦が行われていた。
この場で話題になっているのは2つ。
1つは第一種目でトップを取ってしまったが故にピンチになっている少年の事。逆境に立たされているはずの少年は笑顔を浮かべている。大物なのかマゾなのか、不毛な議論が交わされていた。結論として家の事務所で指名して直接確かめよう、になったらしい。
もう1つはメガネをかけた大柄な少年、飯田天哉の事。何を隠そうこの飯田少年、インゲニウムの実弟なのだ。やはり自身がサイドキックを務めるヒーローの弟なのだ、気になる。めっちゃ気になる。
「ああ! 惜しい! 今のは惜しかったよ天哉くん!」
「あの超スピードに反応できるなんて、あの緑谷って奴とんでもないな」
「くううぅぅぅ! 何か悔しいわ! ね、インゲニウム!?」
サイドキックの1人がそう問い掛けてインゲニウムを見る。するとそこには空の弁当をつつき、空気を咀嚼するインゲニウムの姿があった。
「あ、あの~? インゲニウム?」
空気をつまみ空気を食べる。空気をつまみ空気を食べる。空気をつまみ空気を―――
「目ェ覚ませインゲニウムゥゥ!?」
斜め45度。壊れた機械を叩き直す由緒正しい方法で雇い主をぶん殴るサイドキック。正気に戻ったインゲニウムは恥ずかしそうに頭を掻きながら言葉を発した。
「いや悪い悪い。天哉がここまで成長してたのに驚いてな」
「弟なんですよね? 仲悪いんですか?」
「まさか! 兄弟仲は最高にいいよ」
「じゃあどうしてまた」
「ここしばらく忙しかっただろ? だから暫く家に帰れてないんだよ」
あぁ~、とげんなりした表情を見せるサイドキック一同。確かにこの数か月は目の回るような忙しさだった。有名になった影響で仕事がひっきりなしに舞い込んでくるのだ。なまじ人数がいる分、行動範囲が広いことも原因になっている。
「それじゃあ、久しぶりに見た弟を見てお兄ちゃんはどう思いますか?」
ニヤニヤしながら尋ねたサイドキックの言葉はからかいも含んでいた。それに気づかずインゲニウムは答える。
「そうだ、な……。すごく成長したと思うよ。…………天哉、頑張ってるんだな」
慈しみに満ちた表情をするインゲニウムを見た一同は、質問したサイドキックの脇腹に集中砲火を仕掛ける。真面目なシーンなんだから変な質問するな。無言でそう言われているサイドキックは口に虹が架かりそうになっている。
「よっし!!」
膝を叩いて立ち上がったインゲニウムが高らかに宣言する。
「天哉に負けないように頑張らないとな! 兄として情けない姿は見せられないぜ!! 見回り行ってくる!!」
やる気になったインゲニウムは休憩返上で働きたいらしい。サイドキックたちは困ったものだと顔を合わしながらも笑った。こういう人だからこそ、自分たちはここにいるのだと。インゲニウムに続こうと立ち上がった時、部屋の扉が慌ただしく開け放たれる。
「たっ大変ですインゲニウム!!」
ただ事でない空気を感じたインゲニウムは空気を変えて問うた。
「何があった」
「保須市でプロヒーローの斬殺体が発見されました!」
「!?」
サイドキックたちが騒めく。プロヒーローが殺されたなど大事件だ。
「それと、目撃証言から推測するに犯人はヒーロー殺しだと思われます!」
「ヒーロー殺し、ステインか」
纏う空気を完全に戦闘モードに変えたインゲニウムは号令をかける。
「全員で取り掛かるぞ。まず周辺住民の避難誘導、現場周辺の地理を確認、そこから想定される逃走ルートの検索、及びその誘導を。分かったな!」
『はいっ!!』
「じゃあ行くぞ! 殺人鬼をとっ捕まえる!!」
「見つけたぞヒーロー殺し!!」
そう言って鎧を纏った人物が化け物の前に降り立った。
「俺はインゲニウム! ヒーローとしてお前を捕まえるぞ殺人鬼!!」
「ハァ……」
ヒーロー殺しが手に持っていた抜身の刀をインゲニウムに向ける。
「犯罪者を捕まえるのは警察がいれば事足りるんだよ……」
切っ先がユラユラ揺れている。それは、ヒーロー殺しの心情を表しているように感じられる。
今にも爆発してしまいそうな炎の揺らめき。
「ハァ……。やはり、偽物。ゴミムシは幾ら潰してもウジャウジャと出てくる」
「何を言っているか分らんが、詳しい話は署で聞こうか!!」
腕にあるインゲニウムの個性、エンジンが火を噴いた。高速で接近し渾身の右ストレートを放つ。
しかしそれは上に跳んで躱されてしまう。足でブレーキをかけながら、すぐさま振り返り姿を確認する。
目の前にヴィランの顔があった。狂気に満ちた双眸がドロドロと光る。
「お前も、粛清対象だ」
再び、惨劇の幕が上がる。
途中は和気藹々としてたのに
アレが嵐の前の静けさだとは誰も思うまい
緑谷出久
1000万ポイントとかふざけてんのか
轟焦凍
すまねぇ飯田……
爆豪勝己
デクの前にこの野郎殺す