東方三題噺 ~ the killing time ~ 作:姫命と過南
今回はこちら。
・星空
・仮面
・少年
さてはて、どのような内容になるやら。
それでは、皆々様。
御静読のほど、よろしくお願いいたします。
さて、どうしよう。
目の前に立つ女の人を見上げながら、この場面をどう切り抜けよう、と考える。
乱暴に置いた酒瓶からは、酒の滴が飛ぶ。
全身で怒りを発しながらそこに立つ姿は、さながら鬼神のようだ。
まあ、あれだけのコトをされたんだから、当たり前だけど……。
でも、僕だって、こんなところで死にたくない。
ホントにどうしよう……?
というか、大体、何でこんなことに?
大体一刻ぐらい前のコトだ。
僕はお酒屋さんの息子で、よく他のお店の子と遊びにいく。
その日も、他の友達と、自分達で作った仮面を被って遊んでいた。
モデルは、貸本屋のおねーちゃんに見せてもらった妖怪の辞典に載ってる妖怪。
皆が思い思いの妖怪の顔をして遊んでいたんだ。
そこに一人、角のある知らない女の子が混じってきた。
その子は鬼の真似をしてる、って皆が思った。
でも、そのわりには顔を鬼の面で覆っていなかったから、皆が馬鹿にしたんだ。
僕は、そんなことしない方が……、なんて思ってたけど、結局は口を出さなかった。
『やーいでき損ないの鬼だ~』
『角だけ立派で、顔は弱虫のまんまだぞー?』
『こんなちびな鬼がいるか、バーカ!』
そして、最後に鬼の真似をした子が持っていたひょうたんを逆さにして、中身を全部捨てる。
その次の瞬間、鬼の真似をした子……いや、鬼の子は、その子を狩っていた。
僕たちだってなにもしなかった訳じゃない。
最初の一人がやられてからは皆、蜘蛛の子を散らすように逃げたんだ。
ずっと野山を駆け回っているから、少しは足が速い、女の子になんて負けるはずがない、そう思っていたのに……。
後ろからは、次々と悲鳴が上がって段々足音が少なくなっていく。
僕も気が緩んで、転んでしまって
そして……
今この状態になった。
元はといえば、悪口を止めなかった僕も悪いけど、それでもそんなことぐらいで死にたくないよ!
どうしよう、どうしたらいいんだろう?
と、そこで
「おい」
と鬼の子から声をかけられた。
ビシッと答えたいけど、口からでるのは
「……う、えあ、はい!」
こんな、どもった声ばっかり。
こんなんじゃ、許してもらえるものも許してもらえないだろう。
すると、なぜか鬼の子は、はぁ、とため息をつき
「……もういいよ。
なんかバカらしくなっちゃったさ」
「へ?」
え、今なんて?
「だから、もういいよ。
あんたはあたしに何か言ったりしたりした訳じゃないしねぇ。
特別に見逃してやるから、さっさといなくなってしまえ」
良かった……許してくれるんだ……。
いや、それだと許してくれるのは僕だけ……?
「そしたら、友達は__!」
「あぁ、そっちもいいさ。
鬼ってのは寛大だからねぇ。
それに、ちょいと締めたお陰で気も晴れた。
ただまぁ、そのまま返すってのも、ねぇ……?」
「え、あの、何でしょうか……?」
鬼の条件、って嫌な予感しかしないよ。
なんだろう……?
鬼の好きなもの……あ、もしかして……!
「あの、家にお酒があるんですけど、それで許してくれませんか?」
「うん? ふふふ、お前さんは賢いねぇ。
ちゃんと相手の好物で分かるだなんて。」
「じゃあ!」
「あぁ、返してやるさ。
ただし、ありったけの酒を用意しなよ?
鬼の酒量をなめちゃいけないさ」
そして。
「ええと、ここが僕の家です」
「へぇ、なかなかいい匂いしてるじゃないか」
他の子は、一つのところにまとめて寝かせてあるらしい。
だから、僕はひとまずこの鬼さんを家に案内することにした。
すると、さっきの言葉が出てきたのだ。
鬼だと酒の匂いを嗅いだだけで、分かるんだろうか。
「もちろん。
何年、飲んできてると思ってるんだい。
軽く少年の年の三十倍ぐらいは生きて飲んでるさね」
親に鬼さんを紹介すると、ビックリを通り越して青い顔をしてたけど、ちゃんとお酒とかは出してくれた。
多分、僕達のしたことを言ったら、気絶しそうだし、後回しにしておこう。
それでも、お酒を出しはじめて、ほんの数刻もしたら、鬼さんもお父さん達も皆楽しそうになった。
驚いたことに、僕も飲もうとすると、お父さんよりも先に、鬼さんが止めに来た。
「いいかい、少年。
これはな、子供の時は飲んじゃいけないんだよ。
何でだめかって?
酒ってのはおっきなことをしたやつじゃないと飲んじゃいけないからさ。
おっきなことができたやつを大人ってゆーんだ。
お前さんが、おっきなことをしたら飲ませてもらえ。
そんときゃ、私もいってやるからさぁ」
その言葉は、不思議と胸の中にズーンと来た。
だから、お酒を我慢する代わりに、その鬼さんにどんなことをしたのか、聞くことにした。
そこからは、皆、大騒ぎだ。
鬼さんの話に、泣いて、喜んで、怒って、いっぱい笑った。
「それじゃ、これであたしは失礼するよ」
外に出ると、もう夜で、満点の星が空にかかっていた。
でも、そんないつもはキレイだなぁ、って思う景色をかき消すように鬼さんの言葉は響く。
「あの、もう帰っちゃうんですか……?」
もっとこの人の楽しい話を聞いていたかった。
もっとこの人に僕のコトを聞いてほしい。
短い時間だったのに、そんな気持ちが次から次に出てくる。
皆わかっていたんだ。
この人はそうそう里に降りてくる人じゃない、だから会うのもこれが最後かも、って。
「あ~ぁ、なんて顔してんだい。
折角、上機嫌のまま帰ろーとおもったのにさぁ」
「うっ、ぐす、あ、ごめんなさい!」
気づいたら、僕は泣いていた。
寂しくて、か。
悲しくて、か。
それは分からないけど。
「……はぁ、仕方ないねぇ。
なぁ、少年。
あたしはお前が酒を飲もうとしたときに何て言った?」
え、確か……。
「えっ……と、大きなことをしてから?」
「そうさ、で、そのあとこうもいったはずだよ。
お前さんがそんなことをできたら、そんときゃ私も一緒に飲んでやる、って。」
「あ……」
「そうさね、お前さんが大きなことをして、そして、今日みたいな星空の日になったら、私を呼びな。
祝いに来てやるからさ」
そういうと、鬼さんはおっきな笑顔を浮かべて、僕を見る。
「っ、はい!」
「よしよし、いい返事だねぇ。
じゃあ、あたしの名前を教えてやるよ。
あたしの名前は__」
「萃香さーん!!」
あれから、数年。
僕の声が山に響く。
あの日、萃香が去っていった日から僕は随分と努力した。
運動も、苦手だった勉強も全部頑張った。
そして、僕なりの大きなことができた今、あの日と同じような星空の今、僕は名前を呼ぶ。
今度は__
「人からしたら、随分長かったさね。
久しぶりだね、少年」
「えぇ、お久しぶりです、萃香さん。
僕の家にお酒があるのですが……いかがですか?」
「貰おうかね。
それに、酒のつまみに聞かせてくれるんだろう?
お前さんの話を。」
「ええ、もちろん!」
僕のことも聞いてもらうために。
いかがでしたでしょうか。
それなりにお話になっていましたか?
それとも見るに耐えませんでしたか?
私も彼と同じように成長して、萃香さんに話を聞いてもらえるようになるのははてさて何年後になることでしょうか。
頑張りたいです
それではこの辺で。
御静読ありがとうございました!