とある奇石の幻想管理《コーディネーター》 作:真っ黒セキセイインコ
六月。当来ならば梅雨時で雨が降り続くはずの季節。
学生たちの街の学園都市では、燦々と輝く太陽の所為でうだるような熱気に包まれていた。
少しでも雨が降ってくれれば、少しは涼しくなるだろう。しかし、この街が誇る世界一高性能なスーパーコンピュータ――
これが普通の人工衛星ならば、天気は外れると言うこともあったかもしれない。
しかし、樹形図の観測者はその名の通り、先を百パーセント予想することができるコンピュータだ。例え天気予報のお姉さんが、明日は雨が降るでしょうといっても、樹形図の観測者が降らないと言えば雨は絶対に降らないのである。
それは完璧な予想なのだが、それもいやなことが続くと言うことまでが分かってしまうのは、ある意味難点とも言えるのかもしれない。
そんなアスファルトから陽炎が立ち上る第七学区の公園に、茶髪の少年――
実際、今日は学校のある日なのだが彼はサボっているのだ。理由は単に気が進まない。ただそれだけである。しかしそういう日にかぎって冷蔵庫の食料が底をつくという不幸が起きてしまった。
きっと、どこぞのツンツン頭なら『不幸だー!』とでも叫んでいただろう。
そして、仕方無しに暑い日中に買い出しに出てみれば、ある意味本物の不良である
理由は簡単。何時もなら簡単に逃げおおせたものを、偶々連中の中に能力者がいたせいで、逃げるに逃げられなくなってしまったのだ。しかも高位の能力者が。
学園都市での全ては発現させた能力の
例えばそれは血管がちぎれるほど頑張って、やっとスプーンが曲がるほどのもの。確かにそれは外の人間にとってみればすごいと言えるかもしれない。しかし、この街においてはその程度では通用などしないのだ。いうなればそれはただの人程度のものなのである。この街で存在価値のあるものとは、人を簡単に感電死させる電気を操るレベルだ。
そんなものがレベル0しかいないはずの武装無能力者集団に居た。能力の正式名称は分からないが、内容的には物体を手を使わずに動かす念動系能力だろう。普通ならば精々バケツを持ちあげるレベル2程度しか武装無能力者集団には居ないはず。しかし代わりに持ち上げられたのは、長さ一メーターの鉄パイプが5本。強度で言えばレベル4はあるはずだ。それが襲い掛かってきた。
つまり一応これでも高位の能力者である真田は、それに虚をつかれてしまったわけである。
そして、ついつい本気で能力を使ってしまったのだ。彼の能力は周りに影響を与えやすい。それで
どうやら今日はとことんついていない日ならしい。
(暑っつー……)
空を仰ぎ見ると、まだ夏でもないのに太陽は暑苦しく輝いていた。そして耳を傾けてみれば、完璧にフライングしたアブラゼミどころかクマゼミまでが鳴いている。完全無欠に真夏の暑さである。
玉のように流れ出る汗はアスファルトに吸い込まれて行き、それがいっそう暑苦しい。せっかく買った食料もこの日差しと暑さで完全にアウト状態だ。食べたら腹を壊すだけでは済まないだろう。
(もう……帰るか……。熱射病になる方がバカみてーだ)
何故、武装無能力者集団に高位の能力者が居るのかは気になるが、真田にとってはもうどうでもいいことだった。
最後の手段カップ麺と缶詰で今日は食い繋ごう。明日も同じことをしそうな予感を残しつつ、もう諦めて立ち上り歩き出す。向かうのは学生寮への近道である路地裏だ。時々武装無能力者集団がいるが、真田にとってはこの太陽の下を歩いて行く方がもっと嫌だった。幸い今の時間は警備ロボットが巡回中のはずだから連中はめったにいないだろう。
路地裏に入ってすぐにじっとりしたしまった空気が真田の頬を撫でる。外に比べれば涼しいのだが、カビ臭いというのもあってあまり居たくはない場所だ。ついでに言えばこう言う人目に付かない場所には、いい思い出が無いこともある。それも真田にとっては外の暑さよりマシなものなのだが。
こう言う場所はさっさと抜けるに限る。真田はいつものように積まれた段ボールや自転車を薄暗い中で避けながら歩いて行く。途中で警備ロボットが居たが、真田はそれをうまいことかわしてさらに進む。
暫く行けば十字路に出て、大手チェーンのファミレスの裏手を抜けて、不法投棄された家電ゴミをさらに乗り越えれば、学生寮すぐ近くの表通りに出られる。
唯一うざったいといえば、妙に馴れ馴れしい野良猫がいるぐらい。彼らに餌をやるモノ好きな人間でも居るらしく、ここを通れば
何処からどう見てもいつもの路地裏で、そして真田にとってみれば何時もの日常だった。
しかし、そんな日常は偶々見つけてしまったモノによって、崩されることになる。
(何だありゃ? 生ゴミか何かか?)
ここは路地裏だ。だからこそめったに人は通らないが故に、ゴミの回収に出しそびれた生ゴミや家電ゴミなどを放置していく人間も少なくない。最初はそう思っていた。
しかし、それとは裏腹に近づいて行けばいくほど、それがゴミでは無い事に気付いていく。そして約一メートルぐらいまで近づいて、やっと
「女……の子……?」
少女が倒れていた。こんな人通りの少ない武装無能力者集団の温床にその少女は倒れていたのだ。
ある意味それは運命の出会いだったともいえるだろう。或いは、ある意味真田の人生最大の不幸な出会いだったかもしれない。
とにもかくにも、この少女との出会いが少年、真田紀里の人生に多大な影響を与えることになるなど、この時の彼は知る由もなかった。