モンスターハンター 〜狩人達の道聴塗説〜   作:活字の嵐

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 作中の人物のモデルになってくださったS氏両名に、ありったけの感謝を込めて――


訳あり狩人と炭鉱夫長
01


 この世界において、竜は生物の頂点に君臨する生物である。

 竜は大きな翼で空を翔け、その堅牢な鱗は他の牙を受け付けず、その口から吐き出される炎はすべてを焼き尽くす。

 それはまさに、絶対的な力であった。

 だが、ヒトはそのどれも持ち合わせてはいない。

 ヒトは竜を恐れ、いつしかそれらを“怪物(モンスター)”と呼ぶようになった。

 強大な自然の中では、ヒトはとてもちっぽけな存在である。

 だが、ヒトには「考える力」がある。

 ヒトは翼の代わりに機械で空を飛び、鱗や金属の鎧で身を守り、手には剣を握るようになった。

 

 やがて、「考える力」によって生み出された武具を身にまとい、モンスターを狩る物達が現れるようになる。彼らの持ち帰る様々な素材は、人々の生活を豊かにし、ヒトの世にさらなる発展をもたらすようになった。

 

 人々を守り、自然とヒトとの調和を保つ狩人達。

 人は彼らを“ハンター”と呼んだ。

 

 

 * * *

 

 

 「ぷはぁ〜っ!最高だなあ、狩りの後の一杯は!」

 「ああ。同感だ」

 「しかしよぉ、お前と組んだのも久しぶりだな。しばらく見なかったが、何やってたんだ?」

 「キャラバンの雇われハンターだよ。そこの息子―ハンターなんだそうだが―そいつがケガしてる間の埋め合わせさ」

 「へぇー、キャラバンってこたぁ、さぞかしあちこちを回ったんだろう?」

 「そうでもないさ。だが、話好きな団長がいてな。退屈はしなかった」

 「話?どんな?」

 「あんたのことだ、そう来ると思ったよ。一番面白かったのは、小説を書いてるハンターの話だったな」

 「小説家でハンターか。そりゃ珍しいな」

 「だろう?少し長くなるが、聞きたいか?」

 「そりゃあもちろん」

 「そうこなくちゃな。ことの始まりはここ、<ドンドルマ>の酒場からだったそうだ――」

 

 

 * * *

 

 

 「それじゃ!ルーチェさんの脱稿を祝って――」

 「「「かんぱぁ〜い!」」」

 

 <ドンドルマ>の酒場の一角、三人の人間が囲んだ丸テーブルの上で、木製のジョッキを打ち合わせる音が甲高く響いた。

 人種、性別、年齢、職業。あらゆる垣根を越え、まるでるつぼのような雑多さを持つこの街の酒場は、夜ということもあってか一段と活気にあふれていた。

 「いやあ、ルーチェさんが羨ましい。私なんて原稿がまるごとボツですよ。ひどいったらありゃしない!」

 そんな<ドンドルマ>の酒場で、同じテーブルを囲んだ仲間に向かい、メガネの男が盛大に嘆いていた。まだ若いのだろうが、苦労でやつれた表情のせいか老けて見える。

 「さてはエティオさん、また勢いで書いたでしょう?」

 その男の隣に座っていた青年が、がっくりと肩を落とした男に指摘する。なにか良いことでもあったのか、その頬は緩みっぱなしだ。

 「ま、まぁ……そうといえばそうですが……」

 エティオと呼ばれた男は、ばつが悪そうな表情を隠すようにジョッキの酒をちびりと呑んだ。

 「そしてその勢いのまま、編集に渡してしまったってとこですか」

 「ラウ様のおっしゃるとおりでして……」

 しゅんとなるエティオを見て、ラウと呼ばれた青年は我が意を得たりといった表情(注:某ノートなマンガの『計画通り』な顔の意)でさらに追い打ちをかける。

 「んで、『ん~、何かコレじゃない感が……』って感じでボツをくらったと」

 「……言い訳のしようがないほど正確です……」

 「あのさぁ、エティオさん」

 「何でしょうか」

 「いい加減学びましょう」

 「あっハイ……」

 ラウに何か言われる度に、小柄なエティオの身体がさらに縮こまっていく。酒を呷り、瞬く間にジョッキを空にしたラウは、もう一人の仲間に話を振った。

 「まっ、辛気くさい話はここまでにして。脱稿おめでとうございます、ルーチェさん」

 「どうも。ラウさんも、重版おめでとうございます」

 ルーチェと呼ばれたショートカットの女性が、テーブルの向かい側から、慇懃な態度で礼をした。お辞儀に合わせて、船の錨を模した小さなペンダントが揺れる。

 「いやぁ、ありがとナス」

 奇妙な語尾で礼を述べるラウ。酒が回ってきたのか、さらに顔が緩んでいた。

「『ハンター×料理』、これは新ジャンルを開拓しちゃいましたねぇ、ラウ氏」

 テーブルの上の料理をつまみながら笑うエティオ。それは精神的に疲れた人間のやつれた笑顔ではなく、人が自分の誇らしい友人のことを語る時に見せる表情だった。本、とりわけ小説のこととなると人が変わったようになるのがこの男の特徴でもある。

 「いっそエティオさんも書いちゃいませんか、飯テロ小説」

 「あー、いいかも。料理から勉強し直すことになるかもしれませんが。ときにルーチェさん、今回はどんな作品を?」

 先ほどまでの落ち込んでいた姿はどこへやら、今の彼の瞳はいきいきと輝いていた。

 「いつも通りの短編集ですよ。ってエティオさん、相変わらず切り替えが早いですね」

 ころころと変わるエティオの表情に、ルーチェは呆れたように肩をすくめた。

 もっとも、これが彼らにとっての日常である。呆れたような仕草も、コミュニケーション手段の一つだった。

 「いやあ、本の事は三度の飯より好きなもんで……」

 「よっ、本の虫!」

 「いやあ、それほどでも……」

 ラウからの合いの手に、エティオは気恥ずかしそうにぽりぽりと頭をかいた。

 「やだ、エティオさんちょっとかわいいかも」

 ルーチェがくすくすと笑い声を漏らす。

 「えっ」

 「冗談です。ところで二人とも、私はこれから当分の間、()()()()()()()はありませんけど……二人はそっちの方の予定は入ってますか?」

 「いや、私はないゾ」

 「……同じく」

 綺麗に予定がそろった瞬間、三人は顔を見合わせ、にやりと笑った。

 「なら、行っちゃいますか。久しぶりの狩りに!」

 「いいっすね~。ちょうど新しい装備ができたとこなんですよ」

 「賛成!反対する理由が見あたりません!そうと決まればさっそく――」

 しかし、エティオの意気込みは、突然の闖入者によって、はかなくも空振りに終わることになる。

 「よお、お前ら!久しぶりだなぁ!」

 「うひゃあ!?」

 突如彼らにかけられた野太い声に、一番敏感に反応したのはエティオだった。

 彼がぎこちなく振り返ると、そこには紙包みを持った初老の男が、仁王立ちになってこちらを見下ろしていた。

 ゴードン・ウィリアムズ。エティオが『一番苦手』と言ってはばからない男がそこにいた。その傍らには、見慣れない青年が一人、あたかも背後霊のように付き添っていた。

 「ゴ、ゴードンさん……ご無沙汰してます」

 やっとのことで絞り出した返事は、ラウンズと話していた時よりも、さらに頼りない声になっていた。

 「どうも、お久しぶりです」

 ルーチェはエティオとは対照的に、動じる様子もなく応じている。

 「おっ、旦那。久しぶりですねぇ」

 ラウはといえば、面白い見世物でも見物するかのように、おどおどするエティオをにやけながら見ている。彼にとって、この光景はすっかり見慣れたものになっていた。

 「で、今日はどんなご用事で?」

 「おう、おまえさん達に頼みたいことがあってな」

 挙動不審になるエティオを気にもとめず、ゴードンは連れ添っている青年を指して話を続ける。

 「こいつはハンス。G級に昇格したばかりの、期待の新星ってやつだ」

 「ほう……それで?」

 「こいつをクエストに連れていってやってくれないか。今回だけでいい。クエストも契約金もこっち持ち、なんなら追加報酬も出そう」

 「ちょっ――」

 ハンスと呼ばれた青年は慌てて何かを言おうとするが、それよりも早くエティオがその声を遮った。

 「私は嫌ですよ。いくら昔からの付き合いといっても、ゴードンさんの依頼はもうこりごりです」

 「えー、普通に面白かったと思いますが」

 「同感。機会があったらまたやってみたいゾ」

 三人で話していた時とは一転して、乗り気でなくなったエティオ。対照的に、残る二人の表情は明るい。ハンスはといえば、何も言い出せないまま、哀れにも完全に蚊帳の外になっている。

 「いや、二人とも待ってください。この人の依頼がマトモだったためしなんて、これっぽっちもないじゃないですか」

 「そう感じるのは、エティオさんが自主的に(デコイ)になることが多いからでは」

 『何を言ってるんだ』というような目でエティオを見るラウ。対するエティオの顔は少し青ざめていた。

 「……ラウ氏、違うんです。『なる』ではなく『なぜかなってしまう』んですよ!とにかく、私は嫌です。というわけでゴードンさん、ここはお引き取りを」

 「あのっ……そ、そういうわけには……」

 何か言いたげなハンスを制し、ゴードンは紙包みをほどき始める。

 「がっはっは!ま、そう言うなって。ところで、こんな物が手に入ってなぁ」

 腹の底から響くような声で豪快に笑いながら、ゴードンはテーブルの上に一冊の本を置いた。途端にエティオの目の色が変わる。 

 「そ、その本はっ!」

 「アーサー・ルインの『ボウガン戦術論』。お前さん、前からコレを欲しがっていたろう?引き受けてくれるっていうなら、これは俺からプレゼントしようじゃないか」

 「んなっ――」

 予想外の交換条件にまごつく彼を見てしたり顔で笑うと、ゴードンはラウとルーチェにも問いかける。

 「おまえさん達はどうする」

 「断る理由は無いゾ」

 「もちろん、やらせていただきます」

 即答する二人。ゴードンは満足そうにうなずくと、再びエティオの方を向いた。

 「さて、二人はやってくれるそうだ。後はおまえさんだけだが、どうする?」

 「む……むむむっ……」

 エティオに見えるように、『ボウガン戦術論』とクエストの依頼書を交互にちらつかせるゴードン。考えすぎからか、エティオの顔が赤くなっていた。

 「ほれほれ、早く決めないと――」

 「ああっ!分かりました!やりますよ!」

 ついに何かが切れたように叫ぶと、エティオはゴードンの手から強引に依頼書をひったくった。

 「うわ、あの温厚なエティオさんが……」

 「ありゃ相当頭にきてるゾ。珍しい」

 ルーチェ達の視線を感じながら、エティオはゴードンからひったくった依頼書に目を通す。最初は訝しげだったメガネの下の表情が、次第に険しくなっていった。

 「……ゴードンさん、何か企んでいるでしょう?」

 依頼書の文面がゴードンに見えるようにすると、それを彼の目の前に突きつけた。

 「何のことだか」

 「とぼけないでください。これはどういうことですか?」 

 依頼書の一点を指さしながら、エティオはゴードンに詰め寄る。しかし、偉丈夫と言えるほどの大男にほっそりとした小男が詰め寄っているのでは、まるで迫力がない。ラウに至っては、必死で笑い声をかみ殺していた。

 「とにかく出発は明後日。夜明けに酒場の前に来てくれ」

 それをものともせずに時間と集合場所だけを告げると、ゴードンはさっさとその場を後にしていった。置いてけぼりをくったハンスが、慌ててその後を追っていく。

 「あ、ちょっと……どういうことですかコレは!説明してくださいよ!おーい!」

 エティオの悲痛な叫び声だけが、酒場にむなしく響いていた。

 

 




 あとがきって何を書けばいいんだろう……久しぶり過ぎて何も思いつきません(オイ)

 おはこんばんにちは。はじめましての方ははじめまして。活字の嵐でございます。
 絶賛スランプ中な私ですが、復帰に向けて今回のような短編(続きますが)を書いております。ちなみに今回のタイトルは『どうちょうとせつ』と読みます。
 
 宜しければ次回も見ていってください(懇願)
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