せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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タイトルそのまんまです。ちょっとした伏線がありますが、読んでも読まなくてもそれほど本編に関わりはないとです。ヒロシです。
設定に関して色々ツッコミを頂いております。勉強不足と言うかリサーチ不足と言うか知識不足と言うか……申し訳ない。


お茶濁しという名の伏線と主人公の設定的なナニカ

‡雁夜おじさんサイド‡

 

自分は確かにこの眼と耳で眼前の光景を認識しているはずなのに、肝心の己の身体を認識できない。手足を動かそうとしても反応が返ってこない。透明人間以下の希薄な存在だ。言うなれば、“空気人間”になってしまったかのようだ。

ただ視覚と聴覚だけが宙に浮いているような現実では絶対に有り得ない感覚に、今ここには存在しないはずの頭が混乱する。

これは夢だ。夢に違いない。刻印蟲に蝕まれすぎて、ついに訳のわからない夢を見るようになってしまったのだ。

 

「王よ、あなたは人の心がわからない!どうしてわかってくださらないのですか!」

「貴方こそわかってくれ!サー・■■■■■■!」

 

ローマ風建築の広大な広間に、二人の男の声が木霊した。

王座から立ち上がって必死の形相で叫ぶのは、見目麗しい若武者だ。男の姿をしているが、磨き上げられた剣のように冴え渡った美貌と存在感は今回の聖杯戦争のセイバーに似ている。身を包む白銀の鎧、背に纏う群青色の豪奢な外套、頭上で輝く荘厳な王冠は、彼がかなりの地位にある人物———“王”であることを教えてくれる。

そんな王に向かって下座から食ってかかっているのは、こちらも素晴らしい造形をした美貌の青年騎士だ。男すら思わず見蕩れずにはいられないその顔貌を一言で表現するなら、王を『繊細な美剣』とすればこちらは『無毀の剛剣』と言ったところだろう。漆黒の無骨鎧もそれを強調している。決して揺るがぬ強靭な精神力の持ち主に違いない。

しかし、その精神力を持ってしても妥協し得ない事態が彼と王の間に発生しているらしい。現に、今も彼らの言い争いは続いている。

 

「▲▲▲▲▲は私にとって何物にも代えられぬ存在!こればかりは到底譲ることはできませぬ!」

「しかし、民草はそれを容認すまい!他ならぬ貴方と▲▲▲▲▲の不義はすでに知れ渡ってしまったのだぞ!」

 

なぜか、聞き取れない箇所がある。聞き取りにくいのではなく、完全に遮断されている。まるで報道規制が入っているかのようにその部分だけ無音になるのだ。自分が聞くべきことではない、ということか。それとも、そこだけエラーになってしまっているのか。或いはその両方か。

周囲を見渡せば、円卓を囲んで二人の激しい口論を困惑の表情で見守る10人の騎士たちがいる。風格を備えた鎧に身を包み、それぞれ見事な拵えの剣を携えているくせに、おろおろとして互いに目を見合わせるばかりだ。どうやら彼らにとっても、二人がここまで火花を散らすことはかなり珍しいことらしい。

 

「———王よ。貴方にお分かり戴けぬというのなら、私は今この時を持って貴方の下を去ります」

「な……」

「ま、待て、サー・■■■■■■!冷静になれ!」

 

ついに激昂を通り越した青年騎士の静かな台詞に、王が絶句する。二階分の吹き抜けの広間が一瞬で凍りついた。筋骨隆々な騎士がひどく狼狽して制止の声を上げるが、青年騎士は俯いたまま反応しない。彼は覚悟を決めたのだ。

 

「サー・■■■■■■……貴方は、貴方はそこまで……」

 

王が苦悶に顔を曇らせる。どうあっても青年騎士の意思を変えることはできないと理解したらしい。是認か決別か、王は大きな決断を迫られた。

彼が答えを下すまでに要した時間は、わずか数秒にも満たなかっただろう。

 

「———わかった。▲▲▲▲▲との婚姻を認めよう」

「……!!」

「元々、私も罰するつもりなどなかったのだ。原因を作ったのは他ならぬ私であるのだから。貴方にそこまでの覚悟があると言うのなら、私はそれを尊重しよう。後のことは気にするな。好きにするといい、サー・■■■■■■」

「おお……!!我が王よ、感謝致します!!私も▲▲▲▲▲も、生きている間も死んだ後も、永遠の忠誠を貴方に捧げまする。例え———」

 

決別を覚悟して沈鬱に染まっていた青年騎士が歓喜に顔を跳ね上げる。まるで初めて太陽の輝きを浴びたかのような晴れやかな笑顔を向けられ、王は苦笑する。はち切れる寸前だった空気が和らぎ、騎士たちも安堵の溜息を漏らした。彼らの心境を現すかのように、王の背後のステンドグラスから陽光が差し、円卓を黄金に輝かせる。ステンドグラスに描かれたのは、色鮮やかに煌めく『聖杯』。

そこで初めて、この光景がいったい何を元に創られたものなのかを察することが出来た。

6世紀の中世ヨーロッパに見られる洋風の城、円卓に座る王と騎士たち、王と一人の騎士の争い、そして聖杯。間違いなく、『アーサー王伝説』だ。

しかし、伝説通りならこの王と青年騎士は決別し、騎士たちは敵味方に分かれて戦争を始めるはずだ。こんなハッピーエンドには終わらない、悲劇の物語として語り継がれている。この夢は、こうあって欲しかった(・・・・・・・・・・)という誰かの願いから創られたものなのかもしれない。

この状況で、もっともハッピーエンドを望んでいた人物は……

 

「例え、これが私の都合のいい夢にすぎないとしても……」

 

そう呟かれた声は、ひどく枯れ果てていた。絶望、後悔、悲哀、憤怒。あらゆる負の感情を内包し凝縮された呟きの源を注視すれば、漆黒の甲冑の青年騎士と目が合った(・・・・・)

これは彼の夢だ。理想の担い手であるが故に苦悩し、非業の最期を遂げざるを得なかった『完璧な騎士』、■■■■■■が渇望し、何度も夢見た心象風景だ。

それに気付いた途端、世界が急激に白く染まっていく。城も王も騎士たちも消え失せ、残ったのは悲しげな表情を浮かべてこちらを見つめる青年騎士だけだ。水面に急浮上するように意識が覚醒に引っ張られる中で、青年騎士の声が遠く響く。

 

「雁夜殿。貴方方が勝利を掴むことを心より願っている。狂化した私では決して手に入れられない幸せを、()と共に掴んでほしい。私に出来ることがあるかはわからないが、私も全身全霊を尽くして勝利に貢献する所存だ」

 

意味不明な台詞に戸惑う俺の目の前で、青年騎士がおもむろに兜を取り出す。騎士の頭を覆ってゆく漆黒のフルフェイスヘルメットには見覚えがあった。そうだ、その黒鉄の全身鎧も、まるでアイツ(・・・)のようじゃないか。

 

待ってくれ!お前は、お前の正体は、まさか—————

 

 

………

 

……

 

 

 

「———あ、おじさんの方が先に起きた」

「………桜、ちゃん?」

 

いつの間に居眠りしてしまったのか。突っ伏していた半身を持ちあげれば、桜が愉快そうに微笑んでいた。やはりさっきのは夢だったようだ。それにしてはリアルで不思議な夢だった。

 

「見て、おじさん。バーサーカーも居眠りしてるよ」

「え?」

 

視線を隣に流せば、同じように机に突っ伏したまま居眠りをしているバーサーカーがいた。居眠りをするサーヴァントとは何ともシュールだ。丸まったその背中には緊張感の欠片も感じられない。どことなく、野生本能を失って呑気に欠伸をする動物園の獅子を連想させる。そのアホみたいな後ろ頭をペシンと引っぱたいて起こしてやろうとして、先ほどの夢を思い出した。サーヴァントとマスターはレイラインによって繋がっているから、極稀に記憶や夢の混濁が起こるとは聞いたことはあるが……。

 

(……まさか、なあ)

 

■■■■■■の中身がこんな奴になるとは思えない。というか信じたくない。伝説の騎士様がおかゆや味噌汁を作ったり、庭いじりを趣味にしてたりするはずもないのだし。

小さく頭を振って妄想を捨て去ると、兜の後頭部を思い切りひっぱたく。

 

「こら!お前が居眠りしてどうするんだ!」

「……うご?うごご……?(´ε` )」

「お前なあ、居眠りするサーヴァントなんてきっと前代未聞だぞ!?大食いのサーヴァントくらい有り得ないっつーの!!たまには見張りくらいして———……おい……」

「また寝ちゃったね。きっと疲れてるんだよ。もう少し寝かせておいてあげよう。それに、なんだかとっても可愛いよ」

「うごご……(-ω-)zzZ」

「はぁ……。あと30分経ったら起こすから、ちゃんと起きるんだぞ」

 

深い溜息をついて蟲を警戒行動に移らせる。マスターを働かせて居眠りするとはいい根性をしていやがるとは思うものの、いつも世話になってるのは事実なのでたまには眠らせてやるくらいはいいかもしれない。

 

(こいつが伝説の騎士なんて絶対ありえないな。変な夢見たもんだよ、まったく)

 

眠りこけるバーサーカーの頬を楽しそうに突付く桜を横目にしながら、俺は先程までの勘違いと共に夢の内容もすっぱりと忘れ去ることにした。

 

 

 

 

 

 

【憑依ランスロットの設定】

 

Fラン大学に通う資格マニアのなんちゃって大学生が第四次聖杯戦争のバーサーカーに憑依した結果誕生したシリアスブレイカー。

主にユーキャンで資格を取得しまくるのが趣味。それが功を奏し、参加した第四次聖杯戦争を優位に進めることが出来るようになった。様々な資格を取得できる程度には頭はいいが、趣味に傾倒しすぎて大学進級が危ぶまれている有様を見るとやはり頭は悪いのかも知れない。

雁夜おじさんを救済すべく奮闘するが、見た目とのギャップがあり過ぎて周りから懐疑の目で見られ、それが雁夜おじさんへの様々な勘違いや思惑を引き出すことになる。しかし本人は至ってマイペース。

実は作者に一番軽んじられているキャラクターだったりする。ぐるる。

 

 

【マスター】間桐雁夜

【クラス】バーサーカー

【真名】ランスロット(憑依)

【属性】中立・狂

【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷A+ 魔力D 幸運A+ 宝具A+

 

 

【クラス別スキル】

狂化:C−

本来、幸運と魔力を除いたパラメーターをランクアップさせる代わりに、言語能力を失い、複雑な思考ができなくなるスキルだが、憑依によって思考の鈍化と言語能力の喪失のみにおさまっている。

 

 

【固有スキル】

対魔力:E

 

精霊の加護:A

 

無窮の武練:A+

 

無窮の資格(ユーキャン):B+

英雄ランスロット(に憑依した主人公)が、日々の生活を快適に送るべく、その身に染み付くほど通信教育の訓練を受けて固有スキルにまで昇華したもの。炊事、造園、建築、護身術等の該当するスキルにおいて、Bランク相当の習熟度を発揮できる。

 

【宝具】

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:30人

手にした道具に自らの宝具としての属性を与える。どんな道具であろうともランスロット(憑依)が手にした時点でDランク相当の宝具となり、元からそれ以上のランクに位置する宝具であれば、従来のランクのままランスロット(憑依)の支配下に置かれる。

無窮の武練と組み合わせることであらゆる武器を使いこなす達人に、無窮の資格と組み合わせることで人間国宝や職人レベル、レストランで言えば五つ星レベルの腕前となる。日々の生活はもちろんマスターの体調管理や思わぬバタフライ効果を呼び起こす。

 

己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人

変身能力。マスターの透視力をある程度阻害すると共に、他者に変身する機能を持つ。

 

 

sarayaさん、縞瑪瑙さんによる文章提供でお送りしました。お二人に感謝です!




ランキング一位になりますた!皆さんありがとうございます!!

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