せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!   作:主(ぬし)

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みんな!これが有名な「お茶濁し回」ってやつだ!本編が進まないからって真似しちゃいけないぞ!


10年後  20歳過ぎた途端に年月が過ぎるのを早く感じる気がする

今日で、あなたがいなくなってから10年が経ちました。だから、あなた宛に手紙を書くことにします。決してあなたには届かないけど、この気持ちを形にして残しておきたいから。

 

 

まずは、あの聖杯戦争に関わった人たちがどうなったかについて書こうと思います。

 

 あなたのマスター、間桐雁夜———私のお義父さん(・・・・・)は、今でもとても元気です。間桐の家は魔術師をやめて、普通の家になりました。鶴野おじさんと慎二兄さんはたまに家に帰って来ます。慎二兄さんはおじさんの自分探しの旅に連れ回されて大変そうですが、内心ではけっこう楽しんでるみたいです。そういえば、この間は「北の楽園に潜入した時は死ぬかと思った」って言ってたけど、楽園なのに死ぬような思いをするなんて不思議です。

 魔術師をやめるのは大変な手続きがいるらしいのですが、遠坂のおじさまが色々と助力してくれました。そうそう、お義父さんと遠坂のおじさまは凄く仲が良くなったんです。遠坂のおじさまも、お義父さんの前だけではひどく酔っ払って大声を出したり、二人でケンカしたりしてます。お互いに顔を合わせたら悪口しか交わさないけど、何だかんだで一緒にお酒を飲んだりします。二人がこんな関係になれたのは、きっとあなたのおかげです。

 

 さっきも書きましたが、遠坂のおじさまとおばさまも元気です。最近になってようやく、違和感なく「おじさま」「おばさま」と呼べるようになりました。昔は呼ぶたびに気恥ずかしくて顔を赤くしてました。

 遠坂先輩はとっても美人になりました。ほら、あなたが助けてくれた私の姉です。容姿も綺麗で、勉強も学校で一番できて、みんなから頼られて、慕われてます。でも私のこともちゃんと気にかけてくれます。魔術師としての才能も飛び抜けていて、ここ数年で遠坂のおじさんから段階的に魔術刻印を継承されています。「将来は時計塔でアーチボルト講師に並ぶ魔術師になってみせる」と意気込んでます。

 でもたまに私のことを「黒桜にはならないでね」と怯えた目で見てきます。ねえ、遠坂先輩に何を見せちゃったの?

 

 アーチボルト講師———ケイネス・エルメロイ・アーチボルトさんは、時計塔で一番人気の講師さんをしています。聖杯戦争で脱落したと思われていたらしいですが、瀕死のまま戦争が終わるまでずっと眠っていたらしく、回復して時計塔に復職したそうです。

 ビックリするくらいカッコイイ顔をしてて、奥さんのソラウさんや時計塔の女学生たちに毎日追い掛け回されていると聞きます。助手のウェイバーさんはその愚痴を毎日聞かされているんだとか。

 

 ウェイバーさんは、毎年この時期になると必ず冬木市を訪れます。夜の冬木大橋で一人佇んでいる姿は、まるで憧れの背中をじっと見上げているようでした。あの人にとって、何か思い入れのある場所なんだと思います。

 ウェイバーさんも時計塔に戻って、アーチボルト講師の助手をしています。一度アーチボルト講師から大切なものを盗んだらしいけど、許してもらったみたいです。助講師として才能を認められていて、最年少で時計塔の講師になるんじゃないかって噂されてるそうです。

 

 そうだ、ついこの間、冬木教会の改装が終わりました。あなたはビックリするかもしれませんが、教会の敷地の中に中華料理店が出来たんです。綺礼さんが麻婆豆腐を作るのがとても上手で、娘さんのカレンさんと一緒にお店を立ち上げたんだとか。「私が唯一誰よりも勝るものだ!」って自信満々に言ってました。私も一口食べさせてもらったけど、あまりに辛くて、一緒に食べたお義父さんと一緒に気絶してしまいました。衛宮さんはこれがいいんだと平気そうに食べてたけど、きっと味覚が狂っちゃってるんだと思います。綺礼さんのお父さんも呆れてました。

 でも、気絶したお義父さんを見て「やっと間桐雁夜に勝利したぞ!」と嬉しそうに笑ってる姿はちょっと可愛かったです。

 

 聖杯戦争の時に、お義父さんと同盟を組んだ衛宮さんとアイリスフィールさんは、あの戦争から少しして冬木市に移住してきました。大きくて広い武家屋敷にお子さんとメイドさんと一緒に住んでます。イリヤちゃんといって、とっても可愛いです。お姉さんぶって話しかけてくるところがまた可愛らしくて、つい抱っこしてしまって怒られます。舞弥さんのお子さんも可愛いけど、イリヤちゃんはお人形さんみたいでつい抱きしめたくなるんです。

 アイリスフィールさんは、あなたにすごく感謝してました。一度死んだけどあなたに助けてもらったと言ってました。あなたは色んな人に感謝されてます。

 

 舞弥さんは、別れていたお子さんと暮らすようになってから、ギラギラしてた目付きがすっかり優しくなりました。最近はお弟子さんが出来たらしく、ケーキ屋さんを営みながら武術の指導もしてあげているそうです。綺麗な赤毛のお弟子さんは「将来の夢は正義の味方っす!」って言ってます。ケーキ作りの腕もビックリするほど上手くて、たまに味見をさせてもらってます。おかげで最近、体重計に乗るのが怖いです。

 

 それと、これはネットの噂なのですが……キャスターのマスターだった連続殺人犯の雨生龍之介が、実は生きているのだそうです。何年も前に死刑にされたことになっていますが、実は改心していて警察の凶悪犯罪解決に協力しているんだとか。まるでドラマや映画みたいです。本当かどうかは知りませんが、あなたが気絶させて捕まえたのだから何か変化があってもおかしくはないと思います。だってあなたは何でも出来るんだから。

 

 そんな何でも出来るあなたがどんな最期を迎えたのか、私は知りません。お義父さんを護って、傷だらけになって、それでも呪われた聖杯を壊すために最後の戦場に一人で向かっていったことしか知りません。お義父さんはあなたについて行きたかったとずっと後悔しています。

唯一最後の戦いを見た衛宮さんは、「君のお父上のサーヴァントは正しく英霊だった」とあなたを褒めています。聖杯は、実は前の戦争のせいで呪われていて、もしも解放されていたら何百人もの人が死んでしまう大惨事になっていたかもしれないそうです。あなたのおかげで、大勢の人の命と幸せが護られました。みんな幸せになってます。

 

 

 

でも、幸せになっていない人間もいます。あなたのせいで苦しい想いをしてる人間が、ここにいます。

 

 

……ねえ、どうしていなくなったの?約束したじゃない。「絶対に帰って来てね」って。「明日の朝ごはんも楽しみにしてるね」って言ったのに、どうして帰って来てくれなかったの?

あなたと過ごした時間は、地下の蟲蔵から助けてもらってからほんの数日間だけだったけど、今でも鮮明に覚えてる。あなたの温かくて大きな背中も、暖炉みたいに赤く燃える目も、優しいご飯の味も、全部覚えてるよ。あなたとの思い出のせいで私の胸はいつも苦しいの。

 

会いたいよ。会いたい、会いたい、会いたい。その大きな腕で、また昔みたいに抱きしめてほしい。

私、すごく成長したんだよ。顔は、遠坂先輩には及ばなくてもけっこう可愛いと思う。胸は絶対に勝ってる。背も人並み以上には伸びた。ご飯だって美味しく作れるようになった。男の子に告白されたことだって何度もある。ラブレターもたくさん貰った。でも、全部断った。だって、私は10年前の初恋を忘れられないから。

あなた以外の男の人と手を繋ぎたくない。あなた以外にこの身体を許す気もない。あなた以外に恋をできない。

 

ねえ、早く帰って来て。私はずっと待ってるのよ。このままじゃ、私は一生独身のまま、おばあちゃんになって死んじゃうわ。あなたとのたった何日かの思い出を胸に秘めて、ゆっくりゆっくり歳をとって一人寂しく老いていくの。

こんな私は間違ってるかな?せっかく助けてもらった命を無駄にしてしまおうとしている私は、あなたにとても失礼なことをしているのかな?

それでもいい。こんな私を見かねてあなたが私を叱りに来てくれるのなら、私はどんな悪い子にもなる。あなたに会えるのなら、私はなんだってする。

 

だから、 だか

 

          ら 

 

 

 

 

 

「会いたいよ、バーサーカー……」

 

ポタポタと手紙に雫が落ちる。指が震えてペンが持てない。

一度感情が溢れたら、もうダメ。しばらく涙が止まらなくなるのがわかってるから、私はこれ以上手紙が涙で汚れないように両手で顔を覆う。啜り泣く情けない声だけが部屋に響く。

私はワガママだ。あの人が命を賭して幸せをくれたのに、それを幸せだと思ってない。だって、私の幸せはあの人そのものだったから。あの人がいない日々なんて、私には苦痛でしかない。

ねえ、あなたは小さな子どもの冗談と思っていたかもしれないけど、私は本気だったのよ?心からあなたを愛していたの。今でもそれは変わらない。

 

「帰って来て、バーサーカー……。 ————ぅぁッ!?」

 

突然、右手に激しい痛みを感じて悲鳴をあげる。手の甲に焼きごてを当てられたようなジリジリとした熱を感じる。バランスを崩して椅子から転がり落ちた私が見上げる先で、白かった手の甲に焼印のような紋様が浮かび上がってくる。

 

「こ、れは……」

 

痛みはすぐに収まり、熱を帯びた疼きに変わった。まるで手にもう一つ心臓が出来てしまったみたいに、紋様がドクドクと脈打っているのを感じる。膨大な魔力の塊が私の心臓と呼応して早鐘を打っている。

こんな異常に立ち会うのは初めてだったけど、私にはこれが何であるか察することができた。10年前にお義父さんの手に見たことがあるからだ。

 

「令、呪」

 

間違いない。聖杯戦争に参加する資格がある者に与えられる、サーヴァントを統べるマスターの証だ。これが配られたということは、近いうちに———第五次聖杯戦争が始まるということに他ならない。

「なぜ今になって」とか「どうして魔術師をやめた私が」とか色々疑問が浮かんだけど、全て圧し潰された。だって、この希望(・・)に比べればそんな問題は全て取るに足らない些細な物に過ぎないから。

 

そう、これがあれば———また、バーサーカーに会えるんだ。

向こうに帰って来る気がないのなら、私の方から引っ張りだしてあげればいい。

 

せっかく命を助けてもらったのに戦争に参加して危険に身を晒すなんて聞いたら、あの人は怒るかもしれない。きっとお義父さんも凄く怒って反対する。でも、私はワガママな子なのだ。叱られたくらいでは私を止めることは出来ない。

 

「必ずあなたを召喚してみせる、バーサーカー」

 

右手を胸に抱きしめて、私はそっと決意の言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

それは、第五次聖杯戦争が始まる半年前の出来事。




注意:ネタバレあり

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