せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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アイディア勝負なので文章力やストーリーには期待しないほうがいいかもしれない。もちろんシリアスでもなんでもない。

※もうすぐ最新話が完成しそうな勢いなので、以前ににじファンさんで公開させて頂いていた分を投稿させて頂きます。


0−0 シリアスブレイカーに、俺はなる!

‡雁夜おじさんサイド‡

その夜、間桐家の地下にある蟲蔵にて、間桐雁夜はバーサーカーを召喚した。

生まれつきの素養はあっても魔術の研鑽をまったくと言っていいほど積んでいない雁夜はその肉体に寄生させたおぞましい蟲たちによって魔術師の体裁をとってはいるが、それでも他のマスターに比べれば足元にも及ばない。

従って、サーヴァントは狂化によってパラメーターのランクアップを行わざるを得なくなり、必然的にバーサーカーを選ぶこととなった。

雁夜の文字通り寿命を削った召喚魔術の呼びかけに応え、吐血に塗れた魔法陣から闇の炎を巻きあげて漆黒のフルプレートを装着した大男が姿を表す。その刺さるような禍々しい気迫はまさに狂戦士(バーサーカー)のものだった。

「や、やった……!成功した……!」

息絶える寸前まで生命力を失った雁夜が、地べたに頬を擦りつけながら亀裂のような笑みを刻む。その様子を後ろから満足そうに眺めるのは、間桐家の初代にして歪みきった人格を持つ老人、間桐臓硯だ。

そう、そこまでは彼らの計画通りであった。

計画から外れたのは、バーサーカーが突如としてその双腕を大上段に振りかぶり、一撃を持って臓硯を亡き者にしたところからであった。

「バーサーカー、何を———!?」

「ぎゃあああああ!!」

いかに数百年の時を生きた真性の化け物でも、人間より遙か高みに達した英霊の一撃を堪えることは出来なかった。苦痛と汚辱に塗れた雁夜の姿に愉悦を覚えていた臓硯は、不意を衝いて放たれた恐るべき大破壊力に一瞬とて持ちこたえることなく、醜い悲鳴を上げながら血肉と臓物に為り果てた。音速を軽々と突破した拳は辛うじて消滅を免れた蟲すら散り散りに粉砕し、もはやそれらが臓硯だったことすら判別することはできない。

 

バーサーカーによる暴走は臓硯を殺すのみにとどまったが、それがもたらした惨状は地下室の崩壊に繋がるほどのものだった。余波を受けて大きく抉れた柱は天井を支えられなくなり、ゴゴゴと重苦しい音を立てながら次々と大きな亀裂を浮かばせる。

「桜が……!」

ガラガラと崩れ行く地下室の床に爪を立て、雁夜が必死に蠢く。なぜバーサーカーが突然臓硯を殺したのかなど、どうでもいいことだった。もはや臓硯が死んだ今、聖杯戦争のような狂ったゲームに参加する意味はなくなった。しかし、この蟲蔵には桜がいる。救い出してやると誓った愛する女性の娘が今も蟲どもに囚われ、犯され、精神を食いつくされようとしている。例え自分が死んだとしても、せめて彼女だけは助けてやらなければならない。

 

(くそっ、動け!今だけは動いてくれ!頼む……!)

 

必死に歯噛みして前に前に這い進もうとしているのに、召喚によって限界以上に体力も魔力も使い果たした雁夜の肉体は主の言うことを聞かない。ピクピクと痙攣するだけの己の四肢を明滅する視界に入れて、雁夜の視界が涙で歪む。自分のあまりに惨めな最期と、救われることのなかった少女への悔恨を悲観しての血涙だった。

「こんな、こんな結末なんて—————— うぐっ!?」

ついに諦め、力尽きようとした雁夜の首根っこを何者かがひょいと掴み上げた。その怪力の持ち主は雁夜を軽々と肩に担ぎ、大股で壁に向かって歩き出す。堅牢で冷たい鎧の感触を腹に感じる。

「ば、バーサーカー!?」

 

それはつい先ほど雁夜が召喚したサーヴァント、バーサーカーであった。彼は何を思ったのか、進行方向にあった見るからに厚い地下の壁を無造作に蹴破る。豆腐のように易々と破壊された壁の穴からわらわらと醜悪な姿形をした蟲がこぼれ落ちてくる。見ているだけで胸糞が悪くなる蟲の滝にバーサーカーがズボリと手を突っ込み、何かを探すように上下左右に行ったり来たりする。

呆然とバーサーカーの奇行を見る雁夜の目に、藍色の何かが映った。蟲の海の中に沈んでいるソレは、自分が救おうとした幼い命———。

「バーサーカー、そこだ!そこにいる!」

バーサーカーが捜しているモノと自分が指さす者が同じである保証はなかったが、霞みゆく雁夜の思考ではそこまで至ることは出来なかった。だが幸運にも、その二つは見事に一致していた。

バーサーカーは雁夜が指さした箇所に手をやると、蟲の中から小柄な裸の少女をそっと掬い上げる。それは、間桐の魔術に無理やり染め変えられたせいで髪色も瞳の色も変わってしまった間桐桜だった。苛烈で非情な魔術処置によって精神は崩壊寸前だが、生きようと必死に息をする瞳は未だ生者らしさを垣間見せている。

(ああ、よかった)

その小さな裸体は蟲によって傷だらけになってはいるが、死に至るほどのものは見つけられない。治療を施せば桜は生きられる。臓硯が死んだ今、自由に、普通の少女としての人生を歩むことも出来る。

「ば、バーサーカー。頼む、桜を、どうか、生かして、くれ」

もう目も見えない。崩壊する地下の振動も轟音も届かない。事切れる寸前の雁夜は、しかし最期の力を振り絞って己のサーヴァントに懇願する。ついに意識が途切れる最中、

「おk」

という意味不明な返答が聞こえた気がした……。

 

‡バーサーカーサイド‡

 

Fate/ZEROで一番可哀想なのは雁夜おじさんだと思う。10人中10人はそう思ってるに違いない。

俺はたった今読み終わった小説を本棚に仕舞いつつ、その本の登場人物の一人、間桐雁夜に思いを馳せていた。彼ほどまでに必死の思いで聖杯戦争に参加して、血反吐を吐いて戦い尽くし、望まぬ最期を遂げた男はいないだろう。虚淵さんマジ鬼畜。

「んぉっ、もうこんな時間か」

夢中になって読んでいたせいでもう深夜0時を回っている。明日も朝一で講義がある。なんちゃって大学生ではあるが、単位もやばいしちゃんと講義には参加しなくては。早々に電気を消してベッドに潜り込む。もう少し読了後の何とも言えない余韻に浸っていたかったが、やむを得ない。

「夢の中でいいから、雁夜おじさんが幸せになるストーリーが見てみたいぜ……」

そう呟くと、のび太くんばりに即睡眠の才能を持つ俺が深い眠りに落ちていった。遠くなっていく聴覚に、「言い出しっぺの法則というものがあってだな?」という冷厳な男の声が届いた気がした。

 

 

 

目が、醒める。

気づけば俺はなぜか床に突っ立っていた。視界が狭い。まるで鎧の目庇でも覗いてるかのようだ。あ、いや違う。ホントになんか鎧着てるぞ。しかも全身に。不思議と重くない、っていうかめっちゃ身体に馴染んでる気がする。

視線だけで辺りを見渡せば、なんだかとても身体に良くない空気が充満した密室の中心にいることはわかった。なーんかつい最近似たような部屋の描写を読んだことがあるような?

「や、やった……!成功した……!」

声の源は俺の足元から発せられた。音の発生源を正確に察知できた自分に驚きつつ下に目を向けると、そこにはぐったりと床に倒れ伏しながらも達成感に笑みを浮かべる男がいた。全身余すところなく血だらけで、その様子は死人そのもの。顔面も半分はゾンビみたいに枯れている。何を隠そう、間桐雁夜その人であった。そして彼が俺を見上げながら「成功した」と言っていることから察するに、俺はどうやらバーサーカーになっているらしい。全身に着込んだ鎧と身体中に滾る力———魔力?———がその証左だ。夢で雁夜おじさんが幸せになればいいとは思ったが、自分でその手助けをする夢を見る羽目になるとは思わなんだ。

(待てよ、ここに雁夜おじさんがいるってことは、)

雁夜おじさんの背後を見れば、暗闇に溶けこむようにしてキモい爺さんがニンマリとしたキモイ顔をしてキモい腐臭をまき散らしていた。出たな諸悪の根源め。言峰綺礼はたしかに悪として歪んではいるがどこか愛着が持てる。特に嫌いではない。ギルガメッシュもゲートオブバビロンとかかっこいいし、厨二心をくすぐられるので純粋悪には思えない。だが間桐臓硯、テメーは駄目だ。てめーは俺を怒らせた!

(油断している今こそ好機!雁夜おじさんのトゥルーエンドのためにも死ねやオラァ!!)

夢なら夢で、俺は自分がやりたいようにするだけだ。つまり、雁夜おじさんの願いを叶えてやるのだ!

背中から魔力を噴出し、一挙動で臓硯の眼前まで接近。握り合わせた拳を振り上げ、バーサーカーのスキルである筋力強化を最大限に生かして思い切り叩き落す。ぎゅおん、と空気をねじり切る爆音の尾を引き、拳は隕石のように臓硯の脳天にクリーンヒットした。

「ぎゃあああああ!!」

芋虫のような蟲どもが飛び散るが、それらも全て粉砕する。一片だって残してはやらん。絶対に許さんぞ虫けらども!じわじわとなぶり殺しどころか一瞬で消滅させてやる!

俺の気合の一撃によって臓硯は跡形もなく死んだ。夢のくせにリアリティがあるじゃねえか。ちょっと吐きそうだ。うえっ!

(ふう、これで一件落ちゃ―――おお?しまったやりすぎたか)

すこーし加減を間違えたらしく、先の一撃で地下室が崩壊寸前だ。こりゃいかん。さっさと雁夜おじさんと同じく地下室に閉じ込められているだろう桜ちゃんを救出せねば。

とりあえず雁夜おじさんが落ちてくる瓦礫の下敷きにならないように回収しておく。耳元で「バーサーカー!?」と困惑の声が聴こえるが、気にしない。というか、どうも上手く喋れないようだ。さっきからあーとかうーとかいった小さな呻き声しか出せない。どうやらバーサーカーになってるせいで俺の思考が狂ったりしないまでも、言葉を発することはできないらしい。夢のくせにリアルだな。まあ無くても大丈夫だろう。最悪、筆記で意思疎通も出来る。

(桜ちゃんはこの辺かな?お、なんか当たりっぽいな)

適当に目の前の壁をぶっ壊してみると、ビチビチと震える蟲が滝のように流れだしてきた。この中にいそうな感じだ。早く救出してあげないと気の毒だ。

「バーサーカー、そこだ!そこにいる!」

視界の隅で雁夜おじさんが一点を指さす。さすがおじさんだぜ。

おじさんの差した場所をクレーンゲームみたいにそっと掬うと、何かを掴んだ感触がした。ひどく冷たいが、人間の子どもっぽい。案の定、それは桜ちゃんだった。レイプ目になってボーッとしているが懸命に肩を上下させて息をしている。無事のようだ。ホッと安堵していると、雁夜おじさんがぶつぶつと何か囁きだした。

「ば、バーサーカー。頼む、桜を、どうか、生かして、くれ」

言われなくともそのつもりだ。こんな陰気臭い地下室とはスタコラサッサだぜぃ!バーサーカーはクールに去るぜ!!

「おk」

おっ?ちょっとした発言なら何とか出来るのか。これは嬉しい発見だ。意思疎通がしやすくなるぜ!臓硯も死んだし、桜ちゃんも助けだした。後は間桐家当主の間桐 鶴野が問題だが、こいつはワカメの父親だけあってヘタレだ。どうとでもなるだろう。臓硯が死んだと知ったら嬉々として泣いて喜ぶかもしれん。そうなれば雁夜おじさんとも仲直りで、桜ちゃんも普通の暮らしができるようになるかも。

気絶した二人を担ぎながら、俺は今後の二人の明るい未来について考えを膨らませ始めていた。

———あれ?桜ちゃん助かったんなら俺もう必要なくね?

 

‡雁夜おじさんサイド‡

 

「う、ぐ、」

顔に当たった日光に急かされて泥のような眠りから覚醒すると、そこは自分の寝室だった。日光を浴びたのは久しぶりだった。臓硯が死んだせいなのか、体内の蟲は今までの暴れっぷりなど嘘のように静まっており、悪くて痺れる程度に収まっている。その痺れが脳を刺激し、昨夜何が起こったのかを想起させる。日光を遮るように手をかざせば、その手の甲に令呪が宿っているのに気付く。まだ、バーサーカーとは繋がったままだ。サーヴァントは魔力を常に消費する。口惜しいことだが未熟な俺では蟲の助けがないとそれは不可能のハズ。

「いったい、何がどうなって……?」

「雁夜おじさん、大丈夫?」

「ッ! 桜ちゃん!?」

耳元で発せられた少女の声に飛び起きる。そこには、椅子に座ってこちらを心配そうに見下ろす桜の姿があった。その瞳にも肌にも元の少女然とした健康的な張りが戻っており、蟲に蹂躙されていた過去を感じさせないほど快復している。その様子に、雁夜は今までの地獄のような日々の全てが報われた気がした。否、事実報われたのだ。雁夜の当初の目的———桜を救い出すことは、ここに果たされたのだ。

(もうこの娘は絶対に不幸な目に合わせない!)

内心に決意し、桜を抱きしめようと身を乗り出し、

コンコン

「あっ、ご飯が出来たみたい。ちょっと待っててね、雁夜おじさん」

腕の間をするりと抜けて桜がノックされた扉へ小走りで駆け寄る。それを少し残念に思いながら、年頃の少女のような仕草を見せてくれる桜の姿に雁夜は優しげなほほ笑みを浮かべた。

(聖杯戦争などクソ食らえだ。令呪もさっさと教会で処理してもらおう。遠坂時臣に桜ちゃんを間桐に譲ったことを後悔させてやりたいという願いはあるが、それは聖杯を通さなくても出来る。どのみち、すぐに暴走するような強大なバーサーカーを制御できる自信はこれっぽっちもない。きっと戦いの途中で惨めに力尽きてしまうだろう。それより、なるべく桜ちゃんの近くにいて彼女を護ってやりたい———)

「ご飯作りご苦労様。今開けるから待っててね、バーサーカー(・・・・・・)

「———は?」

呆けた声をあげた雁夜の眼前で、桜がよいしょとドアノブを捻る。ギィ、と古風な音を立てて開いた扉の向こうから、漆黒の気配がズルリと侵食してくる。雁夜がゴクリと息を呑む中、その気配の持ち主が全体を表す。

全身を黒いフルプレートアーマーで覆った優に190を超える長駆の男———雁夜が昨夜召喚し、目にも留まらぬ速度であの臓硯をこの世から消し去ったサーヴァント、バーサーカー。

その威容と迫力は何者が見ても怯えすくむほどのものだったが、雁夜は別の意味で身体を強張らせて硬直していた。

当然だ。なぜなら眼前のバーサーカーは—————エプロンを着ておかゆの載ったお盆を持っているのだから。

理解を越えた光景に、雁夜はただあんぐりと口を開けて固まるしかなかった。

 

 

「雁夜おじさん、おかゆ冷めちゃうよ?せっかくバーサーカーが作ってくれたのに」

「ぐるる!」

「なにそれこわい」




思いつきの作品だけど、けっこうスラスラとアイディアが浮かんでくるので続けてみようと思います。Fate/zeroの小説は持ってはいますが読んだのは2年前です。アニメを見ながら思い出しつつ、ボンヤリとしたところは小説をまた読み直しながらちょこちょこと書いていきます。

こんなSSですが、にじファンさんに投稿させて頂いていた頃には素晴らしい挿絵を授かるという幸運に恵まれておりました。Pixivで活躍されているナカジョーさんという絵師様がバーサーカーと雁夜おじさんと桜ちゃんのイラストを描いてくださいました。是非、拝見して頂きたいです。桜ちゃんがとても可愛いです。それと、ナカジョーさんの他のイラストを見てアナルに目覚めても僕は責任を負いません。悪しからず。

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