せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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2−6 グィネヴィアはきっと巨乳美人

‡切嗣サイド‡

 

 

衛宮切嗣は、『騎士』に対して二つの相反する認識を持っている。

一つは、地獄と同義の戦場に武勲や栄光といった煌びやかな装飾を持ち込み、戦いを美化する悪しき風習を持った前時代の戦士という『侮蔑』。そしてもう一つは、超至近距離での白兵戦において、現代の兵士より遙かに優れた戦闘力と判断力を有した接近戦のプロフェッショナルという『敬意』だ。

遠距離・中距離からの銃撃戦が主な戦闘スタイルである現代とは違い、騎士のような職業軍人たちが活躍した時代では、敵は常に交えた剣を挟んで目の前にいた。無線のような兵士間の相互の通信手段もない時代に、自らも必死に剣を振るいながら仲間との連携をとりつつ戦闘を継続することがどれほど困難か、切嗣にも想像すらできない。さらに、現代の指揮官は比較的安全な場所から戦場を俯瞰して指示を行うのがセオリーだが、騎士の指揮官は自らも前線の真っ只中に身を置いて指揮を執る。激闘の中で、彼らは鋭敏な“勘”を獲得したに違いない。

そんな彼らの頂点に実力で持って君臨した『騎士王』の勘であるなら、さすがの切嗣も一蹴するわけにはいかなかった。

 

「だけど、間桐雁夜との同盟(・・・・・・・・)なんて考えられない。そんな顔をしているわ、切嗣」

「アイリ……」

 

妻に心中の葛藤を見事に言い当てられ、切嗣は思わず苦笑を浮かべた。

間桐雁夜という強大な敵が現れたことで、絶対に相容れないと決めつけていたセイバーとの絆が深まったまでは良かった。サーヴァントは通常の使い魔とは異なり、自立した意思を有する強大な英雄だ。例え戦闘スタイルに決定的な認識の違いがあろうと、友好的な関係を構築しておくに越したことはない。だが、関係を深めた直後に、「間桐雁夜との同盟」という案をセイバーが提案してくるとはまったくの予想外だった。

 

(『マスター。もしかしたら、バーサーカー陣営は手を組むに相応しい者たちやもしれません。どうか、ご一考願いたい』、か。難しいことを平気で言ってくれるよ)

 

冗談の欠片も感じられないセイバーの真顔を思い出し、切嗣は深くため息を吐いて指先でタバコの箱を弄る。吸いたい気分ではあるが、妻はこの臭いをあまり好まない。

体内の全て遠き理想郷(アヴァロン)によって言峰綺礼に受けた傷は完治しているとは言え、サーヴァント二体の魂を受け入れたことで『器』であるアイリスフィールには多大な負担がかかっているに違いない。これ以上、彼女に負担をかけたくはなかった。

 

「……セイバーの言うとおり、確かにバーサーカーは力をセーブしていた節がある。事実、人質の子どもは全員無傷だ。キャスターを討滅した後は、昨夜にあれほど激しい攻撃を仕掛けたセイバーを放置し、君を助けさせてさっさと帰投するときた。扱いづらいバーサーカーを離れた場所からこうも従順に動かせるとは、さすがは間桐の隠し玉だよ」

「自分の本心から目を逸らすなんて貴方らしくないわ、切嗣」

 

優しく窘められ、切嗣は再び苦笑する。まったく、彼女には敵わない。

 

「わかったよ、降参だ。認めるよ。僕も、間桐雁夜は同盟を組むに足るやも知れない、と思い始めてる」

「ふふ、やっぱり」

 

アイリは切嗣とセイバーが意思を共有していることを素直に喜んでいる。

そう。間桐雁夜の行動は、限りなく優しい(・・・)のだ。常に迅速、的確に動き、犠牲は最小限に抑えている。今晩だって、セイバーがキャスターの迎撃に向かっている間に、バーサーカーを切嗣に差し向けなかった。アインツベルン城の領地深くまで探知されずに侵入できる手段を持ち、アイリスフィールがセイバーのマスターでないと看破していたのなら、そうすることがもっとも賢い選択だった。『最大の効率と最小の浪費で、最短の内に最善の成果をあげる』という冷徹な信条を持つ切嗣が同じ立場にあれば、迷わずそうしただろう。しかし、間桐雁夜はそうはせず、もっとも優しい選択を選び、完遂したのだ。

「話せば分かる」「平和は話し合うことで手に入る」などという空虚な理想に何の意味もないことを切嗣は完璧に理解している。人間は何時まで経っても自浄作用を持ち得ない。『正義』などどこにも存在せず、互いに殺しあって死体の山を積み上げ続けるだけだ。だからこそ、『聖杯』という外部からの圧倒的な力でもって平和を強制(・・)しなければならない。世界そのものを改変し、争いをやめないヒトの魂に変革をもたらす。切嗣の『恒久的な世界平和』という願いは、そうすることでしか実現し得ない。

……そう、思っていた。

 

(———だが、間桐雁夜となら、願いを共有することは可能かもしれない。彼が聖杯にかける願いがどのようなものかはまだわからないが、もしかしたら彼の願いも優しいものなのかもしれない)

 

なるほどそういうことなら、一度話をしてみるのも良いだろう。間桐の老人のことは些か気掛かりではあるが、この戦争に介入する気配がまったくないところを見ると、間桐家の虎の子である雁夜に全てを一任した可能性もある。手を組む余地があるのなら、争って力を削り合うより協力した方が遙かに効率的だ。最優のセイバーとダークホースのバーサーカーが組めば、勝利への道は大きく開ける。それはキャスター討伐時の二騎の見事な連携を鑑みても明らかだ。遠坂の黄金のアーチャーも、二騎で挑めば勝利の確率はずっと上がる。

 

「皮肉なものだね。人は話し合いなどでは分かり合えないと諦観してこの戦争に参加したというのに、まさかその戦争で話し合いの可能性を模索することになるとは」

「切嗣……」

 

つい自嘲気味に呟いた切嗣の腕を白い手が労るように優しく撫でる。余計な負担を負わせたくないと思っていながら、結局心配をかけてしまっている。やはり自分は不出来な夫だ。

切嗣は慌てて話題を変える。

 

「僕のことはいいさ。どの道、間桐雁夜の調査はやり直すつもりだったんだ。彼の意思を直接確認できるのは今後のためにもなる。問題は、セイバーだろう」

「セイバー?彼女がどうかしたの?」

 

アイリがきょとんと目を丸くする。話題の転換は成功したようだ。内心でほくそ笑みつつ、切嗣は自身も疑問に思っていることを口にする。

 

「セイバーにも聖杯に託す願いがある。もちろん、バーサーカーとなった英霊にもだ。聖杯を求めるからこそ、召喚に応じたんだからね。願いを求める英霊は二人、聖杯が叶えられる願いはたった一つ。もしも間桐雁夜と僕の願いが共通していて同盟を組んだとして、果たして彼らの願いも一致しているなどという偶然があるだろうか?間違いなく、どちらかが願いを諦めることになる」

 

生前の真名がアーサー王であるならば、セイバーの願いはおそらく祖国の滅亡の阻止だろう。理想の王を体現せんとする高潔な彼女は、是が非でもそれを実現させたいに違いない。そして高潔だからこそ、違う願いを求め、最後に必ず殺しあわなければならない相手に背を預けることは難しいはずだ。だというのに、なぜセイバーはバーサーカー陣営との同盟などと言い出したのか?

 

「———その心配は無用だと思います、マスター」

「ひゃっ!?」

 

セイバーが扉を開け放ちざまに告げる。切嗣には、偵察を終えたセイバーの規則正しい足音が近付いてくることが察知できていたが、身体機能が低下しているアイリスフィールには寝耳に水だった。驚かされたことに少し腹を立てたアイリスフィールがセイバーを軽く睨む。

 

「セイバー、盗み聞きかしら?」

「い、いえ。そういうわけではありません。近づくに連れてお二人の会話も聞こえただけです。決して盗み聞こうなどというつもりは……」

「ふふ、わかってるわよ」

 

イタズラが成功した子どものように微笑むアイリスフィールに、セイバーがほっと息をつく。こんな和やかなやり取りを間近で見られるとはつい数刻前までは想像もつかなかった。

 

「それで?心配が無用とはどういうことだ、セイバー。また“勘”が働いたのか?」

「“直感”と言って頂きたい、マスター」

 

セイバーの直感スキルは極めて鋭い。騎士王の第六感は、未来予知にも等しいレベルにまで高められている。その直感が、「心配するな」と言っているらしい。

 

「バーサーカーとの共闘の最中、感じたのです。もしかしたら彼とは分かり合えるかも知れない、と」

「えっ?でも、セイバーの願いは———」

 

セイバーの願いは王国滅亡の阻止だ。その願いとバーサーカーの願いは妥協点を探れるほど近しいという。つまり、それが意味することは。

 

「バーサーカーの正体に心当たりがあるのか?」

「……あった、という方が正しいでしょう。たしかに()に似ていると思いましたが、しかし確証は掴めない。バーサーカーになるような人物ではなかったし、あ、あのような罵倒をしてくる人物でもなかった」

「やっぱり、貧乳とかアホ毛とか言われたの気にしてるんでしょう?」

「フシャーッ!!」

「きゃあ噛み付かないでごめんなさい!」

「こらこら」

 

アイリを背中に隠してドウドウとセイバーを落ち着かせる。こういう感情的な仕草は見た目相応に子どもっぽい。セイバーの思わぬ一面を見たことでつい口元が緩みそうになる。騎士に対して憎しみすら抱いていたはずなのだが、こういう親しみげのある姿を見せられるとそれも揺らいでしまう。

 

「マスターどいてそいつ噛み付けない」

「噛み付いちゃダメだ。ほら、台詞の続きを」

 

む、と正気に戻ったらしいセイバーがこほんと軽く咳をして仕切り直す。

 

「私が思っていた人物とは違うでしょう。しかし、私の直感は未だ最初の結論を覆していない。バーサーカーとは分かり合える。私は私の直感を信じ、彼を信じることにします。子供らを護った彼なら、信じるに値する」

 

雄弁に語りかけてくるセイバーの瞳に映るのは、正面にいる僕ではない。セイバーが駆けつけた時、子どもたちを背にして敵に立ち向かっていたという、バーサーカーの勇壮たる背中だ。

直接見たわけではないのに———その光景を想像して、興奮にも似た震えが全身を走る。その背中こそ、かつて僕が憧れた『正義の味方』の姿そのものだからだ。

 

(優しいマスターと正義の味方のサーヴァント、か)

 

心中に呟いた瞬間、身体の芯に熱い痺れが灯る。失ったはずの温もりが心のどこかから溢れてくる。これは『憧憬』だ。もしも自分がかつての誓いを失わなければ、彼のようになれたのではないかという羨望だ。とっくに失くしたものと思っていたのに、いったいどこに隠れていたのか。

気づけば、僕はセイバーの言うことを信じてみたくなった(・・・・・・・・・)

 

「わかった。では、間桐雁夜に同盟の話を持ちかけてみよう」

「感謝します、マスター」

「どうやって接触するの、切嗣?」

「『キャスターを討伐した陣営には令呪の一画を進呈する』。今回、キャスターを討伐したのはセイバーとバーサーカーだ。教会には使い魔を通してすでにその旨を伝えている。間桐雁夜も同じ事をしているだろう。神父としては互いの話の整合性を確かめるために僕らを同時に呼ぶはずだ。その際に、同盟の話を持ちかければいい」

 

僕の言葉にセイバーとアイリスフィールがなるほどと頷く。教会で同盟の話を切り出せば、当然その話は遠坂時臣に届く。———その背後に潜む、言峰綺礼にも。

同盟が成立すれば、彼らは今までより遙かに動きづらくなる。セイバーに挑めば背後からバーサーカーに襲われ、バーサーカーに挑めばその逆になるのだから。遠坂は持てる全ての手駒を手元に置いて必死に差配しなければならなくなるだろう。それはつまり、遠坂の手駒たる言峰綺礼の暗躍を抑止することにも繋がるのだ。

 

(言峰綺礼。お前が何を考え、行動しているのかはわからない。だが、思い通りにはさせないぞ)

 

聖杯への道を阻む大敵———アイリスフィール()を深く傷つけた男の冷え切った容貌を思い描く。

ギリと拳を握りしめて仇敵への警戒を強める切嗣の背を、アイリスフィールが緊張を解すようにそっと撫でる。それでもきつく強張ったまま沈黙する背中に、今度はアイリスフィールが苦笑を浮かべた。切嗣がアイリスフィールのために怒っていることを理解したからだ。

振り返れば、セイバーも彼の背中を見て同じ笑みを浮かべている。

セイバーは、衛宮切嗣の在り方を少しずつ理解し始めていた。理想を追い求める過程で他者への慈しみを失くしてしまった非情な殺人機械。それでも、誰よりも優しくありたいと願う夫であり父親。それが、衛宮切嗣という悲しい男の正体だ。

切嗣の背中を見つめるセイバーの瞳には、憐憫も同情も見られない。今までの不信や懐疑は薄れ、道を違えども同じ志を目指す者への『共感』の芽が咲き始めている。

夫とそのサーヴァントに良き協力関係が芽生え始めていることに安堵したアイリスフィールが、沈黙を破ってセイバーに疑問を投げかける。

 

「ところで、セイバー。ちょっと聞きたいのだけれど」

「はい、なんでしょう。アイリスフィール」

「『バーサーカーの正体に心当たりがあった』って言ってたわよね。その心当たりって——— うあっ!?」

「アイリスフィール!?」

「くっ!?この音は……!!」

 

「いったい誰のこと?」と続けようとして、失敗した。夜のしじまを切り裂く轟音がアイリスフィールの魔術回路に強烈な負担をかけ、言葉を紡ぐことを許さなかったからだ。

彼女の悲鳴と同時に轟いた、城全体を揺るがす雷鳴(・・)

 

「……奴らだな」

「はい。間違いなく、ライダーでしょう」

 

雷撃を纏う神牛の戦車———神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を駆る、征服王イスカンダル。

彼がその強大な対軍宝具で持ってあらゆる結界や魔方陣を破壊しながらアインツベルン城へ侵攻してきたために、敷設している術式と魔術回路をリンクしたアイリスフィールに擬似的なダメージが流れ込んだのだ。

あの戦車の圧倒的な破砕力に攻め込まれれば、舞弥とアイリスフィールという負傷者を抱えたこちらは苦しい戦いを強いられる羽目になる。戦いの展開を冷静にシミュレートした切嗣は即座に『撤退戦』を選択した。

 

「セイバー、迎撃しろ。時間稼ぎでいい。僕は舞弥とアイリを連れて撤退する。撤退先はもう決めてある」

「わかりました。後で追いつきますので、どうかアイリスフィールを———」

「待って、切嗣、セイバー。私は大丈夫よ。ちょっと不意を討たれただけ。まさか、ここまで無茶なお客様をもてなすとは思ってなかったから」

 

余裕を装った表情に汗を滲ませ、アイリスフィールが苦しげに二人の台詞を遮った。

 

「さっさと逃げ出すような陣営と同盟を組むほど間桐雁夜は甘く無いわ。せっかくキャスターを無傷で倒せたんだもの、ライダーを退けるくらいはやってのけないと同盟に相応しいと認められない。そうでしょう?」

 

額の汗を拭い、アイリスフィールがすっくと立ち上がる。その顔からは疲労の色も拭い去られていた。ホムンクルスの生態調整機能を全力使用した彼女は、見た目は万全そのものだ。これならば、セイバーのマスターとして充分に振る舞えるだろう。それが後々どれだけ彼女を蝕む無茶な行為であるのかと思い巡らし、セイバーと切嗣は視線を交差させると小さく頷きあう。

 

「……貴方はもっとご自愛すべきだ。ですが、今は付き合っていただきましょう。なるべく私の傍を離れないように」

「望むところよ。いいわよね、切嗣?」

「君が実は世界随一の頑固者だということは、この世で僕が一番わかっているつもりだよ。セイバー、アイリを頼んだ。令呪で支援が出来るように僕も後方から君たちを見守る」

「御意に。必ずやライダーを討ち果たし、奥方を無傷のまま帰還させましょう。さあ、アイリスフィール」

「ええ。行ってきます、切嗣」

「ああ」

 

アイリスフィールとセイバーがいざライダー迎撃へと走り去るのを見届け、切嗣も鋭い動きで踵を返す。一刻も早く舞弥を安全な場所に退避させ、自分も望遠スコープで戦場を俯瞰するために。

 

「舞弥、ライダーが攻めてきた。動けるか?」

「むにゃむにゃ……ケーキが一枚、ケーキが二枚……」

「くっ!やはりまだ傷は深いか……!」

 

アイリスフィールによって回復魔術は受けたはずだが、意味不明なうわ言を繰り返す緩みきったその表情はいつもの研ぎ澄まされた舞弥と似ても似つかない。アイリスフィールが聖杯の器として機能し始めているため、回復魔術の効果が薄れているのかも知れない。ヨダレを垂らす舞弥を抱きかかえ、アインツベルンの隠し小城まで通じる地下通路に飛び込む。距離も十分に離れ、厳重な隠蔽結界に囲まれた小城の頂上からならば、アインツベルン城のほぼ全てを敵に見つかること無く見渡せる。

暗く長い通路を駆け抜けながら、切嗣はある疑念を抱き始めていた。

 

(バーサーカーの撤退と入れ替わるようなライダーの攻撃……いくら何でもタイミングがよすぎる)

 

なぜ、自分とセイバーを無傷のまま見逃して撤退したのか?なぜ、助けた子どもたちをこちらに放任したのか?

それは、ライダーをけしかけることでこちらの実力を計ろうとしているからではないか。こちらが子どもたちを悪く扱わないと信用しているからではないか。

『バーサーカーとは分かり合える。私は私の直感を信じ、彼を信じることにします。子供らを護った彼なら、信じるに値する』『さっさと逃げ出すような陣営と同盟を組むほど間桐雁夜は甘く無い』という二つの台詞が脳裏を過る。

 

(僕たちは同盟を組むに足る陣営かどうか、試されている(・・・・・・)のかもしれない)

 

あえてセイバーと共闘という形でバーサーカーを運用してみせたのが“二騎の同時運用の実用性を確認するため”だったのなら、話の筋は通る。

 

(間桐雁夜もまた、僕たち(セイバー陣営)との同盟を模索している……?)

 

遠坂のアーチャーにはサーヴァント単騎で挑んでも勝利は難しい。それは切嗣も不安に思っている。間桐雁夜も同じように考えたのなら、『同盟』という一つの解に辿り着くのは道理だ。セイバーの直感スキルは、バーサーカーを介して彼の意思に反応したのかもしれない。切嗣はそれを考えすぎだとは思わない。あの老獪な策士を前にして、考え過ぎなどということはない。

通路を抜けて小城の隠し扉からバルコニーに躍り出るとそのまま滑るように階段を駆け上がり、屋上に身を晒す。床に伏して狙撃用のスコープを覗けば、玄関ホールを囲むテラス内でTシャツ姿のライダーとそのマスターがセイバーたちと睨み合いをしている最中であった。ライダーはなぜか酒樽を担いでおり、防御は手薄だ。この距離であればライダーのマスターの狙撃は可能だと判断した切嗣は安全装置に指をかけ、しかし解除を思い留まる。アイリスフィールに持たせた小型無線機から聞こえるライダーの声には、戦意が見られなかったからだ。

 

『剣を交えるのが憚られるなら杯を交えるまでのこと。騎士王よ、今宵は貴様の“王の器”をとことん問い質してやるから覚悟しろ』

 

(……なるほど。王同士の“聖杯問答”ってわけか。あの豪胆なライダーらしいな)

 

ライダーのマスターの表情を窺えば、帰りたくて仕方が無いと言わんばかりにウンザリと意気消沈している。少し気の毒だ。

 

『面白い。受けて立つ』

 

ライダーの挑戦に毅然と応じたセイバーの横顔は戦場に挑むのと変わらない凛冽さに冴えている。ここは彼女に任せるべきだろう。余計な手出しは無用だ。それに、もしも昨夜の倉庫街でのように間桐雁夜がこの状況をどこかから覗きみているのだとしたら……彼もきっと、この問答の行く末に興味が有るはずだ。

 

「頼むぞ、セイバー」

 

口内で呟くと、切嗣は事態を見守ることに専念した。

 

 

 

 

 

「……むにゃ、ケーキが九枚……一枚足りない〜」

「……空気を読んでくれ、舞弥」

「えっ?ケーキ!?」

「く!う!き!」




舞弥さんは隠れ甘党でケーキバイキング大好きだという裏設定があるらしいので使いますた。
明日の仕事に差支えがあるとまずいので今日はここまでで止めときます。8月中には最新話を完成させたいです。皆さんが想定している面白さをさらに超えられるようにしたいです。

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