お疲れ様でしたー、音楽番組の収録が終わって周囲は共演者への労いの言葉で溢れていた。
私もその流れに乗って、挨拶を済まして司会者さんの方へと向かう。
「お疲れ様でした!」
「あ、凛ちゃん。今日もいい歌だったよ! 年明けに出した新曲も好調らしいし、またすぐにうちの番組にも呼ばれると思うから。よろしく頼むよ」
そんなありがたい言葉をもらって、与えられた控え室へと戻る。
着替えを済ませて、プロデューサーとちひろさんに仕事が終わった連絡をして……。そうやってスマホを触っていると、卯月と未央から同時にメッセージが飛んできた。
「なんだか嫌な気が……」
恐る恐るニュージェネのグループトークを見ると、私の予想は的中。可愛らしいキャラクターが申し訳なさそうにするスタンプと共に、急遽仕事が入ってしまったことを伝えるメッセージ。
今日の未央と卯月は2人で別のバラエティ番組に出演して……、そのあと久しぶりに3人で会う予定だったんだけど。
今日は大人しく帰るしかないか--
ライバルでもあり、仲間で友達でもある2人がアイドルとして活躍していることを喜ぶ気持ち半分、楽しみにしていたニュージェネ定例会-命名は未央-が流れてしまったことを悲しむ気持ち半分……。
ううん、かなり後者が大きいかもしれない。
「そんなこと言ったって仕方ないか、ハナコに何か買って帰ろっと」
あと数10分で閉まってしまうペットショップに向かって、夜の街を歩く。
帰路を急ぐサラリーマンや客引きの人達、そんな夜の絵の中で、ふと視界の端で鏡に映る制服姿の私が視えた。
それは、アイドルじゃない高校生としての私。別に無理をして、その2つを演じ分けているわけでもなければ、仮面を器用に使い分けているわけでもない。
私はただ全力で走っているだけ。もっと先の輝きに向かって--
そうやって頭では分かってる。でも、高校生としての私とアイドルとしての私、それは明確に違って……。そして確実にそのどちらもが私。
「お、凛ちゃん発見♪ セクスィー、アピール☆ ……って心ここに在らずって感じだな、もう1回言う?」
どっちも私だからこそ、その差にたまに悩むときがある。いっそのこと、アイドルの私と高校生の私で1人ずついればいいのに……なんて。
昔は獣医になるのが夢だった普通の高校生だったのに、それが今はトップアイドルが夢のアイドルで--
「本当にシンデレラみたい」
「らしくないぞ。あと、無視すんな☆」
「えっ、心さん!?」
突然目の前に現れて優しく頭を小突いてくる心さんに、私は変な声を上げた。
無視するなっていうことは、何回か呼んでくれたんだよね? 気遣ってくれるこういうところ、適わないな……。
「歩きながら悩み事なんて、危ないぞ☆」
「な、悩み事?」
「気にすんな、言ってみただけ♪」
うん、やっぱり適わない。
「そっか、こうやってちゃんと話すのはかな子の誕生日会以来ですね。心さんはこのあと仕事?」
「美優ちゃんたちとご飯……、それより心さんじゃなくてはぁとでいいぞ☆ いいんだぞ☆ 遠慮なんてしなくていいぞ☆」
心さんのこっちを見てくるキラキラした目が痛い。未央はさとしんって呼んでるけど、歳上の人にそんなに馴れ馴れしくしていいのかな、って理由ではぁとって呼ぶのは気が引けた。
あと何気に恥ずかしいし……。
「ほら、呼んでみろ☆」
「心さん、あんまり言うとパワハラですよ」
「あ、らめぇ……。そんなしぶとい所もスウィーティー☆」
そんな感じのやり取りが何回か続いて、ようやく心さんも落ち着いて? どこへ向かうでもなく2人で歩き始めること5分。
前にプロデューサーから、心さんは図太いから滅多傷つかないって聞いたけどこうも静かな心さんは逆に心配というか--
「お、ちょっと言っとかないとな♪」
「どうかしました?」
何かを思い出したらしい心さんは、誰が見ている訳でもないのに急に服を正して急に空を見上げた。
「おっつスウィーティー☆ アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆ さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆ …あれぇ、おかしいなぁー? 反応が聞こえないぞ? もう一回、アナタのはぁとをシュガシュガ…えっ? もういい? え?」
正直、「え?」って言いたいのは私の方で。そんな気持ちを言葉にする間もなく、心さんは止まらず続ける。
「今やってる総選挙、はぁとに1票でいいから入れとけよ☆ メタい? そー言わずに。ね? コッチも体張ってんだから♪」
「そ、総選挙? メタ……?」
いつも以上に心さんの言ってることが分からなくて、戸惑う私。
「メタいこと言えんのも、最初の数話だけだぞ♪ 分かったら、凛ちゃんもいっとけ、いっとけ☆」
「いや、だから……」
一通り? 終わらせて満足したのか、心さんが脚を止めた。
やっと解放されるのかな? と希望を持ったのも束の間。
「ちょっと暇か?」
「まあ、暇ですけど……」
正確な時間は分からないけど、ペットショップはもう閉まってるだろうし、予定がなかった私はこのあと大変な目に合うのも知らずにそう応えてしまった。
「なら、今日ははぁとが保護者ってことで♪ 付き合えよ。うん、えい☆」
「はぁ……、なんでこうなるかな……」
腕を心さんに捕まれ、引っ張られていく方向に呑み屋らしき店があるのが見える。
今ならまだ間に合うかなと腕を反対方向に引くが、思いの外強くホールドされているらしくぴくりともしない。
そうして、もう片方の手で頭を抱えた私は大人しく呑み屋へと連行された--
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次話更新は来週以降になると思います。